第二十二話「それって”魔剣”の類いじゃない?」
第22話「それって”魔剣”の類いじゃない?」
次々と湧き出てくる人魂の群れ!
桐堂が指さした先には信じられない光景が展開されつつあった。
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン! ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
「た、確かに人魂だ!あ、人魂の群れだが……」
――多すぎる?いや、なんだこれは!?
俺の理解を超える天変地異に!慌てて羽咲の顔を確認する!
「……」
だが羽咲はふるふると首を左右に振って”解らない”と俺に応えた。
――”人狼”や”魚人”の時だって、羽咲が幻獣種を惹きつける?追われる?
”そういう”体質だと言うことは今まで散々に味わってきたが……
いや、体質と言うよりも”聖剣”を無くしたことでそうなったのかもしれない。
「うぅん」
実際のところ俺は――
”今回ばかり”はそれを利用すればカウントを稼ぐこともできるかも?とか邪なことを考えもしていたのだが……
”下級の幻獣種だし、兵士級でも先ず後れを取るようなことはない相手だけど”
”数がね……数が多いと少し手こずるかも?”
俺はファミレスでの羽咲との会話を思い出していた。
――人魂は集団で発生することがあるらしい
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン! ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
「いや!これってもう集団発生というより集落だろ!?」
この数は異常すぎるっ!!
これでは寧ろ俺達が”人魂村”に迷い込んだ異分子のようだ。
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
「盾也くん」
「ああ……」
実際、目前で絶賛増殖中の人魂はこうしている間にも猛烈に数を増やしている。
俺と羽咲は最大限に警戒しつつ頷き合う。
――五十匹?百匹?……いや、もっと!
密集して一塊になってゆく光の玉は……
既にざっと見積もっても数千匹はいるだろう。
密集した光の塊は俺達の目前でモクモクと何メートルもの高さに積み上がっていた。
――だめだ……
暫し様子を見ていた俺は結論を出す。
「いや、これは不味すぎるだろ、撤退を……」
「いっくぞぉぉ!うぉぉぉぉぉーー!!」
――って!?おい!
だが目先の”手柄”に目がくらんだ木偶の坊は、大剣を担いで意気揚々とそこに突っ込んで行ったのだった!!
「やめろ、桐堂っ!!どう考えても対処できる数じゃ無いっ!」
「はっはっはぁぁ!!僕は騎士級だ!人魂などどれだけ集まろうと、あっという間に……」
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
「あっというま……う、うーーん……」
――――――――――バタリ!
「…………おい」
”あっ”という間に……
――倒されるのは桐堂の方かよ!?
「うきゅうぅぅ」
ガタイに似合わぬ可愛らしい断末魔で道路の真ん中に大の字に転がった木偶の坊。
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
そこに追い打ちとばかりに続けて襲いかかろうとする光の群!!
「ちっ!」
俺は人魂の攻撃で倒れて動かなくなった桐堂を回収しようと踏み出していた。
「待って、盾也くん!無闇に近づいたら危ないよっ!」
ガッ!
途端に羽咲が俺の右手を掴んで押しとどめていた。
「いや、しかし……桐堂が……」
「大丈夫、人魂の呪いは動けなくするか大量に浴びても意識を失うだけだから……」
「う……そ、そうか」
俺はその言葉で少し冷静になり、向こうに倒れたままの桐堂の馬鹿面を確認する。
――
――たしかに……気を失っているだけにも見える
「そ、そうか命に別状は無いのか」
「ええ……”たぶん”」
ひとまずホッとした俺の言葉にプラチナブロンドのツインテール美少女は曖昧に微笑んだ。
「……って!!確証なしかよっ!」
「し、仕方ないでしょっ!あんなに大量の人魂発生は聞いたこと無いんだからっ!多分大丈夫、ええと……だ、だい……ジョブ……だよ?」
――これ”ダメかも?”なヤツだぁぁぁぁっ!!
逆ギレ気味な口調の末に翠玉石の瞳を泳がせて、さらには語尾がカタコトになる美少女の言葉には説得力の欠片も無かった。
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
その間にも増殖し続ける人魂達……
――ちっ!結局、俺には今のところ有効な策が無い!
現に羽咲に止められなかったら、あそこに転がった生きる屍は二体になっていただろう。
「ど、どうする?この状況……」
とにかく現状での桐堂の身の安全を辛うじて確認した俺は、再び羽咲に問いかけた。
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
人魂の集団は下から上へ沸き立つように集まり続け、現在に至っては――
ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン! ヴォオォーーン! ヴォヴォーーン!
濛濛とそびえ立つ姿は夏の大空を我が物顔で席巻する積乱雲そのものだ!
「解らないわ……今までだってこんなに沢山の幻獣種が現れた事なんて無かったのに……これもわたしの……」
困惑の影に曇る翠玉石の瞳。
羽咲・ヨーコ・クイーゼルほどの戦士がここまで動揺するとは……
今までの彼女の経験から起こりえなかったこと、それがなにを意味しているのか?
ただ単に危機な相手というのなら魚人の王の方が勝っているのかも知れない。
しかし、彼女はその魚人の王戦でさえ望んで足を踏み入れていた。
その羽咲・ヨーコ・クイーゼルが、こんな表情をすると言うことは……
――状況は相当にヤバイ!!
人魂の異常すぎる大量発生。
それは本当に”ただの自然現象”なのだろうか?
――
「いや、違うな……なにか、きな臭い」
もしかしたら――
研ぎ澄まされた戦士の勘というか、本能で、目前の敵でない、なにか得体の知れないモノに彼女は怯えているのだろうか?
「羽咲……」
――羽咲にはまだ……なにか俺の知らない決定的な秘密があるのだろうか?
「……」
羽咲は目前の敵を牽制しつつも黙ったままだ。
――
「ちっ!このままじゃ」
そうだ、この状況の原因なんて今は関係無い!
そんな余裕も無い!
とにかく今は目前の敵だ!
羽咲が本能的に”なに”に怯えていようと、どういう意味で俺になにか隠していようと、
今の状況を打破しなければ……
――結局は俺達に明日は無いのだ!!
「羽咲、お前、以前に俺に戦いのサポートしろって言ってたよな?」
いつもと雰囲気の違う美少女剣士に俺は出来るだけ普通のテンションで話しかける。
「な、なに?こんな時に……」
当然、彼女は俺の意図を図りかねてそういう顔をするが……
「だ・か・らぁっ!してやるって言ってんだよ、お前のサポート!!俺のスペシャルでエクセレントな対幻想種技能別職種でっ!」
「ちょっ!あなた、それは以前に絶対嫌だって言って……うっ!?」
予想外過ぎただろう言葉に反応する彼女に俺は頷いてみせる。
「で、でも……それでも今の状況は……」
それでも未だ決断できない美少女剣士に俺は――
「……」
――そう、俺は……この幻想職種を使うのは嫌なんだよ!
だってカッコ悪いんだもん!
盾!……”たて?”ってなんだ!?
”盾人間第一号”だって?ふざけんな!
「おれはショッ○カーの下っ端怪人かよぉぉっ!」
「ひゃっ!?な、なに!?」
つい、あふれ出た俺の魂の慟哭に、プラチナブロンドのツインテール美少女は翠玉石の瞳をぱちくりさせてこっちを見ていた。
――
「う……コホン、なんでもない」
――落ち着こう
「すぅーーはぁーー」
俺は深呼吸していったん落ち着く。
「すぅ、はぁ……」
なし崩し的ではあったが……
生来、貧乏性な俺はこんなことも有ろうかと、羽咲にこの依頼をされたときから一応それなりの準備はしてきた。
「すぅぅ……はっ、はっ」
――が、やっぱり実戦はやりたくない
「ふっ、ふっ、はぁぁ……」
――正直に言おう!
怖いんだよ、こわい……
人狼戦や魚人王戦の時はワケのわからないまま無理矢理巻き込まれたが……
そもそも”盾”なんて前代未聞の巫山戯た能力だ。
前例が無いだけになんの保証も無いのだ。
「ふっ、ふっ、はぁぁ……」
――俺は戦士じゃ無いんだ、戦いたくない……嫌だ……
「……ふっ、ふっ……はぁぁ……」
――出来ることなら……な
――
一通り落ち着いた俺は再び美少女剣士を見る。
「言っておくが”盾人間”の報酬は特別だぞ?職人系とかとは別格の能力だからな」
「あの……なんか最後の方って違う呼吸になって……ラマーズ法?」
――んんっ!ゴホン!
「言っておくが”盾人間”の報酬は特別だぞ?職人系とかとは別格の能力だからな」
つまらないツッコミをする美少女に俺は無かったことにして問い直す。
「うぅ…………盾也くん、でも、それは」
俺の態度から本気だと判断したのだろう、些細なことに対するツッコミを諦めた彼女は応じるが……だが彼女は沈んだ表情のまま言葉を切った。
――”盾也くん、でも、それは”
その続きはなんだ?
「……」
”それはキミには無理だよ”
だろうな、きっと。
――だが
「報酬はそうだな、金じゃ無い。命がけだからそれ相応の……」
俺はかまわず続けることにする。
「だからっ!盾也くん、貴方には無理だって……」
「……」
あーあ、言われちゃったよ俺……
まぁ、俺もそう思う。
俺には無理だ、あんな怪物相手にするのは……
そう……
――俺にはなっ!
しかし、どっちにしても俺は一世一代の、なけなしの知恵と勇気を絞り出し、
こんな巫山戯た幻想職種まで使うんだ!
ここは、ちょっとくらい我が儘言ってもいいよなぁ?
「…………」
俺の視線はいつの間にか目前の曇った表情の美少女の顔……
いや、実はもうチョットだけ下に移動する。
――おおぅ!
そこには魅力的な膨らみ……
言わずと知れた男のロマン!魅惑のおっぱ……
「なに?盾也くん」
俺の異変に気付いた美少女の戸惑いを含んだ瞳が見上げてくる。
「うむ、羽咲。言いにくいんだが……俺はお前に代価として求めたいものがある」
「えっ……と?あれ?ええと……」
俺の邪な視線から”なにか”察したのだろうか?
なんだかさっきとは違う戸惑いを見せる少女。
「あ、あのね……あの……間違えていたらゴメンね、あの……いくら盾也くんでも、こんな状況で、そんな不謹慎なっていうか、その、おかしな事は言わないと思うんだけど……」
少し考え込んだり、頭を振ったり、
独りで”そんなことはないはず?” ”でも……”
みたいな葛藤に忙しい美少女。
「なんだ?羽咲。俺は真剣だぞ」
そんな彼女に俺は自信満々な真顔で応える。
「そ、そうだよね!ごめんなさい、じゃあ……」
「真剣に”おっぱい”を触らせてくれ!」
「…………」
――
羽咲は二、三度、翠玉石の瞳を瞬かせ――
そしてその後、右を見て、左を見て……
最後に正面の俺を見た。
――おいおい、隙だらけだぞ?
今、人魂に襲われたらどうすんだ。
「あの、わたし、ちょっと聞き間違いを?」
「両手が良い、両手で五分間はお願いしたい」
即座に答える俺に、今度こそ彼女の翠玉石の瞳が大きく見開かれていた!
バコォォォォ!!
「ぐはっ!」
まさかの”肘打ち”が俺の急所に入る!
「お……おま……鳩尾は普通に……死ぬ……」
ヨロヨロと片膝を着く俺を見下ろす羽咲の表情はすっかり変わっていた。
「わかって言ってるのかしら?セクハラだよ、犯罪だよ、た・て・な・りぃぃ!」
「ぐ……は……」
――たてなり、盾也……
「そ、その呼びかたは……やめ……」
「は?」
「うっ……」
彼女は完全にお怒りモードだった。
――くそ!
だが俺は引き下がらない。
そうだ!俺みたいな一般人がこんな正統派美少女の胸に触れられる機会なんて、
――流行の転生ってヤツを三回くらいしたってあり得ないっ!!
「……ふふ」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「な、なによ……」
その異質な不気味さに流石の英雄級もたじろいでいた。
――この好機!逃すわけには行かないっ!
そう、それが俺の男として……
――否!!漢としての誇りだぁぁっ!!
「おれはな……決意したんだ……だから、もう、人魂も、法律も怖くない!」
「ひ、人として法律は恐れなさい!」
俺に右手を挙げるプラチナブロンドのツインテール美少女。
――ぐ!腕力では適わない!!
彼女の白い拳に怯えながら、だが!それでも自称”漢”は――
「だって、だってぇぇ……お、俺……人生最後の願いかもしれないだろ、だから……自分の心に正直になりたいんだよほぉぉ」
涙目になって懇願する。
「しょ、正直すぎるでしょ!!」
俺は頭を両手で覆った情けない防御姿勢ながらも、同情を誘う子犬の瞳で彼女を見上げる。
「だ、だってぇぇ……」
「う、うぅ」
そう、そこにはもう、”漢”の姿は微塵も無かった。
「あ、あのね、かわいそうなフリしても駄目だから……ちょっと?盾也くん?」
――
「…………ふっ」
そして戸惑う美少女を前に、覆った両腕の隙間から俺はニヤリと――
「っ!?盾也くん?」
口元を綻ばせていた。
「ふふんっ!だいぶ調子が戻ってきたようだな、羽咲・ヨーコ・クイーゼル」
「じゅ、盾也くん?キミ……」
彼女もようやく俺の意図に気づいた様だ。
――彼女をリラックスさせるため、俺が……
”わ・ざ・と!”道化を演じた意味を!
「盾也くん……バカね。でも……でも、やっぱり」
とはいえ、この程度では根本的な気持ちの切り替えは難しい。
状況はなにも変わっちゃいないしな。
「ありがとう、でも無理よ、あの数じゃ……わたしの剣では用意した剣の数じゃ絶対に足らないわ!」
情けない話だが俺の造った剣では彼女の剣撃に対して――
一振りあたりもって数度、残るのはあと八本程度だし……
――だが!
それなら状況を変えられるだけの……
「一振りで複数打撃を打ち込める剣がある。それを上手く使ってアイツの中央にダメージを与えて突破!あとは……桐堂を回収してダッシュでさよならだ!」
「なっ!?」
希望が見えるだけの説得力を提示すれば良い!
「”逃げるが勝ち”っていうだろ?兵法にもちゃんとある」
俺は新たな切り口で彼女の説得を試みる。
とはいえ、偉そうに講釈たれても無学な俺は、それが”どんな兵法書”で”誰が”書いたのかも識る由もないが……
「で、でも……」
「プライドが許さないか?」
もう一押し、俺は確認する。
「ううん……違うの。でも、そんな剣が……あっ!」
そう呟いた彼女は、そこで”なにか”思いついたように、自身の腰に装備していた剣を見ていた。
――ふふん!
そんな彼女に俺はゆっくり頷く。
「”それ”は特別製だ。ただし、”そういう”使い方をしたら一回こっきりだけどな」
「盾也……くん」
俺のどや顔に美少女が釘付けになる。
「ああ、思い切って突っ込め。防御はこの俺にまかせて!」
翠玉石の瞳を見つめ返し、俺は頷いたのだ。
――
「盾也くんって……見かけによらず、フフ……頼りになるね」
そして羽咲の顔に久しぶりに笑顔が戻った。
――なんだか凄く久しぶりに感じる、とびきりの笑顔だ
「ばか、おまえ……”見かけによらず”は余計だろ?ってか、さっきも言ったけど、ちゃんと報酬はもらうからな、そう”特別報酬”だ、ええと……」
「いくよっ!!」
俺が言うより早く、一気に駆け出すプラチナブロンドのツインテール美少女剣士!!
「お、おい!!話を最後まで聞けって!!ってか!それはわざとだろぉぉぉぉ!!」
叫びながらも俺は彼女の後に続いて走り出す!
ザシュッ!
バシュッ!
当然、襲い掛かってくる人魂達を十一番の剣で薙ぎ払い!
彼女は人魂の中央に向けて突進する!
ギィィーーン!
ドカァァァ!
「くっ!」
――ちゃんと……防げるじゃねぇか……俺
物理ダメージも、不安に思っていた呪いさえも弾き返す俺の”盾”能力。
俺は突進する彼女の死角を自身の能力である”盾”でカバーしながら併走していた。
ザシュゥゥ!
ギィィーーーーン!
俺と羽咲の息はピッタリだ!
やっぱり特訓はしとくもんだ……
――
そう、俺達のバッティングセンターでの日々は無駄では無かった!
なんてったって最後はあの投球機械”ショウヘイ”でさえ、俺達二人の敵では無かったのだ!(俺はぶつけられていたのと、彼女は避けていただけだけど)
「いくよ!盾也くん!」
そして俺達は――
既に人塊集団の中心、超至近距離だった!
カシャァァーーン!
俺に合図してから羽咲はボロボロになった十一番を投げ捨て、
右の腰に装備していた”特別製”の柄に左手を添える!
「あ!羽咲!!ちょっとまて!報酬の件を……胸を……おまえの胸をだなぁぁっ!!」
”わざと道化を演じた”とは何処へやら――
決定的な展開で俺は約束の言質を取るために必死だった!
「フフ、きこえなぁぁぁぁい!!」
馬鹿な俺に羽咲はものすごく愉しそうに叫んでから――
シャラン!
”それ”を抜き放った。
「殲滅!」
ズバァァァァァァァァァーー!!
渾身の一撃が!数多の人魂が集う中心に叩き込まれる!!
そして――
ザシュゥ!――ズバァァ!――ドシュッ!――バシュッ!
ズシャッ!――ザシッ!――シュバッ!――ドスッ!――グシャッ!
ズバシャッ!――ズシュゥゥゥー!!!!
瞬時に、同時に、瞬く間に、四方八方!縦横無尽!
矢鱈滅多ら!網の目の如く!
刃は何度も幾重にも斬りつけられ続ける!!
――そう、これは”多重世界の剣”だ
幾つものあるべき、いや、遭ったかもしれない可能性の刃!
「何本もの同じ剣を、幾つもの同じ剣撃を、数多の唯一の世界を重ね合わせ、一瞬だけ同時刻、同じ場所に存在させる可能性の剣……」
――だが、やはり……
”コレ”をいきなり使いこなせるなんて、さすが英雄級だ。
ブシャァァァァァーーーー!!!!
数千、いや、もっともっと多くの人魂が弾け飛び、そして霧散し消えてゆく。
――――カシャァァーーン!
「っ!?」
同時に!羽咲が左手に握っていた剣も、柄と刃の僅かな根元部分を残し砕けて霧散していた。
ズザザァァァーー!
「……」
羽咲は着地した後で俺の方を、まるで”信じられないモノ”を見るような瞳で見ていた。
「羽咲?」
その異変に、俺は恐る恐る訪ねる。
「盾也くん……これって……この剣って……」
戸惑いMAXな美少女剣士の表情に俺は慌てる。
「な、なんだ?どっか不味かったか?」
俺は急に自信が無くなったのだ。
逃げるどころか敵を倒せたのだし、一応問題は無かったはずだが……
「気付いてないの?」
――は?気づいてない?なんのことだ?
「だ・か・らぁ!盾也くん解ってるのっ!?同じ剣から放たれるはずの複数の、未来の剣撃たちを、一瞬だけ同時刻で同じ場所に存在させる剣って……それって……それってもう……」
「は、はぁ?」
羽咲ほどの剣士のうろたえように俺はいまいち要領を得ない。
「あ、あのね……盾也くん。落ち着いて聞いて……あの……」
「?」
「これはね……」
――
そこまで、麗しのプラチナツインテール美少女がそれを口にしようとした時だった……
「余りにも荒削りで未完成甚だしいが……立派な”魔剣”の眷属であるな」
――っ!?
突然割り込むように介入してきた謎の声!
「な、なんだ?一体どこに……」
「……っ」
キョロキョロと見回す俺とは別に羽咲は既に虚空を見上げていた。
――羽咲?
その姿は隙だらけで、
およそ英雄級とは思えない無防備な姿で呆然と立ち尽くしている。
「久しいな、羽咲……息災にしておったか?」
「お、婆……様」
第22話「それって”魔剣”の類いじゃない?」END




