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たてたてヨコヨコ。.  作者: ひろすけほー
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第十四話「ラッキーカラーは勿忘草?」

挿絵(By みてみん)


イラスト作成:まんぼう719さん

第14話「ラッキーカラーは勿忘草?」


 結局――


 その日は直帰して休養のはずが……


 何故だか俺は今日も”そこ”に居た。


 ――”成緒葉(なおば)バッティングセンター”


 俺が最近、特訓のために貸し切っている場所だ。


 昔ここでバイトをしていた(よしみ)でオーナーに割安で貸してもらっている。


 いつもは客の少ない時間帯を選んでそうしているのだが……


 今日は特別に許可をもらった。


 ――それもこれも……


 「連携?」


 プラチナツインテールのお姫様にはバッティングセンターというモノが珍しいのか?


 その美少女は立てかけてあるバットやらヘルメットやらを物色しつつも俺の言葉に振り返り聞き返してくる。


 「そうだ。せっかくだし、ちょうど連携を試してみたかったんだよ」


 俺はあの後、彼女と共にこのバッティングセンターに移動した。


 それは――


 お嬢様学校の希なる美少女に何故か入り浸られる凡庸な学生という、


 まるで少年漫画の主人公のような状況の俺に対しての嫉妬の集中砲火に耐えきれず、俺が場所を移したというのもあるが……


 せっかくなので特訓の役にも立つだろうと効率も考えたのだ。


 「わたしは”コレ”があれば……」


 そんな俺の考えを察することも無く、そう言って金属製のコの字型”取手”を鞄から取り出す(くだん)の美少女。


 「毎回そんな”物騒なモノ”使われたら俺の身体(からだ)がもたないだろうがっ!!」


 俺は怒鳴ってそれを取り上げようとするが、


 羽咲(うさぎ)はその手をヒョイと躱して、それをもとの鞄の中に戻した。


 「……ちっ!」


 「で、連携って?」


 不満いっぱいな目で少女を睨む俺を受け流し、彼女は話の内容を再確認してくる。


 「…………ああ、さっき言ったとおり、俺はこのバッティングセンターを借り切って何日か前から”ある”特訓をしていたんだが、それを今日はお前と二人でしようと思う」


 ここに来る道すがら、俺はここ数日おこなってきた俺のプラスアルファの日課――


 羽咲(うさぎ)・ヨーコ・クイーゼルとの連携を想定した特訓の事を既に簡単には話していた。


 「……」


 なにかを考えているような感じで黙る少女。


 確かに、戦士(ソルデア)系でも最高峰の英雄級(ロワクラス)である羽咲(うさぎ)に俺のような一介の職人(フォルジュ)……


 いや、それも実際はまがい物だが……


 とにかく!そんな俺が戦闘を想定した連携なんて、烏滸(おこ)がましいにもほどがあるだろうが……


 無論、俺だって好き好んでこんなことをやっているわけでは無い。


 だが、この前の魚人戦(こと)や今の羽咲(うさぎ)の状況を考えると……


 「……」


 いや、別に心配してるんじゃ無いぞっ!


 あくまで俺の安全のためだ!


 俺は貧乏性なんだよ!


 「あ、あれだよ、ほら、連携が取れた方がいざという時に戦いやすいし、被害も少なくて済むだろう?」


 ――そうだ、被害が少なくて済む


 ――主に俺のな……


 「それって……飛んでくるボールを避けるとか?」


 暫く俺を観察しているようだった翠玉石(エメラルド)の瞳が、一度だけ奥の方に設置された投球機械(ピッチングマシーン)に移って戻ってくる。


 「お、察しが良いな。だが避けるんじゃ無い、俺がそれを体で受けるよう動くから、羽咲(おまえ)はその俺の影に上手く入って避けられるようにする!つまり二人の動きを阿吽(あうん)の呼吸で合わせるための特訓だ!」


 「……」


 「”阿吽(あうん)”だぞ、”あうん”……”あはんっ!”じゃないぞ!」


 俺の説明をなんだか難しい表情(かお)で聞く美少女。


 ――く!もしや……和ませようと付け足した少々の下ネタが不評だったか?


 急に不安になるヘタレた俺だが直ぐに聞き直す。


 「どうした?なんか不都合が?」


 実際、そんなに難解な事は言ってないつもりだが……


 「現在(いま)まで……ずっと独りでやってたの?それ」


 俺の心配をよそに――


 羽咲(うさぎ)は何故だか複雑な表情で聞いてくる。


 「ん?……ああ、まあ……な」


 ――なんなんだ、一体?


 怒っているのとも少し違う様だし……


 少し困惑している俺に彼女はさらに聞いてくる。


 「怖くないの?あの……結構なスピードだし、痛い……とか?」


 「…………」


 ――ああ、なんだ


 彼女は心配してくれていたのか。


 なんか今更な気がしないでも無いが……


 多分、そういうことだろう。


 俺は少々意外な言葉に驚きつつも、ちょっとだけ頬が緩んでしまう。


 「まぁ、それも含めての特訓だよ。肝心な時に怖じ気づいてちゃ”(シールド)”の意味ないだろ?」


 「…………」


 それでも心配そうな翠玉石(エメラルド)の瞳。


 「いや、そんな大層なもんじゃないって!今までだって一日数回、二、三日の間に軽くやってただけだから……」


 勿論、嘘だ。


 実際は結構やり込んであるし、防御能力を押さえて行わないと度胸の訓練にもならない。


 実戦を想定すれば――


 ”その痛み”の中での集中力維持こそが克服すべきことでもあるからだ。


 「…………うそばっかり」


 彼女の翠玉石(エメラルド)の瞳は、慌てた俺の袖の裾からチラリと覗いて見えてしまっていたアザに向けられていた。


 「さ、さあ、始めるぞ!時間が勿体ない!」


 俺はそう言って両腕をあげて構える。


 もちろん、さりげなく袖の裾を直しながらだ。


 格好をつけるつもりは無いが……なんだかこういう空気は苦手だ。


 「…………」


 「なんだ?怖じ気づいたのか?」


 「ううん」


 彼女はキラキラと輝く二本の目映いプラチナを左右に泳がせて首を振る。


 「なんだか少しだけ、ほんの少しだけだよ……グッと来ちゃっただけ」


 そして、少し”はにかんで”微笑む朱色の頬の美少女は――


 今まででもダントツで、とびきり可愛かった。


 「う、羽咲(うさぎ)……」


 その光景に、ついついクラクラとなって彼女に歩み寄る俺。


 「あ、でも”あはんっ!”は無いよね、”あはんっ!”は……寒すぎっ!」


 「う!…………て、てめっ!この(あま)っ!」


 瞬間、真っ赤な顔になった俺は違う意味で彼女にズンズンと歩み寄るが――


 「きゃぁ!”寒すぎ魔人”の下品が感染(うつ)るうぅっ!!」


 羽咲(うさぎ)は白い指で上品に桜色の唇を押さえ、クスクスと笑いながらそれをヒラリと躱す。


 「てめっ!こら!そんなもん感染(うつ)るかっ!てか!俺は”寒すぎ魔人”じゃねぇっ!!」


 そのまま彼女は左右のプラチナブロンドとプリーツスカートの裾を揺らせて、


 俺に背を向け――


 「はいはい、わかりました」


 照れ隠しのためだろうか?そこにあった投球機械(ピッチングマシーン)の遠隔用制御パネルにあるスイッチを押した。


 ガチャリ!


 「おいおい、始めるときはちゃんと合図しない……と!?」


 俺はそう言って彼女が押したスイッチをなんとなく見てみる。


 ――


 ヴィィィィィーーーーーン


 少し向こうの方で、ゆっくりと起動する投球機械(ピッチングマシン)の動作音。


 ――あれ?


 「いや……ちょっと待て!そ、それはショウヘ……」


 ヴィィィィ――――――――バシュッ!!


 「!」


 当たり前だが、俺の言葉も制止も意味なく放たれる球!


 ゴゥォォォォォォォォォォォォォーーーーーー!


 うなりを上げてこちらに飛んでくる尋常じゃ無い剛速球!


 ゴゥォォォォォォォォォォォォォーーーーーー!


 「わわっ!」


 ――――ガツンッ!!


 「あうっ!」


 ――


 ――えーーと?


 「…………無事だ」


 ――そう”俺”は無事だ


 だって……思わず躱しちゃったから。


 「…………」


 自分から特訓って言っておいて、あんな格好つけといて……


 ”それも含めての特訓だよ、肝心なとき怖じ気づいてちゃ”(シールド)”の意味ないだろ?”


 とか――


 ”その痛み”の中での集中力維持こそが克服すべきことでもあるからだ”


 とか――


 ――って、…………駄目じゃんっ!!


 そう、俺は思わず、いや!ほんと反射的に!


 そのボールを躱してしまっていたのだ。


 「……」


 そして――


 あの音。


 ”ガツンッ!”


 さらには……


 ”あうっ!?”


 あの声は……


 俺は恐る恐る後ろを振り向く……


 ――


 「…………だよね」


 ――ああ、やっちまった


 俺の後ろで大の字に倒れるプラチナブロンドのツインテ美少女。


 端正な顔に装備された美しい翠玉石(エメラルド)の瞳を漫画のようなバッテンに変え、


 彼女は完全に前後不覚になっていたのだ。


 「こ、これは……どうする?いや、どうすれば……」


 いや、実際は大丈夫なんだよ、


 どの機械(マシン)も初球は大丈夫なようにゴムボールを……


 ――チラリ


 無防備に投げ出された可憐な美少女の華奢な四肢。


 普段の彼女では絶対にあり得ない、あられもなく開いた足の根元までまくれ上がった清楚なプリーツスカートについ目がいってしまう俺。


 「…………」


 美しい曲線――


 至高の脚線美を誇る彼女の肌は粉雪のように肌理(きめ)が細かく、


 純潔の白に輝いているようだ。


 その芸術品を前に、俺の視線は自然と……


 「……ぇ……と……」


 無粋にも御御足(おみあし)の爪先から徐々に上へと移動してゆく……


 ――くっ!


 わかってる!わかってるよ!


 そんな状況じゃ無いんだって!……でも!


 「う、うわぁぁ……」


 露わになった白い太もも……そして、そして……


 「…………超えっちだ」


 ――む、無理だろ?


 そう、この衝動を抑えるには俺は……


 俺は……正常(ありきたり)な男すぎる。


 「…………」


 誰が見ているわけでも無いのに、遠慮がちにチラリチラリと視線をやっては外す不審者な俺。


 可愛らしい膝小僧からふるふるとした白い太もも……


 無粋にも徐々に上がって行く俺の視線は……


 「おっ!おぉぉーーーー!!」


 捲れ上がったあられも無いプリーツスカートから覗くその至宝の――


 上品なレースのあしらわれた極上の布地。


 「な、なんていうか……水色……か。これは……なかなか」


 葛藤の末に結局、俺は天使のような美少女の悪魔の誘惑に抗いきれず、


 ”それ”を網膜に焼き付けていた。


 「うう……生きてて良かった」


 ――淡い水色……


 いや、この芸術品にはもっと”しっくり”くる色名があったような……


 「……」


 所有者の羽咲(かのじょ)のように可憐で、明るい青色……


 そうだ!たしか……


 ――”勿忘草(わすれなぐさ)


 俺の記憶が確かならば……


 異国の昔話で、恋人に対し、


 ”私を忘れないで”


 と送った言葉がその花名の由来だとか。


 異国の、それは確かファンデンベルグ帝国に伝わる故事であったはずだし、


 彼女にピッタリじゃ無いか!


 「ふむ……やるな羽咲(うさぎ)、伊達に”ツインテール美少女”を名乗ってはいない」


 俺は妙なところで納得してしまい、うんうんと頷いていた。


 当然、羽咲(うさぎ)・ヨーコ=クイーゼル嬢はそんな俗な呼称を名乗った事はない。


 そして勿論!


 俺の視線はそのままだ!!


 ――


 「……う……ううん」


 ――うわっ!?


 そうこうしているうちにプラチナブロンドの見目麗しき眠り姫の唇から吐息とも言葉とも取れるものが漏れ――


 ズザザッ!


 俺は飛び退くようにそこから離れて、


 「……」


 わざとらしく後ろを向いて誤魔化す!


 「あれ?……わたし……痛っ!」


 目覚めた羽咲(うさぎ)は、疼くであろう可愛らしい鼻を両手で覆っていた。


 「なんで?………………っっ!!」


 ババッ!


 続いて、風通しの良いだろう下半身の状況に気づいた彼女は、


 なんとも神がかり的なスピードでそれを元に戻す。


 「…………」


 なんだか背中にとてつもなく冷たい視線を感じる。


 ――


 ――いや、まぁ理由は明白だが……


 「お、おう!だ、大丈夫か?”すぐ”に目が覚めて良かったよ。ほんと、”俺が駆け寄るより早く目が覚めて”ホントに……”俺が近くに駆け寄るより早く目が覚めて”ホントにほんとぉに!良かったなぁぁ」


 「…………」


 あからさまに向けられる彼女の白い視線。


 こ、これは流石に……白々しすぎたか!?


 鉾木(ほこのき) 盾也(じゅんや)の行動は全てに置いて不自然、いや不審者そのものだったのだ。


 「他に……言いたいこと……ある?」


 鼻をさすりながら少女はゆっくりと立ち上がる。


 「いや、違うんだ!!その……言い訳するようだけど!羽咲(うさぎ)が違う方のスイッチを押したんで、つい!そう!咄嗟に避けてしまったというか……だか……」


 「…………」


 「いや!だって!あれはちょっとなぁ?”ショウヘイ”だぞ!!”ショウヘイ”!!いきなり百六十キロ以上の剛速球は無理があるって!!」


 「…………」


 「あれだ!その、最初の一球目はどの機械(マシン)も調子をつけるように、念のためどの機械(マシン)もゴムボールをセットしてあったんだ、だからダメージは殆ど無いだろ?良かった良かった……」


 俺の言っていることは本当で、確かに初級は怪我をするようなことは無い。


 だが、なにしろあのスピードだ。


 さらに彼女にとっては不意打ち!いきなりだと一瞬、気を失うのも無理は無いだろう。


 「そのことは……いいわ。わたしも迂闊だったし、問題は……」


 耳まで真っ赤にしてジト眼で俺を睨む羽咲(うさぎ)


 両手は無意識なのか、スカートの裾を押さえている。


 「いや!いや!いや!いや!見てない!見てないって!!あんな一大事にそんな余裕無いって!!」


 俺はちょっと常識外れなほどのオーバーアクションで両手を顔の前でブンブンと交差させながら必死に弁解する!


 「……………………ほんとう?」


 「本気(マジ)だって!」


 「じゅ、盾也(じゅんや)くんがそう言うなら……信じるけどぉ……」


 羽咲(うさぎ)翠玉石(エメラルド)が、少々潤みながら澄んだ光を放ち此方(こちら)を見据える。


 「神に誓って!」


 ――ゴメンなさい


 純真無垢な少女の信頼に、罪悪感で俺は心の中でだけ謝罪する。


 「……」


 「……」


 ――あれ?


 なんか視線がちょっと、なんていうか……


 「盾也(じゅんや)くん。あなたの今日のラッキーカラーは?」


 「へ?え?ラッキーカラー?……なに?突然……」


 ――なんだ?なんだ?この状況で占い?


 状況も相まって俺は大いに混乱していた。


 「…………」


 「そう、えっと、色……色ね、ああ、そうそう勿忘草(わすれなぐさ)かなぁぁ?」


 「勿忘草(わすれなぐさ)?」


 「ああ、(ブルー)系のことだよ。明るい青色、あ・お・い・ろ!」


 故に俺はごく自然に、超ラッキーだった色を得意げに告げる。


 「…………」


 俺の答えにプラチナブロンドのツインテール美少女の整った眉は――


 ピクピクと引き攣っていた。


 ――


 「………………あ!?」


 間抜けな俺はそれに一呼吸置いて気付く。


 「”あっ!?”じゃ、なぁぁーーーーいっ!!」


 ガコォォ!


 彼女の後ろに”世界の風格ワールド・チャンピオン”が透けて見えるような見事な左ストレート!!


 俺はクルリと白目を剥いてゆっくりとマットに――


 もとい、コンクリの地面に沈む。


 「し、信じるって……おまえ言った……ゆ、誘導尋問は……刑事訴訟法では禁止……され……て……いる」


 ――――ドサリッ!


 そうして俺の意識は、そこで完全に途絶えたのだった。


第14話「ラッキーカラーは勿忘草?」END

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