第四十話「一生ついていきます?」
第40話「一生ついていきます?」
「作戦、其の壱!俺が”御前崎 瑞乃”を呼び出して上手く言い包め時間を稼ぎ、その間に羽咲が背後から彼女を拘束する!」
「言い包めるって?どうやって?」
勢い込んで提案する俺を冷めた瞳で見る美少女。
「そ、そりゃ……男の魅力?」
「却下。盾也くんに人類の女性を魅力でなんとかするなんて、ありえないわ」
――なんて理不尽なお言葉……
そりゃ経験なんてないけどもっ!!
「いや、それは解らないだろ?実際、御前崎先生とは結構、良い関係だった……」
「!」
――うわっ……いま滅茶苦茶、怖い眼で睨まれた!
「と・に・かく!盾也くんの魅力が通じるとしたら、それは”ヴァッサベーア”くらいだから」
本日もプラチナブロンドのツインテールが眩しい生粋の美少女は、白い指先で摘まんだストローでガラスコップの氷をカランとひとかき、回してから酷いことを仰った。
「って!俺の魅力はごく一部の人間の間で最強と名高い生物”緩歩動物”限定かよっ!!」
「…………ふぅ」
即座にツッコむ俺を、なんとも言えぬ翠玉石の双瞳で見つめながら、美少女は可愛らしい唇から小さくため息を漏らす。
「盾也くんってさあ、変なところで博識だよね?」
「いや、そんな褒められても……照れるな」
「褒めてない!」
そして呆れ顔の羽咲はスッと立ち上がると、コップを持ってドリンクバーのコーナーへ消えてゆく。
「……」
――と、このように
俺こと”鉾木 盾也”と異国の美少女騎士、羽咲・ヨーコ・クイーゼルは、市内某所にあるガンガンに冷房の効いたファミリーレストランGESTにて今後の作戦会議を……
というか、単に放課後に寄り道していた。
「…………」
ファミレスのドリンクコーナーでも男性客の視線をチラチラと集める、プラチナブロンドのツインテール美少女。
しかし、当の彼女はそんな視線など全く意に介さずに好みのドリンクを調達している。
「ほんと、一般人の俺としては恵まれた環境だよ」
とはいうものの……
実際、御前崎 瑞乃とどうやって連絡を取るか?
今日の学校では病欠と言うことになっていたし、明日からは夏休みだ。
てか、正体を明かした手前、今後は学校に来るとは思えない。
「……」
カタッ
そんなことを考えていると、テーブル上に数枚の皿とホットの紅茶が置かれた。
自然と俺の意識は目前のテーブル上に向けられる。
――うぅん、紅茶の爽やかな香りはセイロンだろうか?
しかし皿の方が……
「羽咲、それ、全部喰うのか?」
「美味しそうでしょ」
テーブルの上に皿が四枚。勿論、全て皿だけと言うことは無い。
カップケーキの上に山と盛られたクリーム、その上に燦然と輝くツヤツヤのマロングラッセが象徴のモンブラン……
サクサクのパイ生地を埋め尽くすほどの季節のフルーツをふんだんに使った瑞々しいフルーツタルト、そして香ばしい上質な生チョコでコートされたガナッシュ。
さらにさらに、どん尻に控えしは!
オーソドックスではあるがケーキの王様、苺のショートケーキ!!
いくらケーキも食べ放題だからって、
――”ひとり”でこれをっ!?てな、物量だ!
「…………」
俺が怪訝な表情でスウィーツの一団を凝視していると、彼女はニッコリと笑って言った。
「取りあえず色々試してみたいの、で、あ・と・は……」
プラチナブロンドのツインテール美少女は可愛らしい微笑みを俺に向けた。
「やっぱり俺かっ!!なんだ?俺は残飯処理班かよ!!っていうか、自分が食べられるだけにしなさい!!」
目前の学習能力ゼロな女に俺は至極真っ当な説教をする。
「だ、だって色んな味覚を……」
「俺は食わないからなっ!お前なにか?俺をデブキャラかなにかに仕立てあげるつもりデプかっ!?」
――いやいや……思わずデブキャラ言葉になってしまう俺
「いい加減にしろよ!ほんと!」
今度という今度は絶対に知らん!!
この女はスウィーツなだけに”甘やかす”とつけあがるからな……
”討魔競争”の時といい、まったく。
――俺は元来、甘い物はそんなに好きじゃ……
「”あーん”してあげてもいいけど?」
「おう!なにから食べるっ!」
プラチナブロンドのツインテ美少女が魅せるとびきりの笑顔に!
悲しいかな、俺の右手には既にフォークがキラリと光っていた。
「ふふ、素直でよろしい」
――
モグモグ……
モグ……
「盾也くんって、ほんと幸せそうに食べるよね?」
そう言って微笑む……なにが楽しいのか、ご機嫌な彼女。
「もぐもぐ……ごっくん」
――いや、幸せに決まってるだろう
こんな美少女に”あーん”してもらえる。
俺の人生でこんな奇跡的なひとコマがあろうとは……
――くぅぅぅっ!!生きてて良かったぁぁ!!
「ふぉれはふぉうと、うふぁび……」
「ちょっ、ちょっと、食べながら話さないでよ、もう……」
ゴックン!
「では改めて!それはそうと羽咲、お前の学校も明日から夏休みか?」
俺は口内の甘ちゃんたちを処理してから問う。
「ん?うん、そうだけど」
「だったら、ちょっと相談があるんだけどな?明日一日付き合って欲しいところが……」
「えと!?ご、ごめんね、明日はちょっと……」
俺の誘いに少しだけ翠玉石の瞳を丸くした羽咲は、続いて申し訳なさそうに手を合わす。
「そ、そうか、用事が?」
残念だが用事があるのなら仕方が無い。
俺の予定は先延ばしにするしかないだろう。
「えっとね、前に貰ったあの倒魔競争での副賞、あれが明日の予定だから……えっと、お友達と……ね」
――ああ、確か、豪華リゾート施設”マリンパレス”の一日無料券と”ロイヤルベイホテル”スウィートルームペア宿泊券だったか……
――ん?宿泊券??
「そ、そうか……と、友達と?」
いや、なに突っ込んで聞いてんだよ?俺!!
「え……うん、ちょっと……」
そしてなんだか気まずそうな羽咲。
「……」
「えと、あのね……」
――
「そ、そうか!そうかぁぁ!!そうだよな!?お前もお年頃だしな!!いや、悪かった!悪かった!はっはっはーー!!」
なにか答えようとする羽咲の言葉を遮るように、俺は大声で誤魔化していた。
「……?」
俺の反応になんだか不思議そうな視線を向けてくる美少女。
うぅ、そりゃそうか。突然大声で意味不明の高笑い……
だが臆病者な俺は、そんな奇行で羽咲のみならずファミレス中の客達から奇異な目で見られようとも、そこに踏み込む度胸は無かった。
そう、俺は確認したくなかったのだ……
多分、彼女ならそんな相手がいても不思議じゃ無い、いや!寧ろいない事の方が信じがたい!!
なんたって羽咲・ヨーコ=クイーゼル嬢はファンデンベルグ帝国の伯爵令嬢様で英雄級の騎士様、なによりこの超美少女ぶりだ。
――
「いや、気にするな。大した用事じゃ無かったし、”聖剣”のことも御前崎先生の行方が分からない事にはどのみち動きようが無いしな。まぁ、楽しんで来いよ……その……彼氏と」
「……彼氏と?」
落ち着きが無い俺の言葉の最後……
”ごにょごにょ”と消え入りそうな声で漏らした言葉尻を拾って、羽咲は翠玉石の双瞳をパチクリと瞬かせる。
「いや、他人の俺が立ち入るのは野暮だった、忘れてくれ」
見る間に雰囲気が変わる翠玉石の双瞳を前に、俺は慌てて目を逸らすと飲み残した水をグイと呷った。
――うぅ……生ぬるい
ってか、味がしない。
「…………」
対面で黙り込んだ美少女はというと……
不機嫌そうな表情で俺を見据えている。
――やはり余計な詮索だったか?
そりゃ気分悪いよな、馴れ馴れしいっていうか……
「わかった、息抜きさせて貰うわ……彼氏とっ!」
プラチナブロンドのツインテール美少女は大変ご立腹でそういうとプイと横を向く。
「お、おう?」
俺の軽はずみな一言で気まずくなる空気の中……
「……」
「……」
まことに話しかけにくい状況ではあるが、俺はあと一つ、彼女に報告しておくべき重要案件があるのを思い出していた。
勿論、”聖剣”がらみ……
”御前崎 瑞乃”の、つまり先生の件だ。
とは言っても、今となっては先生って呼ぶのもな……
多分、もう学校には来ないだろうし。
「……」
「……」
――御前崎 瑞乃……
フルネームはやっぱ長いな、じゃあ、御前崎?瑞乃?
――いや、この際、どっちでも良いか?呼び方なんて……
「瑞乃の件なんだけど……」
「っ!?み・ず・のぉぉ!?」
――うわっ!!
またもや俺は、滅茶苦茶に怖い眼で睨まれる。
「い、いや、御前崎先生の件だよ、ほら!行方を捜してるって言ったろ?」
「……」
「……」
――うう、なんでそんなにご機嫌斜め……
「ふぅーん、で?その”みぃ・ずぅ・のぉ”さん?の居場所がわかったのかしら?」
――うぅ……なんていうか、
”ピーターラビットの茨屋敷”並に棘があるなぁ、
”うさぎ”だけに……
「ざ、残念ながら……ただ、幾万 目貫に引き続き依頼して探してもらっている、奴はあんなだけど腕は確かだから」
「へぇ、そぅ」
美少女からは、紅茶を飲みながらの素っ気ない返事が返ってくる。
「解り次第連絡するよ、えっと……スマホにで……良いんだよな?」
羽咲の異性関係を意識してしまったら、つい必要以上にビクビクとしてしまう。
俺だったら彼女のスマホに異性から頻繁に連絡来るのって嫌だしなぁ。
「……」
羽咲はそんな俺のなにが気にくわないのか?相変わらず不機嫌な瞳で俺を見ていた。
「出られたら出るわ、でも、わたしも明日からいろいろと忙しいから!」
――くっ!
確かに無神経だったかもだけど、なにもそんなに邪険に言わなくても……
――
そうして、しばらく無言でお茶の続きをした後、
プラチナブロンドの美少女はツインテールを揺らせて帰っていった。
なんだか後半はもの凄く怒っていた様子だったが、最終的に独りで黙々とケーキを全て平らげてから帰っていったのは流石というか、なんというか……
――いや、最後は若干涙目になってたな
「…………ふぅ」
俺はひとり残った席で味のしない水を口に含む。
「…………」
なんか色んな意味で気が滅入った。
まぁ、俺の滅入った気分の理由は解りきっている。
考えてみれば羽咲も年頃であの可愛さだからな……
普通に考えても彼氏がいない方が不自然だろう。
俺も知らなかったとはいえ……
いや、正直、無意識にそう言うことは考えないようにしていたのかもしれない。
ひょんなことから親しくなったファンデンベルグのお姫様で、超お嬢様学校に通うプラチナブロンドの髪と翠玉石の瞳が美しい美少女……
本来、俺のような輩とは接点が有りようもない相手だ。
それを……
「ちょっと調子に乗って馴れ馴れしくしすぎたかなぁ……」
俺は今更だが身の程を弁えて猛反省中だった。
「…………」
カチャ
コップを手に取る。
ゴクリッ
水を再び一口。
「…………………………帰るか」
俺はレシートを手に取ってそそくさと立ち上がった。
――
ルルルルル!ルルルルル!
「……」
――電話?誰からだ?
――も、もしかして……
焦ってそれをポケットから出し、確認する俺……
果たしてディスプレイに表示されたのは――
――桐堂 威風(バカ)
「…………」 ――いや、期待とかしてなかったぞ……別に
俺は心中で自身に見苦しく言い訳しながら、あからさまに残念な表情で通話ボタンを押した。
「あ、鉾木か?実はキミに大事な話が……」
「この電話番号は現在、気分的に使われておりません、ピーという……」
「そんな情緒的な留守電があるわけないだろうっ!!ジュンジュン、いいか?キミにとっては良い話だぞ!」
「…………」
――なんだよ、面倒くさいな……俺は忙しいんだよ
「僕のファンクラブの娘の中に”深幡 一花”って娘がいるの知ってるか?確かキミのクラスだと思うが……」
――なんだ?ファンクラブ?
くそ、モテ男自慢かよ、ほんと面倒くさいな。
「しらね……」
非常にモチベーションの上がらない俺はそっけなく返す。
とはいっても、実際のところはその”固有名詞”自体は記憶している。
そして勿論、繊細で初心な俺はクラスの女子なんぞという高等生物とは口をきいたことも無い。
確か……そこそこ可愛い娘だった気はするにはするが……
「そうか。まぁ、その娘自体は知らなくても良い、ただ、その娘の妹が一個下の学年なんだが、その娘がキミとデートしても良いと……」
「…………」
「その……な、鉾木には色々助けられたしな。倒魔競争の時も、つい先日も身を挺して庇ってくれた。僅かばかりの恩返しのつもりで僕なりに色々とあたっていたのだけど、そう言う奇特な……いやいや、心優しい娘がいたんだよ」
――おいおい、此奴、なにを勝手なことを……
「桐堂、おまえなぁ?いくら俺がモテないからって……」
「うっ……すまない、気を悪くしたか?」
――
「あ、あざーっす!!桐堂さん!一生ついていきまっす!!」
俺は周りの客の目など寸分も気にも留めず、スマートフォンに向かって勢いよく九十度にお辞儀をしていた。
「そ、そうか?良かったよ、では待ち合わせは明日、マリンパレスのロイヤルベイホテル、ラウンジで」
「応!りょうか……い?」
見事にぐるりんと手の平を返す俺に、若干引き気味になりながらもそう告げる桐堂に俺も元気よく了承を……
了承を……
明日?ロイヤルベイホテル?
「じゃあ、僕はこれで」
「いや、ちょっちょっとぉぉ!!」
ガチャリ!
「桐堂!?桐堂くぅぅん!!」
――――
「ま、本気かよ……」
――”えっとね、前に貰ったあの、倒魔競争での副賞……あれが明日の予定だから……えっと友達と……ね”
「…………」
――”ああ、確か、豪華リゾート施設”マリンパレス”の一日無料券と”ロイヤルベイホテル”スウィートルームペア宿泊券”
――
見事なまでの、悪意ある偶然の一致だ!
いや、別に俺が誰と会おうと関係無いんだろうし、
そもそも同じホテルに行くからって会うとは限らないけど……
「……」
俺は暫く、レシートとスマートフォンを片手に持ったまま立ち尽くしていたのだった。
第40話「一生ついていきます?」END




