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たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
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第九話「お魚は三枚で良いかしら?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第09話「お魚は三枚で良いかしら?」


 月光に輝くプラチナブロンドのツインテールを靡かせ、


 とんっ――と一歩、軽やかに空中に舞う華奢な美少女。


 「おおっ!」


 その可憐な風貌からは想像できないほどに、少女は簡単に生と死の境界線を越える!


 ーータッ!


 一歩目は軽やかに、


 ーータッタッ!


 二歩目、三歩目はリズミカルに!


 まるで”落ちている”感覚は無い。


 ピアッフェする名馬のように軽やかな歩法だ。


 「……」


 ただ――


 彼女が蹴っているのは地面では無くビルの壁、


 そして向かっているのは垂直落下の先にある地上であった。


 九十度の地面を(かけ)る少女――


 ――!?


 「い、いや……やっぱり落ちているんだ!」


 俺は当たり前の事を呟く。


 ビルの壁を垂直に駆け下りるなんて非現実な……


 ーーダッ!


 ーーダダッ!


 彼女の身体(からだ)は瞬く間に加速し、落下する。


 ーーダダンッ!


 そしてビルの壁を力強く一蹴り、更に加速する身体(からだ)――


 ――っ!?


 「や、やっぱ!落ちていない!?これは真下に疾走(はし)っている!!」


 俺の感想は直ぐに覆っていた。


 ーーダッ!


 ーーダダッ!


 彼女の足は重力よりも先んじて壁を蹴り、下へ下へと加速する!


 ーーダッ!


 ーーダダッ!


 落ちるよりもさらに速く走り降りる……


 ヴァヴァーーー!! ギャヴァヴァーーヴァー!


 ビルの側面では、(そら)から急速に接近する彼女を発見した半魚人達がそれを見上げて喚き散らすも――


 ギャワワーー


 奴らは何もできない……


 ――ザシュ!


 為す術無く、プラチナの閃光に先頭であった半漁人の首が跳び!


 ガガッ! ザクッ!


 続けざまに二匹目、三匹目と――


 半魚人(バケモノ)達は一列になっていたのが致命的になった。


 いや、相手を”斬り(やす)い”ように一列に並べるためにロープを……


 これも彼女の作戦だったのか?


 「…………くっ」


 ――俺を……餌にして


 ザシュゥゥ! ズバァァァ!


 俺が複雑な思いから少なからず心を痛めている間にも、彼女の振るう刃によってすれ違い様の一瞬で捌かれてゆく魚類達!


 首、腕、胴体……と、()(かく)


 もう何が何だかわからないくらいに肉片と化した破片と鮮血が夜空に舞っていた!!


 ガガガッーーーーズズズッッ!!


 「!?」


 ――な、なんだ?急に切れ味が……


 あまりのグロさに目を背けがちであった俺の視界に、羽咲(うさぎ)の振るう剣の切れ味が目に見えて落ちる!


 それは、登って来ている半魚人の後列に行くほど顕著に鈍くなっている。


 そう、刃の通りが目に見えて悪くなっているのだ。


 ――くそ!この剣でも駄目なのかよっ!!


 あの時と同じ!


 またもや俺の作った剣の耐久が……


 俺はそう理解し、そして焦っていた!


 半漁人(てき)はまだ半分ほど残っている。


 ――このままではっ!


 その敵の(ただ)(なか)で、剣を失い丸腰になった彼女では……


「くそ……」


 いかに英雄級(ロワクラス)といえども形勢が逆転するだろう!


 ガガッ!ガッ!ガッ!ズズッ!ズッーズッーーーーー!!


 ――あれ?


 いや、違う?


 これは…………”わざと”だ!


 ギャワワワーー!!


 中途半端に切断され、”七割ほど”殺された半魚人(バケモノ)は絶叫していた。


 俺は遅蒔きながらその異質な技術に気付く。


 これではいっそひと思いに分断された前列の方が遙かにましだったろう。


 ガガッ!ガッ!ガッ!ズッ、ズズッ!!


 ギョワワァァァーー! グシャァァァ--!!


 肉を雑にそぎ落とす”鈍刀(なまくらがたな)”の鈍い切断音……


 しかし……これは……


 そう――”(わざ)と”


 後列の怪物には斬り損じるように刃を振るい、


 ”その抵抗”で自らの落下を減速している……


 「うっ」


 俺は気分が悪くなっていた。


 前列の半魚人(バケモノ)達はスッパリと見事に斬り分けられ、意味もわからないまま飛び散った肉片と化した。


 後列の半魚人(バケモノ)達は(にぶ)く、そぎ取られるように肉と骨とを中途半端に削られて……


 ギャギャギャー!!


 もがき苦しむ……


 「う……地獄だな」


 怪物(てき)ながら、ひと思いに死にきれない様は……


 削がれた身体(からだ)を痙攣させる様は……


 さすがに同情を禁じ得ない。


 ――トンッ!


 やがて“それ”で十分減速した美少女の身体(からだ)は静かにアスファルトの地面に着地していた。


 「…………お、おいおい」


 思わず生唾を飲み込む様な異質な緊張感。


 散々に血の蹂躙を繰り広げた少女の白い肌には返り血の一滴も無い。


 「ふぅ……」


 一度だけ小さく息を吐く異国の美少女……


 煌々と輝く月下の佳人は……


 夜風にそよぐプラチナブロンドのツインテールが煌めく月光を模し、


 至玉の翠玉石(エメラルド)は恐ろしいほどに冷淡な色で夜闇を染めて()せる。


 「……」


 そして……


 小さく整った桜色の唇、彼女の愛らしい口元は……


 彼女より一足早く地表へと降り注いだ肉片の(あか)渦中(なか)(うっす)らと微笑んでいたのだった。


 ――


 まるで別人だ。


 さっきまで俺と話していた少女と……


 これまでの羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルとは……


 俺は戦士(ソルディア)としての彼女に戦慄していた。


 「月華の騎士グレンツェン・リッター……か」


 不意に過日の幾万(いくま) 目貫(めぬき)の言葉が脳裏を(よぎ)る。


 月光の華とは……


 血の華、敵対するバケモノの散華のことなのだろうか?


 ―― ―


 「…………」


 ――くん……


 ――じゅんやくん……


 「盾也(じゅんや)くん、ねえ?鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)くん、聞いてる?」


 「…………あ、ああ?」


 気がつくと俺の目前には月華の騎士グレンツェン・リッターが…………


 いや、プラチナブロンドの美少女、羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルが居た。


 俺が少しの間、正気を失い、ぼーとしている間にプラチナブロンドの美少女が、いつの間にか再び屋上まで戻って来て、俺に声を掛けていたのだ。


 ――


 俺はどれくらい呆けていたのだろうか?


 「盾也(じゅんや)くん?」


 「あ、ああ……大丈夫だ。ちょっと気持ち悪いけど」


 「そう、なら良かった」


 青ざめた顔色だった俺の言葉に彼女は安心したように、そして困ったように微笑んだ。


 「幾ら化物が相手とはいえ、あれはな……なんていうか……」


 「まあ、戦いだからしょうがないよ」


 ――しょうがない?


 ――あの姿が?


 ――血の海の(ただ)(なか)で微笑みさえ浮かべたあの……


 「ん、どうしたの?」


 「…………」


 「盾也(じゅんや)くん?」


 ――いや、そういう風に思っては駄目だろう


 出会ったばかりの俺は羽咲(うさぎ)の事を全て知っている訳ではないし、


 第一、彼女は俺を護ってくれたのだから……


 俺は少々ショックだった事柄にはそう納得し、そして気持ちを切り替える。


 「いや……”けしからん”なと思ってな」


 強制的に気持ちを持ち直させ、


 「けしからん?」


 心配そうに覗き込んでくる翠玉石(エメラルド)の瞳に無理矢理に、作った笑みを浮かべて見せる。


 「そう、色々あるが……一番”けしからん”のは、あの動きでスカートが全く捲れることが無いという怪奇現象だ!」


 彼女に気を遣った俺は、いくつかの不可解な事柄は全て横に置いておいて軽口でこの場を濁す。


 「…………」


 対して返ってきたのは――


 羽咲(うさぎ)の、”心配していたのになにそれ”


 と、言わんばかりの冷たい視線。


 当然、俺は猛抗議する。  「だって仕方ないじゃん!男の子なんだものっ!」


 いや、これは抗議じゃ無くて……


 ただの逆ギレだった。


 …………俺って


 「馬鹿だね、盾也(じゅんや)くんは……”あれ”は淑女の嗜みだから」


 仕方なくそう答えた羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルなるプラチナブロンドの天使は、


 なんだか”かわいそうな者”を見るような目で俺を見ながら、何故だか自身のスカートの裾を押さえながら半歩下がっていた。


 まるで性犯罪者を前にしているかの如き美少女の反応……


 「マジかっ!?”淑女の嗜み”とやらは物理法則を超えるのかよっ!!淑女マジすげぇぇーー!!」


 でも、俺は通常運転だった。


 自身でも呆れるほど通常通り……


 自身の感じた戸惑いを隠し、相手への気遣いでいつものように巫山戯(ふざけ)て誤魔化す。


 ギョワ……ワァ……


 グギャ……グァ……ギャ……


 足下には未だ死にきれない肉片たち。


 いつまでも響く断末魔のわめき声、断末魔なのに終わりはまだ……少し先だろう。


 「……」


 哀れだな……


 如何(いか)に怪物とは言え、死にきれずにもがき苦しむ様は……


 俺は再度、地上に転がったままで情けない鳴き声をあげ続ける魚人を見下ろしていた。


 「トドメ……刺してやらないのか?」


 堪らずそう問いかけた俺に、プラチナブロンドの美少女は意外なほど穏やかな笑みを返してきた。


 「やっとね……やっと”半魚人”が襲ってきたの。だから、このチャンスは逃したくないの」


 「は?」


 ――なんのことだ?


 ――”やっと”?


 ――”襲って来た”?


 幻獣種(げんじゅうしゅ)に追われていると聞いた気がするが……


 まさか”半魚人(これ)待ち”だったってことか?


 俺には理解出来ない。


 「えっと……水族館マニアとかじゃないよな?」


 「マニア?ううん、わたしは待ってるだけ。”アレ”が呼ばれて来るのを」


 間抜けな質問をする俺に彼女は当然のように答える。


 「”アレ”……あれ?どれだ?」


 ――


 ――ズ……  ――ズズーーーーン!!


 その時、不意にビルの屋上が縦に揺れた!


 「なっ!?」


 じ、地震か?


 いや、話の流れからいくと”これ”は……


 「ふふ、来るよ。魚人の王……”ダーグオン”が!」


 隣では、美少女の桜色の唇がふわりと緩み、翠玉石(エメラルド)の瞳が輝いていた。


 「……ええと」  満足そうな笑み。


 ――どう見ても笑い方がぎこちなかった少女


 ――どうもおかしい?まだなにか隠してあるのか?


 この戦闘が始まる前に俺は確かにそう感じた。


 「…………」


 ――って、これかっ!!


 即座に地響きの方角に、目を細めて遙か先を確認する俺の視界に――


 確かに映る非日常……


 ズズーーーン!!


 ズズーーーン!!


 揺れる大地、暗闇の中で遠方から――


 ズズーーーン!!


 ズズーーーン!!


 どんよりとした大気を纏って近付き(きた)る”なにか”……


 ――このことかよっ!!


 俺が再び少女に振り返ったときには


 「……」


 羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルは、左手の片手剣を大きく前面に突き出して構えていた。


 「いや……うそだろ……」


 ――って、おーーーーーい!!


 そこのブロンドツインテ美少女っ!


 なに勝手にボスキャラ召還してんだよぉぉぉーー!!


第09話「お魚は三枚で良いかしら?」END

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