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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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こめられた魔法のカタチ【前編】

 もぐり。

 とろ~りチーズのインされてるパンをかじる。


 ずずっ。

 野菜のコクがぎゅうっとつめこまれたスープも飲んでみる。


 サラダにのっかってるフレッシュなトマトもかじる。スクランブルエッグにケチャップはついていないけど、ふわふわで塩コショウがきいてておいしい。


 ホテルの朝食並みにしっかりした朝ごはん。

 そんなおいしそうな朝ごはんを前に、私の胃袋は負けてしまった。


 中途半端に寝てしまったからか、眠気で意識がふいーと遠退きそうになりながらも、私は朝からもりもりと朝ごはんを食べております!


「やっぱ太陽の樹液の粘性は、白日(はくじつ)の樹の樹齢によるところが大きいんだよな。若い樹ほどさらさらで、老いた樹ほど粘りがある」

「樹齢の目安はどれくらいですか?」

「若い樹は十から三十。老いた樹は八十以上。採取する樹液はだいたい四十から七十年くらいの樹齢だな」

「……幅が広すぎますね」


 そんな私の目の前で行われている、太陽の樹液談義。お話ししているのはもちろんラチイさんと……


「ダニール。粘性の高い樹液はどうやって入手を?」

「それが聞いてくれよコンドラチイ~。めっちゃ難しかったんだよ。なんたって、そんな老いた樹はほとんど樹液がでない。粘性が高くなりすぎて、樹液が樹の中で固まっちまうからな。その上、白日の樹は材木としても超高級品だ。八十年経つ前にほとんどが伐採されてるときた。ほんと、まじで詰んだと思ったわこの研究」


 ダニールさんが大袈裟なくらい大きなため息をつく。


 そう。ラチイさんと話しているのは、我らが救世主ダニールさん!


 ラチイさんによって強制グッナイされた私は、目が覚めた時はこの間泊めてもらった二階の部屋にいたんだけど、階下におりてきたら既に二人がいてこうして話し合いをしていた。


 ラチイさんが気づいて朝ごはんの用意をしてくれたので、私はそれをもくもくと食べながらこうして二人の話に耳を傾けている次第です。


 あの真っ白な樹って、材木としても高級品なんだね。あんな綺麗な樹で家具を作れば、飛ぶように売れそうだ。


 私はうなずきながら、パンを食べる。


「ほとんど伐られてるなら、手に入れるの難しそう」

「そうなんだよ~!」


 ダニールさんが深々とうなずく。


「白日の樹はだいたい七十年くらいで伐られるんだよ。材木としての質はそれぐらいが限度だからな。で、それ以上の樹齢を重ねているとしたら……」

「白日の樹の原生林。これは王家直轄地なので、王族の許可がなければ出入りができないんですよ」

「なるほど~」


 魔宝石に、材木に。

 余すところなく使える白日の樹、めっちゃ優秀じゃん。

 その上希少価値ときた。

 それは国が管理しようとするよね。

 ん? ということは?


「それ、今から取りに行かないといけないってこと?」

「……と、まぁ。普通はそうなんだが」


 ダニールさんがニヤリと笑う。

 そしてソファで腕を組んで、ふんぞり帰った。


「親友からの頼みだ。今回は特別に俺が持っているのを分けてやろう!」

「おおっ! ダニールさん太っ腹!」

「ただし!」


 びしっとダニールさんが私を指差す。


「チカちゃんが魔宝石を作るところを見せてくれ! チカちゃんがこの樹液を使ってどこまでやれるのか。俺の研究の一貫として見せてもらうぞ!」

「その心は?」

「めっちゃ王族にごますりからのおねだりしてようやく手に入ったものをタダでやるとは思うなよ! 転んでもただでは起きないぜ!」

「だ、そうです」


 ラチイさんがスッとダニールさんのほうに手を向けた。いや、まぁ……そうですと言われても?


 冷えた視線をダニールさんに向けているラチイさんを見る感じ、ろくなことをしてなさそうなことだけは把握したよ……。


 でもダニールさんの提案は、私としてはありがたい。欲しかったものが手に入るし、ダニールさんも研究成果が得られるなら、ウィンウィンじゃない?


 なので。


「私はそれで良いよ」

「ほんとか!?」

「うん。まぁ面白いことをするわけでもないから、退屈だろうけどね」

「うっしゃぁ! やった! ありがとなチカちゃん!」


 ダニールさんが小躍りでもするかのように喜ぶ。


 ではさっそく。

 私は最後のパンの欠片を飲み込むと、手を合わせてて「ごちそうさま」の挨拶をし、椅子から立ち上がった。


「それじゃ、工房に行こう!」






 三人で工房に入る。

 作業台の正面にある椅子には私が座って、その右隣にラチイさんが、その正面にダニールさんが立つ。


「ものはコレな。これだけしかねぇから大事に使ってくれ」

「ありがと!」


 ダニールさんが私に、黒塗りされた小瓶をくれる。

 私はさっそくトレーに太陽の樹液を流す、けど……


「うわぁお……想像以上」


 太陽の樹液の粘性、練り飴並み。

 なんか想像してたのと違うけど大丈夫かな……!?


「これは……硬化し始めてるのでは?」

「まぁ、そう思うよなぁ。でもそれが採取した時とほぼ同じ状態なんだよ。保管にも気を使っててそれだ」

「何年ものですか?」

「これは約百年。これを越えると腐って死んでいくみたいだな。樹液が出るのがこれが限界だった」

「もうちょっと柔らかいものはなかったんです?」

「残念! そんなものはとっくに使いきったな!」


 良い笑顔で胸を張るダニールさん。

 いや、胸を張るところなのかな?

 ちょっと不安になりつつ、わたしはてきぱきと作業を進めていく。


 まずはマカロンのふち、ピエに白の不透明な太陽の樹液をのせるように置いていく。

 これは普通の樹液でやっても問題ない。混ぜ物のおかげで粘性が増してるし、表面張力も働いているから、おかしな刺激がなければこぼれない。


「この色の樹液はなんの魔力だ? 魔力でこんな色でないよなぁ?」

「それは白大蛇(ホワイトサーペント)の鱗の粉末を混ぜたものです。魔力は通していません」

「ほ~。そりゃいい。まるで画材みたいだな。これは色の幅も広がるぞ」


 感心したようにダニールさんがうなずいてる。

 その正面で、私はUVランプに型をいれた。

 スイッチ・オン!

 さて、それではさっそく。


「ラチイさん、これ赤色にお願いします」

「はい、承りました」


 にこりと微笑んだラチイさんが、私が差し出したトレー皿を自分のほうへと引き寄せる。


「チカちゃんは自分で魔力をこめねぇのか?」

「できたら良いとは思うけどねぇ。できないね」


 何の気なしにそう言えばダニールさんの眉がピクリと動く。


「チカちゃん、魔力が使えないのか? それとも魔力がないのか?」

「たぶん無いと思うけど」


 生まれてこのかた、魔法なんて使ったことはございません。というか日本のあの両親から生まれて魔法が使えていたら、それこそ突然変異でどうにかなってるでしょ私!


 ラチイさんがトレーの上の樹液に魔力をこめていくのを眺めつつダニールさんに応えると、ダニールさんが何やら考える素振りを見せた。


「ふぅむ……魔力なし、か……」


 ぼそりとダニールさんが呟く。

 それに反応したのはラチイさんだ。


「ダニール? まさか魔力の有無で人を見下す趣味はありませんよね?」

「あ、いや、違うぞ!? 別にそういうわけじゃねぇけどさ……!」


 剣呑な視線をラチイさんから向けられて、ダニールさんがたじろぐ。


「魔力を感じ取れないと、内包物(インクルージョン)の配置が効果あるものなのか気がつかないだろう! 魔力を感じ取れるのは魔力を持ってる奴、俺が知ってる魔宝石職人も皆魔力持ちだから意外だっただけだ!」

「だからってぶしつけに智華さんを見ないでくれます? 汚れる」

「ひでぇ!?」


 おぉう、ラチイさんの毒舌がダニールさんにダイレクトアタックしてるよ。


 ずぅん……っとカビが生えそうな空気を漂わせて、ダニールさんが作業台の下に消える。


「室長が部下をいじめる……ひどいや……立場を振りかざして……」

「人聞きの悪いことを言わないでください」


 ラチイさんがため息をつきながら、私に赤色に染まった樹液を渡してくれた。

 透き通ってて綺麗な濃いルビーの色!


「ダニール。この樹液ですが、かなり魔力が通りにくかったです。魔力抵抗が高いように感じられました」

「さすがコンドラチイよく気づいた!」


 にょきっと作業台の下からダニールさんが生える。

 そしてニヤリと不適に口の端を吊り上げ、キメ顔をするダニールさん。


「粘性が高ければ高いほど、太陽の樹液は魔力抵抗が高くなる! つまり樹液そのものの魔力含有量に影響してくるということ! 魔力含有領域が狭い可能性が高くて、それにより注入する魔力が通常よりも減るのではと考察していたんだが……っ!」

「抵抗感は強いですが、魔力は通常通りに通りました。色も変色を確認。魔力含有領域が狭いわけではなさそうです」

「うわぁぁぁ全部言わせろぉぉぉ!」


 荒ぶるダニールさん。

 頭を抱えて崩れ落ちる。


 ラチイさんが涼しげな顔でさらっと言っちゃったのが悔しかったのね……。


 ドンマイ、ダニールさん。

 かくいう私は、なに言ってるのかさっぱりすぎてちんぷんかんぷんだけど!


 ダニールさんとラチイさんが話している間も私は手を止めない。UVランプから型を取り出して、ダニールさんからもらった太陽の樹液を型に薄く伸ばすように流していく……けど、これはこれで難しい!


 粘性が高くて、うまく樹液が伸びてくれない。

 ヘラで塗りたくりたいけど、それをやるとたぶん気泡が入るから、ゆっくり型を回して、型の縁まで樹液を伸ばす。


 ……よし、もう一回UVランプへゴー!

 紫外線をたっぷり樹液に浴びせてあげる!


 透明なのと、赤いの。両方ともUVランプにいれて、時間を図るべく時計を探そうと顔をあげたところで。


「……すっげー集中してたな。俺らの声、全然聞こえてない感じだぞ」

「智華さんはこういう作業をしていると、すごく夢中になるというのを最近知りました」


 あれぇ、私の話題ですかー?

 ダニールさんとラチイさんが互いに顔を見合わせてうなずきあっている。私だけ仲間はずれにしないでよう!


「なになに、何の話?」

「智華さんの世界の道具が珍しいって、ダニールが」

「そうなの?」

「まぁな。だってこんな疑似太陽、魔法でも作れる奴いねぇよ。異世界ってつくづく面白そうだ!」

「私からしてみれば、魔法が使えるほうが面白そうだけどねー」


 ところ変わればなんとやら。

 異世界カルチャーのギャップだよね!


 おしゃべりする間、私は別の物に手を伸ばす。

 この間はコレを忘れて最後徹夜になっちゃったからね! 今のうちに作っちゃおう!


 素材箱から赤色の布を取り出して、と。

 この間リボン用に切った奴の残りがまだあって良かったよ。細長いままだから、これを成形してバレッタに縫いつけるだけでいい。


「今度は何をするんだ?」

「これをー、こうしてー、こう!」


 リボンの端と端を縫いつけてー、リボンを輪っかにしてー。輪っかになったリボンの真ん中をつまんでー、つまんだ所を糸でぐるぐるーっと。


 リボンの裏側にバレッタを縫いつけておくのも忘れない。


 最後、細めのシルクのリボンでバレッタとリボンのつまんだところを巻き込むように巻いて、見えないところで縫いつけ……


「痛っ」

「智華さんっ」


 うっかり針で指を刺してしまった!

 またやったな私!


「何しているんですか!」

「ごめんラチイさんっ、布に血ついてないよね!?」

「そうじゃなくて指を見せなさい! ああもう、なんで怪我をするんですか。本当に智華さんは目が離せないんですから……っ」


 あ、はい、すみません。

 ラチイさんが奪うようにして針を刺した手を掴んでくる。まるで手のかかる子供の面倒を見るかのような対応のラチイさんに、私はスンと冷静になった。


 ダニールさんは口元をおさえて笑うのを必死にこらえてるけど、もはやこらえられてないくらいに目が笑ってるし肩が震えてる。


「ダニールさん……」

「い、いや、他人の世話をやくコンドラチイが珍しすぎて……」

「ダニール、なにか言いたいことが?」

「なんでもないですう」


 へらりとダニールさんが笑う。

 ラチイさんはひとつため息をつくと、私の手を離してくれた。


「本当に気をつけてください」

「は~い」


 肩をすくめて返事をする。

 ……まぁ、お裁縫に関してはぶきっちょなのでまたやってしまう可能性のほうが高いけど……まぁ、大丈夫でしょ。


 能天気にそんなことを思っていると、リボンの最後の仕上げはラチイさんがさくっと終わらせてしまった。


「これでいいですか」

「わぁ、私より綺麗~」


 縫い目が分からないようにバレッタとリボンが縫いつけられている。プロ級のその仕上がりに思わず拍手を送った。


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