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たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
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第五十六話「”盾也”と”じゅんや”?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第56話「”盾也(じゅんや)”と”じゅんや”?」


 「ふぃぃ、これで俺達本来の仕事である被災地の潜入調査も大体終わった、後は組織に帰還して現状を報告するだけだなぁ」


 鋭い眼光の右目に大きな刃物傷を刻んだ男はかったるそうに肩の関節をコキコキと鳴らしながら、縛られた少年から離れた。


 「……」


 瓦礫の山となった元、繁華街の中心地に深く突き立ったまま傾いた金属製の外灯。


 その根元にグルグル巻きに縛り付けられて立っている少年……


 「……」


 それは当時八歳の盾也(おれ)だった。


 当時の俺は……終始、男の為すがまま、抵抗なんて行為はとっくに忘れてしまっていた。



 「キミ、”対幻想種技能別職種(エシェックカテゴリ)”持ちね?」


 自分に話しかける同僚の男を無視し、黒髪の美少女は縛られた少年(おれ)に近寄って問う。


 「…………」


 長い黒髪に整った容姿の若い女。


 ゆったりとした黒く輝く長い髪を後ろでアップに纏めたポニーテールの美少女。


 見た目から十代後半であろうその女は妙に大人っぽいものの、やはり美少女と表現した方が適当だろう。


 「ったく、不貞不貞(ふてぶて)しいガキだ、ここに引っ張って来るまで抵抗らしい抵抗も無し、こんな恐ろしい場所で縛り付けられてもウンともスンとも声を出しやがらねぇ……いや、もう完全に心が壊れちまってるのか?」


 「…………」


 後ろでブツブツと文句を言う目傷の男を相変わらず無視したままで、ポニーテールの美少女は僕を無表情に見据えていた。


 ――なんだったんだろう


 ――あの時の……笑顔は


 ――僕を連れて行くと言った時の、この女の人の優しい笑顔は……


 「……」


 ここ数日、憔悴しきった少年の僕に僅かな光を思い出させてくれた笑顔。


 ――俺はこのとき


 悪い男の仲間であろう少女の予期せぬ行動に頭の中が混乱気味であった。


 ――


 「…………ここからは貴方の責任を全うしなさい」


 「…………」


 ――冷たい声


 僕はそう思った。


 ――あぁ、”あれ”はやはり勘違い、幻だったのだと


 この数日の間で酷い目に遭い続けた僕が都合良く見た白昼夢なのだと……


 僕の……


 「……」


 その時の僕の心は再び闇に沈もうとしていた。


 「…………また……逃げるの?」


 無言の少年、その死んだ双眸を少女の黒い瞳が真正面からのぞき込む。


 「……」


 少年の生気の無い瞳は少女の顔を見ていた。


 ――にげる……?


 ――だれが?ぼくが?……にげ……?


 全身を泥と埃に汚れさせ、小さい擦り傷が至る所にある少年。


 擦り傷は”空亡鬼(かいぶつ)”による災害でついたのではなく、人によって、


 本来、子供である自分を保護すべき大人達によって引きずり回されてできた傷……


 「……」


 「私達はもう行くわ」


 ポニーテールの黒髪少女は簡潔にそう告げると、不自由な状態の少年(ぼく)に背を向けようとする。


 「……せき……にん……」


 その瞬間、乾いた少年の唇から初めて言葉が漏れた。


 多分、悪あがきだったろう。


 それでも誰かが自分を気に留めてくれていると……


 この女の人なら……と、


 当時の俺は、これでも精一杯に(すが)ったのだと思う。


 そして――


 「…………」


 ポニーテールの黒髪少女は少年の願望通りに立ち止まる。


 「……」


 僅かに……しかし確かに期待を秘めた少年の瞳が、艶やかな黒髪を靡かせて自分の方に向き直った少女を捉えていた。


 「……そうよ。生きるにしても死ぬにしても、自分の責任で”そこ”に辿り着きなさい」


 「…………」


 しかし――


 返ってきたのは期待していたのとは違う言葉だった。


 誰かが助けてくれる。


 だって自分は子供だから……


 子供は……僕は……こんなに無力だから……誰かが……


 こんな目に遭わされても……


 そう、当時の俺はそれでも誰かが助けてくれると。


 「……あ……の」


 自分は無力だから、弱いから、助けて貰う側でそれが当然だと……


 ”こんなに”なってさえも、こんな目に遭ってさえも、


 無責任に思っていたのだ。


 ――


 「かぁぁー!無茶言うなよ、葛葉(クズハ)ぁ。こんなガキに?しかもあんな”空亡鬼(ばけもの)”の眼前で?死ぬだろ?確実に!」


 なにやら興味深げに様子を見ていた少女の同僚、目傷の男は少年と少女のやり取りに、下手な芝居を織り交ぜながら明らかに楽しみながら茶々を入れる。


 「…………あの……おねぇ……」


 「…………」


 そしてポニーテールの黒髪少女……


 男に葛葉(クズハ)と呼ばれた少女は少年の瞳をもう一度見据えた後で、今度はなんの未練も無く連れの男の方に歩いて行った。


 「葛葉(くずは)よぉ、お前とペアを組んで大分経つが……お前が狩りの(まと)以外で他人に興味を持つなんて珍しいことこの上ないからなぁ、ちょこっと乗ってみたが、結局、この子供(ガキ)は見殺しかよ?」


 なにが楽しいのか?男はニヤニヤと笑っていた。


 「…………」


 そして黒髪ポニーテール少女は今まで同様、同僚の男を無視して去って行く。


 「ははっ、ある意味安心したぜ。いつも通りの葛葉(くずは)でよぉ?……って!おいっ待てって、俺を置いていくなよ!」


 少女の背中にそんな声を投げながら後を追って去って行く目傷の男。


 「…………」


 ――


 しかしその影は不意に立ち止まる。


 かなり小さくなった位置で。


 ――っ!


 少年は……僕は……俺は……声を振り絞って……


 「一歩目を踏み出さないと……ね?盾也(じゅんや)くん」


 「っ!?」


 そして勘違いしていた言葉を直前でグッと飲み込んだ!


 「……ふふ」


 「…………」


 黒髪の少女は……


 連れの男と共にそこを去る前に、そんな風に”たった一度だけ”振り向いて微笑んだのだった。


 ――

 ―


 それから……どれくらい経ったろう。


 二人の異質な人間、他の人たちとは全然雰囲気の違う男女二人……


 あの人達が去ってから、既に日は西に傾きつつある時間帯になっていた。


 「…………ねぇ」


 「…………」


 「ねぇって……ば」


 「…………」


 「どうするの?ああは言われたけど……盾也(じゅんや)?」


 ――


 傾いた鉄製の外灯の根元にグルグル巻きにされた少年の盾也(じゅんや)


 「…………」


 ――どうする?


 どうすることもできないだろ?僕は縛られて……


 ううん、縛られて無くても弱っちい僕にはどうすることも……


 「逃げるのなら手伝うけど?」


 「…………」


 傾いた鉄製の外灯の根元にグルグル巻きにされた僕。


 と――


 「もしもぉぉし、聞いてますかぁぁ?」


 そんな僕の傍らにいつの間にしゃがんで頬杖をいて見上げる、もう一人の子供。


 「…………」


 しゃがんだ子供は縛り付けられた僕、盾也(じゅんや)と瓜二つだ。


 まったく同じ。


 まるで合わせ鏡から出て来たような、もうひとりの盾也(ぼく)



 「おおい?返事くらいしろよぉ、盾也(じゅんや)ぁ」


 ちょっとだけ違和感があるとしたら……


 「あれれ?今日はいつにも増して無口だねぇ?」


 その子供の輪郭は少しだけ周囲に溶けた……


 ぼぅとぼやけた黄金の光に覆われている事である。


 「もしもぉぉし、いいかげん、寂しいんだけどぉ?」


 どこか存在が希薄な子供……


 「…………じゅん……や」


 一年くらい前から突然現れた、僕にしか見えないその子供を僕は……


 ”じゅんや”と名付けていた。


 「どうする盾也(じゅんや)?それともここで終わる?」


 真面(まとも)な返事を返さない僕に、遊びかけのテレビゲームを終わらせるみたいに簡単に僕の人生の終わりを聞いてくる”じゅんや”


 「……な……い」


 「なに?なに?なに?盾也(じゅんや)ぁ」


 縛られた僕、疲れ果てた僕は僅かに声を漏らす。


 「死に……たくない……よ……”じゅんや”……」


 かなり情けない涙声と本音を吐露する。


 「だよねぇ?わかった。だったら()ずはこの縄を解こう!」


 黄金色の少年は、僕の涙声で(すが)る情けない言葉にニッコリと満面の笑みを浮かべた。


 「ど……どうする……んだ……よ」


 もう頼れるのはこんな変な存在(ヤツ)しかいない情けない僕に……


 「どうにか……かな?どうにかしないと、どうにかなっちゃうしね」


 黄金色の少年、”じゅんや”はそう言いながら嬉々として立ち上がったのだった。


第56話「”盾也(じゅんや)”と”じゅんや”?」END

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