2-5.中学男子が女児用水着を試着させられる羞恥プレイ◆
札幌旅行編だけのゲストキャラのモデル3人。
本宮景子:身長172cm、テレビにも頻繁に登場する有名モデル。オーラが凄い。『瀬野悠里』に対しては正直あまり興味を持っていない。
水瀬麗:身長169cm、技術的には一番だがスタイル的に恵まれていない。自制する余裕はあるが、『瀬野悠里』をわりと敵視している。
平井ルシア:身長175cm、スタイルと容姿に恵まれたハーフの美人モデルさん。『瀬野悠里』に好意を持っている
「悠里ちゃん、やっぱりこっち来たんだ」
「まあ成人用だとサイズ合わないのは分かっていますから」
「やっぱりそうなるよねえ」
食後、ちょっと歩いて移動したデパートの水着売り場。
その一角にある子ども用コーナーで、平井さんに会う。他の2人もこっちかなと思っていたけど違うのか。
男物であれ、女物であれ、大人用の服では私の身体にぴったりくるサイズのものはない。
着丈か腰回りがブカブカなのを誤魔化して着るか、オーダーして作ってもらうか、もしくは子ども用の衣装を探すか、のいずれかが必要になるのだ。
水着の場合だとセパレートという選択肢も出てくるけど、ヘソの位置を写真に残したくないから今回は除外される。
お姉ちゃん以外でこの苦しみを共有できる人の存在を新鮮に思いつつ、サイズ的に合うものがないか探してみる。
これ良さそう、とまず手に取ったのは、黒地に白の模様が入ったモノトーンの水着。
予想と違ってセパレートだったけれども、一応候補に入れてみる。
「これとかどう?」
「さすがにそれは……」
そんな調子で5つほど候補をピックアップしたくらいに、横からひょいと、平井さんが商品を取り上げてきた。
「見たところ悠里ちゃんはシックなの選んでるみたいだけど、こういう可愛い感じのほうが似合うと思うんだけどなあ」
淡いピンクに花柄で、可愛すぎるシロモノだ。
平井さんの脳内では私のイメージどうなっているのだろう。
「むむう。じゃあこっちは?」
次いで提示されたのは空色のワンピース。
襟元に白いフリルがついていて可愛らしいのは分かるけど、さっきよりは随分マシだ。
軽く礼を言って受け取って、試着室に入る。
まずは平井さんのチョイスを着てみるか。
同じタイミングで試着室に入った平井さんの衣擦れの音に悩まされつつ、手早く着替える。
着丈は微妙に余る程度で問題ないけど、流石に胸のところが窮屈だ。それでも息が困難というほどでもない。
鏡の前で少し確認したあと、カーテンを開ける。
流石プロのモデルさん、平井さんのほうが先に着替えてカメラさんと話あっているところだった。
私より頭半分高い身長で女児用の水着が入るって、やっぱり凄いスタイル良いよなあと感心してしまう。
「うわあっ、あのお姉ちゃんもきれー」
「モデルさんかな。すっごい」
同じコーナー、ちょっと離れたところに見たところ小学校中学年くらいの女の子2人組から歓声と熱視線を受ける。
姉妹だろうか友人だろうか。ちょっと似ているから姉妹なのかな。
一瞬戸惑ったあと、笑顔で手を振ったら大喜びしてくれた。
「うん、やっぱり可愛い。似合ってる。脚とか腕の形も完璧だし……羨ましい」
「平井さんに羨ましがられるほどのものでもないと思うんですけどね」
「そんなことないよぉ」
「いいね。ちょっとポーズ取ってみてよ……うん、ちょっと固いかな? もっとリラックスして」
至近距離にいる水着姿の美女からの視線と、少し遠巻きに見る少女たちの視線。
これで緊張するなというのは無理な気がするけれど、でもこの程度を乗り越えられないようならモデル完全失格なのだろう。
軽く深呼吸して、色々なものを意識から追い出す。
くるりと回ったり、ポーズを取りながらウィンクしたり。
主観時間では長い時間をかけて、でもたぶん実際には1分にも満たない時間で短い撮影会もお終い。
女の子たちの大喜びする声と、カメラさんと平井さんからのアドバイスを受けて、他の試着のためにカーテンを閉める。
「あなたたち、騒いでたけど何かあったの?」
「あのね、ママ。すっごくキレイなお姉ちゃんたちがいたの」
「モデルさんだよねっ。撮影もしてたし。あの人カメラさん」
「足ながかかったよねー」
「ものすっごい美人だったしね!」
そんな会話をBGMにしつつ、次の水着へ……サイズが合わないな。
入らないのが1着、入りはするけどきついのが1着、余るのが2着。
着替え終わって外に出て来た平井さんの様子にちょっと焦りつつ、最後の1着に着替える。
しかし、本当は中学男子である『私』が一度試着した水着を、あの年頃の女の子たちが着たり買ったりするのか……なんか罪悪感と羞恥心がこみあげてくる。
一応下着は付けて、その上から水着を試着しているし、あそこは直接布に触れてないからセーフ? ……どう考えてもアウトな気がしてきた。
「あれ? 本宮景子さん? 本物? えっ、えっ。うわっ、やっぱり美人。あなたたちも見なさいよ。ほら」
「えー。こっちのお姉ちゃんたちのほうが美人だよー」
「ねー」
うん、これは大丈夫みたい。
最初に手に取ったモノトーンの水着。
ボトムスは一見スカートに見えるキュロット。股間の膨らみもほぼ分からない状態にになる上、ハイウェスト気味で懸念材料だったおヘソも完全に隠してくれる。
トップスはホルターネックで肩がむき出しになった状態。
丈はショート丈のキャミソールみたいな感じで、立っている状態ならトップスとボトムスの間の肌は見えない状態。
大人の女性としては控えめな胸が自然な感じに盛り上がっているのもいい。
黒メインで白がアクセントの飾りがプリントされたすらりとした感じが、頭の中にある『瀬野悠里』のイメージにぴったりだ。
動いてみても問題はなさそうで、一応意見は聞くけど反対されない限りこれでいこうと決める。
「すみません、お待たせしました」
「おう」
「ほら、ママ、こっちのほうが美人!」
「そうねえ……」
出てみると、チーフさんがこちらに来て平井さんと会話中だったので軽く会釈をする。
見回すと、カメラさんは別の試着室の前で本宮さん&水瀬さんのところで撮影中。
ポーズの取り方とか表情の作り方とかやっぱり勉強になる。
「うーん、でもやっぱりさっきのほうが良かったかな?」
「そうなんですか? 私としてはこっちのほうがずっと良い気がしますけど」
平井さんからそんなことを言われて、視線を戻す。
「悠里ちゃん、他のは?」
「ああ、それなんですけど着てみてサイズ的に大丈夫なのが、これと、さっきのと2つだけでした。同じサイズで探せばまだあるんでしょうけど」
「取りあえず、オレが見てみるからその『さっきの』に着替えてみてくれないか?」
「あっ、はい、分かりました」
ちょっと納得のいかない感覚を覚えつつ、手早く最初の水着に着替てカーテンを開く。
「うん、なるほど。こっちだな。もう着替えて会計の準備しておけ」
「まあ、そういう指示なら従います」
「お前な、お前さんは『瀬野悠里らしく』とか余計なこと考えずに、お前らしくしていればいいんだよ」
「……はい、分かりました」
むう。
まあいいや。気分を切り替えて私服に戻り、試着した水着は畳んでおく。
外に出て、待つほどもなく全員分の購入終了。
試着済みの水着を店員さんに渡して会計を済ませて店を出る。
札幌まで来て、中学校の最終学年になって、小学校の中学年の女の子向けの水着を、男である自分が着て、女の人たちの前で、笑顔を貼り付けて可愛いポーズを取る。
罰ゲームのような時間から解放されて、やっとほっとする。
でも考えてみればこれから海水浴場に行って、あの可愛い水着姿で一般人に見られながら撮影しないといけないのか。もう帰って寝たい気分だ。
まだお昼だけど。
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ああ失敗したな、と思う。
移動中のJRの中、どうにも視線が辛い。
主に脚のあたりを這い回るような感覚がどうにも堪らない。
足首から太腿まではまだしも、短いスカートの中まで潜り込んでくるようなものまであって、背筋が冷たくなってくる。
もぞもぞとスカートを引っ張って隠そうとすると、もっと視線が強くなるし。
センサーみたいな緻密なものではないけれど、多分3人以上から同時に見られているような感じ。
平井さんみたいな美女たちと一緒に居るのだから、そちらを見れば良いのに。
「ん、悠里ちゃんどうしたの?」
もじもじしている様子に気が付いたのか、その平井さんが声をかけてくる。
「いえ、こんな短いスカートを穿くのは久々なので、視線がどうにも辛くて」
私の言葉に面白そうな表情で、上から下まで何度も脚をしげしげと見つめられる。挙句手を伸ばしてきて、ぺろりと撫で上げられる。
「いいじゃない。それだけ貴女の脚が魅力的だってことなんだから、胸を張って見せつけてあげなさい。……本当、羨ましい脚。私と取り換えてくれないかな?」
「平井さんのほうが綺麗だと思うんですけどね。そのトレードなら乗りますよ」
クスクスと笑いあって、少しだけ気分が軽くなる。
……もし『私』が本当に『女性モデル』を続けていくのなら、多分ずっと付き合っていかないといけないこの『異性』からの視線。
自分がそれに本当に耐えられるのかどうか。心の中に不安が残った。




