第二十一話「大変多くの皆様のご来場誠にありがとうございます？」
イラスト作成:まんぼう719さん
第21話「大変多くのご来場、誠にありがとうございます？」
バシュッ！シュバ！ザシュッ！
閃く銀閃！霧散する火の玉！
――さすが……流麗かつ極限まで無駄の無い動きだ
「盾也くん、次！」
眼前の人魂を一通り斬り伏せた美少女剣士は、プラチナブロンドのツインテールを靡かせながら此方を顧みる。
「お、応！」
俺は肩に担いだゴルフバッグをガシャリと地面に降ろし、中から一振りの片手剣を抜き出した。
「今度は四番だ！」
そう叫んで、それを投げて渡す。
パシッ！
右手でその四番の片手剣を受け取った少女は、振り返り様それを、
シャラン
抜き放ちって――
ザシュッ！
新たに出現した人魂を容易く斬り伏せる！
「六番！」
ガシュ！、ズバァァ！
「十一番！」
ザシュッ！ シュバッ！
俺から渡される剣を受け取りながら、用を成さなくなった剣を次々と廃棄して新たな剣を閃かせる美少女剣士。
ザシュッ！
――
やがて周囲から人魂は消滅し、幻獣種の気配は無くなっていた。
「さすが英雄級、鮮やかなもんだ」
彼女を称える俺の言葉にプラチナブロンドのツインテ美少女は微笑むと、スッと左手に握った剣を前に差し出した。
「わたし的には、この十一番とさっきの四番が良かったわ、あとは……」
「三番はどうだった？あれは結構、趣向を大胆に変えてみた意欲作なんだが」
ヒュンヒュン！――キン！
十一番の片手剣を数回、虚空に閃かせてから華麗に鞘に収める美少女。
「そうね、興味深いとは思うけれど……ちょっと癖がありすぎるわ」
「わかった。じゃあ四番と十一番は取りあえず次回作の参考にするのが決定だ」
俺は剣士様の中々シビアな感想に頭を掻きつつ、スマートフォンにメモを取る。
――という感じで
俺はこの討魔競争に際して彼女、”羽咲・ヨーコ・クイーゼル”に”十二本”の片手剣、プラス”一本”を用意していた。
それもこれも彼女に依頼された専用剣の製造……
現状よりもっともっと彼女に適する剣を造り上げるためのデータ収集のためだ。
俺の留年阻止が目的の討魔競争ではあるが、せっかく彼女の戦いのデータが取れるのだからこの機会を見逃す手は無い。
俺はそう言って、あらかじめ彼女にこのことを提案していた。
――
「盾也くんって、ホント職人系の仕事には純粋よね」
――純粋？なんかこそばゆいな……
以前にも言ったように俺はただ貧乏性なだけだ。
「そうか？わるいな……なんかデータ取りながらだと戦いにくいか？」
彼女は左右に首を振って微笑む。
――おおぅ！
その動作に太陽の光を浴びて輝くプラチナブロンドがサラサラと緩やかに舞う。
「ううん、わたしも色々と体験できて楽しいよ。それに……えっと……ね」
白い頬を染めて彼女は、はにかみ――
「ああ、そうだ！ナンバー外の、以前にファミレスで渡した剣は取りあえず取っておいてくれよ？あれはもうちょっと特殊な状況で試したいんだ」
「……」
何故だか不満そうな表情で俺を見てくる羽咲。
「どうかしたか？羽咲」
「なんでもない……なんだか盾也くんって、そういう所が駄目なのかもね」
――は？駄目？なにがだ？
俺は多分、変な表情をしていただろう。
「ふぅ、だ・か・らぁ、彼女が出来ないってところ」
――なんですと！彼女！？
そのワードに過敏に反応する俺だが……
――けど……よく考えてみれば……
――いやいや！なんだそりゃ？
――今の会話でどこがそれに関係するんだ？そういうところ？どういうところ？
「む……ううん」
俺は咄嗟に答えがまとまらず、しきりに頭を捻る。
「だ・か・らぁ！”そういうところ”だよ」
彼女は呆れたようにそう言うと、十一番を右手に持ったままで右の腰に携えた剣、件の、以前ファミレスで渡した剣にそっと触れる。
「けど、わかったわ。”これ”は楽しみにとっておくよ」
翠玉石の瞳が優しくそれを見ていた。
「いや、それは良いとして……どういう所が駄目なんだ！具体的に提示を求める！」
そんなことより、俺は必死だ！
こう言っちゃなんだが、既に剣の事なんて二の次になっている。
「…………」
――ってか、教えてくれ！羽咲ちゃんっ！！
俺の今後の女性遍歴にも関わるような大事なのか？
自分で言うのもなんだが、欠点の多い俺は少しでもそれをなんとかして、卒業するまでに彼女のひとりでも……と、
「羽咲！頼む後生だっ！どうすれば俺はモテモテになれるんだっ！」
「別にモテモテなんて言ってないよ、わたし……駄目だとは言ったけど」
「そこだっ！そこをなんとか！」
「えぇ……」
俺のあまりにもな必死さに、若干引き気味であったプラチナブロンドの美少女は――
「あ……フフフ、あのね」
一転、可愛らしい桜色の口元に微笑みを浮かべた。
「お、応っ！」
だが、そんな軽微な変化に今の俺は気づかない……
いや、気づいていたって関係ない！
彼女が！俺の未来のバラ色学園ライフが！その答えにかかっているのだからっ！！
「えっとねぇ……」
「…………ゴクリ」
「あは、教えてあげなぁぁい」
ものすごく愉しそうにそう告げ、プラチナブロンドのツインテ美少女は笑ったのだった。
――
――ひ、非道い……酷すぎるぞ！このプラチナ天使は……
超可愛い美少女剣士にからかわれ、俺は膝から崩れ落ちていた。
――
「いやぁ、どうだい？鉾木。そちらは何匹くらい倒したんだ？」
そこに、絶妙に最悪なタイミングで能天気にご機嫌な桐堂 威風が現れる。
「こっちは……はははっ！まぁ、これを見てみろよ」
そう言って奴が左手で翳すのは――
大会委員会から付与された、手のひらサイズのカウント計だ。
「なんだ、桐堂。その表情なら、よっぽどの成果だったんだろうな？」
ご機嫌斜めの俺がこれ見よがしにハードルを上げて聞いてみても、全くの余裕でその男はカウント計の画面を俺の方に掲げてみせる。
「どうだ！燦然と輝くこの数値！これが神童と誉れ高い最強の戦士たる僕の証明だぁぁっ！」
――
「いや、そんなに天高く掲げたら見えないだろ」
百九十センチを超える木偶の坊が得意げに上げた腕の先はチョモランマの頂よりもたかかった。
「そ……それもそうだな……すまない」
桐堂 威風はスゴスゴと掲げたカウント計を降ろす。
「悪かった、鉾木。これで見えるか？」
言われるがまま、俺の目前にそれを差し出す、申し訳なさそうな男。
――偉そうなのか、殊勝なのか、
なんかホントによく理解らん男だ。
「ど、どうだ？」
捨てられた子猫のような瞳で俺を見てくる大男。
――いや、きっと、ただの馬鹿なんだろう
俺はそんな感想を抱きながら、それを覗きこむ。
「……おお、すごいな、もう八匹も」
桐堂は俺のリアクションに満足そうに何度も頷いた。
「そうだろう！そうだろう！こんな短時間にこれだけの成果、僕だからこその……」
「羽咲、こっちはどれくらいだ？」
一気に意気が上がる男を置いて、俺は振り返って確認した。
「え？えっと……四十三かな？」
「……」
「……」
――
「いや！まて！知らなかったんだ！本当！！」
――本当に感心したんだって、桐堂も口だけじゃないなと……
――で、なんとなく、こっちはどんなもんかと……
「………………」
――駄目だ……引きつった顔で固まっている
この木偶の坊は、生意気な事に意外と繊細なのか？
「面倒臭い……じゃなかった、えっとだな、実験って言うか、俺達は色々試しながらやってたんで、そう！片手間！そんな真剣にやってなかったから数字とかは……」
「片手間で……その数値……」
――うっ！しまった
「いやいや！そうじゃ無くって……って？桐堂？」
「まだだ！タイムリミットはあと二時間ちょっと！それだけあれば……それだけあれば僕だって！あと五十匹はぁぁっ！！」
――いやいや、やる気出すのは良いけど
此奴、誰と競争してるんだよ？俺達はチームだろうに……
「盾也くん、確かに、どーどーくん？の言うことも一理あるかも……去年の優勝者の成績は、確か百六十匹くらいだったから」
そこで話に入ってくるプラチナブロンドのツインテール美少女。
――てか、いい加減に名前くらい憶えてやれ、羽咲さんよ
「……盾也くん？」
「ああ、そうだな」
不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる美少女に、ちょっとだけ馬鹿の大男に感傷的になった俺は曖昧に返事を返す。
――だが、ふむ、なるほど
俺達は現在討伐数が計五十一匹で、ハンデキャップがマイナス四十だから……
実際のカウント数は十一匹ってことになる。
前回の大会データでは、対象の幻獣種も、出場者の顔ぶれも違うから、あくまで参考程度だが……
それでも、あと百五十匹くらいは倒さないと優勝は無いのか？
残り二時間でざっと見積もって、桐堂が五十で羽咲が百以上……
まぁ、桐堂なら”僕が百だっ！”とか言いそうだが……
――正直、少々厳しい数字だな……
「そ、そうだな。必ず優勝しなけりゃってワケじゃ無いけど……」
先生の説明では”実績”って話だから……
「いいや！優勝するっ！ちょうどソコにお誂え向きの”獲物の群れ”があるじゃないか！」
すっかりやる気になった、ちょっと暑苦しい木偶の坊は炎の点った瞳で力強く”ソレ”とやらをズビシィィィ！ってな感じで指さしていた。
――面倒臭い男だな……ほんと
――だいたい”それ”？
――えっと？……”それ”って”どれ”だ？
俺は自分で言っておきながら”それ”とやらがなんなのか？
もう一度、ハリキリ木偶の坊の指先、その方向に目を凝らしてみた。
ヴォオォーーーン！ヴォヴォーーン！
――は？なに！これ？
そこには獲物の群れが！？
――って？一体いつの間に！？
俺は視線を向けたまま固まっていた。
ヴォオォーーーン！ヴォヴォーーン！
ヴォオォーーーン！ヴォヴォーーン！
――ああ、桐堂の言うとおり、確かに人魂だ
――人魂の群れだが……
「だが……これは……」
ヴォオォーーン！ ヴォヴォーーン！ ヴォオォーーン！ ヴォヴォーーン！ ヴォオォーーン！ ヴォヴォーーン！
「ってぇっ！？多すぎんだろっ！！」
第21話「大変多くのご来場、誠にありがとうございます？」END
