第四十一話「ひと昔前のお見合いかよ?」
第41話「ひと昔前のお見合いかよ?」
「ようこそ、いらっしゃいませ。ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」
パリッとした黒のスーツを着こなした熟年男性に声をかけられる。
「いえ、宿泊客じゃないです、ラウンジの方に……」
高級ホテルなんてところには来慣れない俺は若干緊張気味に答えた。
――?
そして直ぐに、相手のホテルマンであるところの年配男性が俺を見る視線に……
違和感を感じた。
「…………」
――なんだ?ジロジロと……
高校生がこんな高級ホテルで待ち合わせなんて偉そうにとか思ってんのか?
「…………」
――そ、それとも俺の格好が不自然とか?
急に不安になった俺は、改めて自身の格好を確認する。
黒の七分袖ジャケット、インナーは白い半袖Tシャツ、それにボトムスはベージュのスキニーパンツ……
――確かにフォーマルって訳じゃ無いけど、
ここはリゾートホテルだ。
――いくら高級とは言っても問題は無いと思うけど……
「…………」
――ってか、客をジロジロと見るのは、そっちの方がどうかと思うが……
――いや、正確には客じゃ無いけども……
「ほこの……」
「?」
いい加減、居心地の悪くなった俺がそこを離れようとか考え出していた時、
ボソリと年配のホテルマンがなにやら低い声で呟く。
「……え……と?」
「ほこのき!……きさま、鉾木 盾也だな!」
「へっ!?」
――えっと……俺ってこんな年上に知り合いいたっけ?
いや、いるわけが無い。
学校でも友達らしい友達もいないのに……
――くっ!ほっとけ!
「そうか……あの副賞か……恥ずかしげも無く使いやがるのか……ホコノキよ」
――はぁ……副賞?
俺が心当たりを探る間にも、年配のホテルマンはおよそ高級ホテルの接客とは思えない形相で俺を睨み付けて…………
――あっ!副賞!?
そうだ副賞っていえば……
「えっと……討魔競争の時の……禿げたおっさん?」
俺は改めて相手の顔をマジマジと見てようやく思い出していた。
――そうだ、見事なカツラで解らなかったが……
このおっさんは、討魔競争の時の大会委員長!!
「貴様、よくもノコノコと……よもや……」
ガーー
「ようこそ、いらっしゃいませ!臨海のオアシス、ロイヤルベイホテルへ!」
自動ドアから入ってきたカップル客に、ニッコリと愛想の良い笑顔と共に深々と頭を下げる大会委員長のおっさん。
「え、ええと?」
「よもや……恥ずかしげも無く我が城に来ようとは!貴様にむざむざと商品を持って行かれた私の……悲劇の委員長!この”萩田 修”の心の色が解るかっ!!」
「…………」
カップル客をやり過ごした直後、鬼の形相で滾るおっさんを呆然と眺めながら俺は思った。
――変わり身、早っ!
「なんだ?その目は、なにか文句でもあるのか!鉾木よっ!」
「い、いえ……ってか、”我が城”って?」
俺はいろんな意味でビビりながら、比較的どうでも良い事を尋ねる。
「ふん、知れたこと。ここは私こと悲劇の委員長!萩田 修が支配人を務める魂の職場、マイライフ イズ マイワークプレイスだからだぁぁっ!」
「…………」
――マイライフ イズ マイワークプレイス?
いや、こんなおっさんの怪しい造語っぽいフレーズはどうでも良いか。
「な、なるほど、ここの関係者だったんですか」
だから討魔競争の景品がロイヤルベイホテル関連だったのだろうか?
「貴様が何故に私の名前を知っているのかは知らんが、よくも来られたものよ……」
――名前?
――俺がこの禿げたおっさんの?
萩田 修……はぎた、おさむ……
――ああ!?はげた おっさん!!
な、なんてややこしい偶然だ……
「えっと……はげた……じゃなくて、萩田さん、俺は今日、知り合いと待ち合わせでここに来ただけで、あの宿泊券とは無関係で……」
「待ち合わせ?」
萩田 修の歪んだ眉が上がり、再び俺を不審者に対する視線でジロジロと見回す。
「…………」
――か、勘弁してくれ……なんなんだ、いったい……
「支配人、よろしいでしょうか?」
俺が困り果てていると、フロント従業員から目前の難儀なおっさんに声がかかった。
――
そして従業員同士、ぼそぼそと何やら業務連絡を始める。
「……わかった、直ぐ行く」
暫くして、禿げたおっさん、もとい、萩田 修は如何にも忌々しそうに俺を一瞥してから向こうに去って行った。
――って!支配人が一応、来客にその態度ってどうよ!
とは思ったが、とんでもなく面倒臭くなりそうなので俺は大人しくラウンジに向かうのだった。
―― ―
「これはこれは!クイーゼル様、いつも当ホテルをご利用頂き誠にありがとうございます」
プラチナブロンドに輝く長い髪を整った輪郭の白い顎下ぐらいの位置で左右に纏めてアレンジしたツインテールの美少女。
人形のように白い肌とほのかに桜色に染まった慎ましい唇の美少女が、キャリーバックを手にフロントに佇んでいた。
「萩田さん、いつも利用させて頂いているのは父ですよ」
優雅に、和やかに、そう受け答えた見目麗しき美少女は、
――羽咲・ヨーコ・クイーゼル
彼女は丸く開いた首元に輝くビジューが施された、ふんわり広がるフレアシルエットの可愛らしい花柄の白いワンピース姿だった。
「そうでしたね、では、これを機に羽咲お嬢様にも是非、当ホテルをご贔屓に宜しくお願い致します」
営業スマイルを浮かべる熟年男を前に、羽咲は社交辞令で微笑み返すとポーターに馴れた所作で荷物を預けた。
――
「鉾木 盾也?姉さん、本当に……その男に近づけば先生に喜んで頂けるの?」
「もちろん!鉾木 盾也……あの男、女馴れしていないだろうから楽勝でしょ?」
プラチナブロンドのツインテール美少女が佇む後ろを通りがかった二人連れの少女……
「一花姉さんは同じクラスだよね?優しくしてあげたら調子に乗って来ないかな?」
「あはは、あんな童貞ヘタレ男、可愛い六花なら楽勝よ。取りあえず適当に褒めて、最終的に頬にキスでもしてあげればメロメロになってなんでも思い通りの操り人形間違い無しよ、ふふふ」
二人はなにやら、羽咲の知った男の話題で盛り上がっているようだ。
「…………」
「クイーゼル様?」
偶然、背後から聞こえてきた話し声に集中していた羽咲は、ポーターの……
「クイーゼル様?」
「あ、ごめんなさい」
多分、何度目かの呼びかけにようやく気がつき、そちらを見る。
「では、クイーゼル様、お部屋の方に……」
ポーターは上の空であった美少女に少し不思議そうな顔をしていたが、直ぐに彼女のキャリーバックを丁寧に手に取ると接客を継続しようとする。
「ごめんなさい、荷物だけ運んでおいて貰えるかしら」
しかし、プラチナブロンドのツインテール美少女、羽咲・ヨーコ・クイーゼルはそれだけ言うとフロントを後にするのだった。
―― ー
――”深幡 一花”か……クラスメイト?だよな確か?
「…………」
俺の記憶が確かなら、ショートボブの可愛らしい感じの娘だったはず……
で、その妹ってことは……期待できるのか?
「…………」
俺はラウンジのゆったりとしたソファーに腰掛け、少し緊張気味に思案していた。
――というか、なにを話せばいいんだ?こんな時?
自己紹介は、まぁ、するとしてその後は……
天気?時事ネタ……は無いだろう。
じゃあ、ご趣味は?とか……
いやいや、絶対無いな、ひと昔前のお見合いかよ。
「……ふぅ」
俺は馴れぬことに緊張を押さえられず、居心地悪くクッションの効いた背もたれに体重を預ける。
ガチャッ!
――あ……
同時に体勢を緩めた俺の足が側に立てかけてあった”ある物”に当たり、それが倒れた。
「……なにしてんだ、俺」
高級そうなカーペットの上に転がった”それ”を拾い上げ、元の位置に戻す。
結局、昨日のファミレスで羽咲に話した”用事”は、ここに来る前に一人で済ませて来た。
――俺の用事……
それは羽咲の新しい剣の製造だ。
少し前から取りかかっていた、聖剣奪還の戦いのための特別な剣。
来たるべき戦いに備えて試作を重ねた、現在、俺の造れる最高の剣だ!
昨日の夜に、ほぼ徹夜で作成した剣を此所に来る前に幾万 目貫の店に寄って一通り仕上げてきた。
”一通り”というのは、あの討魔競争で羽咲の癖、能力などなど……
収集したデータを元に完全な個人専用に仕上げた特別製のため、最終的には羽咲の協力が不可欠で、その”羽咲”不在な今日は彼女が必要な部分を除いて一先ずの最終調整を行って来たという意味だ。
最初は今日一日使ってその辺を済ませる予定だったが、当の彼女が用事で無理な以上は出来るところまで済ませるしか無い、本当の仕上げは明日以降だ。
「…………」
偶然というか、この場所に羽咲がいるのは解っているが……
まさか彼氏とラブラブなところに武器を持って押しかけるわけにも行かない。
というか、なんかそれって凄く俺が惨めな気がして……
「…………」
――いやいや……
そもそも、俺と羽咲はビジネスパートナーなだけなんだけどな……
そんなこんなで、無理矢理に予定を詰め込んだことにより、こんな所にまで持って来ざるをえなかった、布袋に収納された場違いな荷物を眺めて――
「…………なにしてんだ、ほんと」
俺は少し憂鬱になっていた。
――
「あ、あの……鉾木さん、ですよね?」
「っ!」
そんな感じで、背後からかけられた可愛らしい声に俺はビクリと過剰反応する!
「あ!はい!えと……そ、そうです、鉾木 盾也そのひとです!!天気は晴れですし、木村大臣の不倫問題は俺もどうかと思います!で、ご趣味は何でしょう?」
――あれ?
「……」
「……」
――あれれ??
「……」
「……」
――おぉっ!神よぉぉ!!
俺は心の中で叫んでいた。
突然のことで慌てふためいた俺は……
――やっちまったよ……俺は、俺ってやつは……
よりにもよって、事前確認していた”駄目そうな会話”をフル装備で繰り出していたのだ!
「…………」
直立して振り返った俺の目前には、アングリとあっけにとられるショートボブが似合う可愛らしい少女の顔。
「…………う、あ」
俺の背中には嫌な汗が流れていた。
「え……と、すみません……鉾木 盾也です」
改めて自己紹介を試みる俺。
――正直、もう既に終わった感があるが……
「あ、はい、深幡 六花です、鉾木先輩」
小柄な……俺の記憶にあるクラスメイトであるところの、姉の深幡 一花と酷似した?ショートボブの可愛らしい少女は……
小さい口の端を少し強ばらせながらも、健気に微笑んでいたのだった。
第41話「ひと昔前のお見合いかよ?」END




