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線香花火のように

作者: 山中小春

『線香花火のように』


主な登場人物


木暮梨緒…入院中の15歳の女の子

12年前に会った男の子

と再会する


南 俊介…12年前に入院していた

男の子。梨緒と同じく

15歳で梨緒と再会する


大久保真梨…梨緒の入院している 病院のナース

梨緒と仲良し(?)

愛称はマリリン先生


高木亜耶…梨緒の親友

親も顔見知り


仙崎琉衣…梨緒の親友

亜耶と同じく緒も顔見知り


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


木暮茉緒…梨緒の妹。13歳。

しっかり者で優しい。


木暮隆…梨緒・茉緒の父。

娘と妻を愛する夫。


木暮沙緒莉…梨緒・茉緒の母。


南涼祐(りょうすけ)…俊介の弟。

結婚喧嘩が多いが仲良し。11歳


南俊司…俊介・涼祐の父。


涼子…俊介・涼祐の母。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

『序章』


「はぁーっ…」

白い天井を見上げながら、梨緒は溜め息をついた。幼くして心臓の病を患った梨緒はこの病院に入院してもう12年になる。もし元気なら楽しい中学生活を親友と共に送っていただろう。もしかしたら、憧れの先輩に恋が出来たかも知れないし、部活も出来ただろう。学校帰りにマックでポテトなんかかじりながら、友達と話せたら…。などと梨緒は考えた。


それなのに、そんな未来を梨緒の青春を一瞬にして病が奪ってしまったのだ。私は何のために生まれてきたの??梨緒は何度もそう疑問に思った。


病院は退屈だ。食事は残さず食べさせられるから太るし、運動は厳禁、会う人と言えば看護婦(ナース)医師(ドクター)、もしくは家族だけだ。個室にはもう1つベッドがあるがもうしばらく誰も来ていない。何故なら12年前に梨緒が入院して来た頃、同年の男の子が同じ様な病気で1ヶ月余り入院し、他の病院へ移されたからであった。確か、母の話では南俊介という少年(もし今いれば)だと聞かされていた。もう随分前の(コト)なのに何故か梨緒の頭の隅に焼き付いて離れない名前。南俊介…。

梨緒は首をぶるぶると振ると呟いた。


「南俊介…。どうせ名前しか覚えていないし。話したわけでもないし。忘れよう」

梨緒の中ではそう固く決心した。しかし、出会いはもうすぐ近くまで来ているのであった。



『再会』

「コンコン」

その時、病室のドアを叩く音がした。梨緒が上半身を起こし、ドアの方を見て

「どうぞ」

と言った。ドアを開けたのは顔見知りの看護婦だ。大久保真梨(おおくぼまりん)という可愛らしい名前ね看護婦で華奢な体つきだ。若いので、梨緒と話が合う。

「ああ、梨緒。具合どーう??暇でしょう。編み物でもする??」

「しゃきしゃきしてる。編み物なんて、つまんないよ。飽きるンだよねェ。意外とそういうのってさァ」

さも暇そうに梨緒は答える。

「そうそう。新しい子が来たわよ。同じ病室になるから仲良くしてあげてね喆っていっても同年の男の子だけど…」

小さい子がプレゼントを開けたような笑顔で真梨リン先生は言う。ちなみに真梨リンって言うのは真梨の愛称である。

「ねえ、真梨リン先生、まさかあの、南俊介って子??」

そんなわけないと思いながらも梨緒はそう尋ねた。真梨リン先生の顔が輝いた。

「あらー、よく覚えていたわねえ、ところがねー、本当に俊君なのよ。偶然にもね。でも本人もあまり長くは、入院していなかったから思い出せるかしらね」

「意外!!まっ。いいケド、適当に付き合っとくわ」

今の梨緒の俊介に対する感情はこんなもんだった。それより、と梨緒は続ける。

「誰か、きてくんないかなあ。近所だったらあんま会ってないけど時々TELくれる亜耶とか琉衣とか。何だったら茉緒でもいいな」

「何だったら手紙でも出してみたら??友情の手紙なんて案外いいかもよ」

日差しが強くなってきたので部屋のカーテンを閉めながら、真梨リン先生はいう。

「んな事しなくたって、メールで済むもん!!古いなあ。先生」

「あら、メール代より郵便代の方が浮くわよ!!」

あくまで経済的な真梨リン先生はそう言うと、俊介の準備をしに去っていった。


梨緒はふーっと息をつくとシルバーピンクの携帯を取り出し、メールを打ち始めた。

“Dearあや・


久しぶり・今度きてね・沢山話したいし。返事待ってるよ”


続けて琉衣にも打った。2人とも親も子も顔見知りで小さい頃はよくお見舞いにきてくれた。中学ともなれば、受験や部活に負われてそれどころではないのだろう。


“Dearるい


久しぶり・あやにも送ったけど今度話したいな。ひまなら来てね。じゃあ、返事待ってるよ。Fromりお”


送信するとパタンと画面を閉じた。それと同時にノックの音がする。どうぞ、と梨緒が言うと真梨リン先生と結構美形な少年が立っていた。真梨リン先生が言う。

「梨緒、南俊介君。ほら、俊君、こちら木暮梨緒ちゃん。あなた達、12年前にも会ったことあるのよ。覚えているかしら」

2人の顔を交互に見ながら、真梨リン先生は笑う。随分変わったなあ、と梨緒は思った。


少し茶色っぽい髪の毛は長めで顎のラインがくっきりしている。目元は結構優しそうだ。背は梨緒の10cmは軽く越えるだろう。俊介は恥ずかしそうにジーンズのポケットに手を突っ込み、梨緒に向かってぺこりと頭を下げた。

「南俊介です。これからよろしく」

何だか立っているのが辛そうだ。真梨リン先生は俊介に丸椅子を勧め、梨緒に挨拶するよう目で促す。

「あ、木暮梨緒です。また一緒だけどよろしくね」

にこっと梨緒は笑った。


やがて真梨リン先生は俊介に安静にしているよう伝えると部屋を出て行った。どちらも口を開こうとしないので、重苦しい空気が病室に漂う。気まずくなって、梨緒は恐る恐る口を開いた。

「久しぶり。南君」

すると、俊介は白い歯を見せて、にこっと笑った。梨緒は懐かしい気がした

「南だなんてそんな堅苦しい呼び方しなくていいよ。俊介でいいよ」

「えっ、そんな…いきなし、呼び捨てなんて…」

梨緒は思わず俯く。そんな梨緒を俊介は可愛く思った。そして優しく口を開く。

「俺も“リオ”って呼ぶからさ。ねぇ!」梨緒はそーっと顔を上げた。

「分かった。俊介って呼ぶ」「よろしくね。リオ」

「よろ『親友』

翌日、朝11時、梨緒達の病室に懐かしいお客が来た。それは亜耶と琉衣だった。

「あや、るい、久しぶり」

梨緒の口元がほころんだ。

「久しぶり。痩せたんじゃない??リオ」

と亜耶。

「久しぶりやったね。元気でいはった??」と関西なまりの琉衣。2人とも梨緒が驚くほど変わっていた。会うのは小6の卒業式以来だ。亜耶はロングだった黒髪をブロンドに染めたショートになっていて、今はバスケ部に所属している。一方琉衣は、癖っ毛だった肩までの髪の毛にパーマをかけていて、ますます女の子らしくなったようだ。彼女は吹奏楽部に所属しており、フルートを吹いている


きょとーんとしている俊介に梨緒が遠慮がちに言った。

「あ、あのねえ、俊介。私の友達なんだ。亜耶と琉衣って言うんだけど」

「ふーん。リオの友達か…。俊介です。よろしく」

具合が悪いのか苦しげな息を吐いている。

「大丈夫??」

不安そうに梨緒が聞くと

「寝てれば大丈夫」

と俊介は答えた。


しばらくして、俊介は看護婦と共に検査をしに病室を出て行った。亜耶がにやにやしながら、梨緒を見た。梨緒は

「何よぉ」

と肘で亜耶をつついた。

「あのコ、イケてるわね」

「何が??」

と梨緒。

「あーん、もうじれったいなあ、リオは。俊介君よ。かっこいいじゃない。リオ、いいセンいくんじゃない??」

そう言って亜耶は梨緒の肩をポンと叩いた。梨緒の顔がさっと赤くなった。

「そりゃ、いいヒトだと思うけど、まさかあ」

強がってそう笑って見せたが無駄だった。

「それじゃ、せっかく密室に男の子独り占め出来るのに何もしないわけ??私なら絶対するわあ」

反対に亜耶に言い返されてしまった。

「無理にとは他人のことだからいえないけど、もし気があるなら、言っちゃえば??」と琉衣まで。

「まあね。頑張ってみる」


その後、しばらくお喋りをして空がオレンジ色に染まる頃、2人は帰ると言い始めた。

「また、来る??」

名残惜しそうに梨緒がベッド越しに聞く。

「来るわよ。絶対」と亜耶。

「そうよ。近いうちまた来るわ」と琉衣。

2人は病室を出て行った。梨緒も振っていた右手を下ろし、横になった。すると急にドアが開き、琉衣が顔を出して言った。

「俊介君とうまくいくといいね。私、応援してるよ」

梨緒は驚いたが

「ありがとう。じゃあね」と言った。

ドアが閉まった時、梨緒は何故か不吉な影を感じた。しかし、それほど気には求めず、横になって眠りについた。


『死と愛の芽生え』


外の騒ぎで梨緒と俊介が目を覚ましたのは亜耶達が帰った40分後のことであった。梨緒が何だろうと思っていると、病室に血相を変えた真梨リン先生が入って来た。泣いた後らしく、目が赤く腫れていた

「どうしたの??真梨リン先生」

眠そうに梨緒は聞く。答えは全くの予想外だった。

「大変なのよ。琉衣ちゃんが帰りがけに大型トラックにはねられて今病院にいるんだけど、もうだめかもしれないって…

「そんな、琉衣が…亜耶と別れたあとなの??」

梨緒は言いながら顔を手で覆った。

「分からない。でも亜耶ちゃんが知らせてくれたからそうかもね…」

先生の顔にも梨緒の顔にも大粒の涙がつたる。その時、病室のドアが開いて、暗い顔をした医師が梨緒と真梨リン先生に向かって力無く首を振った。

「亜耶ちゃんは、放心状態だったから、まだ梨緒ちゃんには会えないだろう。琉衣ちゃん、だめだったよ。ごめんな…

「ううん、先生が悪いんじゃないよ。だってね、それは…運命は神様が決めるコトだもん」

そう梨緒はいい、激しく泣きじゃくった。そして、亡骸を見たいと医師に言った。医師は残念そうに首を振る

「君の容態も決して良くはないから、起き上がらない方がいいだろう」

しかし、梨緒は粘った。どうしても琉衣の前で伝えたい事があると。医師は最初こそ、首を振り続けたがついにポツリと

「分かった。5分だけだぞ」

と言って起こしてくれた。久しぶりに歩いたので、梨緒の足はおぼつかなかった。


遺体安置室の1つのベッドに沢山の人だかりがあった。多分亜耶もいるだろう。

梨緒は人ごみを掻き分け、琉衣に近づいた。琉衣の顔には、掠り傷1つなく安らかに眠っていた。頬を触るとひんやりとした冷たい感触があった。続けて手を握ると、今にも握り返してきそうな顔なのに、決してもう握り返してはくれないのだ。琉衣は覚悟をしていたのだろうか。そんなはずはない。でもわざわざ戻ってきてかけてくれたあの言葉。今でも耳元に響きの覚えがある。

「俊介君とうまくいくといいね。私、応援してるよ」梨緒は横たわる琉衣の前で心に誓った。

「私、絶対俊介とうまくいってみせる。だから…だから琉衣も天国で応援しててね」梨緒の誓いに答えるかのように、空に光った一番星が梨緒には琉衣のように思えた。


『勇気を出して』



琉衣のお葬式にこそ梨緒は出席出来なかったが、毎晩一番星を見つめては

“今日は俊介と沢山話せたよ、琉衣”

とか

“まだこくれないよね。琉衣”

なんて心に語りかけては自分を励ましている。久しぶりに動いたあの日から、あまり梨緒の容態は良くはなかった。不思議な事に俊介の容態も良くないのである


ある日、俊介が意外な事を口にした。

「ねえ、リオ」

「何??」

そう言って梨緒は上半身を起こそうとしたがうまくいかなかった。俊介は、寝てるままでいいよ、と言って続けた。

「リオはいつ退院出来るの??」梨緒はそんな事一度も考えた事がなかった。寧ろ、自分は一生ここで過ごすだろうと思っていたのだ。

「わかんない。もしかしたら、ずーっとここにいるかも。多分そうだと思う」

「多分、俺もそうなんじゃないかって最近思う」

と俊介が答えたので梨緒はまた驚いた。

「どうして??」

布団に顔をうずめながら梨緒は聞いた。

「医師や看護婦はいつも笑顔で接してくれるけど、内心はもっと深刻なんじゃないかな。俺達の容態って。そう思わない??」

確かに俊介の言うとおりだ。自分達はもう長くないかも知れない。でもそんな言葉を飲み込んで明るく言った。

「そりゃあ、そうかもしれないけどだったらせめて楽しく過ごそうよ。ねえ、勇気を出して。ほら、癌だって薬より言葉とか頑張ろうとか元気になろうって気持ちで治るらしいでしょ。それと同じように前向きにいこうよ。最期はいつにしろ」

梨緒が言い終わらないうちに俊介が辛そうに身体を起こした。無理しないで、と梨緒が言うにも関わらず、梨緒のベッドまでおぼつかない足取りでやってきた。そして、耳元で囁いた。天使のように。


「君が好きだ。12年前に会った時も今回会った時もずっとずっとリオが好きだ」

梨緒は跳ね起きた。そして、ぎゅっと俊介を抱きしめた。

「私もよ。俊介。大好きよ。世界で一番あなたが好き」しくね。俊介」

これが2人のささやかな恋の幕開けだった。


『運命のカウントダウン』


愛の告白の翌日、2人の容態は更に悪化した。7月に入ってからますます悪くなるばかり。病の進行とは裏腹に2人は苦痛を押してまで抱き合う。

7月2日、2人は初めてファーストキスをした。甘い甘いキスだった。ちょっぴりお互いの苦い薬の味がした


「愛してるよ。リオ」

キスをやめて、俊介はやわらかなマシュマロみたいに囁いた。

「もちろん分かってる。私もよ。俊介」

梨緒もしっからと俊介を抱きしめた。



次の日、茉緒と梨緒の両親が久々のお見舞いに来てくれた

「いつも、梨緒がお世話になって」

と父が言うと俊介は

「いえ、とんでもない」

と言って梨緒に笑いかけた。

「ああ、梨緒、絶対退院出来るわよね。治ったら、また4人で暮らしましょうね。約束よ」

そう言って母は梨緒をぎゅっと抱きしめた。その身体は熱っぽかったが、母は不思議だった。こんなにも身体が辛いはずなのにどうしてこの子は、笑みを絶やさないんだろう、と。梨緒はそんな母の気持ちを察したらしく、明るく言った。


「うん。絶対に4人で暮らしましょう。そしたら、ママとクッキーを作ろう。それを持って、ピクニックもいいわね。たまには旅行なんかもいいかも。映画も見たいわね。ママ、心配しないで。病気って、もうダメだなんて落ち込むと進行しちゃうけど大丈夫。必ず治るわって思っていればきっと癌みたいに治るわよ」


そう言った梨緒の目はきらきらと輝いて自信に満ちていた。

「お姉ちゃん、皆待ってるからね」

茉緒は姉の熱っぽい手を握りしめた。



7月3日から5日にかけては、瞬く間に時が過ぎ去っていった。風邪気味の2人は、それぞれ個室に入れられてしまったのだ。梨緒も俊介も寂しくて仕方なかった。命の火は、線香花火のだ段々小さくなっているはずなのに、2人は愛の時間(とき)を奪われた気がした。


7月6日、2人は夜にこっそり病院の中庭で小さい線香花火を売店から買ってきてやることにした。花火をやるのに少し時期が早かったが、どうしても今日やらなければいけない気がしたのだ。14本入りで7本ずつだった。線香花火が燃え尽きていくのを眺めながら、俊介が言った。

「俺達もいつか、線香花火のように燃え尽きちゃうんだよね」

そうね、と梨緒は間をおいてから口を開く。

「でも、意味のある人生だと思うよ。線香花火はさ。人に楽しみやワクワク感やドキドキ感を楽しませて尽きていくんだもん」

「だったら、俺達も同じじゃないか」

っ俊介は2本目の線香花火を手にしながら言う。

「何で??」

梨緒も線香花火を手にしながら首を傾げる。

「だってさあ、俺達の運命的な“出会い”だろ。友人の“死”だろ。“愛の告白”だろ。そして…運命の終わりを告げる日が訪れるわけじゃん」

「なるほどー」


その後は、しばらくは無言で花火をしていた。きっとお互いに自分にいつ“死”が訪れるのか不安だったのであろう。


「明日は七夕だね」

花火の燃えカスを7本抱えて梨緒が言った。

「花火の数で分かったんだろ」

2人は笑いながら、それぞれの病室に戻っていった。



『7月7日の天使(エンジェル)


7月7日、2人の容態は急変した。風邪から肺炎が併発し、命に危険があると医師は言う。2人はそれぞれの病室で昨晩無茶をしたからだろうと思っていた。危篤だと聞いて、両方の親は病院に吹っ飛んできた。


「何でもして欲しいことがあったら、言うんだよ」

と俊介の母は息子に言う。すると俊介はこう言ったのだ。

「リオと一緒の部屋にして欲しいな」

医師と看護婦は戸惑ったが、梨緒の病室に移してくれた。安心したのか梨緒も俊介も少し落ち着いた様子だった。



しかし、安心したのも束の間、2人の息が荒くなった。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、死んじゃダメだよ」

耐えきれなくなって涼祐がそう言うと、俊介の母は

「馬鹿なこと言ってんじゃないよ、この子は」

と言って俊介の顔を覗き込んだ。

「大丈夫かい、俊介」

そう声をかけると、俊介はかすかに頷いた。彼も余程辛いのだろう。隣のベッドでは

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

と茉緒が言っている。


その時、梨緒と俊介2人の口が同時に開いた。

「俊介、大好き」

「リオ、大好き」

そして、2人の瞼がゆっくりと閉じた。苦しげだった表情が安らかに眠る天使のように見えた。2人は、空高く手を繋いで舞い上がっていったのだ。2人の恋は終わったのだ。激しく、そして短く燃え、段々尽きていく。そう、まるで線香花火のように。


「梨緒、梨緒」梨緒の母は泣きながら、娘の名を呼んだ。

「お姉ちゃん、目を開けてよ。お姉ちゃん」

と茉緒。

「俊介、お願いだから、返事して頂戴」

ハンカチで涙を拭いながら泣き叫ぶ俊介の母。

「お兄ちゃんともう1回、ケンカしたかったよー」

と兄のもう動かなくなった手をドンと叩く涼祐。

双方の父はお互いに泣き顔を隠すかのように、さりげなく空を見上げた。光り輝く天空の中央に天の川が見えた。それぞれ向かいには、彦星座と織り姫座が見えた。それは、抱き合う梨緒と俊介のように見えた。



~完~




読んでいただけたら幸いです



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