表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
35/71

第三十五話「けっきょく爆発落ちですか?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第35話「けっきょく爆発落ちですか?」


 「ほ、鉾木(ほこのき)ぃぃっ!!」


 離れた場所から桐堂(とうどう)の叫び声が聞こえる。


 俺の胸辺りに深々と刺さった”うねうね”と波打つ湾曲した刀身の魔剣。


 ――


 「…………痛……く……ない」


 ――違う……


 突き立っていない。


 少なくとも俺の胸には……


 「??」


 超至近距離で……


 そう、まるで息がかかるほどの距離で女の唇の端があがっていた。


 「ふふ」


 まるで恋人に接するかのような熱い抱擁。


 大の字に両腕を開いた俺に身体(からだ)を預けるように正面から密着する女。


 「っ!?」


 しかし!!


 現実はそんな色っぽい代物とはほど遠い!!


 「痛くないでしょ?鉾木(ほこのき)くん」


 その女の右手は……右腕は……


 変則的な凶器を握ったまま、俺の胸を”貫通”していたのだ!


 「う……あ……」


 ”死んだ!”と思った俺は情けなくも身体(からだ)が硬直して言葉も出せない。


 「ふふ、大丈夫よ。だって私の腕は”魔剣の効力”であなたの身体(からだ)を素通りしているのですもの」


 ――す、素通り!?


 言われてみれば奇妙な状況……


 俺の胸を確かに貫通した瑞乃(みずの)の腕は、肘辺りまで俺の身体(からだ)にめり込んでいる。


 「……う……あ」


 ――肘まで?ありえないだろ??そんな刺さり方……


 俺の身体(からだ)自体は痛みも無く、血の一滴さえも流れていない。


 そうだ……これではまるで……


 俺の身体(からだ)に開いたトンネルを彼女の腕が通り抜けただけのような状況。


 「お、御前崎(おまえざき)……せんせい……これは……」


 俺がその疑問を口にしようとした時だった。


 バシュッバシュッバシュッ! バシュッバシュッバシュッ!


 背後で突如起こる!けたたましく響く破裂音!!


 「な、なんだ!?」


 俺は思わず首だけで背後を振り返っていた。


 バシュッバシュッバシュッ! バシュッバシュッバシュッ!


 それは連続して発生し、同時に大量の光が弾けとび、一斉に大気に霧散してゆく。


 「な……ななっ!!」


 その光の正体というのは……


 「ヨ、ヨーコ!?」


 そう……時代がかった和装美女。


 (いにしえ)の大妖……九尾(きゅうび)の狐が纏った狐火の数々であった。


 「ぐぬぅ……抜かったわ。よもや”(ひずみ)(やいば)”とは……(わらわ)としたことが」


 御前崎(おまえざき) 瑞乃(みずの)が手にした凶器は俺を素通りして、背後の獲物(ターゲット)を絡め取る事に成功していたのだ!


 俺の胸を貫通した?いや!通り抜けた深緑の(やいば)がヨーコの胸元にこそ深々と突き立っていたのだ!


 「わ、(わらわ)と……した……ことが……」


 バシュッバシュッバシュッ!


 ヴヴ……ヴゥンン!


 ヨーコはここで初めて端正な顔を苦痛に染めながら、白い無数の珠が弾け行く程に、その身が徐々に大気に霧散してゆく……


 「ヨーコっ!おいっ!ヨーコぉっ!!」


 「ふふっ」


 ズチャ!


 薄い笑みを浮かべたまま、御前崎(おまえざき) 瑞乃(たまの)は無造作に自らの右腕を俺から引き抜いた。


 「っ!?」


 (いびつ)な深緑の(やいば)はヨーコの胸から引き抜かれ、それを握った瑞乃(みずの)の右腕が!肘の関節部分まで俺の胸にめり込んでいた彼女の腕が!なんの抵抗もなくヌルリと姿を現す。


 「な……なんだってんだよっ!?」


 無論、俺の胸部には穴どころかかすり傷の後も無い。


 (そもそ)も、痛みすら感じなかったのだ。


 唯々通り抜けただけ。


 の程度の感覚だった。


 「”致死の魔剣”とはよく言ったものデスねぇぇ?狙った的は外さない!障害物も何のその!」


 そこで、今まで何をしていたのか?


 幾万(いくま) 目貫(めぬき)が楽しげに”魔剣”を解説する。


 「た、他人(たにん)ごとのように!このっ!!」


 ――いや、此奴(こいつ)にとっては全ては他人(たにん)事か


 「さあ、頂きましょうか。”古の大魔導士(だいまどうし)”の力を、偉大なる”聖剣”の力を!!」


 御前崎(おまえざき) 瑞乃(みずの)は大きく両手を広げていた。


 肩の高さに両腕を広げ、右手には奇妙な真緑の魔剣、


 左手には、いつの間にか仕舞っていた、胸元から取り出した羽咲(うさぎ)お守り(アムレット)


 ヴィィィィィィィィィーー!!


 お守り(アムレット)の石が鈍く光って略奪の力を促進させてゆく!


 「ふふふっ……あはは……あぁはははははっ!!」


 彼女は高笑いを伴う恍惚の表情で、幾多の男子生徒を魅了してきたボリュームたっぷりの胸を張る!


 「ふふふ!あはははははっ!!全てが思い通りよ!!」


 その姿(ポーズ)はまるで――


 民を先導する教祖か、或いは救世主を気取る似非(エセ)政治指導者の如きだ。


 バシュッバシュッバシュッ! バシュッバシュッバシュッ!


 「ぬぅっ!くっ!」


 ヨーコの身体(からだ)を構成する光が更に次々と弾けては大気中に消え、


 同時にヨーコの身体(からだ)境界線(ライン)……


 存在感とも言うべきものが揺らいで薄れゆく。


 「これよっ!来たわぁ!この力よ!!」


 呼応するように、御前崎(おまえざき) 瑞乃(みずの)身体(からだ)に、器に光が注がれて……


 「ぬぅぅぅ!!」


 苦しそうにもだえる”聖剣”ヨーコ。


 「……くっ」


 桐堂(とうどう)は先ほどの立ち回りで何カ所かダメージを受けたのか、今は満足に動けない様子で、ただ悔しそうにそれを睨むだけだ。


 「…………く……そ……」


 ――そして俺は……


 「ちくしょうっ!!」


 ――俺は……いつも通り無力だ


 ”いつも通り”戦闘では全くいないのと同じ。


 「くそ、くそ、くそ……」


 震える両手。


 ――俺は……俺の能力は……


 「く……そ……」


 やがて俺は……


 握っていた拳を解いて下を向く。


 ――そう、"鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)“は……


 「…………」


――決まって、大事な場面では役に立たないんだよ……


 「ひゃは……」


 下を向いた俺の視界に一瞬だけ入った、黒頭巾の眼が蔑むように(わら)っていた気がした。


 ”盾也(たてなり)さんは論外ですにゃー”


 ”(ただ)(くず)、ゴミ以下の存在、取るに足らない汚物、愚物でガスなぁぁ”


 俺の頭にそんな声が響く。


 ”鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)っ!お前は知った風な顔でこれ以上、羽咲(かのじょ)に関わるな!!それが彼女の為……いいや!それがお前の、その矮小な人生を生きていくうえでの為でもある!!”


 ――はっ!本当だ


 以前に言われた通りだよ、何年経っても俺は……俺って奴は……


 数年前、”あの事件”の後で……


 俺の身に備わった馬鹿げた能力……


 ――対幻想種技能別職種(エシェックカテゴリ)、”(シールド)


 自ら攻撃手段を持たない。


 ただ縮こまり、その場をやり過ごすだけの役立たずの幻想職種(カテゴリ)……


 ――ほんと、俺自身のようだ


 「…………」


 無能で臆病な俺ごときにはお似合いの無能技能(スキル)


 ――


 ――ほ……


 「…………」


 ――ほこの……


 「…………?」


 ――ほ、鉾木(ほこのき)よ……


 「っ!?」


 ――なんだ?


 ――俺の頭の中に直接……


 ――鉾木(ほこのき)よ……


 ――誰かの……いや、これは知った声だ!


 「っ!!」


 俺は恐る恐る顔を上げ、俺のせいで消えゆく存在を見ていた。


 ――


 ――鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)よ、これから(わらわ)は最後の抵抗を試みる


 「……」


 ――ヨーコ?やはりヨーコなのか!?


 俺は心の中でそう問いかけ、今度はしっかりと!


 視線を!いま、まさに消滅間近の人物に向けていた。


 ――


 ――ほほっ、”ヨーコ”、”ヨーコ”と馴れ馴れしい男子(おのこ)よな?鉾木(ほこのき)……


 「……」


 風前の灯火たる”(キュウ)()の狐”


 ”羽咲(うさぎ)の祖母”、”聖剣”を名乗る女は……


 解体される苦しみに悶えながらも、見た目上は無言で俺を見据えるだけだ。


 「……」


 ――おまえ……いったい?


 「……」


 ――”妖狐(ようこ)”故にヨーコか?単純な、ほんに単純な男子(おのこ)……


 ――いや、それは(わらわ)他人(ひと)のことは言えぬか


 ――そもそも、かつて羽咲(あのむすめ)の祖父にそう名乗ったのは(わらわ)じゃからのう


 「……」


 少し懐かしむ様な口調で、俺の頭の中で話すヨーコを俺は寂しげに感じた。


 ――まぁ、そのような些末なことは良い。今から(わらわ)は少しばかり抵抗を試みる……


 「……な」


 ――ヨ、ヨーコ?おまえ、なにをするつもりだ!?


 こんな絶望的な状況で……


 ――なに、彼奴(あやつ)に”聖剣”の力が使いこなせるとは思えんが、それでも易々(やすやす)とこの力を渡すのは口惜しい故にな……


 「……」


 ――鉾木(ほこのき)よ、直ちにお主はそこな友を抱き、最大限の防御を試みよ!


 「な……に?」


 ――なに言ってんだ!?この九尾(きゅうび)!?


 「お……い??」


 ――羽咲(あれ)のこと宜しく頼んだぞ


 「な……」


 ――羽咲(うさぎ)を?……いや……無理だ


 ――俺にはもう……いや、そもそも俺なんかにそんな資格が……


 「お、おれには……」


 ――悩むのも、落ち込むのも、全てお主の権利じゃ、


 ――じゃが……羽咲(うさぎ)にはお主が必要じゃろう


 「……お、俺が……そんなことあるわけ……」


 ――お(ぬし)に足らぬ物を(わらわ)()らぬ


 ――お(ぬし)がゴミか(くず)か、愚物(ぐぶつ)かどうかかも……


 「…………」


 ――じゃがな、鉾木(ほこのき)よ。羽咲(あれ)がお(ぬし)をどう想っておるかは……


 「…………くっ」


 ――俺は……駄目だ


 「とても羽咲(うさぎ)には……」


 ――思い上がるな、”鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)”よ。何時(いつ)の時代も男子(おのこ)の価値は女子(おなご)が決めるモノよ


 「……な……なんだってんだ……そんな勝手……」


 ――時が無い……ではな、後は……


 「ちょっ!ちょっとまてよ!!」


 ――


 「おい!?ヨーコ!!俺には羽咲(うさぎ)は!!羽咲(うさぎ)……は……」


 俺はその名を叫んでいた!!


 ヴィィィィィィィィィーーーーーー!!


 その言葉を最後に――


 ヨーコの周りで弾けていた光が一気に集約し、巨大な白の塊となった!


 「っ!?」


 トンッ!


 御前崎(おまえざき) 瑞乃(みずの)はその異変に気づいたのか、素早く後方に飛び退いて姿勢を低く、魔剣を前面に構えて立つ!


 「…………」


 ――そして、俺は……


 ヴィィィィィィィィィーーーーーー!!


 「…………ちっ!」


 ――くそっ!今は考える暇も無い!


 ――くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそぉぉぉー!!


 ダダッ!!


 俺は疾走(はし)る!なにも考えずに……


 ダダダダ!!


 そうだ、今はただ……


 (シールド)の強度を最大限に高めつつ……


 「しゃがめっ!!」


 俺に協力してくれた馬鹿な大男、桐堂(とうどう) 威風(いふう)の元に走っていた!


 「ほ、鉾木(ほこのき)!?なんだ?これは!!」


 言われるとおり、這いつくばったままで尋常では無い雰囲気に馬鹿は叫ぶ。


 ダダダダ!!


 しかし、その質問に答えている暇は無い!


 「頭を抱えて丸くなれっ!!」


 ババッ!


 そう叫びながら走り寄った俺は、そのまま男に覆い被さっていた!


 ――


 ――ズッ……


 ドドォォォォォーーーーーーーーーーン!!!!


 「っ!?」


 真っ白だ!前も後ろも上も下も……


 ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!


 「くっ!は……」


 全方向から全身に打ち据えられる衝撃は最早痛みでは無く熱の塊!


 瞬時に業火に焼かれた全身を間髪置かず激しい爆風が走り抜けた!


 ガラガラガラッ!ガシャン!バキャ!ドシャァァーー!!


 棚が!テーブルが!椅子が!壁が!柱が!そして天井が!!


 あらゆる物質をなぎ倒して焼き払う!!


 ゴォォォォォォォォォォォォ!!


 果たして――


 そこはまさしく”爆心地”であった。


 「…………っう……うぅ」


 激しい炎と風に焼かれながら俺は思う。


 「…………」


 ――ああ、”またしても”俺は……


 ――俺は失敗したんだ


 と……


第35話「けっきょく爆発落ちですか?」END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ