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合流


「田中瑠と傘波良さそって轟扇祭楽しみますよ、楽しむ」


我刃のその歩みは軽やかであった。待ちに待った高専祭、楽しまなければ罰が当たる。部活に仮装に屋台に大会に……挙げればきりのない楽しみの数々。彼の心の中には一片の曇りさえなく、ただ貪欲にこの祭りを楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

手に持った鉄バットは普段よりも軽々と揺れ動き、上機嫌に顔を綻ばせる。だがその足取りは至って早い。寝坊して開会式に遅れそうになったなどと田中瑠に知られれば壮絶な煽りを食らう事が目に見えている。

しかし無情にも轟扇組本部から福木の美声がスピーカー越しに響き渡る。次いで聞こえるのは来客たちの魂を揺さぶる様な歓声。


「やべ、早く戻んねえと。福くんの開会式がもう始まってる――!」


地を蹴り足を踏み出したその時、我刃の世界に毒牙が突き刺さった。目に見える物全てが湾曲し、もう見える筈の目的地さえも見えなくなる。脳に異物が侵入したかのように耳鳴りと頭痛は鳴りやまず、自分が何処に立っているかも分からない。ふらつき乍ら下を見ても、今自分が本当に地面の上に立っているのか分からない。地面との距離感がもうほぼめちゃくちゃになりまるで自分が宙に浮いているかのように――そして地の底に向かって落下しているようで。


「アッヒャ……わけ、わかんねえよおい……」

「アヒィー」


我刃の耳に異音が響く。細く耳障りな生気の抜けていく音……それはこの世の不幸を悲しむ泣き声でもあったが、この世の幸運を祝う笑い声でもある。

自分でも気づかぬ内に倒れていた我刃の傍らには不定形な靄が集っていた。うねり囁き鳴き笑う、悪寒を引き起こすような異様な声。その靄の中に薄ぼけた人型の影を彼は見た。影はゆったりと彼に手と思わしき部位を伸ばし近寄る。


「会い、たかった……んだよね」

「ど、どういう意味? お前のような奴知らないです。とっととここから出て行けェ!」


辛うじて握れた拳を振り上げる――彼がこれまでに何千何万もしてきた行動が出来ない。それはその手を掴まれていたから。悪夢のような光景に止められたから。

靄から這い出た影は彼の拳を握り伏せた。その姿は、その形は、まるで鏡にでも映ったかのように我刃の姿を模していて、まるで殺したかのように血の気が無かった。


「俺やんけ……どういうことなの……?」

「アヒィー! 何もおかしく無いんだよね。そもそも……お前は勝手に離れ過ぎた、んだよね。自分が誰かも忘れて……勝手に光の側に、居ると信じていただけ、なんだよね……」

「こいつ精神状態おかしいよ……もう先生がお仕置きしちゃる!レ淫――」

「無駄だっつってんのが分からないのかよハゲ」


我刃の心臓が僅かだが完全に止まる。心臓だけでない、流れる血も何もかも、もう一人に”我刃”は一度に縛り付けた。胸が痛い距離がおかしい苦しい助けて……あらゆる感情が渦巻き、出口を求め爆発し、パニックへと昇華する。


「アッヒャ――――!? やってられねぇよ……彼とはやってられねぇよ……!」


紐が切れたように腕の力が抜ければ味のしない水のような胃液を地面にぶちまける。そうして空けた感情の隙間に、まるで入り込むかのように誰かの意志が我刃を支配していた。


「ンー! ようやくお目覚めかよ……友達ごっこの何がそんなに楽しかったのか私には理解に苦しむね」


影の我刃はもう一人の自分へと寄り添い、そして静かに愚痴る。怒りに震える我刃とそれに泣く我刃。最早ここに我刃という人物はいなくなった。


「お前は俺で……俺は全てなんだよね。長い間『河村』を忘れてたんだからよ……こっからは止まるんじゃねえぞ……」


そう、残されたのは誰かの意志。復讐と再生を願う悪魔。


「やり直してやるんだよね……シノギPrimeとして、コッチの世界でよぉ……!!」







「――払われぬ邪気だ」

「また特大刃が何かを呟いたの†。特に大勢に影響はないので無視する」


歩みを止め空を仰ぎ見る特大刃をよそに妬敗奴四天王たちは思い思いにその足を休めた。はるか遠く三河島から南千住まで歩き通した。しかし200を超える頭脳指数を持つ天才、オトクだけは目敏くこの地の異常に気付いた。


「それにしてもこの一般人の量、多いよね?」

「それも特に重要な事では無い!疲れたので何も喋ってほしくないの†」

「何や言わんかなというと、こんなにも禍々しいのに誰も拒まれてないという事です。きっとこれ誘われてる、だよね?」

「それだとアリ地獄みたいにあれー?ってなって終わりです。罠wにw飛wびw込wむwこwのw状w況w」

「逡巡も情理も、一切無用。豪の者共に誘われるのは古今無双の我が四天王。我、世界の摂理の敵とはこの因縁の中に有。奸才など我が剣の前では無力」


四天王はまた静かに南千住へと近づく。一歩、また一歩近づくたびに余りにも激し過ぎるその歪さが彼等に乗り掛かって来た。そして轟扇組本部前――轟扇祭会場の門前まで来た時には、すでに全員が重い顔立ちで立ち尽くしていた。


「余りにもバランスが悪すぎないかい? こんなんじゃいずれこの空間は沈没するよ?」

「世界の“重い奴ら”が此処に集まってきていると見ていたの†。どうやら異世界からのお客さんも多いようだ……キヒッ」

「じゃあ此処は分散して親玉をみつける形で。見つけたらピーってなってそこー!wみたいにすればinじゃないの?」


特大刃が僅かに頷き返したのを皮切りにすぐに四天王たちは消えていく。一人残った特大刃は門を潜ると、小さくほくそ笑んだ。


「なんと歪んだ物であろうか……真の敵は我が心の内に有。されども開かぬその目は我が剣技を今一度望むか。菊花丸よ」



破滅を望む者と望まぬ破滅を止める者。彼等はいずれその剣を血で濁す事となる。しかしそれまでに、何度悲劇が起ころうとしているのか――いま時計の針は動き出した。


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