第十五話「ご褒美のじかんよ?」
第15話「ご褒美の時間よ?」
「それでですね、さっきも言ったように基本操作はスマートフォンのタッチパネルのような感覚で……」
「ふぅん、なるほど」
俺の説明に年上美女が悩ましい紅い唇に人差し指を当てて頷く。
「こ、これで一通り説明は終わりましたが、なにか質問は?」
ワンレングスの黒髪ロングヘア、前髪を掻き上げる仕草が気怠げで色っぽい、なんとも、曰くありげな美女は――
俺のクラス担任だった。
「…………」
問いかける俺に、美女担任はどこか愉しそうに俺の顔を凝視してくる。
――うう……ほんとに教師かよ、いや!教師だからこそドキドキするぅ!
その時の俺は、所有する”ムフフな秘蔵品”の中に教師モノはあっただろうかと――
帰宅後の予定を邪推してしまっていた。
「その鼻の絆創膏、というか、ボクシングの試合でもしてきたのかしら?貴方は」
そんな不埒な男子高校生を前に、けしからん女教師は微笑みを浮かべ聞いて来るも、
――俺は質問があるかと聞いたが、プライベートの質問は受け付けていない!
「か、肝心な所はですね、九つの魔法珠を同時に制御するという、正直、俺も聞いたことが無い離れ業が出来るのかというところですが……先生は本当にそれが?」
故にその質問を無視して話を進める俺。
「ふぅ……ざぁんねん」
美人担任は残念そうに溜息を吐くと、一歩こちらに歩み寄る。
――う、うわぁぁ
途端に甘い香り……
羽咲のほのかに香るものとも違う!もっと強烈な……
しかし人工的な香水などのようにドキツい感じのしない……
いわゆるフェロモンのような香りが俺の鼻を、いや、脳をガンガンと揺らしていた。
「ねぇ?ほ・こ・の・き・くぅん」
「う……ひゃいっ!?」
超至近で俺を見上げる少し下がり気味の色っぽい瞳。
妖艶すぎる大人の女性の色香に、俺は奇声のような返事を口にして直ぐに目を逸らす。
――あ?
――おおぉぉっ!!
だが!思わず目を伏せた俺の視線の先には……
「な……なな」
大胆に開いた純白のブラウスから覗く、豊かな谷間が……
「……くすっ」
すぐに女性の紅い唇の端が少し上がり、俺の反応を愉しむように綻ぶ。 ――くっ!不味い不味い……
これではまるで余裕の無い童貞くんだ!
いや、実際、童貞くんだけど……
「じゃっ!じゃあ!!実際に試験運用もかねて、ちょっと試してみましょうかっ!?」
俺は見事な果実から視線を離せないままでも、口先だけはなんとか体裁を保って……
「た・め・す・のぉ?」
――ぐはぁぁっ!
ま、マジでこれで教師かよ……恐ろしい……
「ま、魔法珠をです!!試しましょう!さぁっ!」
俺の声は明らかにうわずっていた。
「うふふ、そうね。魔法珠をね」
――完全に遊ばれているな…………俺
いや、考えようによっては、これはこれで……
「さ、さっきも言いましたが、今回俺が作った魔法珠の肝の部分、九つの魔法珠を同時に制御するという、離れ業が必要ですが……せ、先生は本当にそれが?」
「面白いわ、私の魔導士としての能力を見てみたいのね?ほ・こ・の・き・くん、わぁ」
そう言って俺の手にあった魔法珠をそっと手に取る美女。
――くっ!トコトン弄んで愉しんでるな、この悪戯女教師め
――
ブンッ
俺がドギマギとしている間にも――
ソフトボールくらいの金属製の珠、鏡のように磨かれた表面で見た目ほど重量を伴わないそれは、美女の白い手のひらの上から数十センチ程も静かに浮き上がる。
「……」
彼女が魔導士としての魔力を魔法珠に注ぎ込み、起動させたのだ。
「展開」
シュォォーーン
美女担任の白い顔前に浮遊していた金属の珠は小刻みに振動したかと思うと、輪郭を暈けさせながら……
ブゥンーーブゥンーーブゥン
そのまま三個に分裂し、それが六個に、最終的に九個になった。
「……」
――俺の設計通りの動きだ、さすが……
シャラララーー!
そして、それら九個の珠は静かに回転し、妖艶な彼女の顔前に時計の文字盤のように正円状に配置される。
「……すごい」
俺が作ったものではあるが……
実際に九つの魔法珠を同時に制御するなんて魔力を見せつけられ、俺は改めて目前の美女……
俺のクラス担任であるところの、
”御前崎 瑞乃”の能力の高さに感心と感動を得ていた。
「九つもの魔法珠を同時に、しかもあんな綺麗に扱えるなんて……先生は魔導士としてかなりの高階級なんですね」
苦労して作った魔法珠がこうも綺麗に稼働する様に俺はもう夢中だ。
ヒュ――――――フォン!フォン!フォン!
九つの魔法珠が正円の外周に沿って回転し始め、廻るそれら円の内側、円盤状の空間が白い半透明に光を放つ。
――それはまるで丸くて薄いガラス
御前崎 瑞乃の前に展開する光りの盾のよう……
そう、俺からは透明度の高い磨りガラス越しに彼女を見ているような感じだった。
フォン!フォン!フォン!
回転する九つの魔法珠のうち、三つにうっすらと更なる光が灯る。
一つは赤。
一つは白。
一つは黄色。
シュ――――――オン
そして彼女はそのうち赤い光を放つ魔法珠に右手の人差し指を翳し、それを円の中央までスライドさせる仕草を見せる。
ブォォォン!
赤い魔法珠は彼女の白い指に吸い付いたかのように光りの盾の中央に移動し、残った八つの珠が回転する円の中心で一際強く輝いた!
「槍炎!」
ズバァァァァァァーーーーーーーー!!!!
魔法珠の創り出したガラスの様な光りの円盤、
”魔法円”から炎の槍が射出され!
ーーーーーーバシュ!!
弧を描くように天空まで飛んでそれは霧散した!
「す、すごい!」
俺は”それ”が天に描いた軌跡を、ポカンと口を開けて見送ったまま固まってしまう。
――赤の色は炎の魔力
彼女が魔法珠に与えた属性だ。
だとすると残りの二つ、白は光、黄色は雷ってところだろうか?
つまり、御前崎 瑞乃は少なくとも三系統の魔力を同時に操る事ができるということ。
俺の考案した”九法正珠”は属性を利用した魔法攻撃を行うことが出来る。
そして、先ほどの操作で中央に複数の魔法珠を混成させれば――
複合的でもっと複雑かつ強力な魔力攻撃を発揮できる…………はずだ。
――”九法正珠”
なんて聞いたこともない高難易度の以来かと思ったが、こうしてその可能性を目の当たりにさせられると武具職人としてワクワクが止まらない。
「…………」
御前崎 瑞乃、彼女が俺に依頼してきた九法正珠……
――しかし、まさか九つの属性を全て行使できるというのか?
いや、俺ごときでは聞いたことが無い規模の魔術技術だが……
「鉾木くん、いいわ。凄く良いできだわ」
シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!シュバ!
彼女は満足そうにそう微笑み、展開していた魔法珠を立て続けに仕舞うと……
そのまま俺に密着してきた!
「へっ!?な!なにおほぉぉぉっ!!」
「あら、意外……というより、そのまんまの可愛い反応ね」
悪戯っぽく微笑みながら紅い口紅をチロリと舐める。
――ドクンッ!
俺の心臓は体験したことの無い状況と混乱で大きく跳ねた!
「せ、先生!あの……では!ほ、報酬を……」
瞬時にカチンコチンになる身体!
俺はなんとか理性の盾でその衝動をしのいで空気を変える努力をする。
「ええ、報酬は既にあなたの口座に振り込んであるわ、後で確認したら?」
「…………は、はい」
俺はそう言われ、色々と焦りながらもポケットに手を突っ込むとスマートフォンで確認しようとする。
「え、ええと……」
一連の動きが大昔のロボットのようにぎこちなく、我ながら経験値の低さが露見されて非常にみっともない。
パシッ!
「え?」
突然、ポケットに突っ込んだ俺の手首を握る彼女の白い手。
「だ・か・らぁ、”後で”確認してって言ったでしょ?」
密着した俺との肉圧で形を変える瑞乃の豊かな双房……
「あ、あのっ!!せ、先生!?」
「なあに?」
硬直した俺に向け至近距離から見上げてくる、少し下がり気味の色っぽい瞳。
続けて彼女は耳元でこう囁いた。
「今はあまりに良いものを用意してくれた貴方に、ご褒美の時間よ」
――ま、本気でっ!!
マジでこんな!
”なんとかレッスン”みたいなことがあり得るのかっ!?
因みに……
”なんとかレッスン”とは、昔見た映画で……
色気たっぷり家庭教師の美女がウブな少年になんていうか……
ムフフなレッスンをしてゆく、ちょっと大人な映画……って!?わわっ!
「くっ……ううう」
そんなことを考えている間にも瑞乃の白い両腕が俺の首に巻き付いて、ボリュームたっぷりの双房がさらに俺に密着して潰れる……
その感触の……感触たるや……
「あ、ああ……」
――”ほんとう?盾也くんがそう言うなら……信じるけど……”
「うっ!」
何故か、その瞬間……
羽咲の翠玉石が澄んだ光を放ちながら此方を見据えていたのを思い出す。
「…………」
――ご、ゴメンなさい!!あの時はパンツ見たのに嘘ついてごめんなさいっ!
俺の頭にはあの時の――
羽咲の表情と言葉が浮かんでいたのだった。
「……う……あ……見ました……はい、結構しっかりと……すみません……う……はい……結構なお点前で……」
「……?」
急に上の空で、ブツブツと呟く俺を不審げに見上げる瑞乃先生。
「お点前?お茶?ほこのき……くん?」
――お、おおっ!!
危なかった!!
このまま流されるまま、危うく童貞喪失するところだった!!
と、冷静に見れば、全然そこまでではないのだが、童貞野郎の俺にはそんな高難易度な判断が出来るはずも無く……
「あーーーーー!!忘れてたっ!忘れて!思い出しました!!俺はこれから、ちょっと約束があったんですぅっ!!!すみません!!先生!続きはまた今度と言うことでっ!!」
ザッ!
言うが早く、巻き付いた腕からするりとウナギのように抜け出た俺は――
「ちょ、ちょっと……ほこのき……」
「では、拙者はこれにてっ!!」
一目散にその場を後にしたのだった。
第15話「ご褒美の時間よ?」END




