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絵空から落ちた流星  作者: 夢七
第一章
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第2話 面白黒人枠

 まず()(りょう)が笑い出す。頭部を欠損した男性である。

 コキキ、コカカ、クゥ。


 ミュウは既に地上に降りていた。彼はすべての英雄と言葉を交わし、随伴者(ずいはんしゃ)を決めていた。


 ()(たら)な世界が広がっている。(しょう)(じゃ)は現れず視界に映るは死者ばかりだ。

 また自然物が一切ない。あるのは(こう)(りょう)の廃墟である。

 生者の残り香は(ごう)も感じられなかった。


『結構数がいるね、突っ切りますか。目立つ城がある方へ』


「異論はない、行こう」


 応えたのは、会談で珍妙な会話を繰り広げていた騎士であった。

 ミュウは迷うことなく彼を(とも)とした。




 ――<ルファ・カリー>だ。よろしく頼む。


 部屋を訪ねた際、彼はそれだけ言を述べ扉を閉めた。


 ――待って。会話短い。


 足を挟む。念のために強化魔法をかけた。


 ――短いか?なら話そう、先日Myばあちゃんが亀の産卵の物まねをした時のことだ……。


 ――違う。話は気になるけど、違う。もう先日じゃないし。中に入れて。


 彼は扉を開くと、ミュウを中へ招き入れた。


 ――会話が短いのであれば、すまない。しかし生前(かね)てより、お前は3言以上喋るなと言われていてな。相手がボロボロになるという。恐ろしいな。


 ――上司判断? 理由がよく分かるわ。ワードセンスとチョイスがウルトラ・ドッキングしてるもん。


 ――褒めてくれてありがとう。お前は前髪がある。


 ――今の褒めたの? カリーこそ前髪あるよ、あと名前がスパイシー。


 カリーは白銀の髪に漆黒の肌をしている、彫りの深い美形だ。

 鋭い眉と目は知性を()ませ、端厳な面持ちである。

 故に口を開くと口惜しさが際立った。


 しかし話していて飽きることがない。一番会話が盛り上がった。

 また庇護(ひご)に優れる逸話をもつ彼は、不測の事態に備えるにふさわしい英雄だと考えた。

 故に彼を同伴している。




 死霊の群れを抜けると、広場らしき場所へ出た。

 らしきというのは、中心にあるモニュメントを失った飾り台、周辺の窓枠が多い大きな建物、突然の開けたスペースを換算して判断した。

 飾り台に腰を下ろすと、負荷をかけた部分から崩れていった。


『この辺でいいかな。充分に場所がある。休憩はいる? 今から召喚術式を書くんだ。休みながら周りを見ててほしい』


「いただこう。なんか起きてkら調子悪い。風邪ひかないのに。それよりゴーストはなんなわけ? スリリングな劇場に失禁も禁じ得ない」


『小便漏らしたら置いて帰るわ。ゴーストは知らない、怖いね』


「騎士はトイレしない騎士だから」


『今の言葉はどこで区切るの?』


「すぐそこの曲がり角だ」


『曲がり角』


 カリーとの会話は前衛的だ。一言喋ると何かしらツッコミどころが出てくる。

 しかし()(わく)的な魅力があり、何度でも言葉を交わしたくなる。

 こんな調子で会話を楽しみながら、持ち込んでいたチョークで魔方陣を書いていく。


『宿し身を、召喚(サモン)


 魔法陣から色とりどりの被造物が溢れ出す。対の翼のみで形作られた物質体だ。

 それらは音を立てず羽搏(はば)きながら、あらゆる方向へと馳せていった。


「召喚もできるのか。何をした」


『周りの状況を確認しようと思って。あれが飛んで行った所は全部、視界を共有出来るからさ』


「なるほど。護衛はまあkセロ。調査に集中してくれ」


 時々カリーの言葉にはよく分からない発音が混ざる。

 しかし触れていてはキリがないため、調査へと意識を割く。


 30人規模の集落を捕捉する。遠目に死霊の集まりでないことを確認した。

 どうやら人類は絶滅していないらしい。他にも人類の共同体はないか、探していたその時だった。

 1人の女性が死霊から逃げている様子を捉える。調査を切り上げた。


『カリー、急ごう。人が襲われている。正面から8時の方向に1人だ』


 カリーは返事をせずに駆けだした。鎧を着こんでいるというのに早馬の如き駆け足だ。

 ミュウも急いで後を追った。




 少女が金色の髪を乱しながら崩れた町中を走り抜ける。

 死霊が壁を透けてその後を追い回す。少女の体力は限界に近づいていた。

 もう少し運動をしていればよかった、と後悔していたその時だった。


 騎士が飛んできた、正面から。地面との距離1メートル、(よこ)()いに。

 真横をすり抜け突風が吹き荒れる。なぜか親指を立てていた。恐怖を感じる。都市伝説か何か?

 騎士は慣性を保ったまま後方へ飛んで行った。


「何あれ」


 足を止め振り返る。後ろには何もいなくなっていた。

 少女が疑問を覚える。

 先ほどまで死霊が自分を追いかけていたはず。もしやあの騎士が撃退したのだろうか。


『怪我はありませんか』


 男が声をかけてくる。


『仲間を飛ばして寄越したんです。一刻を争うと思って。』


 先程の癖のカタマリと仲間。その言葉を聞いて警戒を強めるが、常識のある振る舞いに緊張を解く。

 手段こそ珍妙だったが自分を助けようとしてくれたらしい。

 少女は頭を下げて謝意を示した。


「助けてくださり、ありがとうございます。おかげで怪我はありません。先ほど飛んで行かれた騎士様は大丈夫でしょうか。彼の方が怪我をしそうですが」


 男はミュウ・アクリと名乗ると、手を前にかざした。

 自己紹介を促しているのかと考え、少女は<シエラ・タン>と名乗った。


 少しすると、先ほどの騎士が同じ体制でこちらへ飛んできた。


「へぷっ」


 速度を落としてミュウの手の平に騎士の顔がめり込む。

 彼はそのままゆっくりと地上へうつ伏せに落ちた。が、何事もなかったかのように立ち上がり声をかけてきた。


「怪我はないか」


 へぷっ、と言いつつ一番に他人の身を案じるあたり、良い人そうだ。

 しかしお笑いじみた一連の流れに笑ってしまう。

 ミュウへの返答をもう1度繰り返した。


「俺はルファ・カリーという」


 そう言って目をつぶり黙り込んでしまった。

 行動に拠らずクールな人なのかもしれない。


『ところでシエラさんは何をしてたんでしょう。こんな場所を出回って』


 目的を忘れていた。慌ててミュウを見つめる。

 シエラは早口で述べた。


「弟を探していたんです。数日前からいなくなってて」


 急いで探さなければといい、背を向けて立ち去る。

 待って欲しいと呼び止められた。


『弟さんの捜索、手伝いますよ。ただ幾つかお尋ねしてもいいですか』


「本当ですか! 質問でしたら何でもどうぞ。できる限り答えます」


『ありがとうございます。それでは……』


 何を聞かれるのだろうと構える。


『ここは何処なんでしょう』


 気の抜ける質問だった。




「ここはピルネという場所で比較的汚染の少ない地域です。だから、30歳まで生きる人もいるんですよ」


「なるほど、そうなのか」


 カリーへと質問の答えを返す。

 ミュウは地面に魔法陣を書き始めると、話しかけないでほしいといい、召喚物を通した捜索を開始した。

 陣から色鮮やかな種々の翼が現れる様は神聖さを感じた。

 彼は召喚者として、かなりの力量を持っているらしい。


 ミュウは目を閉じて意識を飛ばしている。本人の望み通り邪魔をするわけにはいかない。

 そこでカリーと会話をすることにした。


「では、お前は何中出身だ」


「えっ」


「どの中学を出たか分かれば、その人となりが分かる。因みに俺は、王立エトワール中学を出た」


 ごめんなさい。中学を教えてもらっても、私には貴方の人となりが分かりません。

 というか中学って何ですか。地名ですか。出身地ですか。


「近くの村で育ちました。名前はないですが……」


「そうか、それは困ったな。後輩だったら牛乳を(おご)ってやろうと思ったのだが」


 怖い。何を言ってるのか分からない。助けを求めミュウを見る。

 彼は力を抜き、息を()いていた。探索が終わったようだ。


『一通りこの周りを探しましたがいませんでした。どこか遠くにいるか、屋内にいるかです。シエラさんと同じ金髪金目の、15歳くらいの子ですよね』


「はい、いませんでしたか……もしかしたら、竜に襲われたのかも」


 竜? ()(げん)な顔で2人が尋ねる。

 シエラは考える。無理もない。竜はおとぎ話にしか存在しない怪物なのだから。


「ここから見えるあのお城に竜がいるんです。図書館もあって便利だったんですけど……。2年前から竜が住み着いてしまって。人を襲うので困ってるんです」


 真剣な顔をして2人が話し合う。

 彼らは相談をやめ、意気盛んに言い放った。


『分かりました、竜を倒しましょう。ですので竜について色々と教えて下さい』

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