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ちょんまげとバズーカ  作者: シーサイド地蔵
4/5

『Aパート』



 何が悲しくてこんな格好を。今私は体育祭の真っ只中、現在の競技は全校生徒参加の壮大な新撰組ごっこ。服装は勿論ダンダラ羽織り、それも刀持ち。いくらフィクションでも、このお金の使い方は無いって。いつの間にか学校のグラウンドが自衛隊の演習場みたいに広くなってて城とか建ってるんだもん。あのね、私らに城攻めさせる気? 第一銃刀法どうしたの、私にはこの刀真剣に見えるんだけど……。けど怪我人は練習の頃から一人も出てないのよね。最近知ったけど、皆異常にタフで怪我もしない。いった~い、なんて言いながら実は何にも傷ついてないとか日常茶飯事。私にしても必須イベントっぽい見せ場以外で怪我は殆どしないし、いや便利なのか何なのかわかんないわ。


 さて私は今一番隊の沖田役をしている。周りには錚々たるメンバーが。近藤勇、土方歳三、楠小十郎、佐々木愛次郎、山野八十八。途中から美男子引っ張って来てる事からも分かる通り、不可思議娘たちはその知識をBL本から取り込んでいる。というか私一番隊なんだけど、なんでここに皆が固まるのさ。


 コイツらの企みは分かっている。私を沖田とすれば、BLノリで私に迫る事が出来るから、こうして新撰組を勉強しているのだ。あ、因みに義妹が紛れこんでるけどアホの子だから天草四郎と名乗ってる。焼くぞ。


 現在敵は幕府役の教師軍団であり、城に引きこもっている最中。もはやシチュエーションが分からないがノリでやってるのだから仕方ない。さあどうやって攻めるかと、私はクラスの皆を集めて作戦会議を開こうとしていた。その時……


 雲間から、まるで空を切り裂くように一条の光がグラウンドに降り注いだ。えっ……あれっ? なんか降って来たよ。あれは……


 あ。


 ああっ!?


 えっ、何で!! 全身灰色の人型の生き物、グレイマンじゃないっ! そして一緒に降ってきたのは、狂花!? 嘘、どうして今になってゾンビハンター狂花になるのよ、これ美少女ゲームなんでしょ!? いくらこの世界の子たちが丈夫だからって相手が悪すぎるっ!


「会長、直ぐに皆を逃がそう! あれはゾンビ、本当にゾンビなんだよ!」


「あら、今は新撰組なのですよ? ホラーごっこは次になさいませ」


「あーもうっ! 本当だって言ってんでしょーっ!!」


 私が涙目でそう叫んだ時、少し離れた場所から他のクラスの子たちの悲鳴が聞こえた。見るとそこにはゾンビたちの群れ。嘘だよ、こんなのって無い! 私が望んだからこんな事になったの? これは私のせいなの?


 私は走り出した。体力は無い、腕力も無い、けど死ににくいから私でも囮には成れる。そう思って駆け出すと、併走するように吸血幼女と刀娘がついて来た。

「退魔師の私をお忘れか? 貴方の為なら、私はゾンビの群れの中でもお供します」

「私の事も忘れないでよねっ! あんな出来損ない、私の敵じゃないんだから!」


「あんたたち……」


 後ろでは会長が電話で応援を呼んでいる。既に空にはヘリコプターの影がちらつき始めた。いや早いって。


 そして、ゾンビたちの群れの中。私が成りたかった永遠のヒーロー(誤植ではない)がバズーカを構えて戦っている。ああ、勝てる。きっとあのグレイマンに私たちは勝てる。


 よし、行こう。


 私は手にした刀を振りかぶって、ゾンビたちの群れに突撃した。






『Bパート』


 意味不明。何だってんだこの光は。扉を開けた途端に目の前真っ白、次に気づいたら空の上ってどんなトラップだよ。しかし俺たちゃそんなの怖くない、身体能力は人外だし、マイハニーたちは武器防具で理不尽強化されてるからね。しかし……下に広がる光景はなんだ? でっかいグラウンドに盛り土とか森とか城とか。体育祭?……ってどっかで見た光景だな。あ、まさか、『マジ・トゥルー・ラブ』の世界かここはっ! なんで今更この世界なんだよ、展開滅茶苦茶だろ! それにこのシーンってハーレムルートで真ヒロインの異世界少女が出てくる所じゃねーかっ! 誰だチクショウ、俺の行きたかった世界で上手くやったのは。それに髪型選択で『ちょんまげ』選ぶとか良く知ってたな、俺と同じくらい詳しいのか? あ、そう言えば異世界少女の声優って……うわっ、俺だ! 狂花タンの声優が売れてない頃に偽名でやってた役だから、この世界での俺の立ち位置って異世界少女じゃねーか、ヤバい攻略される!


……とりあえず考えるのはそれくらいにして、先ずはゾンビだ。この世界にゾンビはいらんと言うのに、どういう理屈かゾンビまでついて来やがった。俺の好きな世界をゾンビなんぞに好き勝手されてたまるか。俺とマイハニーたちは無傷で着地すると、すぐさま攻撃を開始する。


「エイミーにジュリア、ポーラは向かって右の集団を頼む! ジェリーとメイファン、ユミは左だ! 私はグレイマンを追う!!」


「了解!」×6


 グレイマンは一人城の頂を目指して城壁を登り始めている。口からレーザーみたいなの出すからな、大方上から狙い撃ちって所か。不味いなー、あれでやられて俺はこのⅣをやらなくなったんだけど……まぁ、大丈夫だよな。バズーカあれば。


 奴を追う最中、ゾンビの群れと戦う生徒たちを見る。この学校の生徒たちは無駄に戦闘力あるな、しかも刀とか持ってるし。いやおかしい、こんな物騒な装備だったか? 騎馬戦だろ、確か演目は……。でもこれは不幸中の幸いだな、これだけ刀装備してりゃそう簡単には負けないわ。よし、俺は気兼ねなく奴を追える。


 俺はハイスペックな身体能力を駆使して城壁を登る。良くできた城だ、幾ら金かけてんだ。三峰財閥だな、あの会長の財力は計り知れない。俺は瓦屋根に足をかけると思い切り踏み込み跳躍した。次々と屋根を蹴り、頂を目指す。そして次の瞬間、此方へ向けて放たれるレーザーを紙一重でかわした。


 ビィンッ!

「のわっ!?」


 いつの間にか俺の近くまで近づいていたグレイマン。直ぐに跳躍して距離を取る。……なんだこの速さ! グレイマンってこんなに速かったのか、Ⅳなんてやったの五年以上前だから完全に忘れてた。身体能力高くても、こうまで自由に動かれちゃ厳しいな。ああコイツと戦うのって小部屋の中だから、こうして屋外で戦うのは初めてか。意外とキツいぞコイツ!


 俺は気を引き締めなおして、グレイマンを睨みつけた。




『Aパート』


 振るう刀が重く感じられる。けどまだまだやれると身体が叫んでる。凄いね、日々の鍛錬って。骨法娘との戦いは無駄じゃなかったみたい。私は彼女に感謝しながら、必死に動いてゾンビを倒して行く。何度か打撃を受けたけど、大して痛く無かった。


 クラスの皆も頑張っている。気持ち悪いのに、怖がらないで挑んでいた。そこには会長の姿もあるし、あの白髭執事もまた分裂して戦っていた。ゾンビは始めの頃の五分の一、数十体まで数を減らしてる。クラスの人たちだけじゃなく、教師軍団、会長さんが呼んだ空挺部隊の皆さんも頑張っていた。……会長って何者よ。


 そしてそんな中、私はかつて救えなかった人たちの姿を見つけ出した。


 ゾンビハンター狂花Ⅳに出てくる、仲間キャラたち。彼女たちは余程効率良くプレイしないと仲間にする前に死んでしまう。私は彼女たちが皆揃っている光景を見るのが夢だった。あの狂花になった人は、とても頑張ったのだろう。もし私が望んだ特典があっても、普通にやったんじゃ達成出来ない。私はあの狂花を尊敬する。


 けれど。


 グレイマンとの戦い方はまずかった。武器の選択は良いんだ、バズーカなら遠距離から大打撃を与えられるから。けど当たらなければ無意味。あの人多分グレイマンの動き方の法則知らないんだ、このままじゃ最悪取り逃がしちゃいそう……


 私は近くにいた骨法娘に声をかけた。


「ごめんカナメちゃん、私はあの城の上に行く!」


「えっ!? 先輩がですか、ムチャです!」


「でもあのボスとの戦い方は私しか知らないんだ! 教えに行くから、ここは任せたよっ!」


「わ、分かりました! 絶対無事に帰って来て下さいよ!!」


 私は彼女に背を向けると、全力で城へと駆け出した。頑張れ、狂花。私が行くまで、なんとか耐えていて!








『Bパート』


 チクショウ当たらねえ! 一気にこっちに向かって突っ込んで来る時にバズーカを撃つんだが、無敵判定があるらしく弾がすり抜けやがる! 最悪だ、やっぱりコイツはバランスブレイカーだぜ、俺の反射神経じゃ限界がある! 身体能力は凄くても、それを動かす力が無けりゃ意味ないもんな。くそっ、だからこういうアクションは苦手なんだよ!


 奴の動きは振り子みたいに突っ込んで来た後一気に戻って、また違う方向にカーブを描くように動く。多分その時が当たり判定がつくんだろうが、どの方向に動くか分からない。一定じゃない上に恐ろしく速いんだ。宇宙人みたいな名前通り、動き方からしてUFOだ。下手な鉄砲数撃ちゃっていうが、ありゃ嘘だな。全然当たらねえ。


 どれくらいそうしていただろう。グレイマンの攻撃に、俺のネグリジェが破れはしないがズレてきて微妙にサービスカットしまくっていた。くそっ、俺も見たい! 狂花タンのエロ姿見たい! けど今はそんな事気にしてられんのだよ!!


 その時、屋根をよじ登ってくる一人の男の姿があった。うわ、美鳥河涼太郎! この世界の主人公じゃねえか! てめぇ俺まで攻略するつもりか、と焦るもどうやら違うようだ。ヤツは必死な顔でこちらを見上げている。なんだってんだよ、何が言いたい!


「狂花! 私がヤツを倒すから、バズーカを貸してっ!」


「バカ言うな、その身体のスペックじゃヤツの攻撃避けられねーだろ!」


 ハーレムルートは二種類あるけど、吸血鬼と契約しようがしまいが、涼太郎の身体能力はたかがしれてる。んなヤツに大事なバズーカを預けられるかってんだ。けどアイツ、よりにもよってこのタイミングであのセリフを言いやがった。


『大丈夫だ! 私を信じろ!!』


 ああ……「私」と「俺」の違いはあるが、紛れもなくこの作品のキラーワード。このセリフが出ると理不尽なまでのご都合主義で全てが上手く行ってしまうんだよチクショウ! こいつ、本当に上手くやりやがって……羨ましいくらいに涼太郎してやがるな。


 でもな、俺だって主人公なんだぜ。このまま美味しい所持ってかれて、たまるかってんだ!






◆◆◆◆◆◆◆◆




 城の瓦屋根の上を、二つの影が舞う。一つは究極のゾンビ、グレイマン。そしてもう一つはちょんまげ男……を肩車したネグリジェ姿の少女である。既に地上のゾンビは全て倒され、残るはグレイマンただ一体のみ。周囲の人間は皆、二つの影を目で追い、その不可思議な光景に唖然としていた。


「狂花、次はまたレーザー! 右に避けて!」


「おうっ!」


 移動に特化する少女、そして肩車の上で指示を出しバズーカを撃ち続けるちょんまげ。あべこべな姿だが、このスタイルに変えてから攻撃は徐々にあたり始めた。グレイマンの突進後の動きには法則があり、右足で踏み込んだ突進の場合は後退後左45°の角度でカーブを描く動きをする。そこにタイミングを合わせれば有効打になるのだ。涼太郎の中の魂も、狂花の中の魂も、未だにグレイマンには勝った事が無い。しかしこうして二人で協力し合う事で、突破口が見え始めて来ていた。


 そしてついにその瞬間が訪れる。


 グレイマンが後方に飛び、左へと身を翻した瞬間。涼太郎の撃ったバズーカの弾がグレイマンの顔面に直撃したのだ。弾丸はグレイマンの顔にめり込んだと同時に……




 ズガアァァァァァァンッ!!



 木っ端微塵に吹き飛ばした。


 頭部を失ったグレイマンは、ゆっくりと身体から力を抜き……屋根の上に静かに倒れ付した。最強のゾンビ、グレイマン。ちょんまげ男のバズーカに倒れる。見守っていたギャラリーからは凄まじい雄叫びと拍手喝采が沸いた。生徒会長が用意したであろう打ち上げ花火が昼間だというのに空を彩る。そんな中、二人は疲れきった表情で瓦屋根の上にへたり込んでから、どちらともなく顔を見合わせた。


「終わったね、狂花」


「ああ。もうやんねー、こんなゲーム」


 二人はそういうと、力無く笑いあった。激しかった戦いがようやく終わりを告げる。そしてつかの間の共闘も、エンディングを迎える時が来たようだった。空がまた強く輝き出したと思うと、そこからかつて自分たちが天界で見た神様の姿が現れたのだ。


 それはダメダメな神様と、その上司だった。









 誠心誠意の謝罪という物は恐らくこういう物なのだろう、と思わせる程の低姿勢。それは上位存在である神様の土下座という驚くべき姿であった。しかしやっているのは上司にあたる神様であり、似たようなポーズだが心ここにあらずというダメ神の態度は二人の神経を逆なでするだけだった。


『今回迷惑をかけた詫びになるか分からないが、君たちの願いを一つ叶えよう。希望があるなら言ってくれ』


 言われた二人は考えてみたが、自分たちにはもうこれと言って強く願う事が無い事に気づく。涼太郎になった女は最初ウザいと思っていたヒロインたちにも慣れ、多少愛着も湧くようになっていた。生前の世界よりも全然悪くない、むしろこちらの方が楽しいとも思い始めていたのだ。狂花になった男にしても可愛い女の子を侍らせる事が出来ているし、今更この恵まれたスペックの身体を捨てて涼太郎になりたいなどとは思えない。第一女の快楽に目覚めてしまったし、自分を慕ってくれてる娘たちの『お姉様』でありたいと思っているのだ。強いて言えば生やして欲しいといった所だが、よくよく考えると自分の好きな美少女キャラの生えてる姿にときめく趣味は無い。鏡を見る度微妙な気持ちになるだろうし、やっぱりいらないやと思った。


 それよりも二人には共通して願う事があった。その時の二人は恐らく誰よりも通じあっていた事だろう。


「神様。そこの態度悪いヤツを押さえてて下さい」

「事の元凶っつー野郎に一発ぶちかまさないと気が済まないんで」


『……ああ、いいだろう』


 急展開に気が動転するダメ神。上司の放った光の輪に身体を固定され、まるで空に宙吊りされたような形となる。暴れてみたが、びくともしない。そして絶望の眼差しで二人を見た。


 向けられる鈍色のバズーカ。少女とちょんまげ男は二人で挟むように肩を寄せ合い、共に引き金に手を添えあう。それは奇しくもこの世界の原作の見せ場と同じ構図であった。




「「くたばれ」」




 カチッと、引き金が鳴った。


 バスッと弾丸が発射される。


 動けないままそれを見つめるダメ神。そして防ごうともしないその上司。





 多くのギャラリーが見つめる中、空が、眩い光に白く輝いた。







 ドガアァァァァァァァンッ!!!!







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