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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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25/105

悔しさをバネに

「はらたつ、はらたつ、はらたつー!」

「どうどう」

「だからラチイさん、私は馬じゃないってばー!」


 わずかな月明かりだけが雲の隙間から差しこむ夜。

 私とラチイさんは、工房のある小さな家に帰ってきた。


 移動はまたもや座り心地の悪い馬車。

 御者があの気にくわないおじさんの家の人ということで、馬車の中では大人しくしていたけどさ!


「なんなのあの人! 偉そうに! 口も悪いし! 私の宝石も壊すし!」


 ラチイさんのお家までは頑張ったけど、もう我慢の限界! もう我慢しなくてもいいですよね!


 お行儀が悪いけど、リビングの床に荷物を叩きつけるように置いて地団駄を踏む。


 もー! ほんっと! 嫌なヤツ!


「ラチイさん! イヤなヤツ足すイヤなヤツは!?」

「え? なんです?」

「ミナゴロシ!」

「智華さん!?」


 小学生の頃に流行った物騒な言葉遊びで、このとめどなくわいてくる怒りの行きどころを落としこもうとしたら、思った以上にラチイさんが驚いた顔をしてしまった。


 なんかその顔を見たら、ちょっとだけ溜飲がさがる。ちょっとだけだけど。


「智華さん、さすがにそこまではやりすぎですよ。そんなことになったら、智華さんのご両親に面目がたちません。どうか考え直してください」

「いや、しないよ。冗談だから。むしろ私によくそんな度胸があると思ったねラチイさん」


 私の肩をつかみ、本気で止めようとしてくるラチイさんに思わず腰が引けてしまう。

 ラチイさんは疑いの目で私を見てきたけど、私は体の前でバッテンして「しません」という意思表示をした。ついでにぶんぶんと首を振っておく。


 全身で違いますと主張したら、渋々とだけどラチイさんは離れてくれた。もう、冗談が通じないんだから。


 そんなドタバタがありつつ、私が荷物を脇に寄せている間に、ラチイさんが飲み物を淹れてくれて。

 何もやることのなくなった私はソファに座らせてもらう。落ち着くと、やっぱりさっきのことが頭のなかに浮かんできた。


「……ほんとにあの人なんなのさ。好き放題言ってくれちゃって。私の宝石を踏みつぶしたのは絶対に許さない!」


 激おこだよー!

 ソファに置いてあったクッションをばふんばふんと攻撃していると、ラチイさんがマグカップを持って戻ってきた。


「智華さんには迷惑をかけてしまってすみません。こんなことになるとは俺も思っていなくて」


 肩を落として視線を落とすラチイさん。

 ラチイさんにとってもイレギュラーなことだったのは分かるよ。だってそうじゃなきゃ、こんな夜中に呼び出しなんてしてこないだろうし。


「あの人、誰なの。まほうしょう? の長官? なんだよね。それにフォミナって、ラチイさんの名前だよね?」

「まぁ、そこ気になりますよねぇ」


 ラチイさんからマグカップを受け取る。

 鼻をくすぐるのは濃いコーヒーの薫り。

 ……ラチイさん、寝させる気ないな?

 ま、時間ないから寝る気ないけど。


 コーヒーに口をつけてみる。

 あっ、これカフェオレだ。ミルクもお砂糖も入ってる。あんまーい。おいしーい。

 ほっとする味のカフェオレに舌鼓を打ちながら、ラチイさんの言葉に耳を傾ける。


「魔法省は魔術師の管理をしている組織です。魔法や魔術でしか対処できない案件の取り扱いや、事件の調査、災害の対処、魔法そのものの研究などが主な業務になりまして、そこの長官がフォミナ侯爵なんです」

「リアルハリウッド映画じゃん」


 某ハリーでポッターな世界じゃん。

 冷静に考えてみるとやっぱりこの世界はファンタジー映画な世界なんだなというのを再認識する。で、魔法省についてはなんとなく理解はできるんだけど。


「フォミナ侯爵とラチイさんってどんな関係?」

「あの人は俺の養父です」

「養父?」


 つまり、ラチイさんのお父さん!?


「は!?」

「驚きすぎじゃないですか?」

「いやいやいや、どうやったらあんな嫌味のキッツイおじさんからラチイさんみたいな爽やかイケメン男子が育つの!?」

「いけ……ま、まぁ、その辺りは俺に言われても困りますが、子供の頃に彼に引き取られ、面倒を見てもらったのは事実ですよ」


 なんでそんなことに?

 ラチイさんならもっといい人が引き取ってくれそうなものだけど!?


「人生どうなったらそうなってこうなるの!」

「聞いても楽しい話ではありませんよ。有り体に言えば、両親と死に別れたのが理由ですので」

「あっ……」


 しまった、地雷踏んじゃったっ?

 養子とかデリケートな話の気しかしないのに、私ったらなんでそこ意識いかないの!


「ご、ごめん、ラチイさん! 言いにくいこと聞いて……!」

「いえ。わりと有名な話なので」


 そう言うとラチイさんは、何てことのないようにさらりと言葉を繋げて。


「フォミナ侯爵は、ラゼテジュの貴族です。それも生粋の。そこに魔法の才能だけを買われた平民の俺が養子入りしたので、当時はかなり話題に上がったそうですよ」


 そうなんだ……ラチイさんの生い立ちは前にほんの少しだけ聞いたけど。その後もいっぱい苦労したんだな、って思う。それにしても貴族かぁ。


「ラチイさんの言葉遣いとかが丁寧なのは、それが理由? 年下の私にも敬語だし」

「そうですね。礼儀作法はひと通りたたき込まれました。フォミナ侯爵は、見ての通り厳しい方ですので、それはもう徹底的に……」


 ちょっと遠い目をするラチイさんを見て、あのおじさんならさもありなんと思ってしまうあたり、第一印象通りの人なんだな。

 まぁ一言で厳しいって言っても、私の魔宝石踏み砕いたことは許さないけど!


「まぁ、俺のことは置いておいて。今は王女殿下の魔宝石のことです。もう明後日……いえ、日が変わったので明日ですね。明日には事前お披露目になるわけですが……智華さん、どうしますか?」

「どうする、とは?」


 ラチイさんのふわっとした質問に首をかしげる。

 ラチイさんは真面目な顔をすると、私の隣に腰かけた。


「三日で作ったものを、それ以上の質で、一日で作るのは難しいでしょう。今なら智華さんを日本に帰して、俺が接触を絶てば、あとは適当にうまく話を……」


 ラチイさんの言葉に、私はきょとんとしてしまう。


「え? 作るけど」

「……まぁ、智華さんならそうですよね。十割そうだとは思っていました。一応聞いておきたかったんですけど、貴女はそれすら全部言わせてくれないんですね……本当に得がたい人です」


 ラチイさんが苦笑しているけど、え?


「むしろ作らないっていう選択肢ある?」

「普通の人なら、あんな理不尽や脅威にさらされれば、辞退したくなるものだと思いますが……」


 そんなこと言われてもな~。

 私たちを囲んでいた人たちが、フォミナ侯爵の一言で魔法を使おうとした光景を思い返す。


 確かに怖かったよ。

 魔法の威力は騎士団で見せてもらったもん。


 その魔法が人に……私に当たれば、ひとたまりもないことだって理解はしてる。

 でもさ。


「私にはラチイさんがいるし」

「俺、ですか?」

「そうだよ? 異世界にまで会いに来てくれる最強の魔法使い。そんな心強い味方がいるのに、逃げるなんてかっこ悪いじゃん」


 隣にいるラチイさんに笑いかける。


 私の知る魔法使いはラチイさんだ。ラチイさん以上にすごい魔法使いを私は知らない。だって異世界にまで来れるような人だよ? 前に聞いたとき、そういう人は珍しいからラチイさんが異世界へ来たんだって言っていた。


 つまり、そこらへんの魔法使いより、ラチイさんの方がよっぽど強いってことなんじゃない?


 そんな魔法使いさんに頼られているんだから、私だって調子のっちゃうよ!


「それにさ。ラチイさん、かばってくれようとしてくれたじゃん? すごく嬉しかった。それなら今度は、私がラチイさんをかばう番でしょ」


 私に可能性を見いだしてくれたラチイさん。

 その思いに報いたくなるのは、きっとラチイさんだからなんだよ。

 私が、ラチイさんのためにも頑張りたいんだよ。

 最初に私を頼りにしてくれたのは、ライさんなんだからさ。


「智華さん……」

「一ヶ月でやるつもりだったものを三日でやったんだ。三日分を一日でやるだけなんだよ。小さな髪飾り一つだもん。私が失敗しなければ余裕余裕!」


 私はぐいーっとカフェオレを飲み干す。

 眠気はまったくない。

 やる気だけは一人前。

 今からだって作業は始められるもんね!


「大丈夫だよ、ラチイさん。私は魔宝石を作る。時間なんて一日あれば十分。だから、手伝ってくれないかな」


 改めてラチイさんを見る。

 銀の髪に琥珀の瞳。優しくて、お茶目で、お仕事に真面目な異世界の魔法使いさん。


 そんな人が魔法も使えないただの女子高生の力を頼りにしてるんだよ。私で力になるならいくらだって力を貸してあげちゃうもんね!


 にっこりと笑いかければ、ラチイさんが目を丸くした。何か言おうとして口を開きかけたけど……また口をつぐんで、それから笑い返してくれて。


「やはり智華さんに出会えてよかった。あなたほどまっすぐで、がんばり屋で、諦めの悪い人を、俺は知りませんから」

「ラチイさん、それちょっと悪口入ってない?」


 諦めが悪いって良い意味にも悪い意味にも聞こえるんだけど……まぁいいや!


 私はソファーから立ち上がる。

 床に起きっぱなしにしていた荷物を拾い上げて、隣の工房へと足を向けながら、ラチイさんを振り返った。


「今日は眠らせないから覚悟しててね!」


 タイムリミットは二十四時間。

 さぁ、私とラチイさんの、長い一日が始まるよ!


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