1 日常
とある世界の平穏な昼下がり、こじんまりとした家の中には少女が二人いた。
「ヴィルも何かご主人様のお手伝いしたいです!」
元気よく握りこぶしに力を入れ、主張する白衣の少女。
白く長い髪の頭には立派な角、お尻から白衣を擦りあげる様に長く、太い尻尾が伸びている。
「することないからそこで大人しくしてて」
それを落ち着いて諭すご主人様と呼ばれたもう一人の白衣の少女。先ほどの少女とは違い、角も尻尾も生えてはいない。手には硝子の瓶、中では緑色の気味の悪い液体が揺れていた。
「それじゃあ私が来た意味がないじゃないですか! 何でもいいから私も何かしたいです!!」
「ほう? 今なんでもと言ったな」
「はい! 何でもです」
怪しく光るご主人様と呼ばれた少女の目。明らかによからぬことを企んでいる目だ。
「取りあえず白衣を脱げ」
「白衣を?」
疑問に思いながらも白髪の少女は白衣を脱いでいく。
「おし、じゃあ次は来ている服をすべてを脱げ、そしてベットに寝っ転がれ」
流石にこの発言には渋るかと思ったが、
「え、ええ? まさかご主人様ついに……私を襲ってくれるのですか!?」
予想に反して、きらきらと期待に満ちた目で白髪の少女はご主人様と呼ぶ少女を見る。
一瞬で服を脱ぎ、下着までも脱ぎ、生まれたままの姿でベットへと横になる。
「おし、転がったな。覚悟しろ」
「わ、わわわわ」
慌てている、というよりも期待した様子で待ちきれないと変な声を漏らす。
しかし、その期待していた少女が感じるのは気持ちよさではなく、
「うぎゃああ!?」
「こら、暴れるな」
そんな期待していた少女にかけられているのは先ほどの緑色の不気味な液体。
痛いのか少女は手と足をばたばたと動かす。
「あ、暴れるなと言ってもぴりぴりします! 何やっているんですか!?」
「何をやっているのかって実験だけど? ほら、人間や魔女と違ってドラゴンがどれくらい耐えられるのかなーって」
「どうしてそんなことに!? うぅ、私とご主人様のいちゃいちゃらぶらぶのはずじゃあ……」
そう、こんなんでもこの少女、ヴィーヴィルことヴィルはドラゴン、否龍である。この世界だって人間、魔女、魔物と様々なものが生きているけれども龍はその中でも異質だ。
どのくらい異質かと言うとヴィル以外に龍が見つかっていないぐらいには。
どうしてこんなのが私の使い魔となったのだろうか。
「やっほー、ってうわぁ。なんかまた凄い事しているねぇ」
扉を開けた所から栗色の跳ねた髪の毛を揺らしながら顔をのぞかせる。
「あ、フラム。どうしたの?」
「いや、ちょっとお願いしたい薬があって。というかヴィルちゃんにかけているそれ魔女ですら一瞬で肌が溶けてなくなるものじゃなかったっけ……」
「いやぁ、驚きだよね。まさかドラゴンなら少し痛いぐらいで済むなんて」
「ちょっとご主人様!? 愛する使い魔になんてものをかけているんですか!?」
「大丈夫大丈夫、ヴィルなら死なないと信じてた」
「ご主人様のサディストー!!」
ベットには死んだように倒れているヴィル。そんなヴィルをほっといて私はフラムに頼まれた薬を作り始める。
「ラーム薬だよね?」
「うん、迷宮もそろそろ麻痺を使う魔物も出てきたからね」
ラーム薬とはありていに言えば麻痺を治すものだ。コノトキシンやテトロドトキシンと言った毒を無理やり分解する、といってもそう簡単な話でもなく、すぐ治せるような便利なものでもない。ただ、麻痺はそのまま死につながるようなものも多い。そのためラーム薬は必須なのだ。
「はい、ラーム薬」
「ありがとー、じゃあまた来るね! ヴィルちゃんをいじめるのもほどほどにね」
ちょっ、私は別にヴィルをいじめている訳じゃ……
ラーム薬を受け取り、お金を置いて勢いよく出て行くフレア。
全く、いつも元気だけはいいんだから。
「うぅ、ご主人様はどうせ私がいなくなったっていいんだ……私なんて必要ないんだ……」
ベットを見るとヴィルがうなだれていた。
少しやりすぎちゃっただろうか?
一言声をかけておくべきか。
「えーと、今日はヴィルの作ったご飯が食べたいなー」
「任せてください! 私が腕にかけてご主人様にご飯を作ります!!」
ベットから私の前へと飛び上がるようにやってくる。
服を着るなり勢いよく外に食材を買いに行ってしまった。
私が言うのもなんだけど簡単すぎではないだろうか?
これはそんな『魔女』の私とそこに使い魔としてやってきたヴィルのお話。
「……で、これは何?」
更に乗るのは巨大な肉の塊、それと白ご飯。
「私のバラ肉です! 私を食べてください!!」
「愛が重い」
すかさず突っ込みを入れる。
ヴィルは文句を言っていたが結局食べなかった。
……そういえば龍に肉の部位などあるのだろうか?