第十二話「勘弁してちょんまげ?」
第12話「勘弁してちょんまげ?」
ギシャァァーーー!
「ちっ!」
闇が晴れるや否や、図体の割にせっかちな怪物はこちらに向けて突進してくる!
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
怪物の居たであろう周辺は――
壊れた車や道路標識、拉げたガードレールなど、残骸の山……
手当たり次第に攻撃していたのだろう。
自分の吐いた墨……
――目くらましで自分自身も視界が無くなるなんて、所詮は魚か……
「ふ、頭悪いな、魚くん」
そして、目をこらして確認してみた巨体の頭上、
頭のてっぺん辺りに……
――おっ!
確かに”なにか”生えている。
一見して角のようではあるが、そのシルエットは横棒の短い十字架のようにも見える。
――アレが剣なら、鍔がちょうどそれに該当するのだろうけど……
「なんだか”ちょんまげ”みたいな事になってるなぁ」
俺は素直な感想を洩らしていた。
見上げる高さの頭上、さらに鰭やら鱗やらでハッキリとまでは見えないが……
刺さっている場所がな、ちょっと……
――”ちょんまげ魚人”
「ぷっ!なんてシュールな」
現状の危機感を払拭してしまう程の、改めて確認する怪物の間抜けな見た目に半笑いの俺。
「真面目にしてっ!失敗は許されないんだから!」
それを隣の美少女が睨んでいた。
「う……ごめんなさい」
プラチナツインテール美少女のごもっともな意見に俺はシュンとして謝る。
ドシャァァーー!
ドドドドドドドッ!!
「おおっ!?」
そうだ!今はそれどころじゃ無いんだった!
――――ブォォッ!!
地響きをまき散らして突進してくる巨体の後ろから――
蛇のように”うねる”肉塊が、本体よりいち早く俺達を襲った!
「ちぃっ!」
――さっき喰らったのは”これ”だったのか!
暗闇の中、俺の腹に直撃した”なにか”
巨大でなんだかヌメヌメしたモノに覆われた図太い肉塊……
大蛇の如き凶悪な”尻尾”が俺達二人を襲う!!
ガキィィィーーン!
が――
流石は美少女剣士、羽咲はそれを剣でいなしていた。
ズシャァァーーーン!!
見事に弾かれて明後日の方向に進路を変える怪物の巨大な尻尾。
「すげぇぇっ!!」
俺が為す術無く吹き飛ばされた一撃を、こんな華奢な身体で弾き返すなんて……
「盾也くん、お願い!」
俺が彼女の絶技に感心しきっていると、その本人からお声が掛かった。
「お、応っ!」
驚き役のモブに徹してばかりもいられない、羽咲の指示に従って俺は集中し”盾”の能力を高めた状態でガード体勢を取る。
「ギシャァァーーー!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
その間に、遂に直前にまで迫って来た魚人王の巨体!
巨大な魚人による弾丸超特急が俺に襲い掛かるっ!!
「え……と……いや、チョットこれはいくらなんでもぉぉぉぉーー!!」
神々しい美少女の勇姿に影響され、思わず英雄役にと色気を出したものの……
ドスッ!ドスッ!ドスッ! ドスッ!ドスッ!ドスッ!
俺と魚人王とではPGとHG以上に体格が違う!!
ドスッ!ドスッ!ドス――――
「縮尺比率が全然あってないってぇぇ!!」
ガコォォォォン!!
「ぎゃひぃ!!」
美少女の声にテンションの上がった俺はノリのままに巨大魚人のタックルを正面から受け……
ヒュルルルルルルルル――――――
闘牛に突き上げられる素人マタドールよろしく天に吸い上げられる!
――ああ……死んだな……おれ……
「いま!」
夜空の一番星になろうとする馬鹿を確認した後、羽咲は”それ”を、
右手で握った”取手”を勢いよく真下に引き下ろす!
――て?え?
ヒュルルルルルルルル――――――――――ッ!
ビュオォォォォォォォ――――――
上昇して天高く止まった俺は、そのまま彼女の手の動きに同調して今度は逆に急降下を始めたのだった!
「うわっ!……あぁぁぁぁぁぁーーーーいやぁぁぁぁぁーーーー!!」
――ちょっ!?怖い!怖い!怖い!怖い!
――なにこれ!?どんな極悪ジェットコースター!?
――てか、気持ち悪く……うぇ……
「うぇぇぇーーーーあっ?」
――――――――ドサッ!
「……」
かくして俺は、嘔吐く間もなく胴体着陸……成功?
魚人の王、巨大な半魚人、ダーグオンの頭上にしがみついていたのだった。
「うう、気持ち悪い。船酔いみたいだ、相手が魚だけに……」
くだらない感想が考えられるウチはまだ大丈夫かもしれない。
自分自身にそうツッコミながら、俺は滑る魚の頭上に必死にしがみついて現在位置を確認していた。
「…………ええと、ここって」
キィィーーン!
「どう?盾也くん!ある?抜ける?」
ガキィィィーーン!
地上では――
そのダーグオンを相手に奮闘するプラチナブロンドのツインテール美少女が、忙しない戦闘の合間を縫って話しかけて来る。
――いや……あんまりだ
こんな雑な扱い……は、今に始まったことじゃないけど……
方法を事前に一言、言ってくれれば……絶対に泣いてイヤイヤしただろうけど……
キィィーーン!
「盾也くん!あるの!?ないの!?」
だから有無を言わせずに行動したのだろうが……
二度しか会ってない美少女に既に俺のヘタレぶりを看破されているみたいで非常に納得がいかない……
キィィーーン!
「盾也くん!!」
いかないが……
――ちっ!そんな必死な姿見せられたら仕方ないだろ
「ぬ!……くっ!ちょ、ちょっと待て……」
戦闘で大きく揺れる魚人の頭上で、それに必死にしがみつきながら確認する俺。
「これは……」
ガキィィーーン!
「ど、どう?盾也くん!」
「…………」
ズバァァーーー!
ギシャァァーーー!
「じゅ、盾也くん!?」
「駄目だ……」
ドカァァーー!
ダーグオンの巨大な拳を横に跳んで躱す美少女!
ズシャァァーーー
「駄目!?抜けないの?」
横滑りながらも体勢を綺麗に立て直した美少女剣士は俺を見上げる。
「いや、これは……」
俺は渋い表情で――
「これは?なに?」
怪物から一旦距離を取り、怪物の頭……
俺の方を見上げて注視するプラチナツインテールの美少女剣士。
――
「ぶ、武士の”あれ”だ……」
「武士の?」
「だから……本物の…………」
「へ?え?」
「…………」
「まさか、それって……」
羽咲が今まで必死に探していて――
俺が死ぬ思いで辿り着いた先には――
そう、お目当ての”それ”は……
「ほんとの”ちょんまげ”なんだぁぁぁぁーーーーー!」
「ほんとに”ちょんまげ”なのぉぉぉーーーーーーー!」
――あ、シンクロした
――
ブゥワァァァァァァァァァァ!!!!
「っ!?」
「っ!!」
数メートル上空と地上、
上と下、
後に続く言葉も見当たらず、お見合いする俺達を突然襲う黒い霧!!
「くそ、またかよ!……って!?う、うわっぁぁーー!」
同時に激しく頭を振る怪物!
俺はそのまま闇の中に振り落とされていた。
「くっ!」
再び突然目の前に広がる闇、闇、闇……
―― ―
――暫く後
辺り一面を覆い尽くす闇が晴れた後で、
そこには”魚人の王”ダーグオンの姿は何処にも無かった。
「しかし……本当に”ちょんまげ”とはな」
「…………」
ボロボロの片手剣を地べたに着けてへたり込んだプラチナブロンドの美少女。
彼女はスカートが汚れるのを気にする余裕も無いのだろう、ぺたりと行儀悪くお尻を着いている。
危険を承知で自身を囮にしてまで追い求めていた
――”聖剣”
それの手がかりが全くの見当外れでは、
落ち込むのも無理は無い。
「……」
同情する……
もちろん心底同情はするんだが……
いや、でもな……
結果がアレでは……
――
”ちょんまげ”
まさかの本物の”ちょんまげ”
――
「くっ!……いや駄目だ……でも……ぷっ!くくっ!」
俺は悪いとは思いながらも笑いが堪えきれない。
「…………」
――うぉっ!
さっきまで呆然とへたり込んでいた美少女の俺へ向けた視線が超怖い!
「……」
「いや、これは……だな、別にお前を笑っているわけじゃ……ただ、ちょんまげがだな、ちょん…ぷぷっ……くっ」
「…………のよ」
――ぷぷ!……へ?
どうしても笑いが零れつつ、しどろもどろで言い訳をとってつける俺に、彼女は何事か口にする。
「だ・か・らぁ!まだ、あるのよっ!」
「……ある?……ちょんまげ?」
ババッ!
「頭に剣が刺さってるって言われてる怪物よっ!!今度こそっ!!」
美少女は突然そう叫ぶと勢いよく立ち上がった。
「な、なんだよ、そんな殊勝な……じゃなかった、特異な怪物がまだいるのか?」
俺は正直、適当に答えただけだ。
さっきの事といい、この娘の情報はいまいち信憑性が無い。
「そうよっ!それもこの日本に!」
「……」
――日本にねぇ?
「その幻獣種は嘗てこの国では大妖怪として知られていて、同時に八人も存在したとか、背丈が数メートルから十メートルほどの巨体だとか」
半信半疑の俺に彼女は続ける。
――ほほぅ?八人も……日本に昔から……
決意を新たに、翠玉石の瞳を光らせる彼女には申し訳ないが……
――嫌な予感しかしない
「そうよっ!たしかこの国の侍で、無念の死を遂げた後で怨念が妖怪になったって伝承が残ってるとか、あ!確か今も首を奉った首塚とか言う物が……」
「首塚……」
――いや、それって……
「たしか名前が……えっと」
――超有名なやつだろ?
「おい、それってまさか平の……」
「そうっ!"平将門”とかいう名の怪物よっ!!」
「いや!絶対に”ちょんまげ”だろっ!それぇっ!!」
半魚人達の骸が散らばり、その王が去った夜の街に――
俺のもっともな絶叫が木霊していたのだった。
第12話「勘弁してちょんまげ?」END




