#1
訪問ありがとうございます。
素人が趣味で書く小説です。
のんびり好きなようにやってみようと思います。
どうぞよしなに お願い申し上げますm(__)m
隣で何かが動いた気がして、柚子は目を覚ました。
夜明けにはまだ間がある時刻で、闇は濃く、外からは馴染みの蛙の大合唱が聞こえてきている。
喉の渇きを覚え、起き上がろうとすると柚子の隣には抱き枕が置いてある。
あれ?なんだこれ?酔っ払ってゲーセンで取ったのかしら……
布団を剥ぐとそこにいたのは玉のような女の子だった…
「っておいぃぃぃぃぃぃっっ!!!
これはダメだよ。犯罪だよ。どどどうしようっ」
体つきからみて7歳くらいだろうか。黒曜石のような深い黒色で緩いカールがかった髪、長いまつ毛に、桃色の頬、まさしく造られた人形みたいに整っていて、そのせいかなんだか日本人離れした印象をうける。
しかし何より柚子を混乱させたのは、女の子が丈の合わない柚子のパジャマをきて寝ている事だった。
犯罪者だ……。
これは確実に未成年者誘拐だよ……。
がっくりと肩を落としながら、それでもこのままのわけにもいかない。柚子は女の子の体を優しくゆする。
女の子はむずがるような身振りをしつつ、ぼんやりとひとみを持ち上げた。
とりあえず、責任ある大人の行動をせねば。
「えぇっと、私は望月柚子。あなたのお名前は?」
「奴隷に名乗る名前なんてないわ。控えなさい!このネフェルテム • エヴァ • アトゥムは千年続く偉大な王家イジパタの正当な跡継ぎ、つまりは王女なのよ!」
「なんだか一から十まで自己紹介していただい気が……。あのどこから来たの?お嬢ちゃん」
「まあ何て失礼な奴隷なのっ。わたくしのことは恭しくネフェルテム様とお呼びなさい」
「お父さん、お母さんはどここにいるのか分かる?」
「父様と母様をわたくしに呼びつけさせようなど!身の程知らずも大概にしなさい!」
ーー話が通じない。いや、日本語だから通じてはいるのだけども。ちょっと妄想癖のある子なのだろう。いわゆるお姫様ごっこというやつだろうか。
柚子も小さい頃はごっこ遊びやチャンバラで暴れまわった思い出がある。
まあ許容範囲だろう。居丈高な態度だが、私を怖がるそぶりはない。考えたくもなかったが、酔っ払って子供に乱暴なことをした訳ではないらしい。
まあ連れ込んだこと自体、社会人失格なんだけど。
とりあえずは。
「……おなかすかない?」
子供の懐柔は餌付けに限る。
************
リビングのソファに子供を座らせ、簡易ホットケーキを作る。
警察に届けるべきか、子供から親の情報を聞き出すか。焦っても始まらないし、朝食を食べてから考えよう。
柚子は先程のパニックがぬけて、本来の楽天的な気質が戻ってきていた。
バターと蜂蜜を載せてどうぞと差し出すが、子供はなぜか途方にくれたようにこっちを見つめてくる。
「どうぞ食べて。ホットケーキよ。」
柚子にしてみれば、なぜそこで困惑されるのかわからない。どうしたのという風に顔を覗き込むと
「……食べ方……わからない……」
女の子は本当に戸惑ってるらしく、さっきまでの偉ぶった態度がすっかり消沈している。しょぼんとたれた犬の耳の幻が見える。
うーん、これが、ぎゃっぷもえって奴からしら。なんだかくすぐったいような温かいようなものが胸を占める。
フォークで一口サイズに切り分け
「ほら、あーんして?」
素直に開けられた口に入れてやる。
もぐもぐもぐと食べてるうちに、
硬かった表情がみるみる輝いてくる。
「美味しい!とっても美味しいわ。」
「そう?気に入ってくれて嬉しいわ。
残りもあなたのだから食べていいのよ」
そう教えると、はち切れんばかりの笑顔がかえってくる。
ここまで喜んでくれると作った甲斐もあるというものだ。
なんだか、すっかり情がうっつてしまったみたい。
************
柚子は朝食代わりの紅茶を飲みながら、ホットケーキではしゃぐ女の子を観察する。
美人である。細面で黒髪だが純粋な日本人ではない。なぜなら瞳の色が明るい緑だからである。一概には言えないが顔つきもモンゴロイドっぽくない。だからといって白人ではない。ハーフなのかしら。
もうひとつ。ホットケーキを知らないというのは、あまり普通のこととは思えない。なぞの奴隷発言と言い、大金持ちの家の子供なのだろうか。それでジャンクは食べさせない教育をしているとか。
ぼんやりと考えをまとめていると、食べ終えた女の子がダイニングテーブルに腰掛けた私をじいっと見つめてくる。
ーー怖い。
なんというか、お婆ちゃんの家の棚に飾ってあるお人形シリーズ的な、なんとも言えないあの感じににた怖さがある。見慣れない色でしかもぱっちりした瞳で、なんだかコロンと目玉が落ちちゃいそう。
まあ、そんなことこんな小さい子には言えないけど。
このキラキラした表情を見るに、つぎは何が出てくるだろう的な期待を受けてる気がする……。
どうもしないからね。もうあとは家の人読んで連れて帰ってもらうから。
「お嬢ちゃん「ネフィよ」」
話しかけた先から突っ込まれる。心の中でため息一つ。おそらく彼女の愛称なのだろう。さっき言われた長い名前より言いやすいので採用する。
「ネフィ、この家は私の家なのだけど、あなたの家はどこにあるの?この近所なのかしら?」
ネフィは瞳を大きくして(ほんとに落ちそう)頷いた。
「私も聞こうと思ったの。私、自分の部屋で寝ていたはずなのにどうしてここにいるの?」
……はい?
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空は白々と明るみ、蛙の代わりに起き出した鳥たちの鳴き声が響く。
行き交う車は騒々しいエンジンを鳴らし、早起きした人たちの挨拶の声が聴こえる。
変わらない日常風景。柚子の町で毎朝繰り広げられているもの。
柚子も本来ならこの景色に溶け込み、近所のパン屋にできたてほかほかのパンをいただきに出かけるはずだった。
……なんでこんなことに。
お互いの持っている情報を話し合った結果、どうやらネフィは『時間、もしくは空間、あるいはその両方を越えてそれか戻ってきた。』という結論に至った。
根拠は
①近代社会の有り様を全く知らない。
(電気や車、トイレの仕方までネフィはなんにも知らなかった。)
②自分の経歴、いた国の文化の説明がしっかりできている。(しかし、今地球にはネフィが居たというイジパタという国は存在していない。当然のように彼女も日本を知らなかった)何らかの記憶の障がいがあるというなら、これはしっかりし過ぎている。
そして結論から導かれる最大の尚且つ最悪の問題。それは、どうひっくり返っても(それで問題が解決するなら喜んで逆立ちでも、バク転でもしてやるのだが)、彼女には帰る場所がないということだ。
ーーほんとなんでこんなことに。