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3人兄妹の次男とその友達。

3人兄妹の次男とその友達。

「あっつい……」




 8月に入ったばかりの、昼前。


 太陽は快晴に輝いていて、情け容赦なく体力を奪う。


 店の軒先とか、街路樹のわずかばかりの影とか。見かけるたびに、少しでも休もうかと考えはするものの、歩みを止めては何時までたっても家に帰れない。


 両手に持ったビニール袋も、重いし量も多いしで張りつめて破れそうだった。なんで飲み物をこんなに買ったんだっけ、なんて、買い物中の自分に呆れる。

 いや、店に入る前はもっと曇ってて、暑くはあったけど、今ほどではなかったんだ。暑かったけども。

 自分でも誰に向けているのかわからない言い訳を口の中でもごもごさせながら、普段ならば最寄りのスーパーから家まで15分の道のりを進む。すでにスーパーから歩いて15分はたっていたが、家までの距離はあと半分ほどあった。気付かなければ良かった。ちょっと絶望感。




「そもそも日中に買い物にでるとか、どうかしてんじゃないの俺……」




 おかしくなっているなら主に太陽のせいだ。それか夏。

 夏休みは馬鹿な学生が多いらしい。自分も学生なのだから、馬鹿になっていても仕方ないのかもしれない。


 ……ああ、いや。違った。


 おかしいのは自分ではなく、兄だ。


 今日は午後から友達がくると伝えておいたのに、夜中に飲み物を全て飲み干していたのだ。大きいサイズのペットボトルが3本、あったはずなのだ。

 3本とも宴会芸で飲んだ、って。意味がわからない。

 正しくは練習らしいが。

 兄の、人当たりだけは良い笑顔が思い浮かぶ。出かける前のことだ。説教をしようと自分が口を開く前に、兄は空のペットボトルを差し出して「弟のー、ちょっと良いトコ見てみたい!」と言ったのだ。アホだ。

 むかついたのでペットボトルを奪って水を入れ直して、手近な頭に思いっきり振り下ろしたらものすごくスッキリした。兄は鼻血をだしてうずくまっていた。妹に、こんな大人にはならないように注意して、アホはそのままに飲み物を買いに外に出たのだった。




「ぁー、思い出したらまた腹立ってきた」




 水の量を少なめにして、手加減したのが良くなかったのかもしれない。




「次は、こう、悔いの残らないような一撃必殺を狙おう」


「……ずいぶん物騒なひとりごとだね?」


「んぁ?」




 間の抜けた声が出た。


 声のした方を見やれば、午後から来るはずだった友達がいる。兄とは違い、曖昧に笑みを浮かべていた。




「聞いてたのか?」


「けっこう大きなひとりごとだったしね。聞いてたと言うより、聞かされたって感じかなぁ」


「恥ずか死ねる」


「……これぐらいで死んでたら、君は日本の人口ぐらい命があってもたりないと思う」




 けっこうまじめな顔でさとされてしまった。自分の恥は億単位であるらしい。主に兄のせいだろう。そろそろ本格的にどうにかしないといけないかもしれない。




「それはそうと、ずいぶん早くないか? 約束って、午後からだよな?」




 もしかして、時間を間違えていただろうか。電話での約束だったから、午後1時と午前11時ぐらいの聞き違いはあるかもしれない。




「ぁ、えっと。じゃなくて。約束は、午後で、あってるよ?」




 友達が挙動不審だ。視線が見えない妖精さんを探し、両手の指が複雑怪奇に絡み合っている。……ぁ、かえるになった。小学生の頃によくそうやって遊んでいたことを思い出す。今改めて見ると、うん。指が変に絡んでいて、なかなかキモい。

 このまま放置しても面白そうだが、そろそろ家も見えてきていたので声をかけることにする。


 暑いし。


 早く帰りたい。




「じゃあ、また午後に」


「えっ」


「え?」




 なにか変なことを言っただろうか。約束は午後であってると、友達の口から聞いたばかりだが。


 整理しよう。

 今は午前中である。

 約束は午後である。

 なので、また午後にと言った。




「なにがおかしいんだ……?」




 全く、見当もつかない。暑さで友達の頭がやられてしまったのだろうか。それはありそうだ。




「ちょっと待ってて」




 友達に告げて、自分はビニール袋を歩道脇のブロックに置いた。中を漁って小さいサイズのペットボトルを取り出す。




「はい、これ飲んで。熱中症には気を付けろよ?」


「ぁ、ありがとう……?」


「今日遊ぶの楽しみにしてたから、倒れられても困るし」


「そうなの!?」




 すごい勢いで詰め寄られた。

 そりゃあ、妹は友達に懐いているし、当たり前だろう。




「なんだよ、驚くことか?」




 妹は小学校低学年で、感情が表に出やすい。昨日の夜、友達が遊びに来ると聞いて、興奮してしまって寝かしつけるのが大変だったぐらいには、楽しみにしていたのだが。




「ううん。つい、嬉しくて!」




 ああ、友達は子供好きそうだからなぁ。納得。




「じゃあまた、午後にお邪魔するね!」


「おう、待ってる」




 手を振って友達とわかれた。

 去り際に友達が「君は素直なのかそうじゃないのか、よくわからない」と言っていたが、なんのことだろう。自分ではすごく素直に、正直に生きているつもりなのだが。午後まで覚えていたら聞いてみよう。

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