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龍と魔女と迷宮と  作者: 菊地
4/12

4 買い物1

出来ればこのまま毎日一話で続けたいところ(無理)

普段のミゴンの町なりとは違い、石造の家が立ち並んでいる。

その中を行き交う様々な人々。

その中に明らかに異質な白衣の少女が二人いた。


「デート♪ アイリス様とデート♪」

目の前でらんらんとはしゃいでいる角と尻尾の生えた少女。

町の人達はそれを不思議そうに見ている。

ぱっと見それは竜人種ドラコーンに見えなくもない。というよりは普通はそう見えるだろう。周りの人達は可愛い竜人種ドラコーンの少女で微笑ましいなぁ程度だろう。

だがそれは竜人種ドラコーンといった生ぬるいものなんかではなく生粋のドラゴンである。未だに迷宮内でさえ存在が確認されていないあのドラゴン。 


ただ、本人はそんな周りの目を気にしていないのか、それとも気づいてすらいないのか私に悠々と話しかけてくる。

「アイリス様、今日は何を買いましょう!」

「お前が壊した数々の備品をな」

そう、今日わざわざ、隣町まで出向いたのは理由がある。

ヴィルが数々の実験器具を壊してしまったのだ。

残念ながら魔女の町、ミゴンには私のいつも使っている物は売っていないのだ。

ある魔女の特異「再生リジェクション」に頼ろうかと思ったがなるべくあいつに借りは作りたくない。面倒だ。


そのための買い出しである。

まあ、他にも買わなければいけないものもあったから丁度良かったと言えば丁度良いのだけれども。

「で、どこに買い物に行くのですか?」

む、どうしようか。

取りあえず、実験器具は重荷になるから後回しにするとして……


「ヴィルが町に来るのも初めてだし色々見てまわろうか」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

感激したように私の腕へとすりついてくる。

この間、助けてもらってから少し甘やかしすぎかな?


ヴィルの気の赴くまま町を探索する。

ふと足を止めたのは、外にも見える様に配置されている数々の剣や槌、それに鎧や兜。

武器屋だ。

「アイリス様、この世界の人間も戦うのですか?」

そんな質問をするヴィル。

それは勿論当然だ。

魔物……と言っても迷宮外には大した魔物はいないのだが必需品と言ってもいいかもしれない。

そして種族ごとによる戦争。これが多々ある。

まあ、魔女はそれに巻き込まれることはないのだけど。

中に入り、武具を見てまわる。

ここは、私達の町にも近く、迷宮にも近いという事から結構いい武具が集まるものである。

まあ、私とヴィルが使う事はないだろうが、私はいい実験台になりそうなものがあったら買うつもりだ。鍛えられた鉄や魔鋼は普通より溶けにくかったりするのだ。

いい実験台である。

そう、武具を見ている最中だった。

「ふむ……」

と、珍しくヴィルが眉を寄せ、真面目に悩んでいる。

どうしたのだろう。

「いえ、私のいたところの武器に比べたら玩具みたいなものだなーと」

その発言でその場の人達は全員が凍り付いた。

とんでもない爆弾発言だった。

店主(恐らく武器を打っている本人ではないんだろうが……)の額には青筋が浮かんでおり、今にも怒鳴りだしそうである。

「し、失礼しましたー!!」

ヴィルを抱えて一目散に店を出る。


しばらく走り続ける。

はぁはぁ、ここまで走れば問題ないだろう。

それにしても……

「ヴィルのいた世界ではあの武具はそんなしょぼいものなの?」

私が見てもなかなかの武具だと思ったのだが。まあ、私が分かるのは素材のみだけれども。

「あんな剣では私は愚か、シエルの鱗にすら傷をつけることはできません」

自慢げに胸をはるヴィル。いや、それで胸をはられても、そもそもシエルって誰だよ。

「そういえば私が初めて会った時、剣が刺さってたよね」

行ってから気付いた。迂闊なことを口にしてしまったと。

ヴィルにとっては聞かれたくないことだったもしれない。

出会った時、ヴィルはかなりの怪我をしていた。

背中や翼に刺さる無数の弓矢。鱗に残る剣げき。そして、背中に刺さっていた大きな剣。

明らかに戦った後のものだった。そして恐らくヴィルは負けたのだろう。

それは明らかにヴィルにとっていい記憶とは思えない。


「あの剣はなかなかのものでしたね。何しろ聖剣と呼ばれていたぐらいですしね。何しろ私の鱗を貫通したのにも納得です」

腕を組んでうんうんと頷く。

ヴィルは気にしてないのだろうか? いや、気にしていない訳はないと思う。

ただ、今はそれよりも、

「聖剣!? ねえ、ひょっとして今もそれはあるの?」

「え、ええ。ありますよ。ただアイリス様が浄化したお陰で只の剣になっていますけどね」

何だと……それは大変なことをしてしまったのではないだろうか。

というか聖剣を見れないのがとても残念だ。

私が落ち込んでいるとヴィルが突然口の中に手をやり、どんどん深くまで潜り込ませていく。

「ちょ、ちょっと?」

そして、そのまま口の中から剣を取り出し、私に差し出す。

「どうぞ、これが聖剣のなれの果てです」

唾液やら胃液やらでべとべとになっているそれを受け取る。

いやいやいやいやいやいやいや、

「ちょっと待てええええええ」

思わず絶叫してしまう。

ヴィルは頭の上にはてなを浮かべながら首を傾げる。

「何で口に入ってるの」

「私のお腹は無限大です! 何でも入れることができいつでも取り出すことができます!」

なんか、段々とヴィルの無駄な特技が明らかになっていく。

いや、便利と言えば便利だけれども。取り出す姿は心臓に悪いし、こう胃液やら唾液やらでベトベトになったら意味ないでしょう。

と言うか元とはいえ、聖剣をお腹に入れても大丈夫なのか……


ふん! と得意げに胸をはるヴィルを見ているとなんかどうでもよくなってきた。


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