第2話
「なあ、どうすりゃいいんだろうな」
「…………」
「このままじゃ、好き勝手移動もできねーわー。ないわ~」
「…………」
「おい、シカトすんの止めてくんない?傷つくんだけど」
そんな事を言われても、こちらとしてはシカトし続けるしかない。近くで義姉さんがまだ洗い物をしていて、このおっさんは俺にしか見えていないからだ。
まだあまり実感は湧いてないが、オッサンの幽霊に取り憑かれるとか、新学期初日からなんて日だ。
まあ、別に現時点で害はないけれど。
かと言って、やはり得もない。
このおっさんがやった事といえば、俺を起こして、義姉さんのスカートの中を覗いたくらいだ。
……そういや、白とか何とか言ってたな。
洗い物をしている姉さんの方を見てしまったが、顔が熱くなったのに気づき、慌てて視線を逸らす。せっかく最近は意識せず過ごせるようになったのに、このオッサンのせいで色々と台無しだ。
……白か。しかと記憶した。
再び義姉さんを見ると、今度はしっかりと目が合ってしまい、やわらかな笑顔を向けられる。
「弟君、朝から何だかお疲れだね」
「そ、そうかな?俺はいつも通りだけど」
「ならいいけど……具合が悪いときは言わなきゃダメだよ?」
具合は悪くないよ、ただ変なおっさんの幽霊に取り憑かれたんだ。なんて言えるはずもなく、頷くだけにしておく。今日の放課後にお祓いでもすればいいのだろうか。一体幾らぐらいかかるんだ?
俺が考え事をしている内に洗い物を済ませた姉さんが、ポンポンと頭を叩いてくる。義姉さんの癖で、初対面の時もこんな風にされて、かなり恥ずかしかった(月乃はさせてくれないらしい)。ちなみに、視界の端ではおっさんがこっちを羨ましそうに見ていた。ざまあ。
「あの……義姉さん。そろそろ手を離してくれると……」
「あ、ごめんね?ふふっ、弟君の頭って手を置くのに丁度いいからつい……」
「…………」
「なあなあ、俺もやってくれよお!お前から頼んでくれよお!」
ええい、うるさい。
内心の焦りやら何やらを悟られないよう、俺は全速力でご飯をかき込み、家を出た。
*******
「お前の義姉ちゃんって本当に美人だよな!」
「そりゃどうも。そのエロい目を二度と向けないでくれると助かる」
外に出てからもやたらとテンションが高いおっさんを軽く受け流し、目を閉じて、深呼吸して気持ちを落ち着ける。
いつもより遅めに家を出たが、そんなに急ぐほどではない。ていうか、いつものように登校してたら、絶対にボロが出る。今も、斜め前を歩くOLさんの体を何度も通り抜けるおっさんを見て、ツッコミたい気持ちで一杯だ。
「やっぱり上手くいかねえな」
「何やってたんだよ」
「体の乗っ取りに挑戦してみたんだが、わかったのはそんな能力ないってことだ」
「当たり前だろ。そんな都合よくいってたまるか」
「ああ。あと、あのOLの姉ちゃんがノーパンだってことはわかったぞ」
「マジで!?」
つい、OLのお姉さんの方を見ながら、大声で反応してしまう。
案の定、お姉さんはこちらに不審そうな目を向け、小走りに俺とは逆方向へと去っていった。
「あぁ……やってしまった……」
「ドンマイ」
「お前のせいだろうが!ああもう、あのお姉さんとは一生フラグ立たねえぞ!どうしてくれんだ!」
「そんなもん立つわけねーだろ!お前やっぱ頭おかしーだろ!ちなみにノーパンっていうのは嘘でした~!本当は赤でした~!」
「こ、こいつ、よくも純粋な男子高校生を騙しやがったな!」
「ママ~。あのお兄ちゃん、一人で楽しそうだね~」
「そうね~。ああいう人には近寄っちゃダメよ~」
「…………」
とりあえず、早く学校に行こう……変人の称号を得る前に。