5 お買い物2
前回のあらすじ、ちっぱいとでっぱい
それからも町のいろんな場所をまわる。
今日は目的はあるが別にそれは最後でいい。
次にヴィルの目に止まったのが宝石屋だった。
見つけるなり、一目散に入っていく。
ちょっと、そんなところに入られても私のお金はないんだけれども。
やれやれと思いながらも店の中へと入っていく。
こじんまりとした店だけれども、中は整っており、綺麗な内装。隅々まで掃除されており塵など一つもないではないのかという勢いだ。
その中でショーケースを一心不乱に見つめる白衣の少女。
明らかに変だった。周りに店員もどうしたらいいのかと戸惑っている模様。
「あ、アイリス様! 宝石ですよ宝石!!」
「はいはい、そんなものを買う余裕はないし、必要もないから行くよ」
「えー、もうちょっとだけー」
だだをこねるヴィルを引きずって店を出て行った。
正直、宝石に関しては私の特異で原石から不純物を取り除いたものを加工してもらった方が安く済む。
こんな高いところで買うのは勘弁だ。
ヴィルは無理やり連れだされたことに不満があるようだったが。
次は服屋だった。
このまま白衣のままヴィルを歩かせるのは流石にどうかと思ってきた。
一着ぐらい買っておいてもいいかもしれない。と言うか買っておこう。あんまり来ることもないし。
私? 私は白衣でいいのだ。白衣が普段着だし。
「ヴィル、二、三着買っていいわよ」
「本当ですか!!」
私が言うなり、せっせと店の中を物色し始める。
ヴィルは元々ドラゴンなわけだし服を着る事とかなかったと思うんだけどなぁ。
「アイリス様! これとかどうですか?」
ヴィルが取った服を試着し、私に見せてくる。
それを見て私は固まってしまう。
いや、服自体はいいのだ。ヴィルにとても似合ってると思う。
それよりも白衣の時は気にならなかった二つの大きなふくらみ。否、大きな山が圧倒的なまでに存在を主張していた。
自分でふくらみを触る。乏しい膨らみ。それはそれは虚しさしかない。
うん……悲しくなるから止めておこう。
ヴィルの服を二、三着買って店を後にする。
相当気に入ったようで、買った服を着たまま出る。
まあ喜んでもらえたようで何よりだ。
次はどこに行こうか……
正直私はさっさ用事を済ませて帰る予定だったんだけど、ヴィルがここまで楽しそうなら水を差すのも悪い気がする。
と、ヴィルが立ち止る。
大きな十字架が天辺にそびえ立つ建物。教会だった。
「どうしたの?」
「いえ、この建物は教会ですか?」
「うん、そうだけど」
「やはりこの世界にも悪しき神々がいるのですね……」
悪だろうか? まあ、ヴィルにとっては悪なのだろう。
「まさかアイリス様も信仰されていたりはされませんよね!?」
まあ、私は無信仰だけれども。信仰していたら問題があるのか?
「ほっ。もし信仰しているようであれば決着をつけに行かなければいけないところでした」
明らかにほっとした顔をする。
いやいや、だからどういうことだよ。
そして日が暮れ、帰り道。ヴィルの両手には今日買った服や実験器具等を持っていた。
口の中に入れようとしたけど流石にそれは止めさせた。
「今日は楽しかったです。こんな風に誰かと買い物するのは初めてです!」
そもそもドラゴンが買い物をするのかと突っ込みたい気もするが気にしないでおこう。
「誰かと行くことはなかったの?」
「んー、シエルは変身自体苦手でしたし……ダハさんも人間には興味なかったですからね」
買い物中にも聞いた名前だ。誰なんだろう。
疑問に思っている私を見てか、ヴィルが説明してくれる。
「シエルとは私と同郷の者です。いつも私の後を付いて来て……妹みたいなものですね」
しみじみと懐かしそうに語る。やっぱり寂しいのだろうか。
この世界にやってきてから知っているのは私一人だけ。
その寂しさはどんなものだろうか。
私には想像もつかないものだ。
そんな私の視線に気づいたのかヴィルがほほ笑みながら私に声をかける。
「大丈夫ですよ、アイリス様。私は寂しくありません。アイリス様がいますからね!」
そう言って笑うヴィル。その笑顔は本当に嬉しそうだった。
その笑顔はとても少女のものとは思えないほど可憐で美しくて……
「どうかしました?」
やばい、少し見惚れてた。慌てて話題を変える。
「そ、そう言えば、今日の夜ご飯は?」
「今日は私のももです!」
「だから自分を食材にするな!!」
「えー、どんな肉よりも美味であると言われている私の肉ですよ? 召し上がってくださいよー」
「あのね、そう言う問題じゃなくてね?」
「はっ!? まさか私を直接食べたいんですか!? それなら私はいつでも大歓迎ですよー!!」
手を頬に添え、顔を赤く染める。取りあえず頭に手刀を入れておく。
はぅ、と可愛らしい声を上げながら頭を押さえている。
本当、なんでこんなのが使い魔になったのか……
「明日からもよろしくね、ヴィル」
「はい! アナリス様!」
でも、決して悪いものではなかった。