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絵空から落ちた流星  作者: 夢七
第一章
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第3話 初めての探索

『暴熱を、召喚(サモン)


 魔法陣から火柱が吹き荒れる。

 弾け飛ぶ炎は徐々に凝縮し、大翼(だいよく)を持つ鳥へと姿を変えた。

 そこから呼び出されたのは大鳥だけではない。

 目立つものだと毒々しく玉虫色に輝く海月(くらげ)や、遠景を透かす輪郭のぼやけた巨鹿など、大小様々に俗界(ぞっかい)を離れた生物が存在した。

 中には綿胞子のような宙に浮かぶ何かや、地を這い移動する(きのこ)など非生物らしきものも在る。


 これらは全て竜を殺すための召喚物だ。

 30分もの間ミュウは1人で召喚を続けている。

 すると必然、シエラとカリーが2人で取り残される。

 カリーは(しょう)(かい)を続けながら、一方的に話を続けていた。


「MYばあちゃんの知恵袋だ。理想の恋をするには条件があるという。1つは家事をしてくれること。2つは話していて楽しいこと。3つは信頼できること。4つは体の相性がいいこと。最後はこれら4人の恋人が決して鉢合わせないようにすること」


 何の話だ。初対面の女性に話すジョークじゃない。

 曖昧に笑って会話を流した。


「俺はこの言葉に深い感銘を受けてな。そのような恋をしようと思った。が、俺は複数の女性を愛せる程器用では無かった。ところでお前はいないいないばあっ! の効力を信じるか?」


 ところでの4字で話が明後日の方向へぶっ飛んだ。

 ハラスメント的な恐怖さえ感じてしまう。


『村の赤子をあやす時にやってたよ、効果はまちまちだった。準備が終わったから出発しよう。取り合えずそれぞれ好きな動物に乗ってくれ。案内を頼みます、シエラさん』


 会話の(じゅう)()(ほう)()が終わりを遂げたことに安心する。

 ただお喋りをしていただけというのに酷く疲れた。




 爪先程の大きさだった城が、十数分の移動で眼前に構えている。

 信じられない早業(はやわざ)であった。

 しかしシエラには気に掛ける余裕がなかった。

 足腰が立たない。尋常でない速度で駆けてきた為である。


「ミュウさん、私耳元で叫んでましたよね。怖いから速度を落としてくれって。何で速度を落とさなかったんですか? 聞いてなかったんですか?」


『いけると思いました、後悔はありません』


 ミュウもなかなか頭のネジが飛んでいる。

 先程召喚されていた、綿毛のような物が集まって椅子代わりになった。

 こういった気遣いを持つ点を見るに、自認しているのだろうが。


『竜は今も城の中に?』


「そのはずです。今日は飛び立つところを見ていないから」


 ありがとうと短く返事が返される。

 ミュウは(かが)み込んで再び召喚を始めた。

 カリーが、他の2者の中心に位置をとる。


(じゃく)()を、召喚(サモン)


 突如地面から湧き出た(ねん)()(じゅう)(おう)に張り巡らされた。

 糸は城を(まゆ)のように囲み外界と切り離した。


『上から大質量の岩石を落とす。そして粘着性の糸で瓦礫や(つぶて)と竜を絡める。これで竜の機動性を奪おう。最後に炎鳥に突っ込ませ、糸に火を付ける。後爆破もするから。シエラはカリーが守ってくれ』


 えげつない。図書館はどうするのか、シエラが尋ねる。


『あの海月に喰わせる。そうしたら中のものは守れます。他に貴重品はありませんか?』


 無かったはずと答えを受けると、ミュウが行動を開始した。


『いっけー』


 詠唱は? 視界が暗くなる。

 城の頂上に巨岩(きょがん)が現れた。

 その質量が緩慢に下の建造物を押しつぶし廃墟へ変えていく。


 翼のはためく音と共に熱風が吹き荒れた。

 城の跡地を包む火焔が数度明滅(めいめつ)して、爆発した。

 けれど感じて然るべき苦熱も、轟音(ごうおん)も、衝撃さえ届かない。

 前方でいつの間にかカリーが鎧を着込んでいる。


「俺の後ろにいれば、あらゆる害を防いでみせる。存外快適だろう」


「音や温度まで防げるのね。どういう原理かしら」


「気を抜くなよ。まだ終わってない。倒れたところを見るまでが高い高いだ」


 高い高い。戦いだろうか、シエラは考えたる。

 突如カリーが身に着けていた盾を上空へ投げた。

 城にいるはずの竜が遥か頭上にて(いかずち)を吐きだした。




 投げられた盾が屋根のように拡がる。

 霹靂(へきれき)が響き渡り、大盾に沿って光線が放射した。


「『あいつは』」


 ミュウとカリーが口を揃える。


「何故殺した竜がここにいる?」


『何故俺を殺した竜がここにいる?』


 意想外の出来事故か二人は様子見を行う。


『俺を殺した時と姿が変わっていない。あの雷は間違いなく、俺を殺した魔法だ』


「民をどんどこに陥れた竜。あの雷は間違いなく竜だ」


 緊張すべき場面なのに締まらない。

 大盾はいつの間にかカリーの手元に戻っていた。

 竜は上空を数度旋回し、3人が出会った方角へと姿を消した。

 召喚物も数を減らしている。


『カリーもあの竜と戦ったのか。俺が死んでから、何時の出来事だ』


「ミュウ・アクリの伝説からおよそ300年後。お前はあの竜に殺されたのか」


 困惑した表情で二人の会話をシエラが見守る。

 カリーがフォローを入れた。


「今の話から察したと思うが、俺たちはこの世のものでは無い。お前たちが生まれるハルクぁ前に死に、生き返った。決して怪しくも怖くもないから大丈夫だ。ただお前の事が知りたい」


「最後の一言で不安が増しました」


 だろうね。そう言ってミュウが笑う。


『正確に言うと、今の世界がどうなっているか調査のために来たんだ。だからシエラさんの事やこの世界について、教えてくれると助かります』


 深々としたお辞儀で依頼される。

 昔の人でも、お願いするときには頭を下げるのか。


「ではあの海月が保護してる、本を読むのは如何でしょう。私も協力しますが、書物の方が良い情報を得られると思います」


 ミュウが指を弾くと海月は瞬時に溶解した。




 (ページ)を確認して読めない図書を纏めていく。

 保存状態の良しあしや、使用されている言語で区別して。


『駄目だ。カリーは何か読める本あった?』


「難しいな。国も時代も異なるせいか、1冊もない。」


 初日から上手くは行かないか、とミュウが独り言ちる。

 数百冊もある本に目を通したため、随分と時間が経過した。


「でしたら持ち帰ってください。どうせ誰も使ってないですし」


 シエラが笑顔で勧めた。言葉の真意をミュウは図る。


「あ、猫」


 彼女がつぶやいた。

 開かれた本の挿絵に猫が載っている。


「私猫が好きなんですよね、この世界にはもういないですけど。でもいつか、本物を見てみたいです」


 少し悩んでミュウが答える。


『でしたら明日、連れてきますよ。今日は時間がないので』


「本当ですか!? ……ありがとうございます。手伝えることがあれば、何でも言って下さい」


『では、また明日初めて会った場所に来て下さい。食料と護衛を置いて行きます』


 ミュウとカリーは足元から輪郭を(ぼか)しながら、頭部へ向かい徐々に消滅していった。

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