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絵空から落ちた流星  作者: 夢七
第一章
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コロナ・アウストリーネェの葛藤

 最初は夢かと思った。死んだ私が見た胡蝶の夢。

 幾度も私を救った英雄が其処に居た。

 彼は会合に遅れて来ると、差し向かいに座った。


 ミュウ・アクリの事を忘れた夜は一度も無い。

 瞼を閉じると微小な夜が訪れるように、夢に沈むと彼が居た。




 彼と初めて出会ったのは6歳の頃。

 村長の娘だった私は、父に付いて他の村へ挨拶に行った。

 その時丁度、出先の村に滞在していたのがミュウ・アクリとミクロス・コピィだった。


 ミュウに魔法を習い才能を誉められた。それが嬉しくて毎日教わった練習を繰り返す。

 4年後私の村に彼らが訪れた。


 ミュウは私の事を覚えていなかった。

 だから良い所を見せようとして、モンスターを倒そうと戦った。


 上手く魔法が使えない。モンスターがいると魔力が纏まらなくなる。

 教えられた事を思い出したのは、命の危機を感じて逃げ出した後だった。


 怖い、助けて。誰か。

 叫びながら走っていると、居なくなった私を探していたミュウが助けてくれた。

 彼は怒ることなく「自分の管理責任だ」と謝った。


 夫婦竜が襲来する。村を捨てるか、殺されるか。どちらも嫌だった。

 だから(すが)った。私の英雄に。手巾を渡して。

 幼い私の浅知恵など、彼はお見通しだっただろう。

 それでも彼は村を見捨てることなく、救いの手を差し伸べる。


 彼は父に頭を下げた。


 ――娘さんの力が必要です。


 父は、娘に危ない真似はさせられないと断った。

 しかし命を()した彼の覚悟を(おもんばか)って、最終的に承諾した。


 彼は言う。


 ――君にはありったけの力で、魔法を打ってもらいたい。


 ――無理よ。モンスターの近くだと、上手にできないもの。


 ――じゃあ、何でモンスターが近くにいると、魔法が使えないんだと思う?


 そういえば何でだろう。熟練の魔法使いは、その技で敵をやっつける。

 彼らに出来て、私に出来ないのは何故?


 ――ただの緊張。魔法は精神と深く結びついてる。だから敵が目の前にいると怖くなって、普段の力が出せなくなるんだ。


 半分は嘘だった。精神状態も強く魔法に影響するが、それだけではない。

 モンスター自身も魔力を持つため、勝手が変わるというのは後になって知った。

 彼はこの時私の才能を信じて嘘を吐いたのだ。


 ――大丈夫。何があっても君を守る。だから安心して魔法を撃ってくれ。


 そして企みは成功した。

 1撃目の魔法は上手くいかず竜を仕留めきれなかった。

 しかしコツをつかんだおかげか、次手で打ち倒すことに成功する。


 危機こそあったものの、コピィの機転に救われ安堵していたその時。

 竜が必殺を、私に放った。初恋の英雄は私を庇って死んだ。

 彼の死後私は考えた。せめて彼のために生きたいと。


 自身を質に入れ奴隷となっていたコピィを買った。


 私の涙を拭った、彼に貸し与えたハンカチをお気に入りの服に編み込んだ。


 魔法学の第一人者となって権力を得た。


 ミュウとコピィの活躍を誇張して本にした。


 裏から手をまわして、彼らの物語を真実とし世界に広めた。


 私も彼もお揃い(英雄)になって死んだ。




 死んだ筈の私は蘇生されて、探索者の一員となる。

 会議で話された内容は覚えていない。彼の姿を盗み見るのに夢中で。

 出で立ちこそ異なれど(まさ)しく当人だ。

 最期の別れより、気苦労の多そうな顔になっているが。


 彼を見ていると思い出す。懐かしのあの頃を。

 純粋に生きていた幼年期を。


 執事からミュウが部屋を訪れると聞いた。

 彼は私のお隣さんになるらしい。

 お茶とお菓子は要らないかな。

 さっき頂いてたし迷惑かも。

 私のこと、覚えてるといいな。


『失礼します』


 ノックが聞こえた。ミュウだ。

 

『コロナ・アウストリーネェ、さんだよね? 初めまして、ミュウ・アクリって言います。宜しく』


「……こちらこそ、宜しくお願いします。」


 初めましてといった。私のことを覚えていないのだろうか。


『俺のことはミュウって呼んで。それとタメ口でも平気だよ、一番楽な喋り方で話して』


「……じゃあ、私の事は、コロナって呼んで」


 精一杯の勇気を振り絞る。私ってこんなに憶病だったっけ。

 

『じゃあコロナ。10分程度だけど話をしよう。趣味は?』


「本を読むことが好きです。魔導書だけでなくて、普通の物語も」


 本は元々好きだった。

 けれどあれから、ミュウ・アクリという英雄を形作るために、より多くの本を読んだ。


『おお。俺の時代は本が高価でさ、裕福な人しか持ってなかったんだ。けど、英雄譚とかを行商人から聞くのが好きだったよ。魔王と勇者のお話や、時の旅人とか。コロナはどういう本が好きなの?』


「私も、英雄のお話が好き。貴方のみたいな」


 動悸が止まらない。弾む胸を押さえつける。

 口が勝手に動き出す。


「あの、何処かで会った事、有りませんか」


 ミュウは表情を変えずに答えた。


『……ごめん。記憶にないな』


「そう、ですか」


 分かっていたはずだ。僅か数度会っただけの関係。

 それに私は大人になった。都合よく覚えている方が考えられない。

 

「お部屋に来てくれて、有難うございました。また会いましょう」


 後はもう、あふれる涙を隠すので必死だった。

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