第三十四話「盾殺し?」
第34話「盾殺し?」
ガキィィン!
金属同士が激しくぶつかる音が響く!
「ぬぅぅっ!」
「っ!」
俺の目前で二つの金属……
御前崎 瑞乃の”魔剣カリギュラ”と――
ギギギ……
刃渡りが1メートルを優に超える両刃の大剣が火花を散らしていたのだ!
「ぬぅぅ!どういうことだ!鉾木ぃ!?」
ギィイン!
大剣を構えて女の短剣を抑える人物は、俺の知人中でも最も鬱陶しい馬鹿……
「と、桐堂?」
ギャリィン!
桐堂 威風は大剣を振り回し、魔剣でヨーコに襲いかかろうとした御前崎 瑞乃と激しい立ち回りを展開していたのだった!
「御前崎先生も!?これは一体どういうことで……!?」
「……」
ガキィン!
問いかける桐堂 威風と無言で殺気を向ける御前崎 瑞乃、二人は鍔競り合いを続ける。
ガッ!ガッ!――ギィイン!
二メートル近くある大男がガッシリと両手で握るのは大型の両刃剣!
対する女性の瑞乃がか細い片腕で握るのは、刃渡り三十センチほどの短剣!
この威力比で鍔競り合いなんてものが成立するわけが無い!?
いや!もし成立したとしても長く続く道理が無い!!
――はずだが……
御前崎 瑞乃の剣技は卓越しているっ!!
ギギ……
スッ――
「……」
信じ難くも拮抗していた力を、瑞乃は一瞬で脱力させ――
「なっ!?」
態と相手に踏み込ませてから、
ギ……シャラン!
それを利用して捌く!!
「お……おおっ!?」
前のめりにつんのめってバランスを崩す桐堂と、
「……」
その隙に時計回りに最小限の半径で背後に移動する女!
「と、桐堂!!倒れろっ!」
俺は叫ぶ!
「っ!」
ドシャァァ!
直ぐさま、前のめりに派手に転ぶ大男。
――ヒュンッ
その直ぐ真上を、男の背中の在った場所を深緑の軌跡が閃いていた。
「ぬあっ!」
魔剣カリギュラの一閃をなんとか回避した桐堂は、床の上に這い蹲った体勢から立ち上がりもせずに背後の女にタックルをかます!!
「……っ」
女はそれを辛うじて躱すも――
短剣を空振りした一瞬の隙からか足下を絡ませて姿勢を大幅に崩し、近くのテーブルに左手を着いていた。
カランッ!――コロ、コロ、コロ……
その拍子に瑞乃が握っていた金属製の”取手”が床に転がる。
――い、いまだっ!!
途端に今まで俺の身体に纏わりついていた重力は霧散し!
自由になった身体で俺は、それを回収しようとする女よりも早く、そこにスライディングしていた!
カンッ!
ゴロゴロゴローーーーーーー
俺の爪先で蹴り飛ばされた”取手”は、誇りっぽい床を滑り!
遠く――店の隅の商品棚下に潜り込む。
「よっしゃぁっ!!」
思わず叫んで!
完全に身体の自由を取り戻した俺は直ぐに立ち上がる。
「な……んとか、なったのか?」
その間に自身の大剣を拾い上げて桐堂がこちらを確認していた。
「……」
御前崎 瑞乃は――
左手を年代物の木製テーブルに着いたままの体勢で、そんな俺達二人を眺めていた。
「…………しょうがない子達ね、どうしても先生と殺りあうというの?」
言葉とは裏腹に、今ひとつ殺気の籠もらない瞳。
彼女の本心はどこまでが本気で、どこまでが脅しか、
人間関係を疎かにしてきた俺なんかには判断がつかない。
――
――いや、それは俺の希望か……
未だに俺は、彼女に良き教師としての幻想を求めているのだ。
こんな俺に諦めず、初めて優しく接してくれた彼女に……
「……」
――いや、そんなことこそ、どうでもいい!
――いまは……
「桐堂、どうしてここに?」
張り詰めた緊張感はそのままで、しかし、先ほどまでとは打って変わって膠着した状況の中、俺は御前崎 瑞乃を油断無く牽制しながらも、突如としてこの場所に乱入して来た大男に理由を訪ねる。
「おお、ジュンジュン!それはなっ!」
桐堂も大剣を油断なく構えながらも俺を視界に入れ、然も”待ってましたっ!”とばかりに乗り出して無邪気に笑った。
――て、主人の帰宅待ちだった大型犬かなんかか?お前……
桐堂 威風は近くのカフェで待機していたはずだった。
俺から連絡が無い限り此所に来ることは無かったはずだ。
「ふふっ、それはつまりだ……」
「……」
「……」
持って回った言い方に、俺も瑞乃までが思わず注視する。
「虫の知らせだぁっ!!まぁ、僕ほどの男になるとだな……」
「……」
「……」
だがやはり!
想像していたとおり勿体付けた馬鹿の情報は”しょうも無い”理由だった。
「……寂しかったのか?」
意気揚々と鼻の穴を膨らます相手に俺は指摘する。
「…………う」
「桐堂?」
明らかに雰囲気が変わる馬鹿。
「いや、だって!いつまで経っても連絡が来ないし、また僕だけ置いてけぼり?みたいな……あっ!べ、別に寂しかった訳じゃないぞ!!ただ僕ほどの戦力を温存するのは大いなる損失だろ?…………って!な、なんだその目は!いや、違うって!寂しくなんか……なかったんだからね!!」
捲し立てるように、もの凄く必死に言い訳する大男。
墓穴に墓穴を重ねる典型例だ。
そんなに深く穴を掘ってどうする……ツンデレ桐堂よ。
――
「わ、わかったよ、桐堂。それより、よくあの状況で先生を……」
そうだ、聞きたいのは”ソコ”だ。
俺に剣を向けているならともかく、見知らぬ時代錯誤の平安美女に刃を向けている先生に斬りかかるなんて……
この単純馬鹿が、あの一瞬でこの複雑な状況を理解できたとは思えない。
「いや、簡単だろう?あの状況を分析すれば」
――此奴!?意外と切れ者だったりして……
「そんな”グニャグニャ”で”趣味の悪い”真緑の短剣は、悪者が持つ物だろう?」
――な、ワケがなかった!!
やっぱりバカだ。
いや、さっきはそれで俺も助かったわけだが……
――
「ふぅ、相変わらず馬鹿な子達ね。流石に教え子は殺めたく無かったのだけれど……仕方ないわね」
暫く俺達の様子を見ていた御前崎 瑞乃だったが、彼女はワンレングスの前髪を掻き上げ、紅い口元をチロリと舐めてから……
ダッ!
一気に動く!!
「と、桐堂っ!!」
俺は叫ぶと同時に自身の盾の能力、その強度を上げて!!
拘束されたままの”聖剣”……ヨーコの元に走った!
「承知した!!」
ブォォン!!
――――――ガギィィン!
俺の合図で桐堂は大剣を振りかぶり、瑞乃の魔剣を防ぐ!
ギィイン!ガキィン!
次々と繰り出される魔剣の斬撃を受ける大剣。
「…………」
桐堂には悪いが、見たところ剣の腕前は先生の方が上だろう。
あの剣筋、特異な暗殺者の様な体術による動き……
階級は不明だが、超一流の魔導士にして、馬鹿だが騎士級の実力者である桐堂 威風よりも剣の腕が立つって……
――”御前崎 瑞乃”!!どんな手練れだよっ!!
と、とにかく……
これは時間稼ぎで精一杯かも知れない!?
ギィイン!ガキィン!
大剣を豪快に振るう桐堂が、瑞乃の小刻みな魔剣の連撃に見る間に追い込まれてゆく。
「……くっ!」
――やはり撃破どころか時間稼ぎも無理そうだな、
桐堂には悪いが、横目で冷静に実力差を分析する俺。
――だから俺は……その間にヨーコの結界を無効化する!
この場で御前崎 瑞乃に対抗出来るのはヨーコしかいないだろうからだ!!
――俺の盾でなんとか……
”外部から”の接触でなら!なんとか俺の盾で出来るかも知れない!!
「ヨーコっ!」
――多少、荒っぽく行くぞ!
――体当たりだ!!
俺は恥ずかしい”盾能力”を纏って突進する!
「なにをしておる!!後ろじゃ、鉾木!!」
走り寄る俺に、すぐ目前に迫ったヨーコの叫び声がっ!?
「うぉっ!?」
動けないヨーコの直前まで駆け寄っていた俺は、その勢いを殺せないまま咄嗟に首だけを後ろに振り向かせるのが精一杯だった!
ズザザザァァァーー!!
無理矢理踏みとどまって振り向いた俺!
滑って床と靴の裏が摩擦に削られ悲鳴を上げる!!
――
「拙いのよ、キミは」
既に俺の背後には――
「おぉっ!?」
振り向いた俺の視界には、燃えさかる緑の炎のように!
ウネウネと幾つも湾曲した刀身を持つ魔剣を振りかぶった御前崎 瑞乃の姿!!
ヒュ!
俺の背後、数センチも空けずに忍び寄った美女は刃を振り上げる!!
「お、御前崎 瑞乃ぉぉーー!!」
俺は咄嗟に盾強度を数段も上げながら、身体ごと振り返った!
バッ!
右腕を……
バッ!
左腕を……
ババッ!!
両足を開いて!!
文字通り”大の字”になって!身体全体を使って!
盾人間の鉾木 盾也は背後のヨーコを庇っていた!!。
「これしか出来ない!情けない能力だけど、俺はなぁぁっ!!」
――盾なんだよっ!!
トスッ!
「がっ……は」
次の瞬間……
深緑の凶刃は俺の胸に接触し――
「ほ、鉾木ぃぃぃ!!」
――なんだか遠くで桐堂の叫び声が聞こえる
大げさだな、あの桐堂……
こんなの大丈夫だ。
大丈夫なんだ……
俺の唯一の戦闘系?特技?
とにかく”盾”なら……
この程度の攻撃は……
攻撃は……
「…………」
大の字になって背後のヨーコを庇った俺の視線はゆっくりと降りてゆき……
「あ……あれ?」
俺の胸辺りに深々と刺さった瑞乃の魔剣を凝視して――
「…………なん……で?」
固まっていた。
第34話「盾殺し?」END




