第三十六話「奇跡の創造主?」
第36話「奇跡の創造主?」
古びた棚に並べられた意味不明の骨董品達……
オンボロな外観からは想像できないが意外と広い店内には、なにやら怪しい壺から刀剣類まで所狭しと多種多様な品々が並んでいた。
「全く変わってない……」
俺は棚に置いてある怪しい小瓶を手に取り店内を見回す。
「おや?毎度、鉾木くん」
客の入店に気づいた店主が奥から現れ、気さくに声をかけてくる。
――謎の黒頭巾男、幾万 目貫だ
「……」
俺は無言でその男を見ていた。
「今日は何用で?材料の仕入れかい?それとも刀剣の納品?」
――
コトリと、手にしていた小瓶を棚に戻す俺。
「つい五日ほど前に、この店は大破したと思ったが……」
「おやおや、それは大変だね。で、どこの店が?」
「……」
白々しいにも程がある。
普通なら、あの爆発規模だと高層ビルの一つ二つは吹っ飛ぶだろうに、この”怪奇現象”
いや、実際にはヨーコの張った結界で、当時も破壊されたのは”この店だけ”だったのだが……
「……」
黒頭巾から露出した、涼しい視線をこちらに向ける怪しすぎる輩。
「はぁぁ……もういい」
どちらにしても店は全焼、瓦礫に変わり果てたはずがこの有様だ……
近所でも全く噂にもなっていない事も不可思議極まりない。
「どうせ、幾万 目貫がなんか色々と手を回したんだろ?今更だしな……」
俺はもう”この件”を深く考えるのはやめた。
どうせ黒頭巾の店が全焼しようと、何事も無かったように存在しようと、俺には大して関係の無いことだ。
「御前崎 瑞乃の行方はわからないのか?」
「ほほぅ?」
そう結論に達した俺の口からその名前が出た途端に、黒頭巾から露出した暗黒の眼が細められる。
「どうなんだよ?」
「依然、不明のままだね。”生きては”いるだろうけど」
結局、彼女はあの一件以来行方不明、例の”取手”も俺の”守護石”も瓦礫の中からは見つからなかった。
「そもそも、あの”取手”はなんなんだよ、なんで俺の行動を制限出来るんだ?」
――良い機会だと
俺はずっと捨て置いていた事柄に触れる。
「取手?ああ、あれね……あれはだね、つまり、なんだっけか?」
黒頭巾は態とらしい態度で曖昧に言葉を濁す。
――こいつ、はぐらかす気満々だな
「”取手”のせいで俺は何度も酷い目にあってんだよ!」
そうはいかないと!殺気の籠もった目で俺は二、三歩詰め寄った。
「おいおい、穏やかじゃ無いなぁ……そんなに気にすることかい?」
――気にすることか、だと??
「だから!”取手”のせいで三度は死にかけた!!そもそも今回の一連の災難に巻き込まれたのもアレが最初のきっかけだっ!全部吐いてもら……」
「ほほぅ!災難?キミにとって”羽咲・ヨーコ・クイーゼル嬢”に出会ったのも災難なのかい?」
「……」
――くっ!ああ言えばこう言う……
俺が文句を言い終わる前にそう言って揚げ足を取る黒頭巾。
「俺が言いたいのはそう言う事じゃ無い!問題をすり替えるなっ!!」
ドサッ!
「っ!?」
声を荒げる俺を無視するように、黒頭巾は年代物のカウンター上に革袋に入った”なにか”を乱暴に置く。
「随分と荒れてるじゃ無いか?キミらしくない。やる気が無い、諦めた、出涸らしのような”鉾木 盾也”くんがねぇ……」
一瞬、台の上に置かれた物に気を取られていた俺は、その指摘で直ぐに我に返る。
「ちっ!だから問題をすり……」
「問題をすり替えているのはどっちだい?鉾木 盾也。それさえも解らなくなったのかい?」
「くっ!…………うぅ……」
何時になく迫力のある凄んだ双眼の幾万 目貫。
此奴と出会ってからずっと――
およそ真面な感情なんてものが確認出来ず、何処に思考回路がどう繋がっているのか不明な滅茶苦茶な存在……幾万 目貫。
そんな出鱈目な相手に、俺の内面、いや過去の心的外傷からくる内向的な負け犬根性を指摘された俺は……
「…………」
黙るしか無かった。
「自分が不甲斐ないことを棚に上げるのは……まぁ、良いとして、自らの意志で関わった他人様の人生を途中で投げ出すのはどうかと思うよ、違うかい?」
――くっ……幾万 目貫のくせに……
なんて真っ当な意見を!
確かに……
羽咲の事は最初は成り行きでも、その後は俺の意志だ。
そして今回の失態は、俺が勝手に彼女の”聖剣”をなんとかしようと……
気になる可愛い娘の前で格好つけようとして、取り返しのつかない失敗をしたという、笑えない現実だ。
「た、確かにお前の言うとおり、俺は……」
「違うのか?え?ちがうのかにゃぁぁ!?」
「だから……おれ……」
「違わないにゃぁぁ?そうにゃぁぁ?うにゃぁぁ??」
――くそっ!鬱陶しい……てか、妹キャラが混じってるぞ!
俺は心中穏やかでは無いが、ド正論に言い返せる程の語彙も正当性も無く……
「俺が…………わ、悪かったよ」
頭を下げて謝罪した。
「ふふんっ!素直で良いねぇ、キミは。唯一の長所だよ」
「おまっ!」
――ひとが下手に出れば調子に乗りやがって!
「唯一は余計だ!!てか、よく考えたら幾万 目貫に謝るのもなんか納得いかない!!」
俺はババッと顔を上げて黒頭巾を再び睨んでいた。
「あの”取手”はね、所謂、”契約”の魔道具……」
――で、結局、話すのかよ……
――って?なんて言った?”契約”の……
「呪術的契約でキミの行動を縛っている」
――は?はぁぁ!?
「現在は誰も創造する事が適わなくなった”魔剣”と並んで中々貴重な品だよ」
「魔道具?あの”取手”が?どう見てもドアノブの出来損ないだろ?なんだそれっ!?」
「魔道具も職人が造るモノだから……そうだね、魔導士の武具、魔法珠とかに似てるかなぁ」
――くそ!無視して話を進めやがった
「ち……魔法珠は武具だろ?」
俺は文句を諦め、会話を続ける。
「だね、でも直接相手をぶっ叩く剣や槍、弓なんかとは違うだろ?つまりその派生が魔道具って代物で直接的な武器や装備とは違うものさ。一応は職人の創造物でもある」
「…………聞いたことが無い」
「だろうね。剣や鎧と違い本体に”奇跡”を宿していなければ、抑も意味の無い代物だから……勿論、現在それを創れる者はいない」
「…………」
俺は呆気にとられていた。
「なにを惚けてるんだい?鉾木くん。珍しくキミを褒めているんだよ」
「??」
「対幻獣種用に通常の刀剣類や鎧類を製造できる職人は多く存在するが、”奇跡”を宿した代物を創造できる職人は……現在は多分、キミだけだ」
「…………お、おれ……だけ?」
なんちゃって職人の俺になにを言って……
「”魔剣”……創ったろ?羽咲のために」
――あ!?
「まったく……”奇跡”を内包した宝具は世界にも百ほどしか現存しないというのに。キミは暢気だねぇ」
「いや、でも、あの剣は……羽咲には”ああいう”のも使えるかなぁ?って、工夫してみただけって言うか……試作っていうか……」
「良いかい、鉾木くん。キミは職人としては、ある意味で……」
ポロン、ポロン――
凄んだ表情で……といっても黒い頭巾越しだけど、幾万 目貫が俺に顔を寄せた時、なんとも牧歌的な電子音がボロくてカビ臭い店舗内に響いた。
「電話……いや、”メッセージ”じゃないのかい?」
会話を遮る電子音に幾万 目貫は興味津々な視線を向けてくる。
「…………いや、別にいい。それより」
俺はそんな好奇を受け流し、ポケットの中で二、三度、振動したスマートフォンをそのままにして会話の続きを要求する。
「本当に良いのかい?」
「…………」
ニヤニヤと……といっても頭巾越しだが、
黒頭巾男はしつこく問いかけてくる。
「ほら、内容を確認した方が……」
「き、今日は……多重石を買いに来た、あと……」
俺は諦めた。
幾万 目貫はもう既に先ほどの会話内容には興味が失せたようだ。
こうなるとこの巫山戯た存在は決して口を割らない。
自分で会話を振っておいて、なんて我が儘な輩だろう。
「欲しい素材がある」
――だから俺は……
今日、この店を訪れた”本来の目的”を口にする。
――
「ほほう?そんな物を?今度は一体なにを創っているのだろうね?」
そして俺の注文に、そう答えながら奥の棚から”目的の品”を探す黒頭巾。
奴ももう”メッセージ”のことには触れてはこなかった。
「ああ、そうだ!鉾木くんこれを!」
そう言って、注文品を全て手に入れた俺が店を後にしようとした時、
黒頭巾はカウンター上にドッカリと置かれた、先ほどの革袋を指差す。
「?」
「オマケだよ、お・ま・け。多分、キミが創ろうとしているモノに役立つ逸品だ」
「…………」
――断ったり、中身を聞いたりしたら……
また長くなりそうだと、俺はボロい店内の骨董品的価値しかなさそうな掛け時計をチラリと見てから頷いた。
「過去のキミが見たくもなくて、現在のキミには欲しくて仕方が無いものだよ、多分……」
意味ありげに不気味に、頭巾から露出した両眼を鈍く光らせる男に、
「…………ああ、そうかい」
俺は適当にそれを受け取ると、今度こそ店を出た。
――
「……」
幾万 目貫の店を出た俺は早足で自宅に戻る。
――なにを創っている?
「……」
――決まっているだろ、俺は……武具職人だ!
「……」
早歩きしながらも俺は自身の中で目的を反芻する。
――半端者だろうと、規格外だろうと、
羽咲の”武器を創る”ことのみが俺の出来ることだ!!
色々思うところはあっても、情けなくなるほど後悔するような事があっても……
たとえ……
たとえ、言いにくくても、それを伝えなければならない相手がいても……
「……」
とにかく!
今は御前崎 瑞乃に対しての武具製造が最優先だ!!
「…………くっ……くそぉぉ!」
何度失敗しても俺は……
結局、俺は……
「やられっぱなしでいられるかよぉぉっ!!」
――そうだ、俺は意外に腐らない性格なんだ
――
道行く人々が早歩きで叫ぶ奇人をヒソヒソと見ていた。
「…………うう、恥ずい」
ともあれ、精神的に回復するのに少し時間はかかってしまったが……
まだ多少、燻ってはいるが……
「おおっ!黄昏時の夕日が目にしみるぜ!」
目下、絶賛!立ち直り中の俺は顔を上げて、眩しさに眼を細めながら自分に浸る。
”男の子”は苦しいときこそ前を向くのだ!!
「…………」
――まぁ、羽咲からは逃げ回っているけどな……
そうだ、今はなんて言うか、会わせる顔が無い。
駄目だとは思うが……
あんな偉そうなことを言った手前……
「…………」
”とにかく驚くような凄いサプライズを用意してあるから!”
「…………う!?」
俺のほっぺたが赤くなったのは夕日のせいばかりじゃ無い。
――バカか?俺は……
ああぁぁ!!なんであんな軽はずみなことをっ!!
「…………」
ガシャガシャと、手提げ袋一杯に怪しいアイテムを買い込んだ俺はそんな事を考えながら、端から見れば百面相を披露しながら、自分のマンション前まで帰って来ていた。
「……」
そして――
ふと、立ち止まる。
あまり性能の良くない俺の脳味噌は……
そう、ふと、オンボロ店で忘れてきたものを思い出したのだ。
「…………」
――あ……
――あぁぁぁぁぁぁ!!
俺は両手に持った荷物をガシャリと地面に落としていた。
「あ、あの黒頭巾!!”取手”のこと”契約”って言ってやがった!?……契約……呪術的契約……ってアレか!!以前に借金したときにサインした借用書!?あれに細工してやがった?詐欺じゃねぇかーーーっ!!」
かつて”魚人の王”と死闘を演じた俺のマンション前で……
俺はあの時とまた違った絶叫を上げていたのだった。
第36話「奇跡の創造主?」END




