2 出会い
まったり続けたいと思います。迷走します。
魔女……それはこの世界にどこでもいる存在。人間や他の生き物とは違い、何か一つの「特異」を持つ。
そして十五歳になると魔女は使い魔を持つようになる。
使い魔は、一般的な動物、猫や烏、馬や胡蝶といったものから魔物、スライムやゴブリン、グリフォンやガーゴイルといったものまで。
私も使い魔を持てる歳になった。周りの友人は楽しみにしている者が多い。
けれど私にとっては使い魔なんてもいなくてなぁ、というのが正直なところ。
所詮いてもいなくても私の作業には関係ないかなと思う。
ある教会の前にある大きな門、通称「洗礼の門」。
十五歳の魔女がこの中に入ると自分の使い魔の元へと飛ばされる。
何が使い魔になるかは誰にも分からない。どこへ飛ばされるのかも分からない。
そんな門の中へと私も入っていく。
中に入ると広い空間、大きな草原に吹く強い風。
そして正面にいるのは大きな翼、目に見えるくらいの大きな鱗。
ドラゴンだった。
……!!??
そもそも龍は私の世界で存在は知られているが誰も見たことない。もはや空想の生き物ではないかと言われているような存在だ。
落ち着け? これが私の使い魔?
少し、混乱している。目の前の龍は何も話さない。
いやひょっとしたらシェイプデビルが私を驚かそうと変身しているだけだろう
はっはっは、そうだ、きっとそうに違いない―――
……
無言、龍は話さない。ひょっとして話すことができないのだろうか? しかし微動だにもしない。
龍をよく見るとあちこちに傷跡があり、背中には大きな剣が刺さっている。
何だろう、えらい立派な剣だな……とにかく、私の「特異」で触れれば本当に龍か判別できるはずだ。怖さしかないけれど兎に角、触れてみるとしよう。
首にそっと触れる。私が触れても相変わらず龍は微動だにしなかった。思った以上にごつごつとした鱗の感触。手にその感触を感じながら私は呟く。
「アナライズ」
識別では龍と判定される。信じがたい事だけれども本当に龍のようだ。
ついでに成分を見てみるとどうやらドラゴンとはいえ、基本的に爬虫類に近い成分で出来ているようだ。
「ん……?」
その中に明らかに不自然なものが一つ。圧倒的に占める割合が低いが、どんどん体内で増えていっている。これはどういうことだろうか? ひょっとしてこれがドラゴンの体を蝕んでいる?
「リソルション」
取りあえずその成分を取り除いてみる。ドラゴンの周りに漂い、浮かび上がっていく幻想的な白い光。これがこのドラゴンを蝕んでいたものなのだろうか。
『すまぬ、助かった』
「うおわぁ!?」
今までに微動だにしなかったドラゴンが動き出し、私に頭を下げ喋りだした。
いきなり動くなよ驚くじゃないか。
『何か礼をしたいが……』
「いやいやいや! 礼なんていいから! 元気になっただけで十分って」
正直こんなドラゴンに畏まれても怖いだけである。
さっさと逃げ去るとしよう。
『あっ』
ドラゴンに背を向け一目散に走りだす。寂しそうな声を出した気もしたが気のせいだろう、というより気にしない。
そのまま門を走り抜けた。
門をくぐり抜けるといつもの見慣れた光景。
魔女の町、ミゴン。目の前にはいつもの友人、フラムがいた。
「どうだった~?」
「いや……ドラゴンがいた」
「うわぁ、ドラゴンって。すごいね」
いつもの調子でほんわかと笑う。あの、ドラゴンだよ? そんな軽いものでもないからね?
ん、それにしても何か忘れているような気がする。
「じゃあアイリスの使い魔はドラゴンなんだね」
「あっ」
そうだった。私は使い魔を見つけるためにあそこに行ったんだった。
あれ? この場合どうなるんだろうか。普通一緒に戻ってくるものだ。
「さぁ? どうなるんだろうね」
まあ、いっか。元々使い魔が欲しいと思っていたわけじゃないし。
別にいなくてもね。本当はちょっぴり期待していたとか、かわいい猫がこないかなぁ、とかもふもふしたいなぁとか思ったりなんかしてないんだから。
本当に……
翌日、いつも通り目を覚ます。
「ふあぁぁ」
さて、今日も一日がんばるかと眠い目を擦りながら扉を開けた瞬間、
『ぐるるるるる』
頭があった。ごつごつとしたとげとげ、大きな宝石のような青い瞳。
ドラゴンがいた。
そう、ドラゴンがいる
そう、ドラゴンだ。
大事なことなので三度言いました。
「取りあえず中へどうぞ?」
このまま外にドラゴンを置いておくのもまずそうだし取りあえず中に入れよう。
と、言った後で気付いた。どうやってこのサイズのドラゴンを部屋に入れるのだろう。
『このままでは入りませんしよ……っと』
顔しか見えていなかったドラゴンが段々と小さくなっていく。
そこに残ったのは先ほどの凶悪な顔とは違い、こじんまりとした少女だった。
白く長い髪に、きらきら光るような青い瞳。
理解が追い付かない。
……
目の前でちょこんと座る少女。中にあるものが珍しいのか視線を目まぐるしく部屋の中を動く。
「で、聞きたいことだらけなんだけど」
「はい! 何でもおっしゃってくださいアイリス様!」
「まず、何で私の名前を知っているの」
「先ほどアイリス様のご友人であるというフレア様から家の位置とお名前を!」
フレアめ……勝手に教えやがって。後で存分にお仕置きしておかないと……
「うん、それは分かった。じゃあ何でここにいるの?」
「そ、それはアイリス様の使い魔となるためです!!」
「……えっ?」
「フレア様によるとどうやら洗礼の門というものを通ったさきで出会ったものは使い魔になるそうじゃないですか!」
「あいつ……余計な事いいやがって」
「それに私はアイリス様に命を助けてもらいました! いくら下等種族の人間とはいえ受けた恩は返さなければなりません」
命助けたってひょっとしてあれかなぁ……あのよく分からない成分を分解した奴。
やっぱりあれがこのドラゴンを蝕んでいたものだったのか。
そして私は正確に言うと人間ではないのだが、魔女なんだが。
「いや、私には使い魔は必要ないかな。そもそもあなたを養うお金もないし」
実際一人養うぐらいの余裕はあるのだが。正直ドラゴンに住みつかれても困るというのが本音だ。
「食べ物は自分で何とかするので大丈夫です! むしろアナリス様の分まで作ります!」
「ほら、寝床とか」
「私はどんなサイズにでもなれるので寝床には困りません!」
「えっとじゃあ……ほら、薬品が沢山あるし危ないし」
「大丈夫です、私の鱗はどんなものでも傷つきません」
「本当に?」
「え、あ、はい。実際勇者達の聖十字や星雲でも傷さえつかなかった自慢の鱗です!」
自慢げに胸をはる。いや、勇者とか聖十字とか聞きなれない言葉が出た気がしたが気のせいだろう。そんなことよりも何をやっても傷つかない鱗だって?
それは聞き捨てならない。
私の薬に溶かせないものがあってたまるものか。
「よし、じゃあ実験体としてならいてもいいよ」
「実験体……ですか? はい! ありがとうございます!!」
流石にこんな要求断られるかと思ったけど蔓延の笑みを浮かべてお礼を言うドラゴン。
「そういえばまだ名前も聞いてなかったね。知っていると思うけど私はアイリス・コンポートよ、よろしくね」
「わ、私はヴィーヴィルと言います! よろしくお願いします!」
腰を深くおり、頭を下げるヴィーヴィルを見て笑みを浮かべる。
いい使い魔、否実験体が手に入ったなぁと。
質問、感想、誤字脱字等良ければお願いします!
見直してたら主人公の名前さえ迷走してました。