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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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ハートマカロン・プリンセス【前編】

 海より深い青色と、抜けるように高い空の青色の境界線が際立つ陸の海宮殿。そう表現されるラゼテジュの王宮で、私はドキドキしていた。


 あぁ~、床、壁、天井……


「どこでもいいから頬擦りしたい……」

「絶対にやめてください。今日は特に人の目があるんですから」

「は~い」


 ラチイさんにたしなめられて、私はまっすぐ前を向く。


 隣を歩くラチイさんは、いつもの水色のシャツに、黒のスラックス、そしてダニールさんも着ていた短めの黒いローブを羽織っている。これが魔術師としての正装なんだって。


 かくいう私も、紺のブレザーに臙脂(えんじ)色のネクタイ。髪はハーフアップにして、お気に入りのシュシュ。持ってきて良かった高校の制服!


 正装なんかして、今日はなんの日かって?

 それはもちろん、魔宝石お披露目の日!


 国王陛下への謁見だから、ちゃんとした格好をしたほうがいいんだって。そんな大事になっているとか、正直私のミジンコな心臓が保つのか分かんないですけども!


「さぁ智華さん。この先で陛下がお待ちです」

「うん」


 青い宝石でできた王宮の奥までくると、ラチイさんが姿勢を正した。


 門番さんみたいな、鎧を着た人たちが待ち構えている扉が見えてくる。目の前まで来ると、ラチイさんが鎧の人の一人と言葉を交わした。話している内容を盗み聞きすれば、ただの本人確認だった。異世界でもこういうのはちゃんとやるんだなぁと感心しちゃう。


 途中、門番さんが私にも視線を向けたのでにこっと笑う。……真顔のまま顔をそらされてしまったけど、お仕事に真面目で良いことです!


「第三魔法研究所室長コンドラチイ・フォミナ様。魔宝石職人チカ・カサエ様。ご入室です」


 突然門番さんが声を張り上げる。

 ゆっくりと扉が開いていく。


 天井高くに吊り下げられた豪奢なシャンデリア。磨き上げられた真っ白な壁。歩くのを妨げない、しっとりとした青絨毯。体育館よりも広い、ダンスホールみたいな場所。


 そこに立ち並ぶのはドレスにタキシード、ローブとか、ファンタジーらしい衣装を着た五人の人たち。


 その奥には青いマントに王冠をかぶったとびきり目立つ人が、一段高くなったステージみたいなところの椅子に座っている。


 そんな場所に、私とラチイさんは足並みを揃えて入っていく。


「第三魔法研究所室長コンドラチイ・フォミナ。魔宝石職人笠江智華をお連れしました」


 広い部屋の真ん中で、ラチイさんが膝をつく。

 私も真似して、膝をついた。


「顔をあげよ」


 かしこまった私たちにかけられたのは、優しそうなおじさんの声。

 私とラチイさんは顔を上げる。


「こたびは王女の願いを聞き届けてくれたことに感謝する。誠に大儀であった」

「労いの言葉、ありがたく頂戴いたします」


 ラチイさんが、一番奥の椅子に座る、いかにも王様です! っていう青いマントを羽織った金髪の男の人と言葉を交わしていく。


 この人が王様……だよね?

 リアル王様だ。トランプのキングを優しそうにした感じの王様だ。日本の王様にも会ったこと無いのに、異世界で王様に会っちゃったよ!


 一人で興奮しながら視線を少しずらすと、王様の座っているステージの下にはお姫様も立っていた。目が合ったからにこっと笑ったら、ほんのりとお姫様も笑ってくれた。今日も可愛いですね、お姫様!


「コンドラチイ、カサエ。よく着てくれた。こたびの招請は王女の婚約式に由来する。王女のために魔宝石を作ってくれたと。そうだな、フョードル」

「然り」


 そう言って王様が視線を向けるのは、白髪が混じり始めたおじさんなんだけど……。


 忘れもしないよ、私の魔宝石を踏み潰した人!


 いかにも貴族ですっていう豪華な衣装の上に、魔術師のローブを羽織ったフォミナ侯爵が、王様の声にうなずいた。


「コンドラチイよ、私に完成した魔宝石の報告が上がっていないが、まことに魔宝石は完成したのだろうな」


 ぎりぎりと壊された魔宝石の恨みつらみの思念を送っていれば、フォミナ侯爵が私とラチイさんを一瞥してくる。そこには有無を言わせないような圧があって、私はそっと視線を下げた。


 怖っ。

 顔怖っ。


 ナイスイケオジ系の絶対零度の視線はめちゃくちゃ怖いです。


 ふるりと背筋が震える。フォミナ侯爵と視線を合わせないようにしていると、可愛い声が私の耳に飛び込んできた。


「ご心配ありませんわ! チカ様はきちんとわたくしに魔宝石を作ってくださいました。ご覧くださいませ」


 ふわふわとした金糸のような髪と、フリルとレースがたっぷり重ねられた薄い水色のドレスを揺らすのは、私に魔宝石をおねだりしてきたお姫様!


 お姫様が声をかけてくれる。その声を合図に、お姫様の後ろに控えていたメイドさんが恭しく前へと歩みでてきた。


 その手には賞状とかをのせるお盆のようなものが。


「こちらがチカ様のお作りになった魔宝石ですわ。陛下、ロビン様、素敵な細工でしょう?」


 誇らしげにするお姫様に、私は嬉しくなった。

 こうやって自慢してもらえるくらいのものを作れたことがとても嬉しい。


 胸を張りながら、お姫様が視線を向けた相手を見る。ロビン様ってたしか、お姫様の婚約者……つまり、隣国の王子様じゃなかったっけ!?


 優雅で上品な白のジャケットとスラックスを着た金髪の男の人が、興味深そうにメイドさんの持つお盆のなかをよく見ている。この人が、ロビン王子? 隣国の人もいたんだ……!


 思いがけない人の参列に私の緊張がまた一段と高まる。粗相しないように、粗相しないように、と。


 そう思っていたら。


「確かに細工としては素晴らしいものです。これに、ほんとうに魔法が籠められているのですか?」


 知らないお兄さんが疑問の声をあげる。


 誰だろ?

 声の主を探せば、王子様のすぐ側に立っている黒髪の男の人だった。目をキラキラさせて、興味津々と言いたげに私の魔宝石を見てる。


「こら、ベンジャミン」

「失礼しました。ですが、魔宝石の魔法はどのようなものか、王子も知りたくはないですか? なんでもラゼテジュ最高の魔宝石職人の作品ですよ!?」

「それは……」


 なんだろう、このテンションの既視感は……!

 このベンジャミンと呼ばれた人はお付きの人みたいなポジションなのかな? お姫様のメイドさんみたいな?


 わくわく、ドキドキ。

 そんな純粋な気持ちで私の魔宝石を見てくれている。


 ただちょぉっと、ベンジャミンさんが興奮しすぎているようで、王子様がちょっと引いている。どうしよう、あまりにも既視感が強い。宝石を前に涎を垂らしてしまう私みたい。あっ、ラチイさん今私を見たね!?


「ベンジャミン殿も待ち切れないようだな。ではさっそく、稀代の魔法石職人と噂されるチカ殿の魔宝石の魔法を披露しようではないか。魔力をこめるのは誰がする?」


 王様が先を促すと、すっと静かに上がる手があった。


「わたくしにお任せを。わたくしの魔宝石ですもの。わたくしに使用する権利がありますわ!」


 お姫様がメイドさんの隣に並ぶ。

 そしてお姫様は王子様へと視線を向ける。


「この魔宝石は一人では魔法が発動しないそうですの。ロビン王子、ぜひお相手を願えますか?」


 まるでダンスにでも誘うかのようにスカートの裾をつまんで、お姫様が王子様を誘う。その流れるように綺麗な立ち振舞いに、私はちょっと驚いた。


 あの、私に魔宝石が欲しいとお願いしてきた女の子が、物怖じせずに凛と立っている。私より小さな女の子が、だよ?


 私なら立ちすくんじゃいそう。

 フォミナ侯爵とさえ目が合わせられないのに。


 ……ううん、違う。私がこんなんじゃ駄目だ。


 お姫様に偉そうなことを言った私が、こうやって目をそらしてちゃ駄目だ!


「私からも、お願いします」


 私は顔を上げる。

 フォミナ侯爵が、私を冷ややかな目で見ている。


「その魔宝石はお姫様のものです。お姫様が王子様との未来を進むためにと願って作ったものです。だからどうか、王子様。お姫様の手をとってくれませんか?」


 本当は見せ物なんかじゃない。

 本当は二人の大事な思い出にしてほしい。

 だけど、そうは言っていられないのなら、せめて。


「その魔宝石の魔法が意味を持つのは、一度だけです。その一度だけの特別をお姫様に」


 魔法が使えなくなるわけじゃない。

 でも、お姫様が王子様に意味のある使い方ができるのは一度だけだ。


 だって、愛の告白にやり直しなんてないんだもの!


「一度だけの魔法だと? そんな得体の知れぬ魔法を王族に試させるなど、不敬ではないか。陛下、他の人間にやらせるべきだと進言いたします」

「他の人では意味がありません! 文字通り、お姫様のための魔宝石なので!」


 他の人に使わせたって意味がない!

 これはお姫様が使ってこその魔法だもの!


 フォミナ侯爵が冷ややかな視線で見てくるけど、私だって引かない。


 まっすぐにフォミナ侯爵を見据えていると、私の隣から静かな声が聞こえた。


「陛下、おそれながら私からも申し上げます」


 言葉を繋いだのはラチイさん。

 ラチイさんは頭を垂れて、淡々と私の言葉の足りないところを補っていく。


「智華さんの言葉はそのままの意味です。王女殿下以外の使用はおすすめいたしません」

「どういう意味かね?」

「フォミナ侯爵は一度、試作時にこの魔宝石を使用しております。ですが魔法はほぼ不発に終わりました」

「それは本当か、フョードル」

「……然り」


 ラチイさんの言葉に渋々うなずくフォミナ侯爵。

 そこにラチイさんが言葉を重ねて。


「この魔宝石は人の心に感応するものです。魔法に足るほどの感情を得られない場合は不発に終わると推測されます」

「人の感情?」

「精神干渉魔法だというのか」


 ベンジャミンさんとフォミナ侯爵の顔色が変わる。え、フォミナ侯爵が驚いてる? この魔法、そんなにすごい魔法なの?


 ちょっとだけフォミナ侯爵に意趣返しが出来たのなら、私は万々歳。なのでちょっと鼻高々に思っていれば、ベンジャミンさんが大きく声をあげた。


「精神干渉魔法となると、すごいですよ! 魔法陣を使う第二魔法でも難しいとされるのに! それに使用者の安全面も気がかりです」

「ご安心を。あくまでも魔宝石側が感応するのみで、精神への干渉はいたしません」

「そんなもの信用できないであろう」

「信用できない――ですって?」


 フォミナ侯爵の言葉を遮ったのは、ラチイさんじゃなかった。


2024/12/26

婚約式の横槍が変更になった影響で、嫌味ったらしかったベンジャミンが魔法好きの変態になりました。

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