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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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28/105

こめられた魔法のカタチ【後編】

 リボンを作ればちょうどいい頃合い。


「そろそろ出すよー」

「は~、ほんとに早いな」


 お待ちかねの太陽の樹液をお披露目です!


 ダニールさんが興味津々で注目してる。太陽光で樹液を固めるこの世界じゃ、すごい画期的なものだよね。文明の利器最高!


 鼻高々で私はUVランプのスイッチを切る。

 さて、どんな感じかな~。


 硬化した樹液をスティックでつついてみる。

 コンコンと良い音。

 底と縁で音は変わらない。


 ごくりと喉をならす。

 これはうまく行く予感……!


 ラチイさんと視線を交わす。

 ラチイさんがうなずいたので、私は意を決して型を持ち上げる。


「いきます!」


 シリコン型から押し出すように、硬化した太陽の樹液を取り出していく。


 穴空き、なし。

 硬度、問題なし。

 厚さ、ほぼ一定。

 樹液の透明度、歪みなし。

 異物、混入なし。


 これは。


「一発成功だー!」

「おおー! やったな!」

「これで第一関門突破ですね」


 私が思わず椅子から立ち上がって叫べば、ダニールさんは拍手をくれて、ラチイさんはホッとしたように胸を撫で下ろす。


「もう一つのほうはどうだ?」

「こっちも大丈夫そう。無色も赤も、完璧!」


 言いながら、赤色の方を型から取り出して、二つを並べる。うん、今までの中で一番良い出来!


「これができれば、もうあと少しだね!」


 私は素材箱からビーズの小瓶を取り出す。

 小指の爪先よりもさらに小さくて丸いビーズたち。


 ざらざらーっと赤色のマカロンの器にビーズを適当に入れて、透明のマカロンを被せる。


「……やっぱ違和感」


 前の時も感じたけど、やっぱりこの段階になると違和感を感じるね。


 私はまた、パズルのようにビーズを足したり引いたり、ビーズの色を変えたりしてみる。


「どうしましたか、智華さん」

「ん~、違和感があるんだよ、このビーズ。だから違和感がなくなるようにビーズを組み合わせてるんだけど……あっれぇ、おかしいなぁ」


 前はわりとすぐに違和感が消えていく感触がしたのに。


 なかなか無くならない違和感に四苦八苦していると、ダニールさんがじっと私の手元を見つめて、手を伸ばした。


「……これはどうだ?」

「だめ、違和感ある」

「こっちは?」

「あ、違和感減った」

「……なるほど」


 ダニールさんがつまんだビーズを足すと、少しだけ違和感が減った。

 それを見たラチイさんが何かに気づいたようで、天井を仰いで深いため息をつく。


「……これは完全に俺の不手際ですね」

「というかチカちゃん本当に魔力ねぇの? こんなにも的確に魔力を見分けられるのにさぁ」

「へ?」


 どういうこと?


「智華さんの言う違和感はおそらく、魔力の雑味です。魔力がある人が硬化前の樹液に触れれば、本当に極小ですが樹液にその人の持つ魔力が通ってしまうんです。この大きさですし、誤差範囲の雑味なんですが……」


 私の魔宝石が他と違うのは、この雑味を極限まで消しているからでは、とラチイさんが推測する。

 それを受けたダニールさんが、深くうなずいて。


「むしろ魔力がないから、こうやって加工するときに混じり気が無くなるんじゃねぇか? 太陽の樹液に魔力が通るのは、ほとんどが加工の時だ」

「となると、やはり魔宝石職人に魔術師は向かないですね。だけど魔力を感じ取れないと素材の魔力に方向性を持たせて、第三魔法の発動までいくものを作るのは難しい……」

「……地獄の分野だなここ」

「ですね」


 ラチイさんとダニールさんがまたもや二人でうなずきあっている。


 で、ここで重要なのは。


「結局、私が欲しいこのビーズはどうすればいいの?」

「……俺が作るとどうしても魔力が通ってしまいますから、智華さんが作るしかないですね」


 ラチイさんが肩をすくめる。

 私はポカンとする。


 一瞬、何を言われたのか分からなかったけど。

 え、ビーズをいちから作れと?


 私が?

 私が!?


「どうやって!? 私じゃ無理だからラチイさんにお願いしたんだよ!?」

「そうは言われましても……」


 ラチイさん困り顔でもイケメンだね! 素敵だね! でも私も困ってるよ!?


 どうしよう。

 うぅーーーーーん。


「……魔力がどうしても入っちゃうのなら、透明だと思わないほうがいいのかな、これ」


 私の目には透明に見えるけど、これが一つ一つ、本当は色を持つものだとしたら。


 私は小瓶を持ち上げる。

 光を透かして見てみる。


 沢山集まった透明なビーズは、光を透過して虹色に輝く。


 これ、何て言うんだっけ。

 クリスタルが無色なのに虹色に見えるのと同じ、これは――


「……プリズム。光の角度が変われば、見え方も変わる。人も、恋も、一面だけじゃ、知らないことばかり」


 思考がクリアになる。

 七つの光が目蓋の奥ではじける。

 イメージが、つながった!


「ラチイさん、これ、このまま使う!」

「ですが、これではイメージが崩れてしまうのでは」

「崩れない! 大丈夫だよ!」


 私はビーズに向き合って、もう一度、マカロンに閉じ込めるビーズたちを一つ一つ選んでいく。


 ツヤツヤしてて、キラキラしてて、ハートの中に大事にしまわれるビーズは、虹のように七色の輝きを放つ心の種なんだよ!


「……すごいな。これが才能って奴か? 動きに迷いがなくなったぞ」

「光の角度が変われば見え方も変わる……ですか。智華さんのそういう考え方は、大変好ましいものですね」


 選んで、入れて、選んで、抜いて、また入れて。


 ひと粒、ひと粒、一緒に閉じこめられるビーズたちとのバランスを感覚的に掴みながら選んでいく。


 最後に透明なマカロンをかぶせて、樹液でくっつけて。UVランプでしっかりと硬化させたハートのマカロン。


 つまみあげれば、中のビーズが転がってシャランと楽しげな音が鳴る。


「できた……!」


 顔をあげて背中を振り返れば、ラチイさんとダニールさんは笑顔を向けてくれて。


「おめでとうございます」

「お疲れさん」

「二人とも、ありがと!」


 見守ってくれた二人にお礼を言って、私はラチイさんにハートのマカロンを渡す。


 リボンはあとでつけよう。

 これでやり直しになったら勿体ないしね!


「ラチイさん、お願いします!」

「はい、お預かりします」


 ラチイさんの手のひらに魔宝石をのせる。

 男の人の手にあると、あまりにも小さい私の宝石。

 でもその輝きはきっと、他の宝石にも見劣りしないはず!


「魔力をこめます」


 ラチイさんがそう宣言すると、その手元が淡い赤色に輝いた。


 どんな魔法になるのかな。

 お姫様の思いが届くような魔法になるのかな。


「……」


 じっと待つけど。


「……? おかしいですね、何も起きません」


 ラチイさんが首をかしげる。


「うっそだぁ! 頑張って作ったのにぃ!」


 ここまでやって何も起きないってある!?


 魔宝石は赤く輝いている。

 光ってはいるのになんで魔法が出てこないのさー!


 思わず魔宝石を持つラチイさんの手に触れた――その瞬間。


 魔宝石から炎が巻き上がる。

 びっくりした私をラチイさんが抱き寄せて、炎から守るように庇ってくれる。


 だけど揺らめく炎はカプセルのように私とラチイさんを包み込んだだけ。

 その炎はぼんやりと、蜃気楼のように遠い日の風景を映し出した。


『美しいですね。全ていただけませんか?』


 頭に響くのは、すっかり聞きなれた人の声。

 気がつけば白いテーブルクロスが敷かれた長机が私の前に存在していて。


 懐かしいな、この風景。

 まだ一年前なのに、胸が懐かしさでいっぱいになる。


 白い長机の上には、小さな雛壇を設置して並べられたアクセサリー。そのなかでも、青色の薔薇のペンダントだけが鮮明に形を持っていて。


 私は、声のしたほうへと視線を向けた。


『あ、ありがとうございますっ? ぜ、全部ですか!? たくさんありますし、お値段もこんなクオリティのくせに手間だけかかってるので、ちょっとお高い設定になってるんですけど……!』

『もちろんです。ぜひ』


 挙動がおかしくなって声が上ずる、女の子。

 そんな女の子に微笑むのは、銀色の髪が眩しい男の人で。


 青い薔薇のペンダントを挟んで、二人のやり取りが交わされていく。


 その様子をまじまじをと見ていると、蜃気楼の向こうで揺れている彼と目があった。


『――――』


 彼が放った言葉に、私は目を丸くする。


「これって、デザフェスのときのだよね……?」


 一瞬、自信がなくなった。

 だって目の前の人が私に伝えた言葉は、記憶にないものだったから。


 ねぇ、ラチイさん。

 あなたのその言葉の意味は――


 ゆらりと蜃気楼が消える。

 ぱちりとまばたきをして手元を見れば、ラチイさんが魔宝石に魔力を込めるのをやめていた。


 どこかぼんやりとして手元の魔宝石を見つめるラチイさん。


「ラチイさん?」

「……っ、智華さんっ?」


 ひょこっと抱きついたまま下からのぞきこめば、ラチイさんが驚く。それからすぐに私を突き放して、手で口元を隠し、視線までそらされてしまった。


 ちょ、その反応はさすがにひどくない!?


「なんで目をそらすのさー!」

「と、特に意味はありませんけども」


 とか言いつつ、ラチイさんがふいっと顔をそらす。

 なんでぇー!?


「……えーっと? お前らの間に何が起きたんだ?」


 わちゃわちゃしてると、ダニールさんが手を上げる。


「……ダニールには何も聞こえませんでしたか?」

「二人が炎に巻かれたことしか分からん。お前らのその様子じゃ、何かあったんだろ?」


 あれぇ? ダニールさんにはあの光景は見えていない感じ?


 ダニールさんがせっつくから、ラチイさんが言葉を詰まらせつつも口を開いた。


「……こ、の魔宝石の、魔法は」

「魔法は?」

「……過去の再体験、でしょうか。それも一人ではなく、二人共通の記憶の……」


 しどろもどろと答えるラチイさん。

 ……えー?

 それは違うと思うよ、ラチイさん。


「ラチイさん、違うよ、そうじゃないよ」

「……智華さん?」


 確かに見た目だけならそうだったけど。


 でもね。


 炎の向こう側にいたラチイさんが言った言葉が、そうじゃないって言ってるんだよ。


「これは心を伝える魔法だよ。たぶん過去の記憶はおまけなんだよ。そうじゃないと、蜃気楼の中のラチイさんが私に言った言葉が納得いかない」

「……、やっぱり俺、やらかしましたね」


 ラチイさんが天井を仰ぐ。


「へへへ」

「忘れてください。お願いですから忘れてください。いい年した大人がなんてことを……っ」

「やーだーよー」


 蜃気楼の中のラチイさんの言葉は、やっぱり今のラチイさんの言葉だったんだ。


 それがちょっと嬉しくてニヤニヤしていると、ダニールさんが追い打ちをかけるようにラチイさんをからかう。


「なんだコンドラチイ、そんなに照れて。チカちゃん相手に愛の告白でもしたかあ?」

「……っ!? ダニール、なんてことを! そういうわけではありませんが……!」

「照れなくていいじゃん、ラチイさん。私とラチイさんの仲なんだし?」

「智華さんまで俺をからかって……! 言っときますが、智華さんがですね……!」

「私? 私は何も言わなかったと思うけど?」

「……いや、あの……なんでもないです……」


 えー、そんなこと言われると逆に気になるよ。それにこんな感情的になるラチイさん初めて見るし。

 いつもスマートに微笑んでいて、トラブルがあってもちょっと困ったような顔をするだけで、こんな風に表情を変えたりはしないもん。


 私もダニールさんも、珍しく百面相するラチイさんを前ににこにこ笑っていると、ラチイさんが咳払いをした。


「と、ともかく。これは過去の記憶に関連付けて、術者の感情を昂らせ、無意識の言葉を言語化させる魔宝石のようです」

「すごいな。どういう構造をしたらそんな自白剤みたいな魔法ができるんだよ」

「魔法陣で再現しようと思ったら複雑すぎてまず描けませんね」


 自白剤って。

 一緒に突っ込んでくれると思ったラチイさんも、気にしないでダニールさんにうなずいているし!


 もっと素敵な言い方があるでしょって思っていれば、ダニールさんは私にも話を振ってくる。


「それでチカちゃんよ。コンドラチイは魔法の効果でどんなことを言ったんだ?」

「えっ? えぇとね、それはねー」

「ちーかーさーん?」

「はーい! 私の胸の中にしまっておきます!」


 笑顔で圧をかけてくる。ラチイさん。

 私は華麗なる手のひら返しをして、お口をバッテン。


 ごめんねダニールさん!

 私は付き合いの長いラチイさんの味方なんだ!


「コンドラチイのケチ。いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇのに」

「減ります。俺の繊細な心がすり減ります」


 ラチイさんがバッサリと切り捨てると、ダニールさんは残念そうに唇をとがらせた。


「……とりあえず魔法としてここまでのものが引き出せたのなら大丈夫でしょう。フォミナ侯爵のお眼鏡にもかなうはずです」

「ほんと?」

「ただ、完璧とは言えません。不安要素もあります。……そのためにもダニール。もう少し手伝ってくれますね?」

「え、俺? まだ何かやるのか?」


 ダニールさんがキョトンとする。

 ラチイさんが不敵に笑った。


「楽しいお仕事ですよ。第三魔研の魔術師なら、ね」


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