皆勤犠牲
早起きは三文の得。という言葉を知ってから俺は朝早くに起床し軽く走り始めた。
走り始めたことに理由はない。単に朝早く起きたとしても特にやることがないと思い。結果、朝はランニングというドラマなんかで見ることをやってみようと思っただけだった。
最初の頃は布団の中から出るだけでも苦労したものだが、慣れてしまえばこっちのものだ。いつも通りの時間に起床し、着替えと軽い準備運動をし、玄関を出た。途端に、吐く息は白くなり、身に刺さるような寒さが体に襲いかかる。
「寒!!年明け早々さすがにもう走るのも厳しいか?」
誰かに問いかける訳でもない疑問形の独り言を呟きながら戸の鍵を閉め、アパートの階段を軽快に降りると俺は何故かいつもとは逆の方向へ走り始めた。
「あれ?なんで俺今日こっち向きに走ってんだろ」
そう言いながらも俺は走り続けた。どこに行きたいというわけでもないのに足は自然と前へ出る。
しばらくすると、高台に辿り着いた。高台からの景色は辺り一面朝霧で覆われ、ほとんど見えない状態だ。
「あれ?ほんとになんで俺、こんな所まで走ってきたんだ…?」
軽く息を切らしながらも今度は自分自身に問いかける。すると、どこからか微かに声が聞こえた。
「それはそなたが余に会う為じゃ」
俺は自分の耳を一瞬疑った。
ここには俺しかいない。第一こんな朝早くに高台に登ろうとする奴なんているはずがない。
恐る恐る俺は次いでその発信源不明の声に質問をしてみた。
「...だ、誰だ?」
懸命に普段通りの態度を取り繕おうとしたが、声が震えているのが自分でもわかる。
「んー、誰って聞かれると…あ」
と言うと、その声は急に途切れた。かと思うと再び喋り始めた。
「うむ。余はそなたの願いを叶える者じゃ」
2度目だからか、さっきよりその声は鮮明に聞こえ、若々しい声と口調がとても不釣り合いに感じる。
「...なるほど。では、なんと呼べ話いいでよろしいでしょうか」
相手の口調に合わせ、こちらも自然と敬語で尋ねかける。
「あー、私のことはねー…」
またその声は途切れた。かと思うと再び喋り出す。
「余のことは『天使さま』と呼ぶがよいぞ」
「て、『天使さま』...ですか?」
「うん。…あ、うむ!!」
こんな話だけで相手を判断するのは良くないとは思うが、俺に危害を加えるような相手ではないと感じた俺は失礼を承知の上で1つその天使とやらに指摘してみた。
「あの、天使さま、先程から口調を無理に変えてらっしゃいませんか?」
すると、今度は天使さまが焦ったように反論してきた。
「え!?いや、うん?私、あぁ違う!余は全然あ、焦りなど感じてなんかないよ?」
口調がもうゴチャゴチャで俺は思わず笑ってしまった。やっぱり無理してたんじゃないか。
「むー…わ、笑わないでよ!この喋り方まだ慣れてないんだから!!」
「じゃあ、やめればいいじゃん」
俺がサラリと口にすると、天使さまの声は急に小さくなった。
「し、仕方ないじゃん、こーゆー喋り方じゃないとダメって言われてるんだもん...」
と、愚痴を漏らした。
「ふーん。で、結局天使さまは何者なの?」
自称天使の愚痴など気にも止めず、俺は次いで聞いてみる。もういい加減家に帰って登校の準備をしなければマズい。
「んな!わ、私はれっきとした正真正銘の天使だよ!」
案外粘り強く自分のキャラを崩そうとしない強固なタイプか...と、思い俺は呆れつつもまた質問をした。
「じゃあ、その証拠は?まず、天使さまはどこにいんの?いい加減出てこいよ」
少々苛立ちを隠し切れず声に出し質問すると、天使さまはしれっと答えた。
「今私は天界にいて、そして証拠は今あなたに電子機器などを使わずに話しかけていることかな」
天界ってのが嘘くさいんだが、と思いつつ俺は腕時計に目をやると、針はもう午前7時を回っていた。
「わかった。で、もうそろそろ俺、学校あるから家戻るわ。じゃな」
天界にいるらしい天使さまに別れを告げたところで意味があるのか知らないがその直後、天使さまは俺を呼び止めた。
「いや、あの!私あなたのお願い叶えないといけないの!!」
「お願い?あぁ、そんなの特にないから気にすんな」
「こ、困ります!ほら、願いぐらい何かあるでしょう?」
「願いなんてものは自分で叶えるものだし、誰かに叶えられるものじゃない。というか、なんで俺、願い叶えられる立場になってんの?」
「あー、えっと、それはですね...」
急に静かになったところから思うとどうやら天使さまは答えになるような言葉をを探しているようだ。
「じゃあ、俺行くから」
「あ!ちょっと!もー!!わかりましたよ!!」
それから天使さまの声はしなくなってしまった。
「ん?天使...さま?おーい」
天使さまが怒ったのかと思い呼びかけてみたが返事はない。
相手の善意にこの対応は酷いと思いギリギリまでこの高台に居ようと思い直した挙句相手側から断ち切られてしまったのでは仕方がない。
「帰るか」
そう呟いて、帰ろうとして足を踏み出そうとしたその時だった。
「ちょっと!!」
ついさっきまで聞いたことがあるようなないような声が真後ろから聞こえた。
「ん?」
そうして、俺が後ろを振り返った時、ついさっきまでいなかったはずの少女がそこにはいた。
肩から下まで布かなにかの1枚だけで体を覆い、その布には顔と腕を通すためだけの穴が空いている。
穴から出ている顔は端整に整っており、とても可愛げがあった。しかし、その顔は惜しくも怒りのせいかこめかみに小さなシワが入り。目の周りが少々赤くなっていた。ついさっきまで泣いていたのだろうか。
「あの、どちらさまでしょうか?」
一応その少女に聞いてみた。
俺の予想が正しければ、彼女は多分…。
「天使だよ!あなたの願いを叶え...、いや願いを見つけるために下界にやって来たの!!」
彼女はスラリと細い手足をむやみにばたつかせながら必死に抗議した。
「嘘...だろ?」
俺は今まで17年間生きてきた中で1番驚いている顔をしているなと思った。
「ホントだってば!というか、君顔凄いことになってるよ?」
俺の顔を小馬鹿にしつつスカートのようになっている布の端をつまみ意味もなくヒラヒラさせながら彼女は言い放つ。
すると、俺のポケットに入れていた携帯から登校時刻である午前8時をしらせるアラームが鳴り響いた。
「あぁ!遅刻だ...」
遅刻確定だ。今から急いでも学校には間に合わない。せっかく今まで休まず皆勤だったのに...。
すると、天使さまは天使さまで何やら呟いていた。
「あ、輪っかと羽忘れた...」
俺にその言葉の意味はよくわからなかったが、どうやらマズい事だという感じだった。
こうして俺はある朝の日に皆勤という犠牲を払い、願いを叶えてくれるという天使さまとやらに出会った。
初投稿です。
キャラの口調などがまとまらずいろいろ悩んだりしましたが、何かご指摘あればお気軽にお尋ねください。
(といってもまだ最初なのでたいしてわからない点はないよう務めてはいますが…)
読んでくれる方々に楽しんでいただければ幸いです。
次の投稿日は曖昧ではありますが、間隔を開けないよう頑張りますので、これから「てめほよ!」をよろしくお願いします。




