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僕は、姉になる  作者: ◆fYihcWFZ.c
第六部:『姉』であり『弟』である日々 2011年4月~2012月11月
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8.ばれたー◆

 なかなか美味しい食事を終えて、お風呂も入り直して。

 気を効かせてくれたのか、大きめの1つの布団に2つ枕が並んでいる状態。

 雅明は色々やりたがってたようだけど、流石に疲れし眠いと布団に潜り込み、電気を消してもらう。


 それにしても、と暗闇の中考える。

 男女共用の浴衣を着て、髪もウィッグやエクステも付けず、メイクも最低限で。

 女将さんにびっくりした顔で見つめられたときには『ばれたかな?』と思ったけれども、『奥様』呼びは継続。

 若くて美しい、『新婚夫婦の妻』として疑いなく思われていたよう。


 それはそれで良いのだけれど、問題は秋の修学旅行。

 このままだと女装せずとも女と思われて襲われかねない……

 やっぱり休んだほうが無難なんだろうか。

 うとうとしながら、そんな益体もないことを。


「ねえ、お姉ちゃん……」

「うん?」


 と、隣の雅明が声をかけてきて、眠りかけていた意識が少し浮上する。


「エッチしたい」

「……馬鹿」


 何を言い出すのだ義兄(こやつ)は。


「むう」

「ちょっとはシチュエーションとかムードとか考えてよ」

「ええ?」

「だいたい、こんな旅館でエッチなんか出来るわけないでしょ?」

「あー。そりゃそうか」

「そ。今日はもう疲れたから寝たい」

「了解。お休み」


 とは言ったものの何故か寝付けず。

 何分何十分が過ぎたころだろうか。


「……起きてる?」

「……ん。寝ている」

「起きてたか。……やっぱり駄目?」


 どうしたものかなあ、と悩んでいると、隣でもぞもぞして、こっちの布団に乗り込んできた。

 背中を向けて横向きになって、無意味だと分かっている防御態勢を取ってみる。

 案の定、というかなんと言うべきか……背後から抱きすくまれる私の身体。


「……ちっちゃくて良い匂いがして柔らかい」

「今日、本当に疲れてるんだからね? あんまり無茶すると嫌うよ?」

「それは嫌だなあ……」


 そう言葉にしつつ、放そうともせずふんわりと私の身体を抱きかかえている雅明。

 なんでこんな時だけそんなに図々しいのさ。まさか抱き枕代わりにして朝までいるつもりなのか。

 浴衣の隙間に手を差し伸べてくるし。ってそれは良くない。主に雅明にとって。

 ブラの下に潜り込ませようとしたらしい指先が、パッドの間に潜り込む。


「……?」


 そのままパッドの下にある平らな胸をたどり、小さな乳首を指先で確認する。


「……なんか……これ……ひょっとして俊也?」

「はぁい♪」


 わざと明るい声で答えると、暫しの停止ののち、全速力で遠ざかり布団の外に出る。


「いつから……あ。分かった。さっきの風呂の時に入れ替わった?」

「うぅん。大ハズレ。今日の朝からずっとだよ♪」

「うっわー……」

「朝から『可愛すぎるって』とか、僕のことを褒めてたよね? 何度も見惚れてさ」


「……」

「大体、お姉ちゃんは夏期集中講座中なんだから……彼女のスケジュールくらい押さえておいてよ」

「……」


 もう完全に目が醒めた。

 いっそのことと電気を点けると、部屋の片隅でぶつぶつなにか呟いている義兄の背中が見える。


「終わりだ……よりによって弟相手に浮気とか……バレたら振られる……」


 そんなことはないよな、と思いつつ、iPhone で秘密の連絡に使っているアプリを立ち上げて一言打ち込む。


『ばれたー』


「もしもし、俊也さん? 今日のことは黙っていてもらえませんでしょうか?」


 義兄が恐る恐る、と振り向くのと、着信が入るのがほとんど同じタイミングだった。

 もしかして待ち構えていたのかな? そんな疑いさえ持ってしまうような素早さである。


『もしもーし。何やったの?』

「抱かれて、胸を揉まれて」

『うんうん』

「本当に止めてください」

「そこでパッドの下の乳首をしごかれたところで気がつかれた」

『ほーう』


 あれ? 思っていたよりは気に障ったのかな? でも普通に許してはくれそう。


『雅明はそこにいるんだよね?』

「もちろん」

『代わってくれないかな?』

「はーい」


 スピーカーモードに切り替えた上で、iPhone を押し付けてみる。

 導火線に火のついた爆弾を渡されるような顔でそれを受け取り、おっかなびっくりと言った様子でそれを耳に当てる。


「うん、代わった」

『いい度胸だ』

「ごめんなさいごめんなさい」

『まぁね。何か罰ゲームを考えておくから』

「あ……あれ? 別れるとかは?」

『ん、何? 別れたいの? 俊也のほうが良かったとか?』

「いえいえいえいえ。滅相もございません」

『そう? まあ罰ゲームのときの反応によってはまた考え直すから』

「ははー」


 その後いくつか言葉を交わして通話が切れたあとの雅明の顔の複雑さと言ったら。


 なお、その後行われた『罰ゲーム』については、義理の兄の名誉のために伏せておくことにする。

 いや我が姉ながら本当に性格悪いわ。

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