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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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未来のわたし

「と、いう感じで、昨日は計五体の妖精さんからラメパウダーを採取してきました!」

「どこのファンタジーなのかな?」

「ラチイさんとこの!」


 教室でいつものように机を合わせて、麻理子に昨日の出来事を話すと、麻理子が控えめに笑った。


「それで、その漫画のタイトルはなぁに?」

「漫画じゃないって! 私の実体験!」

「昨日は何時に寝たの?」

「夢の話じゃないってぇ!」


 麻理子のいけずー!

 信じてくれてないね!?


 むぅっとしながらお弁当の卵焼きをつついていると、麻理子が「そういえば」と思い出したように顔をあげた。


「お洋服のこと、オッケーもらえた?」

「あ~、それね……」


 そうだった、麻里子からお願いされていたんだった。

 でも、返事を聞いたんだけどさぁ。


「お心遣いで十分です、だってさ。向こうも色々事情があるみたいで、お断りされちゃった」


 ラチイさんの言葉をそのまま伝えると、麻理子がしょんぼりと肩を落とした。


「そっか……残念……」

「まぁ、麻理子は人のことより自分のことだよ! ドレス、夏のコンテストに出すんだって?」

「う、うん……」


 そうそう、そうなんだよ!

 さっき休み時間に、家庭科部の先生と話してるところを見ちゃったんだよね!


 麻理子のドレスは、部活動だけで見せておくにはもったいないくらい素敵だもん。コンテストに出すように家庭科部の先生が勧めるのも当然だ。


「前から誘われてたのは知っていたけど、麻理子がコンテストの応募用紙をもらってたのは初めて見たや」

「……出るつもりは、なかったんだけどね。なりゆきで」

「そうなの?」


 ミートボールをがぷっと食べて聞き返すと、麻理子がお弁当箱の上でお箸をさまよわせた。


「……本当は、誰かに見せるつもりなかったの。あのドレスはジローに見てもらうために作ってただけだから。でも……」

「でも?」


 麻理子の箸が止まる。

 元気がないけど、麻理子、何かあったのかな?

 麻理子の言葉を待っていると、麻理子の眉がへにょりと下がった。


「お母さんに、言われちゃった。最近成績よくなくて、これじゃ大学行けないよって。私、高校卒業したらジローに着いていきたいって思ってたから、そんなこと考えていなくて……」


 私はびっくりして箸を止めた。

 じっと麻理子を見つめる。

 麻理子、大学に行かないつもりだったんだ……。


「部活のやつ、材料買ってることをお母さんも知ってるから、それをコンテストに出して実績出せば推薦をもらえるかもしれないって言われたの。それで、先生に……」

「そっか……」


 麻理子も大変そう。

 でもそっかぁ。

 進路かぁ。

 私、自分の進路のこと考えてなかったや。


「私たちまだ高二だよ? 進路とか早くない?」

「そんなことないよ。受験するならともかく、推薦もらう子は今年一年で内申あげないといけないから。部活動を本気でやってる子とかは真面目に考えてると思うよ」


 麻理子の言葉が、ちくりと私の胸に刺さる。

 将来のために本気でやる、かぁ……。


「皆、すごい考えてるんだねぇ」

「智華ちゃんは違うの? 今やってるバイト、そのまま続けるのかなって思ってたけど」

「え~?」


 麻理子が意外なところを突いてきて、ちょっと驚く。

 ラチイさんのところでのバイト?

 ……うーん、どうだろう?

 私はお弁当を食べる手を止めて、腕を組んだ。


「でも、バイトはバイトだよ? かなり良い金額もらってるけど、バイトのお金じゃ暮らしていけなくない? 私、一個の作品作るのに、手が遅いからさ」

「出来高制だっけ?」

「うん。だからそれで食べていくのって、想像できないかも」


 そうなんだよねぇ。

 趣味を兼ねたお仕事なので、ストレスなくやれるし、楽しいんだけど、でも将来、このお仕事で生活している自分が想像できない。


 それに、そんな遠い未来でもなお、ラチイさんが異世界を越えて私の魔宝石を必要とするかなんて分かんないし。


 ……ラチイさんは研究のために私の魔宝石が欲しいんだから、もし研究が終わったら用済みになるかもしれない。


 それって、なんだかイヤだな。


 そう思った瞬間、胸がぎゅっとしめつけられて、息苦しく感じた。


「……」

「智華ちゃん?」

「……ううん、なんでもない!」


 麻理子に声をかけられて、いつの間にかだんまりになっていたことに気がついて、笑って誤魔化した。

 感じていた胸の痛みもすぐに消えたし、気のせいだったのかも?


「それにしても、進路なんか三年になってからでいいじゃん……」

「そうだね~」


 麻理子と二人でため息をつきながら、お弁当を食べる。あーもー、午後からの授業が憂鬱になってきたよ~。

 しんみりした雰囲気でお弁当を黙々と食べていると、不意に背後から声がかかった。


「まーりこ! 待たせたな! ほい、お茶」

「あ、ありがとう。ジロー」

「ごくろーさま、山田ジロー」

「ミドルとファーストで呼ぶな! つか、てめぇは自分で行けよな」

「麻理子おいて行けるわけないじゃーん」


 ジローからいちごミルクの飲みきりパックを受け取る。

 ジローも机を持ってきて私たちの机にくっつけると、購買で買ってきたパンやら飲み物やらを机に広げた。


「相変わらずよく食べるねー」

「午前に体育あったしな」

「あ、ジロー。このパンのシールちょうだい?」

「麻理子がそう言うと思って買ってきた!」

「えへへ、嬉しい」


 麻理子がジローからパン祭りのシールをもらって、嬉しそうに鞄のなかに潜ませていたらしい台紙に張りつける。

 麻理子のその様子に和んでいると、ジローが大口開けてコロッケパンをかじった。

 二人の様子を見ながら、私もいちごミルクのパックにストローを差す。


「そういえば、ジローって進路決めてるの?」

「ふぃんほ?」

「ジロー、お行儀悪いよ。ほら、飲み込んで」


 麻理子にたしなめられたジローが、口の中のものを飲み込むと、不思議そうな顔で首を捻った。


「なんで進路?」

「さっき麻理子と話してたの」

「なして?」

「麻理子も私も、こう見えて色々考えてるのだよ山田ジローくん」

「だからミドルとファーストをつなげて呼ぶんじゃねぇ」


 ジローをからかいながらいちごミルクをちゅーっと飲むと、ジローは「うーん」とちょっと考える素振りを見せた。


「まぁ、国に帰るだろうな」

「国って外国のお父さんとこ?」

「そ。できれば麻理子と一緒にな」


 デレッと笑み崩れたジローに、麻理子がほんのりと頬を赤く染める。

 麻理子もさっき「ジローに着いていく」って言ってたし、二人の中ではもう決まってることなんだ。

 何気なく二人のイチャ甘将来像を想像しかけて、ふと思う。


「そういやジローの国ってどこだっけ?」

「世界で一番遠いとこ」

「ブラジル?」

「ブラジルよりも遠い国だ」

「なにそれ」


 日本から見て、一番遠いのはブラジルでしょ?


「麻理子は知ってるの? こいつの故郷」

「えっ?」


 麻理子がキョトンとする。

 ……おぉっと?


「ジロー。あんた、麻理子にも話してないの?」

「必要なくね?」

「必要なくなんて無いよ!? 外国に行くなら外国語しゃべれなきゃ駄目じゃん!」

「あっ、そっか。智華ちゃん、すごいね」

「麻理子も自分のことだからもうちょっと気にしよ!?」


 麻理子ってこういうところあるよね!? 一番大事なところだよ!?


 ほわほわしてるけど、しっかりしてる時はしっかりしているのに! ジローに関わると、途端に駄目になるじゃん……!


 あーもー! っと私が頭を抱える横で、ジローがペットボトルの炭酸飲料をぐいっと飲む。


「言葉についても問題ねぇよ。俺がこうやって話せてるんだし」

「良い度胸じゃんか優等生。英語平均以下の私と麻理子の前でそれ言う?」

「笠江の脳ミソは石でできてるから当然の結果だろ。麻理子は英語できなくても俺がお嫁にもらうからノープログレム。英語なんていらないし」

「英語できずに第二言語が履修できるか!」

「麻理子ならできるから問題ねーよ!」

「ち、智華ちゃん……っ、ジロー……!」


 バチバチと私とジローが睨み合っていると、あわあわと麻理子が狼狽える。


「麻理子! やっぱり考え直そう!? こいつと付き合っててもきっとろくなことにならないよ!」

「うっせーこのカラス女!」

「なにさこの名前クソダサ男!」


 やっぱ私、こいつ嫌い!


 一歩も譲らず睨みあっていたけれど、視界の端に麻理子がおろおろしているのが見えたので、二人同時に「ふんっ」と顔をそむけた。


 まったく、麻理子もこんな考えなしの能天気男のどこが良いのか! こんな子供みたいな男なんかより、麻理子にはもっと落ち着いた大人の男性のほうが……。


 落ち着いた大人の男性。

 ここでほんわりと脳内に浮かぶのは、距離感がバグってる銀髪の人で。


 私はぶんぶんと頭を振った。

 いや、ないない。ラチイさんが麻理子の彼氏とかは想像できない。というか、ラチイさんが誰かと付き合ってるのも想像できない。


 あんだけレディーファーストが徹底してるから、モテそうなもんだけど、女性の影すら見たことないなぁ……。


 そう思ったところで、ふと気がつく。

 あれ……? そういえば私、ラチイさんのこと全然知らないや。


 一年もラチイさんと仕事していて、プライベートなことまったく知らない。


 ビジネスライクといえば仕事の付き合い上当然なんだろうけど……でもそれは、仕事以外の付き合いを私とする気がないということで。


 ……また心臓がぎゅっと痛くなる。


「どうしたの智華ちゃん?」

「なんだ笠江、喉でもつまらせたか?」

「……なんでもないですー」


 この原因不明な胸の痛みにそ知らぬふりして、お弁当を食べ終える。そのあとは、いつものように麻理子とジローと三人で予鈴がなるまでおしゃべり。


 予鈴が鳴って机を元のように戻すと、不意にジローが私に耳打ちをしてきた。


「笠江。お前、先週の土日どっかでかけたか?」

「は? なんで?」


 妙に真剣な顔をするジローに身構える。

 先週の土日出かけたっていっても……初めてラチイさんのところに行っただけだよね?


「先週も今週もバイトに行ってたけど、なんで?」

「いや……お前みたいなやつの噂を父さんから聞いたからさ。でもま、父さんの気のせいだな。お前みたいな脳内万年宝石女が何人もいたら世が末だ」

「なに? 喧嘩売ってんの? 山田ジロー」

「だからミドルとファーストを繋げて呼ぶんじゃねぇ!」


 いつものようにやり取りをするだけして、ジローは私から離れて麻理子のところへと行ってしまう。

 一体なんだったのか。

 はぁーと深々ため息をついて、私はいつものように今日の昼休みを終えたのだけれど。


 ――その日の午後の授業中、ラチイさんから一通のメールが入ったことにより、私は地獄の一週間を向かえることになる。


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