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絵空から落ちた流星  作者: 夢七
第二章
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第1話 新天地

 シエラが指定した座標に転送される。

 飾り気の無い地面が続き、果てに空と統合する。

 地平線に至るまで物質の欠如した土地であった。

 アカマルが構えを解く。


「罠もなし。この状況自体が罠かもしれぬが」


『しまったな。今回は盾役重視だから、召喚術が使えない。歩くしかないか』


 でも何処へ、とコロナが口にする。

 目的地とするべき物さえ無い。四方に変わらぬ景色が広がっている。


()(かく)立ち止まる訳にもゆくまい。疲れたら言ってくれ、背中を貸す」


 ミュウが盾を倒して行き先を決めようとした時、青光が彼らを照らした。

 光は人体の略図を描き、徐々に凝固していった。


 襲撃かと身構える。

 徐々に輝きは細く消え、既知の似姿へと落ち着いた。


「久しぶり。初めての人は初めまして。案内人を務める至高の伊達(だて)ワル、ミクロス・コピィだ」




 アカマルが尋ねる。


「コピィと言うと、アレか。ミュウ殿の補佐役。コピィ殿も実在していたとは」


 コピィは朗らかな表情で話しかけてきた。


「元気してた、二人とも。折角の再会なんだ。もっと祝ってくれよ」


 表情を変えずに盾を構える。

 コロナも風壁を展開し守りに備えた。


「やっべ。嫌われた? もしかして墓のお供え物盗んでたのばれた?」


『殺す前に聞いとくわ。お前は本当にコピィなのか? ……お前まで、人類の敵になったとか言うのかよ』


「いや、違うって! むしろ逆よ、逆!」


 コピィが決めポーズをとって宣言した。

 右手は天を指さし左手は顔を覆っている。ダサい。


「俺は味方、お前らを助ける為に生き返らせてもらったんだ」


 コロナが短く詠唱する。

 地面に魔力の波が広がるのを感じた。


「嘘くさいわね。大体コピィはクソ雑魚じゃない。敵にしろ味方にしろ、もっとマシな人材が居たはずよ」


 あちゃー、とコピィが頭を叩く。オーバーリアクションだ。


「俺の溢れ出るフェロモンが、この愛しき世界の心を射止めたんだよ。モテるってのは罪だな。死んでも俺を手離そうとしない」


「ミュウ殿、こいつは偽物か? こんなに()(ほう)な男と旅をしていたのか?」


『ああ。このアホっぷり、本人かもしれない。好きな言葉は』


永久(アエテルナム)()(テネヴラエ)


『敵か味方は置いといて、本人だってのは分かった』


 コロナが魔法でコピィを束縛する。植物の(つた)が地面から這い出し、彼の四肢を縛った。

 根が切り離される。不意に動きを止められた故か、彼は膝から崩れ落ちた。


『そこまでしなくても。もう少し優しく出来ないか?』


「……分かった」


 足の拘束が解かれる。


「おお、やっぱり何だかんだ言って優しいな。ミュウは良い奥さんになれる。コロナは努力賞かな」


 彼の腕に巻き付いていた蔦が太さを増した。

 痛い、ギブと騒ぎ転ぶ。自業自得だよ。


「その状態でも案内は出来るでしょう、役目を果たしてちょうだい」


「分かったよ。もう少しウイットなジョークを楽しみたかったんだが。コロナちゃんとも久々に会えたし。(しわ)が無くなって良かったネ!」


「行き先を伝えるのに、首から下は必要ないわね」


「ごめんなさい! じゃあちょっと付いて来て」


 一応の警戒によりミュウを先頭に従い歩く。

 十数分ほど進み罠を疑いだした所で、唐突に立ち止まる。


「ここで10分待ってくれ。行き先は地下100メートル。この世界でただ2箇所、人口10万人を超える大規模都市だ」


 地面が震え、鈍いペースで足元が沈んでいく。

 外から差し込む光が無くなって、暗澹(あんたん)たる景色が続いた。




 肩を揺さぶられ閉じていた目を開く。

 天に障りが在る以外、通念的な生活が保たれていた。

 コピィが前に歩み出る。


「外だと汚染で長生き出来ないからな。急いで仲間と作ったんだ」


 仲間という言葉に引っ掛かりを覚える。


『お前がこの町を生み出したのか?』


「実行はほぼ他の奴だけどな。町の名前は<明星(ルシフェル)>だ。イカすだろ」


「名付け親はセンスがないわね」


「嫉妬は見苦しいぜ、子猫(キティ)ちゃん」


 巻き付く蔓が太さを増す。

 既に当人の腕より太くなっていた。


「だけどお前が言う人類の敵がここに来た。俺は<八芒星(オクタ・ステラズ)>と呼んでる。呼び出された8人の英雄だ。そいつらがここに2人居てな。戦争が起きかねない。頼む、お前ら。八芒星(オクタ・ステラズ)を倒すのに協力してくれないか」


 コピィが目を見張る躍動で土下座した。

 蔦が地面にぶつかり鈍い音を響かせる。

 アカマルが憐れんだ目で動作を見詰める。


「ミュウ殿、如何する」


『安請け合いは出来ない。お前の言っている事が真実という保証も無いしな。(しばら)く調査を続けて、その後に返事をするよ』


「……お前性格変わった? 前は二つ返事でひきうけてたのに」


 色々あったんだよ、と応じる。

 コピィと別れ街への一歩を踏み出した。


 ミュウとコロナにとって、町は生前より優れた文化レベルであった。

 上下水道や貨幣の流通、整備された街道などが浸透している。

 アカマルがぽつりと漏らす。


「拙者にとっては異文化だな。どちらかと言えば、ミュウ殿の国柄(くにがら)ではないか?」


「建物も私達の文明に近いわね。そうなるとコピィが作ったって話にも、真実味が増すわ」


 景観や道行く人々を観察する。彼らはまず全体像の把握をする事にした。

 コピィに教わった地下でのマナー。それらを試す意味合いもあった。


「あの、ちょっと良いですか」


 四十がらみの男が声をかけてきた。

 地上で初めて見る老いた人間だ。清潔な格好をしている。


「もしかしてアナタは……ミュウさんですか?」


『はい』


 何故話しかけられたのか疑問に思いつつ返事をした。

 悪手(あくしゅ)だと察したのはその直後だ。


「30年前、親の暴力から助けてもらった<タナカ>と申します。見た目が変わっていないからすぐ分かりました。探索まだ続けてらっしゃったんですね」


 突然何を言い出すんだ。

 苦い顔で否定する。


『別人ですよ。30年も年を取らない人間は居ない』


「そうですか? 昔の英雄で生き返ったって聞いてたから、不老でもおかしくねぇと思いました」


 アカマルとコロナが(さい)()の目を向ける。

 しまったな。最早知らん顔は通用しないだろう。


『……申し訳ありません、確かに俺はミュウ・アクリです。けど事情が有りまして。後日会えた時に詳しくお話します』


「そうですか。あの、ミュウさんには大恩が有ります。何でも言って下さい、助けになりますよ」


 助けたいのなら口を閉じて欲しかった。感謝の気持ちは非常にありがたいが。

 帰ってダビーとキタルファに何て言おう。コロナへの説明も結局おざなりだ。

 男の連絡先を聞き、3度目の探索が終わった。

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