【Ⅰ】俺達はクレイジー
モンスター取締局とはアメリカを跋扈する幻獣生物から市民の身を守るために設立された組織だ。その組織にはモンスター狩猟数全米ナンバーワンのエリート組が存在していた。一人目は肉団子のように腹が分厚く、ハンバーガーにイチゴシロップをかけて食べる黒人の男、カレン。二人目は筋肉隆々でボディービルダーのような美しい肉体を持つ白人の男、ジョセフ。その正反対とも言える二人組は意見が合わず、毎度ながらに口喧嘩のオンパレードで常に衝突している。ところが、いざモンスターの狩猟となると、息がピッタリと合わさってしまうのだった。
そんな二人は今日もデスクで仕事をしていた。捕える筈だったモンスターを殺してしまったミスをしたせいで、始末書を書かされているのだ。長らくパソコンに向かって糖分不足のカレンはイライラした様子で、貧乏ゆすりをしていた。
「あん?」
それを横目で見ていたジョセフは右手で、彼のだんごっぱらを掴んで、ちねり倒す。カレンはたちまち雄たけびをあげながら、顔をブルブルと犬のように振り回していた。
「なーにすんだ。コンチクショー!」
「悪ぃな。お前の貧乏ゆすりにイライラしちまってよ」
「何言ってんだ。俺はダンスを踊っていただけだぜ」
そう言うと、カレンはデスクの椅子に座ったまま、ぎこちないダンスを披露したあげくに脚を机の角に強打していた。ガンッと言う強烈な音を立てて。
「飽きれたもんだな。そんな狭い場所で踊れる筈もないだろう」
「うるへー! こっちは糖分不足でイライラしてんだ」
「おいおい、1時間前に昼食を食べたばかりじゃないか」
それもカロリーの高い食べ物や飲み物ばかりだった。それなのにカレンはお腹を押さえて、あさっての方向を見ながら腹が減ったと嘆いている。
「嗚呼……ハンバーガーにイチゴジャムをつけて食べたいぜ」
「おええええ!」
ジョセフはわざとらしくパソコンの前で、吐き気をもよおしたという演技をした。二人はかれこれ長い間コンビを組んでいる。そういった演技は直ぐにばれてしまう。
「てめえ、ワザとやってんだろ!」
「なんだよ。ワザとじゃ駄目なのか?」
「むぎいいい。もう怒ったぞ」
次の瞬間、カレンがジョセフの胸に飛び掛かってきた。ジョセフは応酬という形で、カレンの肉肉しい頬をグーパンチで殴りつける。こうなったらどちらかが根を上げるまで喧嘩は終わらないのだが、今回は違っていた。
「静かにせんか。大馬鹿者めが!」
普段なら黙って見逃している筈の所長が二人の喧嘩を止めに入った。署長は両手でそれぞれを左耳を掴んでひっぱっている。
「いてててて!」
「す、すんませんでした!」
二人の体を上空に持ち上げている署長も相当な怪力の持ち主だろう。なにせ、暴れ牛と肉食怪獣の二人を制止させる力を持っているのだから。
「分かればいいのだ」
耳から手を放されると、二人は地面に激突して尻餅をついてしまった。
「署長……酷いでさあ」
「そうだよ。いつもなら見て見ぬ振りをしてくれるだろう」
それもどうかと思うが。
「諸君。事件だ」
「事件か!」
「おいおい、昨日に狩猟した筈だが、なんだか四か月も狩猟していない気分だぜ」
「場所はハーレムのド真ん中だ。リンドブルムドラゴンが旅行客を襲っていると通報が入った」
「なんだよ。またハーレムか!」
「へへ。腕が鳴るぜ」
こうして、二人はパトカーを飛ばしてハーレムに向かったのだった。