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たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
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第二十話「いっしょにお茶を?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第20話「いっしょにお茶を?」


 「……うん」


 頷きはしたが、なんだかモヤモヤしたスッキリしない表情の羽咲(うさぎ)だ。


 「えっと、本題に戻ろう。その人魂(アウム)が今回のターゲットということだが、弱いんだよな?」


 無理矢理感の否めない俺の話題変更。


 だが、彼女の祖母の名前の漢字表記なんて今はいくら考えても解決の仕様が無い。


 「う、うん、一応は下級の幻獣種(げんじゅうしゅ)だし、兵士級(ポーンクラス)でも先ず後れを取るようなことはない相手だけど……」


 「けど?」


 「数がね……数が多いと少し手こずるかも?」


 発光する、いわゆる火の玉系の幻獣種(げんじゅうしゅ)は数多存在する。


 それらを纏めてウィル・オ・ウィスプと呼ぶことが多いのだが、今回はその中でも人魂(アウム)を競技の討伐対象とするとのこと。


 そしてその人魂(アウム)は、羽咲(うさぎ)の話だと集団で発生することがあるらしい。


 ――なるほど、塵も積もれば……か


 「人魂(アウム)って確か触れると精力を奪われるんだったか?」


 「ううん、そう勘違いされていることが多いけど実際には毒ね、痺れるって言うか」


 羽咲(うさぎ)は俺の持つ一般的な知識を否定するように軽く頭を横に振る。


 「毒?……クラゲみたいなものか」


 「うーん、近いものがあるけど、もっと強力な……あれはいわば”呪い”の(たぐ)いだから」


 ――”呪い”


 ――なんだか一気に夏っぽくなってきたなぁ


 「えっとね、身体(からだ)が一定時間動かなくなる呪い……とはいっても、効力はそれを受ける人間の精神力に左右されるから平均以上の能力者なら人魂(アウム)程度の幻獣種(げんじゅうしゅ)の”呪い”は少しくらい受けても支障はないでしょうね」


 「そうなのか……」


 俺は相づちをうちながらも――


 ”半端な能力者の俺ならどうだろう?”


 ”俺の(シールド)は呪いの(たぐ)いも防げるのだろうか?”


 と、新たな疑問が沸いてくるのだった。


 「それより、わたし達は三人パーティーだし、えっと……”なんとか堂”くん?あのひとは騎士級(シュヴァリエクラス)なのでしょ?だったらルール上でハンデキャップが付くから、わたし達は四十体を退治してから以降でないと競技の討伐数にカウントされないわ。そっちの方が結構な問題だと思うけど」


「…………」


 そうだ、そうだった。


 討魔競争(バトルラリー)には、賞金、副賞目当てで多くの参加者が集まる。


 そして、集まる人間は比較的高階級(ランク)の者から複数人のチームまで多種多様だ。


 だからこそ、不公平を無くすためにハンデキャップ制度がある。


 戦士(ソルデア)系なら騎士級(シュヴァリエクラス)以上の参加者にはプラス十体、人数が一人増えるごとにプラス十体と……


 つまり俺達の場合は計四十体の人魂(アウム)を倒してから初めて競技に参加と言うようなルールだ。


 競技エリアが臨海(りんかい)市内、時間制限三時間というルールがある中でのこのハンデは結構厳しいだろう。


 「先生の言う、俺の単位取得条件であるところの”ある程度の実績”というのがどのくらいかは解らんが……まぁ、やるだけやるしかないな」


 自身の留年脱出基準を俺はまるで他人事のように言う。


 「なんか……盾也(じゅんや)くんってそういうところ大雑把だよね」


 そんな俺を見ながら、呆れたように彼女が言った。


 「そうか?」


 「そうだよ、職人(フォルジュ)系の仕事にはあんなに真剣だし、わたしの事でも……あの……な、なんだかんだで結構……その……」


 途中からなんだか頬を染めて、最後の方がごにょごにょとなる少女。


 ――なんだろ?よう分からんな


 「どっちにしても腹ごしらえも済んだし、午後からは本番だ。結局はやるしかないだろ」


 そう言って俺はレシートを持って立ち上がった。


 「……そうね」


 羽咲(うさぎ)は少し消化不良気味の表情で立ち上がる。


 ――まだ、なにか言いたいことがあったのだろうか?


 「ああ、そう言えば、なんか忘れてる気がするなぁ……なんか引っかかるが……ま、大したことじゃ無いだろう」


 俺はソレとは別になんだか頭の隅に引っかかっていたが、思い出せないんだから些末事だろうとアッサリと思考をやめる。


 「大したことだぁぁぁぁっ!!」


 ――!?


 そこで俺と羽咲(うさぎ)の会話に勢いよく突然に割り込んできたのは……


 「……お……おお?」


 なんかギリで見覚えのある男……桐堂(とうどう)(ナニガシ)


 知らない間に俺の隣に見知った木偶(デク)の坊が立っていた。


 「そういえば……」


 そして俺は今思い出した!


 今回は三人パーティーだったと!


 「ほ、鉾木(ほこのき)っ!!ク、クイーゼルさんとお茶するなら、なぜ僕を呼ばないっ!」


 挨拶も無しに泣きそうな顔で抗議してくる男。


 「呼ぶも何も……現地集合、現地解散って言ってあっただろ?」


 俺は昨日伝えていた情報を確認する。


 「ぼ、僕だけ現地集合、現地解散か?……僕だけ……」


 「……」


 ――う!とくに考えてなかったが……


 なんか、この男の落ち込み様を見ていると今更になって罪悪感がチクチクと……


 「いや、偶然だって!偶然!たまたま羽咲(うさぎ)と会ったから、そんで開幕までまだ時間があったんで先に腹ごしらえに付き合ってもらっただけだって」


 嘘だ……


 実際は朝に羽咲(うさぎ)が俺の家まで迎えに来た……


 いや、だって、そんなの俺も知らなかったし!


 その流れでここに来たわけだし!


 大体、ホントのこと言ったら余計ややこしそうだろ?


 「それだけか……」


 恨めしそうなジト目で見てくる桐堂(とうどう) 威風(いふう)


 「あ、ああ、それだけ……」


 「あれ?”どーどー”くん?、貴方もここで休憩?そうだ!GEST(ここ)ってすっごく大きなパフェがあるのよ、盾也(じゅんや)くんと二人がかりでやっとだったんだから」


 変なタイミングで会話に介入する無神経美少女……


 ――くっ!バカっ、空気読めよっ!


 「…………」


 ――ほらみろ!桐堂(とうどう)のやつ……情けない顔で固まっちまった


 いや、俺は悪くないぞ!


 だいたい飯の前に無理矢理化け物級のパフェ食わされる身になってみろ!


 ある意味拷問だぞ、”どーどー”くんよ。


 「…………」


 「あ、あれだ!桐堂(とうどう)、お前を誘っても良かったんだがな……」


 「…………だが……なんだ?」


 落ち込みきっていた顔を上げ、桐堂(とうどう) 威風(いふう)はギロリと俺を睨む。


 「だが……そうすると、協力してもらう手前、お前にも奢る必要があるだろ?誰が好きこのんで男に奢るかって話だよ」


 ――お前も忙しいだろうから、そこは控えたんだ


 「だいたい、もともと俺が頼んだ訳じゃないしなぁ」


 ――経緯はどうあれ、感謝はしてるんだぜ!


 「……」


 「……」


 何故だか変な顔で俺を見つめる桐堂(とうどう) 威風(いふう)


 ――あれ?変なヤツだな……


 「キミ……まさかとは思うが……考えていることと、口に出していることが逆になっていないか?」


 「………………………………あっ!」


 俺の反応を確認して、心底呆れた顔で俺を睨む桐堂(とうどう)


 ――う!やば……


 「てへっ!」


 「巫山戯(ふざけ)ているのかっ!キミはっ!!」


 俺の会心の笑顔……


 ”ドジッちゃった、でもこの笑顔で許してね!”


 が全く通用しない桐堂(とうどう) 威風(いふう)という、バカで面白いがバカ故に面白みの無い男。


 「いや、だってなぁ?羽咲(うさぎ)……」


 俺はこの必殺技、”てへ”の元祖使い手であり師匠?でもある美少女を顧みた。


 ――


 「……っていない!!放置かよ!」


 ソコには既にプラチナブロンドが美しいツインテール美少女の姿は無かった。


 「ク、クイーゼルさーーん!!僕とも!僕ともブレークタイムをぉぉっ!!」


 俺達が不毛なやり取りを続けている間に姿を消した美少女。


 っていうか、単に先に会場に向かったのだろう……冷たい。


 「…………」


 ――いや、確かに


 時間には多少余裕があるものの、こんな無駄な事をしていても仕方が無い。


 ――俺も向かうか……


 「嗚呼(ああ)……クイーゼルさん……なぜ……」


 「…………」


 振り返った俺の目に入る男の姿は――


 彼女の座っていた席に腰を下ろし項垂(うなだ)れて小さくなっていた。


 普段の無駄に偉そうな態度と百九十センチを超える偉丈夫だけに、その姿はなんとも言えぬ寂しさを感じさせる。


 ――


 「……ほら、取りあえず茶でも飲むか?奢ってやるよ、俺も付き合うし」


 なんだかいたたまれない気持ちになった俺は、自然とそう声をかけていたのだ。


 「じゅ、ジュンジュン……」


 ――だ・か・らぁ!


 ジュンジュンはやめろ!ジュンジュンは……


 こうして俺は暫くの間、仕方なく桐堂(とうどう)と不毛なブレークタイムを過ごしたのだった……


 「うぷっ!」


 戦う前にこんな喰って大丈夫か?……俺


第20話「いっしょにお茶を?」END

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