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奏上

作者: 籠の中の鷲

 私の愛読書の一つ、「韓非子」ごと(五種類の害虫)に影響を受けて書きました。

 五種類の害虫とは、学者、遊説者、遊侠、側近、商人・職人のことです。

 王様は悩んでいた。

 この国は、どんどんと貧しくなっていく。田畑が荒れて作物の生産が落ちていく。

 近隣諸国は軍備を整え、この国に侵攻し、迎撃した軍隊はことごとく敗走した。

 どうしたものか……。

 こうしてみてはいかがでしょう?

 臣下や学者、有能と名高い商人や軍師たちが様々な案を奏上するが、どれもうまくいかない。


 そんななか、同盟関係にある隣国から一人の使者がきた。

 窮状を訴えた外交官によって、食料支援と援軍を引き連れて来た彼は、謁見の間にて王様の前に跪いた。

「この度は危急のこととお聞きし、王命により参りました。こちらの麦はわが国の特産品でございます故、いささかこの国のものと勝手が違いますが、今年は豊作でとても良い出来となっております。援軍は我が精鋭私兵三千と徴収兵四万、すぐにでも戦地に赴き、敵兵を蹴散らしてごらんにいれましょう」

 目の前に積まれた食料と、城の前に整然と並んでいた兵士たちを見た王様は、彼に問うた。

「我が国には、有能な学者に商才に長けた商人が沢山いる。どの家でも経済を学び、農学校で学ぶものは沢山いる。職人たちは、とてもいい農機具を日々発明してくれる。だが、わが国がいっこうに豊かにならぬのは何故であろうか?」

 使者は答えた。

「王様、商人はお金を作りますが、食料は作れません。経済と農業を学ぶことは構いませんが、学んだだけでは畑に何も生えません。作物を作るのは農機具ではなく、畑を耕す者でございます。お金儲けに勤しみ、学問を納めて考えるだけでいる、工房で道具しか作らない。肝心な農民はどこへおられるのですか? 土地が荒れて貧しいのは当然でございます」

 王様は重ねて問うた。

「わが国には忠義に厚く勇猛な将軍が百人、命知らずの精鋭が五千、知略に優れた軍師が百人、一般の平民でさえ軍事を学び、職人たちは優れた武具甲冑造りに勤しんでおる。しかし、こうも我が国が弱いのは何故であろうか?」

 使者は答えた。

「将軍が忠義に厚いのは良いことですが、彼らの主な仕事は戦列の指揮であります。軍師は作戦を練りますが、戦列には並びません。命知らずの兵士は、進んで戦列の先頭にたち奮戦しますが、故にそれに頼ってばかりでは早く死にます。軍事を学んでも敵は倒れませんし、武具は大量に作っても使われなければ敵兵は殺せません。肝心の鎧を着て戦列で武器を取って戦う人民(兵隊)が少なくては、弱国となって当然にございます」

 王様は場に居並ぶ臣下たちに問うた。

「とうすれば、農民と兵隊を増やせるだろうか?」

 臣下たちは次々と意見を出し、次第に議論が始まった。

 その様子を見て、使者は大きく息をつき、口を開いた。

「おそれながら、奏上を許して貰えぬでしょうか?」

「許す。申せ」

 王様は頷き、使者は口を開いた。

「見たところでは、この国には学問、商売、工作に頭を使うものが百人いても、農業や兵役で実際に国に力を尽くすものは一人しかおらぬようです。力を尽くす者が少なければ、国は貧しくなります。ならば、商人、学者、職人など、身分を下げ、重税を課し、減らすべきです」

 使者はさらに続ける。

「さらに申し上げるなら、ここに居並ぶ臣下たちも、今日までこの国を貧しく弱くしておきながら、未だに居座り続ける穀潰しです。きちんと申告した成果を上げられないのであれば、原因を精査し改善がなされぬなら、すぐに解雇し、農民なり兵士なりにした方が、まだマシと言うものです」



 使者のこの奏上からひと月後、敵国を退けた彼は、凱旋中に暗殺された。

 数年後、王様は彼の奏上とおりに改革する前に変死した。

 国内の農地は荒れ果て、商人は財産を持って、職人は技を売りながら他国に逃げ、兵の少ない軍隊は敗れ、王国はとうとう滅んだ。

 読み直すと、謙譲語に違和感ありますね。



 何が伝えたいか。

 農家(生産者)の方に感謝の心を。

 兵士(軍隊、警察)には敬意を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 近い未来、日本はこうなるよなって感じがして、読んでいて怖かったです。 少し考えれば分かることだとは思うけど、当事者にすれば、理解しがたいことなんでしょうね?
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