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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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待ち人来たれり

 スマホの通知をついつい気にしてしまう。


 私はいつものようにベッドに転がって、ジュエリーショップのホームページやアクセサリーのフリマアプリをのぞいたりしながら、スマホの通知を心待ちにする。


 金曜日の夜。

 ラチイさんに魔宝石を預けてから、丸一日経った。


 もし作り直さないといけないことになったら、あのクオリティを生むのにまた時間がかかってしまうんだろうなぁ。


 だから、もし駄目なら一秒でも早く連絡が欲しい。

 昼間も学校でチャイムが鳴るたびに速攻でスマホの画面を開いて、ラチイさんからのメールを確認しちゃっていたし。


 まだこない。

 まだこない。


 お母さんも、お父さんも、私が夜遅くまで作業をしていたのを知っているからか、お風呂もご飯もそこそこに、夜もまだ早いうちから部屋に引きこもっても文句は言われなかった。


 ごろん、と寝返りをうつ。

 眠ろうと思うのに、眠たいのに、なんだかなかなか眠れないよう。まるで定期テストの結果発表待ちのようにドキドキする。


 私のアクセサリー、お姫様は気に入ってくれるかな。

 王様はすごいって言ってくれるかな。


 明確な誰かのために作るアクセサリーなんて、いつから作らなくなってしまったんだろう。


 小さい頃は、お母さんやお友だちにビーズで作った指輪とかブレスレットをプレゼントしていた記憶があるけど。


 ラチイさんのところでバイトを始めて……ううん、その前かな。


 麻理子に誘われてアクセサリーを本格的に作るようになってから、誰かのための贈り物を作ったことってあったっけ。


 そんなことを思って記憶をたどり、眠気にまどろんでいると。


 ぴろりろりん。


「ひょっ!?」


 スマホに着信!

 バッとスマホの画面に食いつく。

 発信元は――


「ラチイさん!」

『はい。こんばんは智華さん。コンドラチイです』

「こんばんは!」


 メールじゃなくて電話とか珍しいねラチイさん!

 基本、仕事のやり取りはメールでやってるから、電話なんて滅多にかけてこないのに!


 眠気もとんで電話に出ると、電話の向こうのラチイさんがくすりと笑った。


『智華さんの声を聞くと元気が出ますね。……もう寝てしまうところでしたか?』

「ううん、寝れなくてごろごろしてたところだけど……ラチイさん、どうしたの? 魔宝石、大丈夫そう?」

『……それが』


 ラチイさんの声が曇る。

 溜息もついているし、ラチイさんのこの様子に、なんだか胸がざわめいた。


 何を言われるんだろうと身構えていると、ラチイさんがためらったように口を開く。


『今から、こちらに来れますか』

「へ? い、今から?」

『そうです。ちょっと予想外の事態になりまして……危険なことは絶対にさせませんから、今からお迎えにあがっても?』

「え、はっ、ちょ、ちょぉっと待って!」


 魔宝石のやり直しに来いって感じ!?

 でもさすがにそれは急すぎない!?


 ガバッとベッドの上で起き上がって、パタパタパタと階下にいるお母さんのところに行く。


「おかーさーん!」

「どうしたの~」


 リビングのソファでテレビを見ていたお母さんが私のほうを向く。

 私はスマホを指差しながら聞いてみた。


「今からラチイさんのところに行っていい?」

「あらまぁ……。でも駄目よ、もう夜遅いんだから」

「ですよね」


 知ってた。たぶんそう返ってくるだろうなと思いつつ、スマホを耳に当てる。


「駄目だって。明日の朝イチじゃだめ?」

『そこをなんとか』

「そう言われましても……」


 お母さんをちらりと見る。

 お母さんはテレビから視線をはずすと、私に向かってちょいちょいと指で手まねく。


「フォミナさんに代わってくれる?」

「はーい」


 スマホをお母さんに渡して、私はダイニング側にあるテーブルの椅子に座って様子をうかがう。

 お母さんがラチイさんと細々と話すのが聞こえてくる。


「ええ、ええ。はい。そちらも大変でしょうが、こんな時間に娘を外に出すなんて、何かあったときどう責任を取られるつもりなのですか。智華も一生懸命やっていますし、生活に支障がでない程度でしたら目をつむります。ですが高校生をこんな時間に呼び立てするのは常識的に……ええ。はい。そうですね。そちらの都合もあるとは思いますが、つい数日前にも智華が徹夜で……そうですよ」


 めっちゃ話してる。


 心配してくれるのはありがたいけど、私の立つ瀬が無いよう~。


 言いたいことは尽きないのか、お母さんは淡々とした調子でラチイさんと電話する。

 そわそわしながら成り行きを見守っていると、お風呂から上がってきたらしいお父さんが私の背後に立った。


「どうしたんだ?」

「お母さんがラチイさんとお話ししてる。急な仕事でこれから来れないかって言われちゃって」

「ほぉ」


 バスタオルで頭をふきながら、お父さんがお母さんに近寄る。

 お母さんはお父さんに一瞥をくれると、またすぐにラチイさんとの話に意識を戻した。


「社会人としてそちらにも都合があるとは思いますが、智華はまだ未成年で……はい、はい……そうですか。分かりました。ですが今回だけです。次回からはこのようなことはさせないよう、きちんとスケジュール管理をなさるのもフォミナさんのお仕事であること、お忘れなきようお願いしますね。はい、では失礼いたします」


 お母さんが耳からスマホを離す。

 私は椅子から立ち上がると、お母さんからスマホを受け取った。

 画面が消えてるや。通話は切れたみたい。


「どうなったの?」

「今から来られるそうよ。着替えて、お泊まりセットも準備しなさい」

「行っていいの?」

「智華のお仕事だもの。でも、こんなことが毎回じゃ心配だから、フォミナさんにはよくよく話しておきたかったのよ。智華ったら、すぐ徹夜するから」

「まぁ、智華は昔から夢中になると周りが見えなくなるからなぁ。でも、体を壊してからじゃ遅い。お母さんの言ってることはもっともだ」

「あ、はは……」


 私の徹夜がラチイさんに跳ね返ってしまった……ごめんよ、ラチイさん。

 言い返せず居心地悪く愛想笑いをしていると、お母さんがパンパンっと手を叩く。


「さ、準備しないとフォミナさん来ちゃうわよ~」

「はーい!」


 お母さんに急かされ、私は慌てて自分の部屋へと戻る。

 パジャマからラフなTシャツとパンツに着替えて、荷物を詰め込んで……と。


 部屋で一人ドタバタしていると、不意に窓の外が一瞬だけ発光した。


 見覚えのある光り方。

 あの光はもしかして……?


 窓を開けて、ひょっこり下をのぞく。

 闇夜でも輝く、地上の銀色。

 あ、やっぱり。


「ラチイさーん、こんばんはー」

「……あぁ、智華さん。こんばんは」


 声に反応して顔をあげるラチイさん。

 暗くて良く分からないけど、その表情はかすかに微笑んでいるように見えて。


「ごめん、今行くから!」

「ゆっくりでいいですよ。はやく着きすぎてしまっただけなので」


 はやく着きすぎる……いやまぁ、ラチイさんの家から日本まで一瞬で着くからね?


 それこそメールで準備ができたって伝えたあとに移動したって、瞬き一回分の時間で着いちゃうんだよ。それが分かっててはやく着きすぎる意味はあるのか……。


 ちょっと不思議に思いつつ、私は鞄にがっしがしと荷物を詰め込む。よし、できた!


「いってきまーす!」

「えっ? もう?」

「早くないか?」


 お母さんとお父さんが玄関の扉に触れた私をのぞきにリビングから顔を出す。

 扉を開けると、月のように綺麗な人が優雅に一礼をしていて。

 ラチイさんは顔をあげると、奥にいる両親二人に視線を向けた。


「こんばんは。大切なご息女、お借りします」

「え、あ、はぁ……」


 本当に到着していたラチイさんに、お父さんが間の抜けた返事をする。

 にこりと笑ったラチイさんが「では失礼」と私の腕を引き、外へと連れ出せば。


 玄関の扉が閉まるか、閉まらないかの間際。

 広がる魔法陣と感じる浮遊感。


 そして次の瞬間には。


「……なして?」


 近頃見慣れてきたラチイさんの工房――ではなく。


 赤い高級絨毯が良く似合う部屋の中、フードを目深に被ったいかにも怪しげな服を着た人たちが私とラチイさんを遠巻きに囲んでいるのが見えた。


 え……どこ、ここ?


 ぽかんと間抜け面をさらしてしまった気がする私の隣では、ラチイさんがふらりとゆらめいて。

 違和感を感じてラチイさんを見ると、ラチイさんはゆったりとした所作で正面を向いてひざまついていた。


「フォミナ侯爵。職人をお連れしました」


 フォミナ、こうしゃく?


 ラチイさんの正面。

 白髪の目立つ、五十代くらいの厳しそうな雰囲気の男の人が、フードの人たちを率いるように立っていて。


 ラチイさんと同じ名前を持つその人を、私は思わず凝視した。


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