6 ヴィルの一日
「では行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
私は扉を開け、外へと出る。
もちろん、今日のご飯の買い物だ。
アイリス様は仕事を頑張ってらっしゃるから私はそのサポートをしないと!
ふふふ、そしてゆくゆくはアイリス様の妻の座を……
おっと、そんな事を考えている場合ではありませんでした。
早く買い物に行くとしましょう。
「さて、今日のご飯はどうしましょうか」
アイリス様はその可愛らしい見た目とは裏腹に食事は豪快に召し上がられる。
何でも勢いよく食べている姿はもう、可愛らしくて可愛らしくていつまでも見ていられます。その料理を作れる役目を与えられるなんて光栄です。
っと、また話がそれました。今日のメニューでしたね。
「よし、取りあえず店をまわって考えましょう!」
ミゴンは、迷宮もがあることもあって栄えてます。
食材には困りようがありません!
さて、いつも通りまわるとしましょう。
まずは、運び屋のポーターさん。
いろんな場所に行っているだけあって、ミゴンには無いものを取り扱っています。
「ポーターさん。今日は何かいいものはありますか?」
「お、ヴィルちゃんじゃないか。そうだねぇ、今日の一押しはこれだね!」
鞄から取り出すのは青い花のついた草。
これはなんなんだろう。食べれるのかな?
「これはねぇ、なんと! とある山で採れた特別なトリカブトさ! 普通より毒の効能が三倍増し! 今なら安くしとくよ?」
「いえ、食べれるものでお願いします」
というかアイリス様の事だし、どうせ家にあるに違いない。
毒や薬には目がないからなぁ。
「むむ、食材か。それならこれはどうだ! まだ誰も食べたことのない珍味、コカトリスの尻尾! 煮てもよし、焼いてもよし! 見た目は蛇だしきっと大丈夫!」
「いや、それ毒あるじゃないですか。というか食べられるものなんです?」
ポーターさんの中でしゃ~と言いながら舌をチロチロしている蛇。
切り離されても生きているんだなぁ。
「むむ、これもお気に召さないと来たか! じゃあとっておきの物を出してやろう」
今までとは違う気迫……一体何が出てくるんでしょう。
「これだ! とある海で採れた魚!」
ポーターさんの手で跳ねる青灰色で目のない不気味な魚。口に牙が並んでおり、中々に凶暴そう。
「美味しいんですか?」
「その見た目の不気味さから誰も食べた事がないとはいえきっと美味しいよ!? って痛ッ。ちょっ、噛むなっ」
指を噛まれているアホは放っておいて違う店に行くとしましょう。
「お、ヴィルちゃん! 買い物?」
「あ、レナさん。どうも」
青い長髪をはためかせながら小走りでやってくる。
買い物をしているとよく出会うレナさん。お話をしている内にすぐに仲良くなりました。
「今日もご主人様のためにか。いいねぇ、ヴィルちゃんの料理が毎日食べられるなんてうらやましいよ」
「大切なご主人様ですから。何か今日はいい食材とかありますか?」
「ああ、今日はおやっさんの所にヘッジホッグの肉があったぜ」
「ヘッジホッグの肉ですか! いいですね。今日はそれにしましょう」
「あんまり残ってなかったから急いだ方がいいかもな」
「ありがとうございます! 今度お礼に何か作りますね」
「お、まじか。期待しとくぜ! また今度な!」
レナさんと別れ、おやっさんの所へと向かいます。
それにしてもレナさんはいつも歩きまわっていますが、普段何をしているのでしょうか?
「お、ヴィルちゃん。今日も可愛いねえ」
いつもの筋肉ムキムキなおやっさん。肉屋の主人がムキムキである必要はないと思うのですが……
いろんな肉を売ってくれます。一度私の肉も食べてみないかと勧めたのですが、慌てて断られました。どうしてでしょう?
「ヘッジホッグの肉はまだ残っていますか?」
「お、丁度良かったな。こいつで最後だ」
そう、取り出すのはまんまると太ったヘッジホッグ。
取りあえずメインはこれにしましょう。
「毎度あり! いつも買ってくれるからおまけしとくよ!」
「あ、ありがとうございます!」
最近こういう事が多くなってきました。
私がミゴンに馴染んできた証拠でしょうか。
その後も他の食材を買い、家へと戻ります。
この時間帯はアイリス様は忙しそうなので裏からこっそり入り、料理の準備をします。
今日のメインのヘッジホッグ。
正直こんなものより私の肉の方が美味しいと思うんですが、アイリス様は絶対に食べてくれない……美味しいものは最後まで取っておきたいという事でしょうか?
その内、私が夜中アイリス様に調理されたりなんて……//////
私はいつでも待っていますからね! アイリス様!
夜中になってから私とアイリス様はご飯を食べます。
「「いただきます」」
二人で声を合わせ、挨拶。
アイリス様の箸が今日のメインディッシュ、ヘッジホッグへとのびます。
いつもの緊張の一瞬。アイリス様の口に運ばれ、咀嚼され、胃の中へと入っていく瞬間。
アイリス様の箸が止まることなく、次の料理へとのばされました。
よかった、どうやらアイリス様のお口にあったようです。
アイリス様は美味しいと言ってくれないからなぁ。
でも、この様子を見ていると美味しく食べて貰えていることがはっきり分かります。
それからも、アイリス様の愚痴をまったり聞きながら食事を続けます。
一緒にいて、私の料理を食べてもらえる幸せな瞬間の一つです。
「「ご馳走様でした」」
挨拶をして後片付けをします。
これからは大体アイリス様の実験の時間。
私の鱗を傷つけられないかとアイリス様は必至です。
難しい顔をして私の鱗や薬品とにらめっこ。
私に夢中になってくれることが少し嬉しかったり。
まあ、私の鱗が傷つくことなどないんですけどね!
それからは就寝です。
私とアイリス様は同じベットで寝ます。
床でいいと遠慮したんですが、ベットで寝なさいと言われました。
アイリス様に抱き付き、温もりを感じながら眠りにつきます。
何度か悪戯をしようとした事はあるのですが、怒られました。
妥協案として抱き付く事までが許されました。
ここですぅすぅと寝たふりをするとアイリス様はそっと普段のお礼を言ってくれることがあります。
「寝たかな? 今日もありがとう、ヴィル。ご飯美味しかったよ」
きっと恥ずかしくて直接は言えないのでしょう。
可愛らしいアイリス様です。
こうして私の一日は終わっていくのです。