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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
ハートマカロン・プリンセス

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妖精の鱗粉【後編】

「智華さん、紹介します。こちらはそよ風と落葉の妖精、フィール・フォール・リーです。フィール・フォール・リー、彼女は智華さん。魔宝石を作っていただいています」

『よろしくねン、チカ』


 飾り羽をたなびかせてチュッと投げキッスをする、鳥のような、小人のような、妖精さん。めっちゃ可愛い!


「笠江智華です! 高校二年生です! ラチイさんのところで魔宝石を作ってます!」

『フフ。元気なのはイイコトよン』


 機嫌よく、くるりんと空中で一回転した妖精さん。

 それからスイーッと私の目の前までくると、あっちをジロジロ、こっちをジロジロし始める。


「あ、あの……?」

『さっきはゴメンナサイ。ほんの少し、ビックリさせたかっただけなのン。この森にコンドラチイ以外のニンゲンが来るのは、珍しいカラ』

「わ、私も、パニクっちゃってあなたの声をちゃんと聞かなかったから……。心配してくれてありがとう」

『仲直りねン、チカ』


 妖精さんは私の鼻に自分の鼻をすりよせた。それが犬が甘える時に顔を寄せてくる仕草のようで、すんごく可愛い。


 あぁ~っ、私なんでこんな可愛い子のことを妖怪とかオバケとかと思い込んでしまったのか! めちゃくちゃ可愛いじゃんかもぉ~!


「えぇっと、ふぃー……フィール、フォール……」

「フィール・フォール・リーですよ、智華さん。彼女たち妖精は、生まれる時の音から名前をつけます。ちょっと長いですが、言い間違えるなんて失礼はしないように」

「あはははは、やだなラチイさん! 大丈夫だよ、ちゃんと言えるよ!」


 実は根に持ってたのかな、名前を間違えた件!

 でも過ぎたことはもう言わないお約束!

 時効です時効!


 さらっと嫌味にもとれるラチイさんの言葉を聞き流し、私は妖精さんに話しかける。


「フィールって呼んでいいかな?」

「諦めるの早くないですか?」

「ラチイさんお静かに!」


 安全牌を選んだっていいじゃないかー!

 フィールもクスクス笑って『イイワヨ』と言ってくれたし、これでいいんですぅー!


「さて、自己紹介も終わったところで」

「話を変えましたね」

「ラチイさんお口にチャック!」

「ちゃ……え? 何て言いましたか?」

「チャック」

「何ですかそれ」

「……本題入ろう!」


 異世界ギャップ!

 チャックが通じないなんて……!


 これはまた話が長くなりそうな気配を察知した私は、無理やり話題を本筋に戻すことに。


「ラチイさん、今日来た目的! 目的を思い出して!」

「あぁ、そうですね。……フィール・フォール・リー。ちょうどいいので、さっきの件を帳消しにする代わりに、鱗粉の採取をさせてください」

『もォ、イヤなオトコ。断れないじゃないのン』

「見返りの要求なくできるのであれば、それに越したことはありません」

『しっかりしてるワ』


 呆れたように首を振ったフィールが私の膝へと降り立つ。パサッと羽を折り畳んで、子供がするように私の膝に座った。


『チーカ、オネガイ』

「へっ? えっ? 何するの?」


 機嫌よく私を見上げてきたフィール。

 そんな目で見ても、私には何をすればいいのか分かんないよ!?


 あわあわとしていれば、ラチイさんが持ってきた荷物の中から何かを取り出した。


 えぇっと、小瓶と、ハンカチと、……葉っぱ?


「ラチイさん、その葉っぱは何?」

「これはリンデンの葉です。妖精の棲む樹といわれるくらい、妖精と相性のよい植物なんですよ」


 広くて大きいハートの形をした緑の葉っぱ。

 なんか見たことあるなーって思ったら、葉っぱモチーフのデザインとかでありそうな形だね?


 ラチイさんから葉っぱを受け取る。

 フィールがちょっとだけおしりを上げると、その下にラチイさんがハンカチを広げて。


 ハンカチを広げる時に、さらりと銀色のカーテンが私の目前に近づく。

 その近すぎる距離に、昨日の夜のことを思い出してしまって。


『チカ? 顔が赤いワ』

「えっ? 大丈夫ですか?」

「だ、だだだいじょーぶ!」


 フィールの言葉に、ラチイさんが顔を上げる。

 その距離がさらに近いものだから、私は思わず顔ごとそっぽを向いてしまって。


「智華さん? 体調が悪いなら、今日は」

「本当に大丈夫だから! さっきまで全力で走ってたせいじゃないかなっ」

「それならいいですが……」


 心配そうな声とともに離れていく、銀色の頭。

 ドキドキと跳ねる心臓を落ち着かせるために、一度深く深呼吸をすれば、私の膝でニヤニヤと笑っているフィールと目が合う。


『あらァン? 甘酸っぱいニオイがするワ』

「えっ? 甘酸っぱい匂い?」

「そんな匂いはしませんが……」


 首を傾げる私とラチイさんに、フィールは笑うのをやめて呆れたように首を振った。


『……二人して鈍感なのねン』


 フィールの意味ありげな言葉にますます首を傾げたけど、ラチイさんは気にすることをやめたのか、作業を続けた。


「では、智華さん。フィール・フォール・リーの身体に付着している鱗粉を、リンデンの葉で払うように優しく撫でてあげてください。ハンカチに落ちた鱗粉を、あとで小瓶に移しますので」

「はーい」


 ラチイさんに言われるまま、リンデンの葉でフィールの身体を撫でていく。


『ンふふ、くすぐったいワ』

「ご、ごめんねっ?」


 フィールがくねくねと身をよじると、リンデンの葉の間から、キラキラとしたものがパラパラと落ちていくのが見えた。


 でも小さすぎるのか、ハンカチの上に落ちたそれを目で見ることはできなくて。


「こ、これで合ってる?」

「ええ。そのまま全身を撫でてあげてください」

『優しくしてねン?』


 なでなで。

 そよそよ。

 さらさら。


 私がフィールを撫でる音や、風の音、森の木々の葉が擦れる音が耳に馴染んでいく。


 言葉も忘れて真剣にフィールを葉っぱで撫でる。

 頭や肩、胸、おしり、羽。

 全身をまるっと撫で終わると、ハンカチにうっすらとキラキラした緑色の粒子が積もっていることに気がついた。


「ラチイさん、これ!」

「これが、智華さん風にいうラメパウダーですよ」

「わぁ……っ!」


 すごい! 粒子が砂よりも細かくて、軽くて、市販のラメよりも一粒一粒が宝石のような輝きを持ってる!


 感動した私はラメをよく見るために、ハンカチをフィールごと持ち上げてしまった。


『やぁン』

「ごめんね、フィール! でもすごい! すごく綺麗だね、フィール!」

『ま、まぁねン? 当然だワ』

「ひゃぁ~」


 あ~っ、ドキドキする!

 すごく綺麗!

 もう、心臓がときめいて!


「よだれ出そう……!」

『チカ、顔っ、顔っ』

「また智華さんの綺麗なものアンテナが反応してますね」


 フィールには飛んで逃げられ、ラチイさんには苦笑されるけど、仕方ないじゃない!

 こんなに綺麗なものを前にしたら、このトキメキは抑えられないよ~!


「妖精の鱗粉は、妖精に付着している時が一番魔力を豊富に含みます。時間が経つごとに魔力が減っていくので、作業が終わったらすぐにこちらの瓶の中へ。この小瓶の中なら魔力の減少を抑えられますから」


 ラチイさんに言われるがままハンカチから注ぐように瓶のなかにラメを落としていく。


「フィール・フォール・リー。もう一仕事お願いできますか?」

『いいわよン』


 ラチイさんがフィールに声をかけると、フィールがハンカチに手を添えた。

 すると不思議。

 優しい風が、はらはらとハンカチにくっついていたラメを全部綺麗に落としていく。


『こんなものねン』

「ありがとうございます」


 胸を張るフィールにラチイさんがお礼を言うと、フィールは私にウインクをした。


『チカ、これでとーっても素敵な魔宝石を作ってねン?』

「うん! ありがとう、フィール!」

「どういたしまてン。それじゃあ、またねン」


 フィールはそう言って、元気に羽を羽ばたかせて空へと飛び立った。


 その姿を目で終える限りずっと追いかけていると、道具をてきぱきと片付けたラチイさんが立ち上がる。


「さて智華さん。やり方は分かりましたね? 今みたいに、妖精を見つけて、鱗粉を採取させていただけるよう交渉していくのが、今日のお仕事です」

「……ノルマとかある?」

「妖精の気分次第ですからねぇ。昼過ぎまでは頑張りましょうか」

「はーい」


 すっごく地道な作業とは言わないよ。

 これも全て魔宝石のため。

 しかもこうやって可愛い妖精さんをブラッシングする感覚で採取できるならむしろ役得なぐらいだよ!


 私も立ち上がり、今度こそはぐれないようにラチイさんの後ろを着いていく。

 お昼過ぎまでたっぷり時間があるから、頑張って採取をしていこう!


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