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私が殺され、事件が迷宮入りした理由

作者: 頭山怛朗

 私は“アンチ・ジャイアンツ・ファン”である。“アンチ・ジャイアンツ”ではなく“アンチ・ジャイアンツ・ファン”である。“ジャイアンツ”、讀賣ジャイアンツ自体、わざわざ“アンチ”なんてわざわざ付けるに値しない代物、くだらない代物、価値ない物体だと思っている。

 そんな物、物体に「讀賣ジャイアンツは世界で一番素晴らしい野球チームだ。他のチームの応援するなんて連中は糞だ」などと真顔で考えている“ジャイアンツ・ファン”には我慢ならない。

 で、私は“アンチ・ジャイアンツ・ファン”である。


 でも、私も無駄な揉め事は御免だ。

 それで、私は「自分が“アンチ・ジャイアンツ・ファン”である」というチラシを駅前で配ったりはしない。でも、他人との付き合い上相手が“ジャイアンツ・ファン”と判ると態度が変わることもある。

 例えば、一年ほど前もこんなことがあった。

 私の所有している水田(自分では耕作せず、他人に任せていた)が県道の拡張工事でかかった。県土木事務所の担当者の提示条件は“大変な好条件”だった。土地単価は私の思っていた単価よりずっと高かったし、親父が残していった“お荷物”の田んぼが「好条件の宅地」になることは明らかだった。

 でも、最初の交渉時にそれとなく聞いて担当者が“ジャイアンツ・ファン”、それも相当に熱心な“ジャイアンツ・ファン”だと判ったので徹底的に交渉を拒否した。

 相手が見ている前で玄関に塩を撒いたり、県庁の人事課に「担当は慇懃無礼だ」と電話したりした。

 その内、担当者が若者に替わった。若い担当者ははっきりとは言わなかったが中年の担当者はノイローゼで休みを取っているようだった。若い担当者は「ぼくは野球よりサッカーがいい。中学、高校、大学とずっとサッカーをやっていた」と答えた。

 私はその若い担当者との2回目の交渉で「契約する」と言った。

 こんな極端なことはまれだが、“ジャイアンツ・ファン”には冷たくした。だって、嫌いなものは嫌いなのだ。弟は“ジャイアンツ・ファン”で、疎遠にしている。

 それで、私のことを怨んでいる連中は多少いるかも知れない。と、思っていた。


 ある夜、私は残業で遅くなり最終電車で帰宅した。林の中の街灯のまばらな細い道を自宅に急いでいると「頭山怛朗だな? 」といきなり声をかけられた。何処かで聞いた声だった。

「そうだ」と、私は答えた。

 次の瞬間、胸に激しい痛みを覚えた。手を当てるとべっとり手が濡れた。乏しい光でも、それが血であることは明らかだった。それも、生半可な量ではなかった……。私の意識が遠ざかった。

 こうして、私は刺殺された。


「お兄さんは、誰かに怨まれていましたか」と、刑事が言った。

「兄貴は“アンチ・ジャイアンツ・ファン”でした。“ジャイアンツ・ファン”には冷酷でした。病院送りになった人もいます」と、弟が答え。「“ジャイアンツ・ファン”の私とは疎遠でした。おっと、昨晩、私は大阪に出張中でした。それに兄は、殺すほどの人間ではありませんでした」何時も、弟は冷酷と言っていいほど冷静だ。

 刑事は肩をすくめた。



 私が殺された後、直ぐに、子どもが誘拐され殺される事件が発生した。R署の注力は当然、そちらにそそられた。それはそうだろう、幼い子どもと、奇人変人の独り者の中年男。どちらを優先するか? 議論など必要ない。

「“アンチ・ジャイアンツ・ファン”の中年男殺害事件は急ぐ必要などない」と、“ジャイアンツ・ファン”のR署刑事課長が言った。これまた“ジャイアンツ・ファン”の私の事件の担当刑事が「そうですね」と言った。

 こうして、私が殺された事件は迷宮入りとなった。

 つまり、私は“ジャイアンツ・ファン”に殺され、私の事件は“ジャイアンツ・ファン”によって迷宮入りになったのだ。

 でも、それを問題にする者はいなかった。


 恐ろしき“ジャイアンツ・ファン”!!!


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