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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家と異世界の魔法使い~  作者: 采火
エターナル・ジュエル

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105/105

始祖精霊ガラノヴァ

 キラキラしてて、つるつるしてて、すごく綺麗なのに、ときめかない魔石の群晶たち。


 その意味を理解して、愕然とする。


 ここにある魔石はすごく大きい。群晶だとわかるほどに、視界いっぱいに魔石がこの地下の空間のなかに生えている。


 それなのに、魔石に宿ってる魔力をほとんど感じない。


 ……ううん、感じるけど、すごく薄い。優しくて穏やかなときめきを胸の中にちゃんとある。


「この魔石、ほとんど魔力がないの?」

「そうよ。ガラノヴァの千年にも渡る繁栄は、この魔石たちのおかげ。でももう、その魔力も少ないの」


 この魔石群晶はガラノヴァ帝国のいたるところにあるらしい。でもそのほとんどが、もう魔力がないのだとか。


「魔力って注げるんじゃないの? それじゃ、足りないの?」

「人の注げる魔力なんてたかが知れてるわ。……たとえ国中の人間の魔力を注ぎ込んだとしても、次の魔獣暴走(スタンピード)は超えられないわ」


 それが決定打。

 ガラノヴァ帝国の結界がもう保たないこと。


 それに気づいたのが、前回の魔獣暴走(スタンピード)の時で。その魔獣暴走(スタンピード)から、もう間もなく、百年経つらしい。


 つまり。


「このまま何もできなければ、一ヶ月後にガラノヴァ帝国は滅ぶわ」


 だからもう、ガラノヴァ帝国は手段を選ばない。

 そう、キーラさんは言う。


「今、世界中から優秀な魔宝石職人を集めているの。魔術師だけじゃ足りないのよ。それこそ、奇跡を起こせるような魔法が欲しい。そんな時にチカ。貴女が現れた」


 とても綺麗な魔石群晶を背に、キーラさんが私の顎へと指を添えて上向かせる。キーラさんの深い青色の瞳がとても綺麗で、無機質で。


「だからチカ。私たちに奇跡をもたらして」


 妖艶に笑うキーラさん。

 吸いこまれそうなほど、綺麗で、妖しくて。


 頭がふわふわ、胸がどきどきときめいてしまう。

 なにこれなにこれ、なんか恥ずかしい! ドキドキしちゃう!


 かぁッと火照る頬に気がついて、私はぱっとキーラさんから身体を離した。キーラさんがこてりと首を傾げる。


「あら」

「距離が近いよっ!? ドキドキしちゃって無理ぃ……!」


 女の人にドキドキしちゃうなんて私どうしちゃったん!? いやでもキーラさんすごく美人だし、あんなに至近距離で見つめられちゃったら仕方なくなぁいっ!?


 キーラさんが微笑みながらまた私のほうへと近づいてくる。私はそそそ……と後ずさり。


 なんだか良くない。

 何が良くないかは分からないけど、何かが良くないー!


 こつんと背中が何かに当たる。

 キーラさんが腕を伸ばして、私を囲う。


 わーーーーー!?

 美女の壁ドンだーーーーー!?


「チカ。ねぇ……頷いてくれるでしょう……? 私たちに奇跡の魔宝石を作ってくれるわよね……?」

「ひぇっ、あのっ、そのぅっ、近い……っ」

 

 やばいよぉ、ドキドキが止まらないよぉ、胸が張り裂けそうだよぉ!


 頭が真っ白になりそうなのをひいこら堪えていれば、突然足音がドタバタと響いてきて。


「クソコラキーラ! チカちゃんに魅了魔法を使うんじゃねぇ!」


 魔石群晶の間を縫って響く、ダニールさんの声。

 キーラさんが舌打ちした。


「ゲーアハルト様のそばにいなさいって言いつけたのに……」

「なぁんか嫌な予感がしたんだよ馬鹿! 俺言ったよな!? チカちゃんに下手に魔法をかけんなよって!?」

「あら。どこまでの魔力なら耐えられるか調べておくのは、基本中の基本よ」

「やるにしても場所を選べっつうの! こんな魔力の溜まり場で倒れたりなんかしたら、俺もう本気でコンドラチイに顔向けできねぇよぉっ」


 ダニールさんの声を聞いて、ほっとする。

 なぁんだ、いつものダニールさんだ。

 さっきはちょっとお澄まししていただけで、やっぱりダニールさんはダニールさんだった。


 それがなんだか嬉しくて笑顔になれば、キーラさんはそんな私を見て肩を竦める。


「ここまでね。まぁ、だいたい把握できたからいいわ」

「把握?」

「ふふ、なんでもないわ」


 笑って誤魔化されてしまった。

 私が首を傾げると、キーラさんは私から離れてダニールさんのほうへと歩いていく。


「あとの説明は任せたわ。終わったら部屋に戻しなさい」

「……わかった」


 キーラさんの指示に、ダニールさんはむすっと頷く。

 そんなダニールさんへ、キーラさんが耳打ちした。


「故郷はここよ。忘れないで」

「…………」


 ダニールさんが無表情になる。キーラさんはくすりと微笑んで、この魔石群晶のある地下から去っていった。


 私はダニールさんを見つめる。

 無表情のダニールさん。何を考えているのかな。


 ……気まずい。

 声かけていいの? だめ? やめたほうがいい?

 そわそわしていると、不意にダニールさんが大きなため息をついた。


「はぁ〜〜〜! クソ疲れるやってらんねぇ! よしサボる、今サボる、俺は今からサボるぜ!」


 ワインレッドの髪をがしがしとかき乱して、ダニールさんがこっちを見る。それからいつものように快活に笑って大股で私のそばまでやって来た。


「チカちゃん、俺はこれからサボるぞ。サボるからな。俺今、仕事じゃないから」

「へっ? え、あ、ハイ」

「だから! 今から言うのはひとり言!」


 めっちゃ大きいひとり言だね!?

 ダニールさんの覇気に目を白黒させていれば、ダニールさんが指をさす。


「チカちゃんはこれについて聞いたか?」

「う、うん。魔石群晶だって」

「違う違う。こっち。中身。内包物(インクルージョン)


 あ、そっち。

 急に話を振られたから分かんなかったよ!


 私はダニールさんが指さすものを見上げる。

 魔石群晶のクラックに見まごう、透明骨格標本のような内包物(インクルージョン)

 キーラさんはこれを。


「すごいよね。これ、精霊さんだって聞いたよ」

「そ。始祖精霊ガラノヴァの分霊たち。この国の守り神だ」

「名前あるんだ!?」


 キーラさんは精霊とだけしか言わなかったから、まさか名前があるなんて。よくよく考えれば、妖精にも名前あるもんね。あ、でも待って。


「ガラノヴァってこの国の名前だよね?」

「そ。ガラノヴァの神の名前だぜ」


 そう言って、ダニールさんが教えてくれた。

 ガラノヴァに伝わる神話。


 この世界にまだ何もなかった時、まず揺蕩う力が思考を持ち魂となり、いくつもの始祖精霊が生まれた。始祖精霊は世界に揺蕩う力をかき混ぜて、かき混ぜたものが蟠ることで大地と空に境界が生まれた。魂だけの始祖精霊は形を持っていなかったので、魂を宿す器を願い、作ることで種族が生まれたという。


 それが草花であり。

 それが妖精であり。

 それが獣人であり。

 それが亜人であり。

 それが魔獣であり。

 それが人間だ。


 成長するものの根源はすべて始祖精霊らしい。

 そんな中、始祖精霊ガラノヴァが選んだ器は。


『私は永遠に私の魂の形を大切にしたい』


 そう言って魂を硬化させ、魔石になったらしい。

 その魔石が大きく、広く、大陸中に結晶となって散り、いつからか始祖精霊ガラノヴァの存在だけが忘れられ、魔石がただの力の結晶になってしまった。


 人類はそうして繁栄した。

 始祖精霊ガラノヴァの存在を知らないまま。


 そしてある時、国ができた。小さな国。ガラール山脈の裾にできた国。その国は、魔石の力でガラール山脈から降りてくる魔獣たちから守る術を見いだした。魔石の力を求めるうちに国が大きくなり、魔石の発掘が進み。


「千年前かな。始祖精霊ガラノヴァの原石が見つかり、この国はガラノヴァ帝国になったんだ」


 すごく壮大な話。

 日本神話やギリシャ神話にも通じるような、世界の創世記を聞いてしまった。異世界も地球と同じで、無から何かが生まれる、みたいな神話があるんだねぇ。実際はビッグバンかもしれないけど!


「あれ? でも人類って始祖精霊の存在を知らなかったんだよね? この精霊さんはどうして始祖精霊だって分かるの?」

「チカちゃんの世界にはエルフっているか? 魔法がめちゃくちゃうまい長命族なんだけど、そのエルフの長のひいひいひいおばあさんくらいの人が、始祖精霊なんだ」

「エルフがいるの!?」


 えっ、すごい、なんてファンタジー!

 エルフなんてファンタジーの鉄板だよ!? えっ、この世界にいるんだ!? ちょっとどころかすごく会ってみたい!


 私がエルフに興奮していると、ダニールさんがぷっと噴き出して。


「チカちゃんやっぱおもしれーな。ガラノヴァの神話より、エルフが気になるか?」

「えっ、あ、いやぁ……まぁ、ちょっとだけ……?」


 知らないお話聞くより、知ってる単語のほうに興味そそられちゃうのは仕方ないと思う。許してダニールさん!


「ええっと、それでなんだっけ? 始祖精霊がエルフのご先祖様で……あ、つまり、始祖精霊ガラノヴァの話はエルフから聞いたってこと?」

「そういうこと。だけど、始祖精霊ガラノヴァがどうやってその魂を魔石に変えたかまでは伝わっていなかった。だからこの国は詰んだんだ」


 詰む。

 その言葉の意味は、私の想像よりもはるかに重たいもので。


「魔石が足りない。次の魔獣暴走(スタンピード)を止められるほどの魔石がないんだ。だから今、ガラノヴァは焦っている。……俺がチカちゃんをここに連れてきた理由も、それなんだよ」


 そう呟いたダニールさんは、とても泣きそうな表情をしていた。


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