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見下ろすはガムテープ

「ふぇぇ~、多すぎるよぉ」

「これでもうチェックメイト、縁ちゃんたちに倣って言うならリーサルだよってネカマはネカマは勝ち誇るよ」


取り囲む軍勢に流石の縁田といえども後ずさる。三枝が立ち去ってから間断なく襲い掛かってくるラインの民たち。烏合の衆でも数が数なら群れの刃となり彼を追い詰めていた。


「これが終わったら小一時間は問い詰めたいから覚悟してね!ってネカマはネカマはしたり顔を浮かべるよ」


言葉の通り腹立たしいほどに明るい笑顔を浮かべたネカマる。その足は突如鳴り響いた轟音によって止められた。縁田を留めおくよう部下に言い含め音を確認しに向かう。

自転車の乱立を抜け、見上げた先には身を起こす巨影が太陽を遮っていた。


「hide shine! ひでかな!?ってネカマはネカマはあまりにもあんまりな台詞で反応するよ!」


それこそが一連の騒動の黒幕、森の放った最後の一打。カニゴラと呼ばれるそれは大げさな存在感をありありと放っていた。

だが違和感を感じる、あれがなんなのか分からないネカマるにもこの局面で出てくる怪物が誰かの奥の手であるとは予想できる。

しかしだからこそ、なぜ足を引きずっているかのような妙な動きをしているのか。その疑問に答えたのは追い詰めたはずの縁田であった。


「組長やりますねぇ!ハヤカスはカッスじゃなかったんやなって……」


後ろを見返すネカマるの眼にはのされたラインの民たちを気にもかけずカニゴラを見上げる縁田の姿がうつった。


「どうやって突破したのかは置いといて、なんで組長だってわかるのかな?」

「いま後方確認し……」

「してない」


相変わらずのらりくらりとした返答に面食らうがさらに質問を重ねる。


「だってあれガムテープでしょ。この南千住においてあれだけ他の造形を台無しにして、まるで親の仇のようにべたべたと意味もなく何重にも破壊的に創造的にへたくそにきたなく、その無能さがありありと浮かび上がるようなガムテ遣いをしてるのが組長を置いて他にいるかい?」

「ああ!あの糞ほど糞な、まるで資源をゴミに変換するためだけのマシーンのようにガムテをべたべたの塊に変換しそれを自慢してくるというあの噂は本当だったんだね!ってネカマはネカマはびっくりするほどの暴言の羅列に驚愕するよ!自分でも驚くほどに滑らかに出てきた!」


もしもあれが我らが組長、林拳打の策だとすればそれは恐らく無策。だがあの最終兵器はもう用を為さないだろう。



見上げるものは彼らだけでなく各地で空を仰いでいた。

今の今まで紙一重の攻防を繰り広げていた夜寸達もその手を止め巨影を視界にとらえる。


「あのでかいのなに?新しいガンダム?夜寸知ってる?」

「うん、何でもは知らないよ知ってることだけ。でもガンダムではないかな」

「”壱壱四五壱四デッキ”……!」

「”老婆ネットワーク”……!」

「君たち馬鹿だよね」


三者三様で自分勝手な憶測に傘波良は肩をすくめる。気の抜けてしまった今、再び剣を合わせる気も起きず微妙な空気が漂う。

ラインの民は死屍累々として景色を彩り荒涼とした状況に花を添えていた。今や日陰の花は鮮やかさを欠いてはいたが。

その影は遥か三河島まで届き異変を感じさせていた。


「切れきれキンキン切れキンキン ……ん?なんだぁ、あれ?」


やはり気の抜けた声の主はファッキンアス太郎、静寂を切り裂くクソデカヴォイスは健在でただでさえ静かな三河島によく響いた。


「ふんふむ。あれはガムテを使ってえええい!あんなんじゃ仕事になんないよぉ~。あそこまでの雑さだとさすがのアッスでも犯したいとも思わないアス!いやこれは好機!ウンコモリモリレオハウスなあれがあるうちに 南千住に行くアス!まってろ可愛いお尻ちゃん!アーサッサSSASS!」


唐突に駆け出した彼に気を向けるものは一人もおらず、南千住へ全力疾走していく。またひとり怪物が集ってしまうのだろうか。




「ねぇなにあれ、かわいくない?そこの君教えてよ」

「あれ猿よりはかわ……」

「僕は猿じゃない」


意味不明な毒を流し続ける怪物がここにも一人、”T”の名を冠する彼女はここ土壇場においても相変わらずすべてのものを等しく蝕む致命の蜜を振りまく。


「き・い・て・あ・げ・る。っていってるんだよ?あのKABAちゃん……みたいな汚いあれが立ち上がってるっていうこと自体をまず説明してもらいたいんだけど」


大抵のものが畏れや憎悪を覚える中、一握りの異常者はその異質な毒に侵されて一層魅了される。カニゴラなどより存在感のある彼女の神々しさすら感じている。

同時にカニゴラの威圧感が彼女のそれに比べてずっと劣っていることに気づいてしまう。足に巻き付けられた異様なガムテープにも。

だがそんなことには目もくれずひたすら眼前の女神の意向に感涙を流し続ける。




想い人の膝を存分に堪能していたハルは、響く轟音も気にせずに紅葉の太ももに顔をうずめたままでいる。


「いやー、紅葉さんの太ももっていいよなー。いつまででも寝ていたくなるわー」

「何時までってわけにはいかないですけど……。マァァ、多少はね?」


しかしそのまま無視を決め込むには、その駆動音はあまりにも大きく騒々しかった。軋むようなその音は不完全な修復に対しての悲鳴か。


「ねぇ紅葉さん、または伊門っちはあんなヤバそうなの放っておいたりしないよなー」

「頭乗せたまま動くんじゃねー。三枝のいう通りにあんなのが暴れたら南千住は壊滅だ。でもダイジョブだって安心しろよ」

「えー!?放っておくのー?なら俺が何とか……」


身を起こそうとするハルを片手で制し、ここで初めてカニゴラに目を向ける。だが決意めいたものではない、どこか笑いをこらえているかのようなその表情はハルの心を再び射止めるに十分だった。


「眩しいんだけど!狙い撃たれたぜ!」

「オトしちゃったー……まぁいいけど。そんなことよりあの気持ち悪い蟹のやべーやつに巻き付いたガムテープ。もしあれが獅子身中の無能の仕業ならば、40分ほどでの作業によってなされた破壊工作なのだとすれば俺たちが何かする必要はないね。端から出た繊維がほつれてぴろぴろしてたり今にもはがれそうな適当な使い方を見るに恐らく林組長だと思います」

「えー!?組長が貼ったのー?だって林拳打っていったら泣く子も黙る鬼組長、奴が通った後のピタゴラ装置はすべて破壊され後にはオムライスだけが残るっていう暫定SSランクの強敵ですよ!?それがまさか小学生の自由研究の方がずっとましなガムテ遣いをして、もとの影も形もないような汚物を作り出すなんてそんなわけないですよね?」


レジスタンスの情報では特記戦力の筆頭として挙げられていた林拳打だったが、轟扇組内での評価は正反対で己の世界が崩れていくような感覚に陥る。


「卍かよぉ!レジスタンスの方ではそんな風に噂されてたんですね。そんなことないです、ゆるして」

「紅葉さんかわいいんじゃー、そんなの気にしてないですよ!」


一瞬前のカルチャーショックなど忘れ紅葉の苦笑に見とれるハルは、緊張感のかけらもないままに警戒態勢を解く。

きっと彼と彼女が言うのならばきっとそれは真実で、今度こそ安息に浸ることが許されたのだろうから。




只のガムテープを抗争を終結させる楔とした組長は、或いは真なる英雄に最も近いのかもしれない。貶され貶められようとも己を貫く姿勢こそ彼が組長として君臨し続ける所以であり、策に溺れた佐原が取って代われない唯一にして最大の理由である。

マーフィーの法則によれば、樽一杯のワインに一滴の泥水を入れればそれは樽一杯の泥水になるが、樽一杯の泥水にワインを一滴入れてもそれは樽一杯の泥水であるとされる。

つまりカニゴラは実質ガムテープなのだ!


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