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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
9/93

CHAPTER-09

(……3人か)


 裕介は冷静に、自身に追い迫る敵の数を把握した。そう、敵はナイフを持った男が3人。

 彼らは裕介に向けて、正面から突っ込んでくる。


「うらあああああッ!」


 裕介は姿勢を低める為に一瞬身を屈める。次の瞬間、裕介は右足で地面を蹴り上げるように弾き、突っ込んだ。

 

「おおおッ!」


 先手を取ったのは、裕介。

 裕介の速さに反応仕切れず、先頭の男にはナイフを振る猶予すら与えられなかった。

 男の腹部に、突進の速度も乗せた裕介の左拳が突き刺さる。


「うぶっ!」


 その瞬間、男が消滅した。

 裕介は構う事無く、自身に迫る2人の男に注意を払う。倒した男の後ろ――2人目の男が、裕介に向かってナイフを横向きに振り抜く。

 裕介は姿勢を低めてナイフを避け、そのまま3人目の男に向けて距離を詰めた。


「死ねえ!」


 3人目の男は、ナイフを突き刺すような体制で裕介に攻撃を仕掛けた。

 裕介は男の腕を少し横に押す。それだけの行為でナイフは裕介の頬を逸れ、空を突き刺す。そのまま裕介は男の腕を掴み、腰を男の腹部の辺りに移動させ、柔道の背負い投げを思わせる形で投げる。

 男の大柄な体が宙に浮く――と思った瞬間、男の体が地面に勢いよく叩きつけられた。


「うがあっ!」


 投げつけられた男も、パンチを受けた男と同様に消滅した。一瞬にして2人を倒した裕介。

 それでも彼は気を抜かず、残った1人を向く。


「……」


 残った1人は、まるで様子を見るように裕介を観察する。

 しかし、長く時を消費する気は無かったらしく、すぐに裕介に向けて襲いかかって来た。


(相手じゃねえよ、こんなナイフ持っただけの雑魚なんざ……)


 男がナイフを裕介に振りかざす間も無く、終わった。裕介が男の懐へ入り、左拳を突き入れたのである。

 3人目の男もいとも簡単に倒し、裕介は伸びをした後、左肩の骨を鳴らした。

 

『余裕だね裕介。もしかしたら私の出番無いんじゃない?』


 それは『戦闘』とすら呼べなかっただろう。男達は裕介に襲い掛かり、裕介は彼らを返り討ちにした。ただそれだけの事である。


「いやいや、最後の方になれば玲奈の助けが要るさ」


 男達3人が消滅した後、サイバースペースの埠頭に一時静寂が訪れる。人工的に作り出された波の音やカモメの鳴き声が、裕介の鼓膜を震わせた。


(さて、先はまだ長いか……)


 裕介は、自身の視界上部に表示された文字を見る。


 ENEMIES 94%


 最初は『100%』だったパーセンテージが、『94%』に減少していた。

 先程裕介に襲い掛かった3人の男達。彼らは生身の人間では無く、VRMSによって作り出された敵AIだ。

 敵AIはテスターと戦う為にサイバースペースに現れ、搭載された思考ルーチンによって最善の行動を選択し、襲い掛かる。テスターから行動不能になる程の攻撃を受ければ、僅かな断末魔を発した後で消滅する。

 その様子に痛々しさは無ければ、血を流す事も無い。倒されたAIは、まるで電気を消すかのように跡形も無く、一瞬で消えてしまうのだ。

 感覚的には、人間と同じ外見を持ち、人間と同じ思考を持ち、人間と同じ行動を取る的。

 彼らを倒すごとに敵勢力を示す『ENEMIES』のパーセンテージは減少し、『0%』にすれば敵は全滅、ミッションクリア。逆に、敵AIによってテスターが致命的な攻撃を受けた場合――例えば銃で撃たれたり、鉄パイプで殴られたりすれば、即時ミッション失敗となる。


『気を付けて裕介、次が来る!』


「オーケー玲奈、バックアップ頼む」

 


 ◇ ◇ ◇



 VRMS室では、サイバースペースの様子が大型モニターに映し出されていた。

 裕介が次々と現れる敵AIをなぎ倒し、『ENEMIES』のパーセンテージがみるみる減っていく。

 リサや耀を含む生徒達は皆、裕介の強さに感心していた。禾坂秀文は、冷静な面持ちでモニターを見つめている。


「凄いだろう? あの2人」


 と、秀文の後ろから男性の声。ジェームズだった。秀文は一時、視線を後ろに向ける。

 しかし、彼は直ぐにモニターに視線を移しつつ、応じた。


「はい」


 ジェームズは秀文の隣に立ち、


「『ユウスケ・アイハラ』。10代にしてグレードSの権限を与えられた日本人少年、その強さは正に化け物クラスだ。まあ、他の科目では中々ヒヤヒヤさせられるがね」


「……」


 秀文は、モニターに映る裕介を見る。

 現実世界でのテスターの身体能力は、サイバースペースでも引き継がれる。敵AIを打ち倒す度に激しい動作で攻撃を繰り出しているにも関わらず、裕介は息を乱してすらいなかった。


「凄いですね。……とても」


 呟くような口調で、秀文は漏らす。


「そして、あそこでオペレートをしている茶髪の女の子」


 ジェームズは、VRMSの側でデスクに向かい、イヤークリップヘッドセットを装着し、モニターを注視している少女を指した。


「彼女は『レイナ・ミサワ』、RRCAサイバー犯罪対策部所属のグレードS。大人顔負けのハッキング・クラッキング能力を持ち、数々の凶悪サイバー犯罪を解決に導いた実績の持ち主だ。史上最年少で『RRCA特別情報管理官』の称号を与えられた、正に情報処理のエキスパートだよ」


 玲奈はキーボードを叩き、モニターの位置を動かしていた。

 そしてマイクを通じ、サイバースペースの裕介に何かを告げている。


「さらにレイナはPCのスキルだけじゃない。観察力、状況判断力、情報分析力、どれも一級品だ。ほら、五つもあるモニターを同時に見ているだろう」


 ジェームズの言う通り、玲奈は五つあるモニターの全てを確認していた。

 彼女は片手でキーボードを操作しながらサイバースペースを映すカメラの位置を動かし、見えない場所にも注意を払っている。もう片方の手は、イヤークリップヘッドセットに当てられていた。

 可愛らしく清楚な見た目に違わず、玲奈の発する声は透き通るように溌剌としている。


「裕介、後ろの赤いコンテナの陰に鉄パイプを持った敵AIが3人。内1人は銃も持ってる。それから裕介の側にあるフォークリフトの陰にも敵が潜んでいるわ。不意打ちに注意して!」


『了解!』


 モニターで確認した情報を頼りに、玲奈が裕介へ伝達する。

 五つあるモニターをたった1人で操作・確認し、一瞬と呼べる時間でサイバースペースの状況を把握する玲奈。ジェームズの言う通り、並外れた観察力・状況判断力・情報分析力を有していて初めて成せる業だ。


(あの2人が……『GLORIOUS DELTA』の2人。もう1人は……)


 秀文が心中で呟く間にも、玲奈はキーボードを凄まじい速さで叩いてコンピューターに命令を飛ばし、サイバースペース内の裕介をサポートする。

 壁に付けられた大型モニターには、敵AIを次々とねじ伏せる裕介が映っていた。裕介は既に相当数の敵を倒しており、『ENEMIES』のパーセンテージは『62%』にまで減少している。

 

「そっちは駄目裕介、コンテナの陰に対人用爆弾がセットされてる! そのまま進んだら爆弾のセンサーに感知されるわ!」


 映像内で裕介は、積み上げられたコンテナの間を進みつつ交戦していた。玲奈の言葉を受けたサイバースペース内の裕介は、進路を変えて迂回する。

 モニターに小さく映っているだけだったが、それでも玲奈は見逃さなかった。コンテナの陰に設置された、人間の体温を感知して起爆する仕組みの対人用爆弾に。 

 

「コンテナの陰は敵がトラップを仕掛けるのに絶好の環境だから、注意して進行して!」


『分かった。玲奈、この先も何かあったら教えてくれ!』


 VRMSによる実戦は、テスターだけでなくオペレーターの訓練でもある。もしも今玲奈が裕介に対人用爆弾の存在を伝えず、結果裕介が爆発を受けてミッション失敗となれば、それは玲奈の責任だ。

 前線で戦うエージェント達の命を預かる――そう考えれば、オペレーターは決して楽な仕事では無い。


「そして、あと1人……このクラスにはグレードSが居る」


 ジェームズが秀文に告げる。

 大柄なアメリカ人教師の視線を、秀文は目で追う。そこには壁に寄り掛かり、無言でモニターを見つめるアメリカ人の少年が居た。

 パーマのかかった金髪に、憂いを帯びた空色の瞳が印象的な――どこか幼さを感じさせる、美少年だ。

 ジェームズは言う。


「彼が『ネイト・エヴァンズ』。何と、17歳にして既に超難関大学の入学資格を持っているんだ。あらゆる分野において超人の如き知識・才能を持っている、正真正銘の『天才』さ。……まあ、人とのコミュニケーション能力には少しばかり難があるようだがね」






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