8 シエル
私達の目の前に立つ少女。
「あれのこと? どう見ても魔物に見えないんだけど……」
「あれだと思うよ。にしてもねぇ、少女にしか見えないね」
油断する気はさらさらないが、正直ただの少女にしか見えない。
私とフラムが同じ感想を抱く中、ヴィルだけが首を傾げていた。
「ん? いや、そんな事あるわけないはず」
どうしたんだろう。ヴィルが狼狽えている。
そんなヴィルの様子を不思議がっていると目の前の少女がヴィルに飛びつき、そのまま抱き付く。
「お姉さま! 私です、シエルです!」
「あー……」
「無事だったんですね!! もう、どれほどお姉さまの事を心配したことか……」
「あ、うん」
「私と一緒に帰りましょう!」
感激しているシエルにそれを呆然と眺めるヴィル。
それを更に傍から眺めている私達。
「ヴィル、その子は?」
「えっと、シエルと言いまして、私の同郷の者です」
ああ、前買い物行ったときに言ってたなぁ。妹みたいなものだって。
それはそうと、
「なんでここにいるの」
「さあ?」
「それはお姉さまが心配で心配で……それよりこの人間はなんですか? お姉さまの奴隷ですか」
先程涙を流しながら感激していたのはどこにいったのか、私達を殺す勢いで睨み付ける。
「私のご主人様です。この世界にきて、私はあの人に仕えてます」
「そんな!? お姉さまが人間に仕えるなんて……どうして!!」
だから人間じゃないよ、魔女だよ。
そんな事を思ったけれど取りあえず口は挟まないでおく。
「アイリス様に私の命を助けてもらったんです。それから私はアイリス様に仕えようと決めたんです。これはいくらシエルに言われようと変えるつもりはありません」
うん、どう見てもシエルとかいう子、ショック受けているな。
きっとヴィルが一緒に帰ってくれると思っていたんだろうなぁ。
私としても帰ってもらった方がありがたいんだけど。
「じゃあ、分かった。私もお姉さまについて行く!」
「駄目です。シエルは帰りなさい」
「嫌だ! お姉さまがいないとヤダ!」
言い争う二人。
「取りあえず、ここで話すのもなんだし、私の家で話さない?」
そう、いくら二層とはいえ、ここでは魔物もでるのだ。
それにフラムが完全に置いてけぼりだし……
場所は変わり、私の家。丸テーブルを三人で囲む。
フラムには先に帰ってもらった。あの子もそんなに暇なわけじゃないしね。
「で、説明してもらえる?」
「取りあえず、シエルはどうやってここに来たんですか?」
「えっとね……スクエアさんにね、アイリス様の所に行くならどうしたらいいって聞いたら私が連れて行ってやろうって言ってこっち来た」
全く訳の分からない説明。私は分からなかったけどヴィルはそれだけで理解できたようで頭を抱えていた。
「スクエアさんも余計なことを……と言うかシエル、それってあなたの力で帰る手段はあるんですか?」
「……」
無言で私達から顔をそむけるシエル。
あっ、これは無いんだろうな。
「シエル? 正座」
「え?」
「正座」
「ひゃっ、ひゃい!」
ヴィルの気迫に押されて座るシエル。
目に見て分かるほど、ヴィルは怒っていた。
周りを燃やし尽くしそうなほどの熱気が出ている……フレア呼んでおいた方が良かったかな?
「あなたはいつも後先考えずに行動して。常に慎重にあるべきと言っているでしょうが! 何かあってからでは遅いんですよ!? 今回も私達が見つけるのが遅かったら大変なことになっていましたよ!?」
「うぅ、だって……私だって、お姉さまが心配で……ぐす」
ついにはボロボロと泣きだしてしまった。
「泣いてどうにかなるものでもありません。シエル、あなたはあっちの世界に戻しますね」
「それは、嫌だ。私はお姉さまと一緒いたい……」
「だめです。帰りましょう」
シエルが泣きながら訴えるのもヴィルは断固として拒否する。
なんか、段々とかわいそうになってきた。
ヴィルもここまで怒る事ないと思うんだけど。
「あのさ、もういいんじゃない? その子も随分反省しているんだし。一緒にいてあげても」
「だめです。シエルは私と違って力の制御があまり得意ではないんです。私が見張っているならまだしも……それにシエルがこっちでいる場所もありません」
「じゃあ、ここで住めば? それなら問題解決するんじゃない?」
うん、それならシエルもヴィルといれるし、今言った問題も全て問題ない。
ヴィルもいるし、もう一人増えたとこでもう変わりないでしょ。
「えっ!? 私の時はあれだけ渋ったのに!!」
私がそんなことを言うとは思っていなかったのか、思いのほか驚く。
「いや、もう一人も二人も変わらないかなって」
「でも、危険ですよ。シエルと一緒なんて」
「ヴィルがいれば大丈夫でしょ」
「うーん……ほら、ベットがありませんよ!!」
「買ってくればいいじゃない」
なんでこんなに嫌がっているんだろう。実はシエルの事が嫌いとか?
「……アイリス様と二人きりがいいです」
と思ったら本音が出た。なるほど、そういうことか。
「私は別に二人で? 帰ってもらってもいいんだよ?」
ヴィルに向けて首を傾げながら脅すように言う。
それでやっと折れたのかヴィルが認める。
「うぅ、アイリス様がそこまで言うなら……シエル、ここに住むことを認めるけど、アイリス様の邪魔をしないこと。そしてアイリス様は私のものだからね」
「誰がお前のものだ」
遠慮なく、ヴィルの頭に手刀。
「痛い……アイリス様の愛が痛い」
頭を押さえてうずくまっているアホを放っておいてシエルの所に向かう。
「よろしくね」
「……よろしく、アイリス」
我が家にもう一匹ドラゴンが増えたのだった。
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