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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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21/105

ミーティングはいつものカフェで

 放課後。

 いつもなら部活に行くけど、今日は用事があるから、ささっと学校を出た。


 スマホを取り出して、ラチイさんとのメールを見返す。


 なんか、婚約調停に間に合うように納品する予定だったのが、納品日を前倒しにするようにと王様から命令されてしまったらしい。


 デザイン案自体はできているから問題ないけど、いかんせん……作られた魔宝石の魔法がどんなものになるのか私も分かんない。


 仮にも王女様に変な魔法を込めたものを差し上げるわけにも行かないので、試作を重ねながら納得のいくまで作りたかったんだけど……うん、無理だね!


 ということで私は学校帰り、ラチイさんとよく打ち合わせで使う、行きつけのカフェへとやって来た。


 学校帰りの学生やお茶をする主婦さんたちでにぎわうカフェの扉を開く。狭い店内ですぐにラチイさんを見つけることができた。黒髪の日本人のなかに銀髪のイケメンは、やっぱり目立つなぁ。


 まぁそこに突撃する私はいつも、好奇な視線にさらされる勇気を強いられるんですけどね!


「ラチイさん、お待たせ!」

「智華さん。すみません、お呼び立てして」


 ラチイさんが腰を浮かせる前に私は駆け寄って、すとんと椅子に座った。それを見たラチイさんもゆっくりと腰を下ろす。


 ラチイさんにメニュー表を渡されたので私はちゃっと開いて注文を決めた。ベルで店員さんを呼んで、私は、アイスカフェオレとハニーワッフル、ラチイさんはアイスコーヒーを注文した。ここのワッフル、美味しいんだよね。


「では時間もないので、本題に」


 注文をしてすぐ、ラチイさんは本日の議題を切り出す。


「本当にすみません。メールでお伝えしたように、事情が変わりまして……智華さんには、魔宝石の納品を前倒ししていただくことになったのですが……」


 ラチイさんが歯切れ悪く口を閉じる。

 私は首をかしげながら次の言葉を待つ。


 前倒しになったことは聞いているから、そんな言いづらいこともないと思うんだけど。

 何を口ごもることがあるのかと思っていれば、ラチイさんはひとつため息をついて、ゆるりと口を開いた。


「三日で納品できますか」


 私は目を瞬く。

 え?

 みっか?

 ……三日!?


「む、むりむりむり! そもそも中身の魔法が何になるのか分かんないのに三日でなんて無茶ぶりじゃない!? 私ただでさえ作る手が遅いのに!」


 初速からかっ飛ばしてきたラチイさん。

 いや、普通に無理でしょ!?


 私が依頼を浮けたのが先週の土日だよ!? まだ一週間くらいしか経ってないよ!?


 さすがにそれは無理だとぶんぶん首を振る私に、ラチイさんは疲れたようにうなずく。


「材料の目処がようやくたったばかりで、入手できてる材料にも限りがあります。その上まだ試作もできていない。ほぼぶっつけ本番な状況で王族に納品できるほどの魔宝石を作る。それがどんなに無謀か分かっています」

「ならなんでそうなったのさ!?」

「知りたいですか?」


 今度は首を縦に振る。

 その無茶ぶりに至った経緯をぜひとも教えてもらいたいね!

 ラチイさんは重々しくうなずくと、そっと口を開いた。


「ラゼテジュでは魔宝石……人工魔石の研究が盛んなことはお伝えしましたね。逆に、隣国ヘスヴィンは天然魔石の貯蓄量が近隣諸国の中で一番であると」


 それは確かに聞いた覚えがある。だから今後の魔石研究のために今回の婚約を成立させたということも。

 それがどうしたんだろうと思っていると、ラチイさんが苦々しい顔をした。



「ここから遠い国なのですが、ガラノヴァ帝国が物申してきたのです」

「ガラノヴァ帝国……?」


 名前、聞いたことあるなぁ。確か、魔石資源をめぐって、よく戦争をしている国、だっけ?


「そのガラノヴァ帝国さんが、何言ったの」

「天然魔石の蓄積量を一番多く持つのは帝国であるから、魔宝石研究のための婚約であるなら、王女が婚姻を結ぶべきなのはガラノヴァ帝国である、と。」

「はぁぁぁっ?」


 何その、あと出しじゃんけんみたいな主張!?


「そんなの今さらじゃん! 国同士でのやり取りなんてめちゃくちゃ慎重にやることくらい私でも分かるよ!? なんで遠い国がいきなりでてくんの!?」

「まったくもってその通りです」


 ラチイさんはふぅと息をつく。


「ガラノヴァ帝国の魔石保有量がどれほどのものかは分かりません。魔石の保有量だけでいえば、確かにガラノヴァ帝国と関係を結んだほうが良い、という声も上がっています」


 だけどガラノヴァ帝国は遠く、魔石の輸送コストだって馬鹿にはならない。その上、ガラノヴァ帝国はその魔石資源を巡ってよく戦争をしている。その戦争に巻きこまれるのは、ラゼテジュとしても避けたいところ。


「ガラノヴァ帝国が何を言おうと、ラゼテジュにメリットはありません。ガラノヴァ帝国がこれ以上の横槍をいれてこないよう、上層部はヘスヴィンとの調停式を早めることにしたようです」

「めっちゃいい迷惑」

「本当に」


 二人で神妙な顔をして頷き合っていると、店員さんが飲み物とワッフルを持ってきてくれた。


 私は手を合わせると、遠慮なくワッフルを頬張る。ラチイさんも運ばれてきたコーヒーにひと息ついて、ちょっと休憩。


 私がワッフルをもぐもぐしている間に、ラチイさんは隣の席に置いていたらしい箱を持ち上げて、机の上に置く。


 化粧箱や小さなドレッサーのようにたくさんの引き出しや取っ手のついたその箱は、私にとってはもうすっかり馴染みのあるもので。


「いつものように、メールでいただいたイメージに近い素材を補充しておきました。もし満足できなければすぐに連絡をお願いします。必要なものを揃えてまたお届けしますので」


 ラチイさんが持ってきたこの箱は、私にとって欠かせない素材箱。中には仕事で使うために必要なレジン液……もとい、太陽の樹液や魔獣の鱗、妖精の鱗粉やその他諸々が入っている。


 その中身の貴重さを反芻しながら、いつものように分かったと返事をしようとして、はたと思い出す。


「……こっちと向こうを行ったり来たりするの、しんどいんじゃなかったっけ」


 大丈夫なのラチイさん?

 居眠り運転みたいに事故ったりしない?

 ちょっと心配になって聞いてみると、ラチイさんは肩をすくめた。


「王命ですので、最善を尽くさざるを得ないんですよ。そうじゃないと第三魔法研究室の次年度予算が減らされますので」

「うわぁ、大人の本音を聞いてしまった」


 どこの世界も大人の社会というものは世知辛いらしい……。がんばれ、ラチイさん。


 私は素材箱を受けとると、中身を確認する。今のうちに確認しておけば、無駄なことは省けるからね。


 ざっと箱の中を見渡して、私がこれから作るものを思い描く。


 ……うん、大丈夫。

 材料は良さそう。

 あとは実際に作りながらかな。


「納品は三日後なんだよね。いつもみたいにここでいい?」

「はい。受け取った魔宝石は第三魔研で魔法の効果等を検査します。もし駄目だったら作り直しをしてもらうことになりますが、それを含めて二日で完成、日曜に調停式での披露目になります。その際は智華さんも同伴していただくことになりますので、よろしくお願いします」

「えっ!? なんで!?」


 私、魔宝石作ったらお役御免なんじゃないの!?

 びっくりしすぎて、目を真ん丸にさせていると、ラチイさんの表情が今日で一番柔らかく微笑んだ。


「研究ではなく献上品としてお披露目をするのですから当然です。それに、職人として名を売っておいて損はありません」

「職人……」

「そうです。こだわりをもって、妥協をしないその姿勢、確固とした技術。俺は智華さんのことを職人だと思っていますが……違いますか?」


 そう言われ、私は戸惑う。


 正直、ラチイさんがそこまで私の腕を見込んでくれていたことが意外だった。

 私はアマチュアで、プロの人に比べたらたぶん技術なんて無いに等しい。


 一個を作るのに何度も失敗しちゃって、見られるものを作れるようになるまで時間がかかる。

 でも、自分の描く宝石を作るためなら、そんなこと、どうでもよくて。


 買いかぶりすぎなラチイさんの言葉に、私は誤魔化すようにカフェオレを飲んだ。


 むせた。


「げぇっほ、ごっほっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「だ……ごっほ! らいじょーぶ、です……」


 気管支! 気管支入った!

 やっぱりちょっとシリアスな感じで決めようとしても無理だね! 私には似合わないね!


 散々むせたあと、私はひと息ついてラチイさんの名前を呼んだ。


「ラチイさん」

「はい」

「たぶん、私よりも上手にもの作りが出来る人はたくさんいるよ。その人たちこそ、本当の職人だと思う。でもね」


 私はえへへ、と頬がゆるむ。顔を崩して笑う。

 こんなの、笑顔にならないでって言うのが無理だよ。


「たくさんの中から私の宝石を見つけてくれたラチイさんが、私のことをそう思ってくれているなら、私もかっこいいとこ見せなきゃだよね。いいよ、王様の前で『これは私が作ったんです!』ってドヤ顔をしてあげる!」

「智華さん……」


 ラチイさんが嬉しそうに微笑んだ。

 これでラチイさんの負担が減るのなら、いくらでも私は協力するよ。私の宝石を好きだといってくれたラチイさんのためなら、私はいくらでも頑張れるもん!


 照れくさくなって、またちょっと笑って、じゃあこの話しはもうおしまいかなーと思って私がワッフルに再び手を伸ばすと。


「心強いですが、あまり無理はしないでくださいね。もし今回の件がうまくいって職人として知られれば、あちこちからひっぱりだこになってしまいますから」

「それって良いことじゃない?」

「嫌ですよ。智華さんの魔宝石にはまだまだ、たくさんの可能性があります。俺は智華さんが作る魔宝石の研究がしたいんです。まだしばらくは、俺の仕事に付き合ってもらわらないと困ります」


 コーヒーを飲みながら澄まし顔でそう言うラチイさんに、私は声をあげて笑った。


 まだしばらくは、ラチイさんに必要としてもらえる。

 それだけで、私はなんでもできそうな気がしてきた!


 よぉーし、帰ったらさっそく魔宝石作りだよー!


2024/12/18

婚約調停の反対騒動の理由を「ヘスヴィンの反ラゼテジュ派」から「ガラノヴァ帝国の横槍」に変更しました。

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