ルビーのような魔宝石を
お姫様のふあふあな金髪に映えるような。
まだ幼いお姫様を愛らしく思ってもらえるような。
それでいてちょっぴり大人になりたいお姫様の願いを叶えるような。
そんな魔宝石を、私は作りたい。
家に帰ってご飯とお風呂を済ませた私は、速攻で机に向かい、ラチイさんから預かった素材箱を広げた。
素材はこれでよーし!
他に必要なものといえば。
UVランプ、調色スティック、色混ぜ用のトレーに、忘れちゃいけないシリコン型!
今回ご用意するシリコン型はこちら~!
じゃじゃーん! ハートの形のマカロンでーす!
超絶キュートなこの型で、今回はお姫様の魔宝石を作っていくよ!
道具を並べた私は、まずマカロンの型を目の前に置く。素材箱から不透明な乳白色の太陽の樹液を取り出して、トレーにほんの少しだけ出して、と。
「あ、そうだ。確認しないと」
ラチイさんからのメールを開いて、この乳白色の樹液が何でできているのか確認する。
『白色の太陽の樹液……白大蛇の鱗の粉末を混ぜました。沈殿するのでよく混ぜてください。』
見なきゃ良かったかもしれない。
ちょっとぉラチイさん!? 太陽の樹液って魔力を通せば色が変わるんじゃないんですか!? 違うんですか!?
確かそう教えてもらったはずなんですけど、なんでこんなところに怪獣の鱗が混ざってるんですかね!?
ほんっと! もう!
予想外の素材に顔がひきつるけど、私は手を止めずにえいやっとスティックで白色の樹液をすくう。
確かにちょっと色が沈殿している。空気が入らないようにゆっくりかき混ぜながら、シリコン型へと樹液を移動させた。
このマカロンのシリコン型、マカロンがマカロンたるあの縁のギザギザ……いわゆるピエっていう部分も再現されているんだよね。まずはそこに白色の樹液を流し込んで、っと。
太陽の樹液をちまちまと型に流し込んだら、UVランプへゴー!
固めている間に同じものをもう一個!
マカロンだからね! 型はちゃぁんと二つ用意してあります!
ピエを固めている間に、私は赤色の太陽の樹液を取り出す。瓶からとろりと流れ出たのは、イチゴジャムみたいな赤色で。
「さすがラチイさん」
要望通りのその色に、小さく拍手する。
マカロンのピエが固まる頃を見計らって、UVランプから型を取り出した。
片方の型にはイチゴジャムのような赤色を。
片方の型には何ものにも色づいていない無色を。
スティックのおしり側、ヘラの部分でうすーく伸ばして、膜のように硬化させる……んだけど。
一個目赤色、粘度が足りず、硬化中に穴が空く。
二個目無色、型から取り出したとたんに、割れる。
「……」
無念なりし、二つの樹液よ……。
大丈夫、これくらいは予想の範疇だい!
失敗したやつを脇に避け、私はもう一度白色の樹液をマカロンのピエに流し込む。……けど、量が多すぎて、内側に垂れていっちゃって。
………………。
「ふっ、今日は眠れぬ夜になりそうだ」
さー、何回目で成功できるかなー!
なんだかんだで試行錯誤。
積みあがる積みあがる、失敗作の樹液たち。
なんかもう、薄いし、パリパリしてるし、硬化時間が微妙に足りなかったのか、ぐにぐにしてるのもある。
何て言えばいいのかな。脱皮? そう脱皮。なにかが脱皮したあとの脱け殻の山みたいに、机の端にたまっている。
そんな山を築き上げて三日目の夜。
ようやく私は、できのいいマカロンのパーツを幾つか作り上げることができた……んだけど。
「もう時間が無いから組み立て始めなきゃ……!」
締め切り前夜のこの時刻にまだ初手の作業が終わっただけなんだよやっちまったな私!
チクタク進む時計の針に焦りながら、赤色と無色のマカロンパーツを一対揃えた。
私は素材箱に手を伸ばす。
取り出したのは、キラキラと輝くガラスのような、丸いビーズのような素材。無色のものから、色つきのものまで色々と小瓶に半分くらい詰まっていて。
いつか使うだろうと思ってお願いしてきたこの素材が、陽の目を拝む日が来ようとは!
これは私がラチイさんにお願いしておいた、太陽の樹液製の丸玉ビーズ。めちゃくちゃ細かいこの球体を作るには私の技術じゃまず無理だし、でもビーズ系の素材は欲しかったから、無理を言ってお願いしました!
ここで中身の素材確認。
透明系のビーズは魔力を流しただけの太陽の樹液。
不透明色のものは、さっきの乳白色のやつと同じく、何かしらの混ぜ物がされているみたい。
白は白大蛇の鱗。
ちょっとくすんだ赤はお馴染みのレッドドラゴンの鱗。
薄い水色は氷蹄狼の爪。
他にも色々。
知らない名前がたくさんでてくる。
さすがファンタジーと思いつつ、私はザラっと赤いマカロン型の器に色とりどりの樹液ビーズをばらまく。
きもーち、透明なやつを多めに。
「このビーズ、どうやって作ったのかな~」
私には無理だから丸投げしたわけだけど、ちゃんと作ってくれるあたり、ラチイさんの加工技術に舌を巻いてしまう。ここまで繊細な技術を持ちながら、魔宝石の魔法はうまくいかないというから不思議だよね。
ビーズがマカロンの内側でころころ転がる。
「……なんか違和感」
首を捻りながら、ビーズの数を減らしてみる。
んー、何か違う。
予備の赤色マカロンを引っ張ってきて、ビーズを転がす。ちょっとだけしっくり。
ザラザラっとビーズをいれるけど、微妙に納得できなくて、ビーズの数を増やしたり、減らしたり、色を変えてみたり。
一粒一粒選別してやっと満足ができたら、透明なマカロンを赤色マカロンに被せるように乗せて、密封する。
接着剤代わりに、マカロンのピエの部分に太陽の樹液を丁寧に塗ってUVランプにイン。
よーし、これでおしま――
「あっ、やば」
魔宝石部分はできたけど、アクセサリーとしての加工部分を忘れていた!
時計を見る。
現時刻、深夜二十四時ジャスト。
「……がんばれ私! 負けるな私!」
パンパンっと頬を叩く。
素材箱をさらに漁る。
赤い布と赤い糸。
そしてバレッタ用の銀の台座。
あんまり裁縫は得意じゃないけど……リボンくらいなら私だって縫えるんだよ!
裁縫道具を引っ張ってきて、机の上に置いて。
私はハサミを持って、しょきっと布を切る。
私はこのハートのマカロンを使ったリボンバレッタを作りたい。
細長く布を切って、リボンの形を作って、バレッタに縫い付ける。
それからさらに細長い布を切って、その布を使って、リボンの結び目とバレッタを括るようにぐるぐる巻きにして、見えないところで糸で縫い付ける。
最後、結び目のところにマカロンをつけるんだけど……。
「痛……っ! ……あ~、も~、最悪」
針仕事って苦手なんだよなぁ……。
うっかり指してしまった指をくわえて、リボンに血がついていないことを確認。……リボンに血は付いていなかったから良かったけど、じんわり血がにじんでくるから絆創膏しないとだなぁ。
とほほ……と立ち上がって救急セットを手に取る。
もう少しだから、気合いいれていかないと!
明日も学校があるから徹夜にだけはしたくないけど、そんなこと言っていられない。
これはお仕事。
趣味なんかじゃない。
私の作るものを待つ人がいる。
これは宝石なんだ。
キラキラしてて、つやつやしてて、身につける人を輝かせる。
ねぇ、赤い石の宝石言葉を知っている?
私が贈りたいのはルビーの輝き。
贈りたい言葉は『情熱的な愛』。
お姫様の一途な想いが、王子様に伝わりますように。




