魔宝石はパンドラの箱【後編】
気泡をラチイさんに撃退してもらったら、早速硬化を始める。
机の端にあったUVランプを手元に寄せて、ふと気づいた。
「ラチイさん、これコンセントは?」
「こちらをどうぞ」
ラチイさんが出したのは、モバイルバッテリーみたいなもの。USBポートの代わりに、コンセントの差し込み口がある。
「これに差すの?」
「はい。中には魔石を入れてありますから、電池のように使えますよ」
「へぇ」
仕組みは全くわからないけれど、ラチイさんがこの世界でもUVランプを使うために作ったんだろうなぁってことだけは分かる。ラチイさんの向上心、恐るべし……!
UVランプを魔石充電器(仮)に繋いで、箱型になっているUVランプの中へと型を置いた。
「ラチイさん、アルミホイルある?」
「あるみほいる……ですか?」
「料理に使う銀色のやつ」
「……ああ、地球の。すみません、無いです」
「そっかぁ。まぁ、あったら便利だなぁくらいだから気にしないで?」
ラチイさんが申し訳なさそうにするけど、私は笑って受け流した。本当にあったら便利だなぁ程度で聞いたから、気にしなくていいんだよ?
「アルミホイルなんて、何に使うんですか?」
「UVランプの出口を閉めるんだよ。あれで覆っちゃえば、硬化にムラがなくなるんだよね」
「そうなんですか?」
「そうらしいよー。まぁ、体感的な話だからね。無くても困らないし」
UVランプの内側は鏡張りになっている。紫外線が内側で反射して樹脂液を硬まりやすくしてくれるんだ。で、入口からこぼれちゃう紫外線をアルミホイルで閉じちゃえば、さらに完璧っていうイメージ! レジン作りの豆知識で見た!
ラチイさんと樹液が硬化されるのを待つ。
だいたい五分くらいかな。おしゃべりにキリがついたところで、UVランプから型を取り出した。
調色スティックの先でつついてみて、ちゃんと硬化がされているのを確認する。
「それじゃ、第二陣行きまーす!」
四角い型には緑色の樹液を。丸い型には内包物を敷き詰める。
ここでのポイント。丸い型のほうは中央の透明度を保ちたいから、なるべく端にだけ内包物を置くこと!
ちょんちょんちょん、と調色スティックでつついて内包物を端に寄せた。手際よく作業して、UVランプへと入れる。
いつもならデザインを描いて~とかやるけど、今回は適当で良いらしいからね。
「あとどれくらいかな~」
「もう二、三分でしょう。魔力の動きが鈍くなってきていますから」
「へ?」
思わずラチイさんを見上げる。
ラチイさんは片目をつむって、UVランプの丸いフォルムをなぞった。
「魔術師の中には、魔力を直感的に観ることができる人もいます。俺もその一人です。俺は今、液状だった樹液の中で波のようにたゆたっていたはずの魔力が、だんだんと止まっていっているのを感じています。これが完全に動かなくなれば、樹液が硬化したと判断できますよ」
「何その便利超能力」
さっきから思ってたけど、ほんとに一家に一人ラチイさん欲しいね!? これなら完全硬化できてない状態でうっかり作品に傷をつけたりとかしないよ!?
「ねぇやっぱりラチイさん印の家電が欲しい」
「どういうことですか」
真顔で言えば、ラチイさんのお顔も真顔になって。
二人でしばらく顔を見合わせてから。
……どちらからともなく吹き出した!
「はいはい、智華さん。遊んでないで作業してください」
「は~い」
くすくす笑うラチイさんに促されて、私も笑いながら作業を再開する。
硬化している間に、金具とかその他のパーツを準備して、と。
「智華さん、硬化したようです」
「らじゃー!」
ラチイさんの合図で硬化していたレジン……じゃなくて魔宝石を出して~っと。
取り出した魔宝石はキラキラしてて、つやつやしてて、なかなか良い感じ! 即興にしてはまぁまぁな出来映えじゃないかな?
では、それぞれの魔宝石の上部に、ピンバイスで二つずつ、穴を開けていきます。
ドリルドリル~!
ドリルで穴を開けろ~!
ぐーるぐるぐるぐる~!!
「貫! 通!」
「元気ですねぇ」
そりゃ楽しいですから!
開けた穴には銀色の丸カンをつけて、と。
あれ? そういえば、さ。
「ラチイさん、この金具類はどうしたの?」
「魔力を通しやすいように銀で作ったものをご用意してます。金色のもの、金古美色のものも同じように魔力を通しやすい鉱石を使用してますよ」
「おぉう」
銀は銀でもリアル銀なの……そうか……お高いやつじゃないか……プチプラアクセサリーの類いじゃないやつじゃん……。うっかり素手で触ってしまったけど、指紋とか大丈夫かな……?
ちょっぴり不安になって手元をもぞもぞさせていると、ラチイさんが私から金具と工具、それから付けようと思っていた小さな装飾用の黄色い石の欠片を取り上げた。
「さ、これも付けるんですね?」
パパっと丸カンに小さな石の欠片を取り付けてくれるラチイさん。手慣れてるぅ。
「これで良いですか?」
「おっけー!」
ラチイさんが、完成したアクセサリーを手渡してくれる。それに最後、金具をつけて……っと。
「できたー!」
タイルのような、硝子のような、緑の鮮やかなイヤリング!
「どやっ」
「作業、おつかれさまでした」
できた魔宝石を作業台に置いてドヤ顔をすれば、ラチイさんがよくできましたと言わんばかりに拍手をしてくれる。
ふははー! これぞ智華さんの実力よ!
「可愛い? 可愛い?」
「素敵ですよ。智華さんにも似合うと思います」
「本当? えへへ、そうかなぁ」
アシンメトリーな緑のイヤリング。
ラチイさんに煽てられて耳につけてみる。
うんー、大きめな飾りだからか、ちょっと耳が重たいか、な……? ん……? ………………イヤリング、つけにくいっ!
アクセサリーは作っても、自分ではつけないからなぁ。うまくイヤリングをつけられずにいると、ラチイさんが私の手からイヤリングを取り上げた。
「ラチイさん?」
「顔をそちらに。耳、失礼しますよ」
ラチイさんが私に顔を寄せて、手を寄せて、イヤリングをつけてくれる。……耳に触れる指と、吐息に揺れる横髪が、くすぐったい。
「はい、できました」
「あ、ありがとうございます……」
「ついでに」
「ひょぉうっ!?」
ラチイさんがそのまま私の両耳を塞ぐように触れて、顔を寄せたまま話し出す。
近い、近い、近いよラチイさん!?
その距離感おかしくありませんか!? 大丈夫ですか!?
「魔力を込めますよ。どんな魔法が生まれるのか楽しみですね?」
「え」
ぽわっとイヤリングが光る。
胸がちょっぴりドキドキしはじめて。
私の、ときめきレーダーが反応しているんですが、これはいったい……!?
「魔法が発動しますよ。まずは右耳の魔宝石」
右耳についているのは四角い魔宝石。
「智華さん、これは何をイメージして作りましたか?」
「え? ただのタイルだけど……」
そう答えた瞬間。
足下がもこっと動いて。
座っていた椅子がぐらっと傾いて。
風がふわっと私の足をさらった。
「うわっ!?」
座っていたのに体のバランスを崩した私が椅子ごと後ろに倒れようとするのを、背後にいたラチイさんが支えてくれた。
「おっと……大丈夫ですか?」
「ちょっとびっくりした……」
目をぱちくりさせてラチイさんを見上げれば、ラチイさんは面白そうに目を細めていて。
ちょっと待って、何だその顔は。
「ラチイさーん?」
「いえ、やっぱり智華さんの魔宝石は面白いなと思いまして」
どういうことですかね、それは?
「今のは、風属性の魔力で無理やり地属性の物を操ろうとしたせいで、属性が噛み合わずに魔法が消失したようですね」
魔法が消失?
つまりこれは?
「失敗?」
「はい。残念ながら」
ラチイさんは微笑みながら頷く。
そっかぁ、失敗かぁ。
「それじゃ、こっちも?」
「それはどうでしょうか。魔力を込めますよ」
ラチイさんがそう言うと、ぽわっと左側のイヤリングが光って、また胸がちょっぴりドキドキした。
……と、思ったら!
「……っ、目がぁっ、目がぁっ」
「え、わ、智華さん!?」
何これぇっ!?
視界がぎゅんってズームして、床とか天井とかめちゃくちゃ近くなって、動くと床とか天井が分裂したり、くっついたり、しかも視界だけが動いたせいで体が引きずられるようにバランス崩して、それに驚いて目をつむっても、暗闇の中で何かがチカチカと点滅してるーっ!
じたばた、ぐらぐら、意味がわかんなくて椅子の上でもがいていると、ラチイさんだと思われる腕が私を後ろから羽交い締めにする。
「落ち着いてください、深呼吸ですよ。魔力を流すのはやめました。もう目を開けても大丈夫ですよ」
「うぅ……」
おそるおそる目を開けてみれば、いつもの視界がぼんやりと戻ってきた。
「うげ……気持ち悪……」
「悪酔いしましたね。お水を持ってきましょう」
ラチイさんが気をきかせてお水を持ってきてくれる。その間に私はこのとんでもないイヤリングたちをはずして、と。
戻ってきたラチイさんに手渡されたコップの水を一気に飲み干すと、改めてラチイさんへと視線を向ける。
「今の魔法は?」
「ちょっと失礼しますね」
ラチイさんがイヤリングを身に付けて、目を開けたり閉じたりする。
それをじっと見ていると、やがて納得したのか、頷いてイヤリングを外した。
「滅茶苦茶ですね、コレ」
「言うに事欠いてそれ!?」
ラチイさんが滅茶苦茶とかいうこのイヤリングさん何者だよ!?
「ベースは遠見の魔法だと思いますが、そこに幻覚の魔法が混じって、視界を不明瞭、混乱させています。智華さん、これは何を想像されて作られましたか?」
「……万華鏡のレンズ」
「なるほど。理解しました」
苦笑するラチイさん。
私はぐったりと作業台に突っ伏す。
「材料同じなのに、イメージが違うとこんなに違うんだね……」
「智華さんはまだマシですよ。滅茶苦茶でも魔法が発動しますし、他の魔宝石職人よりよっぽど優良な魔法も込められますから。この万華鏡の魔宝石も初めて見た魔法ですし」
「使えなきゃ意味無いやつじゃぁん」
むう、と唇を尖らせると、ラチイさんは困ったように笑う。
もー! ほら! 図星じゃん!
言い返せないじゃん!
皆すごいすごい言ってるけど、魔宝石の魔法ってちゃんと考えないと滅茶苦茶になるってことが分かったのはすごく大事。
それを狙った魔法をこめた魔宝石を作るだなんて……難しいにもほどがあるよ!?




