CHAPTER-85
“RRCAだから助けんじゃねえ、オレが助けたいから助ける、それだけだ!”
EPISODE-03 “BLUE CONSPIRACY”
1 month ago. Albastru Kingdom, Artificial Sun Research Factory 15:39_
無骨な装置が至る所に配置された研究所内は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。白衣に身を包んだ研究員達がせわしなくコンソール装置を操作し、それぞれが向かう機器に命令を飛ばしている。
研究員の数人が、手を止めずに言った。
「異常な出力のエネルギー波が感知されています!」
「くそ、抑制装置をフル稼働してもレベルが下がらないなんて……!」
「制御出来ない、プロジェクトは失敗だ!」
そしてある研究者が、研究所内に立ち尽くす2人の人物に進言する。
「カリーナ女王、アロイス王子、これ以上は無理です、すぐに退避を!」
応じたのは、女性の方だ。
彼女は、研究所の中央部に設置された巨大な円筒型のカプセルを睨んでいた。そこからは目も眩むような青い閃光が広がり、所内の全てを照らし出している。
コンソールを両手でバンッと叩き、彼女は叫ぶ。
「こんな馬鹿な! 私の計算に間違いはない筈、どうしてこんな事が……!」
状況は、最も恐れていた事態だった。こうなる事を避けるため、入念なシミュレーションを重ねてきたにも関わらず、それは全て無為に帰したのだ。
隣に立っていた青年が、彼女に言う。
「お母様、ここは危険です、すぐに避難を!」
彼の言う通り、すぐにでもここから離れなければ命も危うい状況だった。
しかし、この状況を作り出した張本人ともいえる自分が他の者達を見捨てて逃げ出すなど、彼女には出来なかった。
ならばどうすればいいのか? 分からない。最早彼女にも、ここにいる誰にも成す術はない。迷っている間にもカプセルの中の光は増幅していく、このまま行けばどうなるかは、ここにいる全員が知っているだろう。
1分も経たないうちにカプセルは爆発を起こし、ここにいる全員が犠牲となる。
危機感を煽る警告音が鳴り渡り、研究所内の全てのモニターが真っ赤に染まって『WARNING』の文字が映し出された。それは爆発の時が迫っている合図に他ならなかった。もう、逃げる猶予すらも残っていない。
その時だった。
「お母様、お兄様!」
危機的状況には場違いな可憐な声、女性が振り返ると1人の少女がそこに立っていた。
決して、この場にいてはならない少女だ。
「ミリア、貴方……!」
ここに現れた理由を問いただそうとした、正しくその時だった。後方からうねりを上げるような音が鳴り渡り、振り返った時には青い閃光が一気に増大していた。
その時が訪れた――それを理解した女性は咄嗟に、自身の胸の中に少女を抱え込んだ。
直後、凄まじい爆発音とともに背中に大きな衝撃を感じた。体が宙を舞うのが分かり、まずは背中に、次に頭に激痛を感じた。それでも彼女は、少女を抱えた両腕を離さない。
遠のいていく意識の中で、彼女は懺悔した。巻き込んでしまった者達に心から謝罪し、そして自らの命を生贄にしても、この少女の事は助けてくれるよう神に祈りを捧げた。
僅かも身動きしない少女が生きているのかどうか、彼女にはそれを判別する力も残されていなかった。
命の炎は少しづつ、しかし確実に小さくなっていき……やがて彼女から全世界が消滅した。
多くの人々の為に進められてきた研究は、大きな犠牲を生む結果となった。




