第十話「俺は道連れ、うさぎは情け?」
第10話「俺は道連れ、うさぎは情け?」
ヴヴォ!!
ヴォ!ヴォォオオオオオーーーー!!
「な、なんじゃこりゃーー!」
ひっくり返りゴロゴロとアスファルトの上を転がる、見るからに滑稽な男。
「聞いてない!聞いてないよー!」
俺はテレビでよく見るリアクション芸人のような台詞を叫びながら、隣に立った美少女を見上げていた。
――ガッ!
――ガガッ!
その間にも……
ブォォーーン!
ブォォーーン!
道路脇に違法駐車してあった車両を両方の手に一台づつ、ムンズと鷲掴みして振りまわす半人半魚の巨人!!(推定五メートル)。
――
「聞いてないよほぉぉ!!羽咲ちゃぁぁん!!」
「だって言ってないもの。貴方には」
血に濡れた銀色の片手剣を左手に構え、俺の隣でプラチナブロンドのツインテール美少女は”しれっ”とそう宣った。
――う、うぅ……この”いけず”
突如現れた半魚人の巨人。
魚人の王”ダーグオン”とやら。
俺は屋上から急いで一階まで降り、そのまま外に出てそれを確認したが、
時既に遅し……
その”魚人の王”は既にすぐ目前に迫っていたのだった。
ギシャァァァァァーーーー!!
金切り声を上げる巨大な魚人。
「ど、どうすんだよ!話し合いとかの雰囲気じゃないぞ!アレ!」
俺達……っていうか、
この美少女が半魚人達を惨殺したことは事実だけど……
「そ、抑も向こうが襲ってきたわけだし、ここは穏便に話し合いとかで解決できないのかよっ!?」
いやいや、魚人といっても相手は王だ。
奴も人の上……もとい、魚の上に立つ器なら可能かも知れない!
きっと!いや、多分!!
で、出来たら良いなぁ……
――
バコンッ!ガシャァァ!!
俺がそんな限りなく願望に近い算段で、無い知恵を巡らせていたら……
いきなり!"ダーグオン”なる怪物の左腕から鮮血が吹き出し、
その”いかつい"手に鷲掴まれていた車が地面に激突する。
「グシャァァァ--!!」
苦悶の色を見せ強烈な叫び声をあげる魚人の王!
「……ふっ、見た目ほどじゃないわね」
プラチナブロンドのツインテールを靡かせて――
美少女剣士の剣は怪物の左腕をざっくり傷つけていたのだ!
「な、なにしてんのーー!あんたぁぁっ!!」
「なによ?騒がしいわね、盾也くん。だから怪物退治でしょ?」
――へ、変なこと言ってんの俺か!?
「……」
ニッコリと微笑む美少女に俺はトロンと心が蕩けて……
――いや!いやいやぁっ!!
――常識的に無いだろ!?アレはっ!!
――生身でアレと戦うなんて正気の沙汰じゃない!!
既の所で俺は正気を取り戻していた。
「む、ムリだってアレは!!っていうか!抑もお前の……いや、”俺の剣”はもう、そろそろヤバいんじゃ無いのか!?」
「……」
珍しくも俺の的確な指摘に、彼女は一瞬だけ黙り込んだが――
再び俺の方をしっかり見据えて言った。
「盾也くん……あのね」
――わぁ、せ、切ない瞳……
翠玉石の宝石が意味ありげに俺に向けて煌めく。
「羽咲……おまえ……」
俺は――
「あぶないよ」
「へっ?」
プラチナブロンドのツインテール美少女は、一転してアッサリそう言ってから前方を指差していた。
ブォォォォォーーーー!!
「は?」
唸りを上げて!
「はぁぁぁっっ!?」
俺に目掛けてすっ飛んでくる黒塗り高級外国車!!
「う、うわぁぁぁっっ!!」
――――――――ドガシャァァァーーン!!
常人並の反射神経である一般人な俺は、当然の様に避ける暇も無く、
”それ”をもろに受けたのだった。
「…………」
そして――
残されたプラチナブロンドのツインテール美少女、羽咲・ヨーコ・クイーゼルの翠玉石は、間近で起こったその大惨事を……
飛び散った残骸を、冷静なまま見詰めていた。
―― ―
ーガコッ!
ガコッガコッ…………ドシャッ!
鉄くずの中から――
それらをかきわけて出てくる人影。
「ぐ……」
埃塗れになった俺は、それでも"かすり傷”ひとつ負わずにグシャグシャになった鉄くずの合間から這い出てきたのだった。
「し、死ぬかと思ったぁぁ!」
必死の思いでそこから帰還した俺に、
「ふふ……大丈夫?」
美少女はニッコリと笑いかけてくる。
「多分、車にぶつかられるくらいは馴れているでしょうから、大丈夫だと思った」
「いや、”当たり屋”みたいにいうなよ!俺はそんないかがわしい職業で生計を立てていない!」
といっても今回の場合――
車に当たりにいくのでは無く、車の方が飛んできたわけだが。
「ねぇ、今のってどのくらいの強度なの?貴方的には……」
しかし彼女は……冗談のテンションでは無いようだ。
「う……」
「階級とかあるの?貴方の幻想職種には」
どうやら彼女は、どうあっても聞きたいらしい……
俺の特異な幻想職種……
前代未聞、赤面級のおふざけカテゴリ、”盾人間”の盾也くんをっ!
「ねぇ?ねぇ?」
――ちっ!
――カワイイな……じゃなくて、仕方ないな……
「……せ、”青銅の盾級”だ」
「青銅の?」
「今の衝撃なら”青銅の盾級”で十分に防げる」
「……」
「……うぅ」
無言で見つめ合う二人。
もちろん、そんな色っぽい雰囲気というものでは無い。
やっぱり俺の変な幻想職種にドン引きしているのだろうか……
――うう、やっぱ言わなきゃ良かった
「あ、あのな、俺は別にこの幻想職種を他人に晒したいとは……」
「ヴォォォォォーーーーーー!!」
――っ!?
――うわっ忘れてた!今は怪物と戦闘中だった!!
「お願い!今回だけで良いから協力して、盾也くん」
脅威を前に固まる俺をそのままに!
彼女はそう言うと左手の剣を構えて怪物に向けて駆け出して行く!
「いや、だから俺は……」
――そんな事言われても、この幻想職種は使いたくない……
俺がそう応える間もなく走り去る少女。
「…………」
――いや、しかし……
勝てるわけがない。あんな規格外のバカデカ化物に!!
「…………」
――けど、このままでは羽咲は……
「剣も限界近いだろうに……無茶すぎ……だろ」
――そういえば……初めてだったよな
「…………」
あんな縋るような殊勝な瞳で俺にお願いするのって……
「…………くっ」
つい、英雄級という最強階級に惑わされがちだけど……
彼女は、羽咲は……
ああ見えて、いや、見た目通り繊細で、とびきり可愛い美少女だ。
――そう
――"女の子”だっ!!
「だ、だったら……だったら!男なら覚悟決めて助けてやら…………え?」
ヘタレな俺が柄にも無くなけなしの勇気を振り絞り、まさに男気を示そうとした時だった――
キラリ!
「え?へ?」
怪物に向けて一直線に疾走する美少女の右手で”なにか”が光る!
「へ……って!?あれ?……あれっあれれぇぇ!?」
”見覚えのある、手のひらサイズの金属製、"コの字型の取手”
「あ……あああああ………いやぁぁだぁぁっ!!」
――そういうことかよ!!
――やっぱり……羽咲というやつはぁぁっ!!
”それ”を握った彼女の右手が前に振りかざされるのと同時に――
「な、なにがお願いだ!!端から俺は強制参加じゃねぇかぁぁーーーー!!」
俺はなけなしの男気をその場に残し、疾走する美少女の前方に全泣きですっ飛んでいったのであった。
第10話「俺は道連れ、うさぎは情け?」END




